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室屋義秀選手が優勝を飾った「レッドブル・エアレース千葉 2017」決勝。“運もあった”と語るシビアな戦い
6月4日のレース結果と記者会見の内容を紹介
2017年6月5日 11:31
- 2017年6月3日~4日 開催
千葉市美浜区の幕張海浜公園を舞台に、6月4日に決勝が行なわれた「レッドブル・エアレース千葉 2017」は、既報のとおり日本人選手の室屋義秀選手が母国での優勝を飾った。本稿ではこの日のレースの模様や結果、終了後に行なわれた記者会見の内容をお伝えする。
決勝ラウンドは、出場選手14名が2名ずつタイムを競うマッチレースを行なう「ラウンド・オブ・14(Round of 14)」。その勝者7名にもっともタイムのよかった敗者1名を加えた8名で、同様に2名ずつのマッチレースを行なう「ラウンド・オブ・8(Round of 8)」。そして、その勝者4名によりタイムを競う「ファイナル・4(Final 4)」の3ラウンドで行なわれる。
最初のラウンド・オブ・14の組み合わせと飛行順は、前日に行なわれた予選の結果で決まったもの。予選4位の室屋義秀選手は第2ヒート、4番目での飛行となった。
12時50分過ぎにサイドアクトの零戦(零式艦上戦闘機二二型)が飛行。その後、国歌斉唱が行なわれ、13時05分にラウンド・オブ・14が開始された。
初戦の「ラウンド・オブ・14」は0秒007の僅差で勝利
予選は2度のアタックのうち、タイムのよい方を採用することができるが、決勝ラウンドのアタックは1度のみ。決勝の最初の戦いとなるラウンド・オブ・14の勝者はほぼ55秒台にひしめき合っている。ヒート2の2番目に飛行した室屋義秀選手は55秒590で、マッチの相手だったペトル・コプシュタイン選手とはわずか0秒007の差。コプシュタイン選手も、次のラウンド・オブ・8へ進出するという僅差のマッチだった。
「ラウンド・オブ・14」の結果(飛行順)
※☆が勝者、△が敗者のベストタイム、カッコ内はペナルティを含めた公式タイム
Heat 1-1:[27]ニコラス・イワノフ(58秒057)
☆Heat 1-2:[95]マット・ホール(55秒459)
△Heat 2-1:[18]ペトル・コプシュタイン(55秒597)
☆Heat 2-2:[31]室屋義秀(55秒597)
Heat 3-1:[26]フアン・ベラルデ(57秒012)
☆Heat 3-2:[10]カービー・チャンブリス(55秒234)
Heat 4-1:[11]ミカエル・ブラジョー(56秒037)
☆Heat 4-2:[8]マルティン・ソンカ(54秒787)
Heat 5-1:[37]ピーター・ポドランセック(58秒008)
☆Heat 5-2:[99]マイケル・グーリアン(56秒380)
Heat 6-1:[5]クリスチャン・ボルトン(59秒044)
☆Heat 6-2:[21]マティアス・ドルダラー(55秒805)
Heat 7-1:[12]フランソワ・ルボット(57秒331)
☆Heat 7-2:[84]ピート・マクロード(55秒209)
ペナルティに泣きかけるも、ペナルティに助けられたラウンド・オブ・8
続く「ラウンド・オブ・8」は、最初に室屋選手がアタック。54秒964と54秒台のタイムを出したものの、途中のパイロンゲート通過時に水平姿勢がとれていなかったために2秒のペナルティを受け、最終的に56秒964の結果に。対戦相手のマット・ホール選手のタイムは55秒295だったが直後にホール選手も規定よりも高い高度でゲートを通過したことによるペナルティ2秒が課され、最終タイムが57秒295となり室屋選手の進出が決まった。ホール選手のフライト直後にはため息と諦めムードが漂った会場が一気に熱を盛り返した。
その後、2016年のワールドチャンピオンであるマティアス・ドルダラー選手と、前日の予選1位通過のピート・マクロード選手とのマッチレースが注目を集めた。こちらはミスなくアタックを終えたドルダラー選手が55秒333のタイムだったのに対し、マクロード選手は10G(重力加速度)以上での飛行が規定の時間を超えた(0.640秒)ため、DNF(Do Not Finish)とされ、ドルダラー選手が勝利した。
先頭を切ってタイムを出し結果を待った「ファイナル・4」
ラウンド・オブ・8から、ほとんど時間をおかずに最後の戦い「ファイナル・4」がスタート。ラウンド・オブ・8あたりから強くなりはじめた海から陸にかけてコースを横切るように吹く風は、ファイナル・4を迎えてさらに強さを増していた。
ファイナル・4も、室屋選手が先頭でアタックを開始。結果はペナルティなしの55秒288(会場のスクリーンには55秒289と表示されていたが最終の公式タイムは55秒288となっていた)。ラウンド・オブ・8までの結果を見ると、55秒台前半というタイムは良好ではあるが、優勝を狙うには54秒台が出ていないと不安、といった雰囲気が会場にはあった。
2番目にアタックしたペトル・コプシュタイン選手もペナルティなしの55秒846。この時点で室屋選手の表彰台が決まり、会場が少しざわついた。
続いては、マティアス・ドルダラー選手。コースの途中までは室屋選手より1秒近く速いタイムを計測する好調なアタックだったが、終盤のゲート11でパイロンにヒット。3秒のペナルティを受けた。フィニッシュラインの通過タイムは54秒943と54秒台を出したものの、公式タイムは57秒943となり、ここで室屋選手の2位以上が確定。
最後に登場したのは、ラウンド・オブ・14、ラウンド・オブ・8ともに54秒台を出していたマルティン・ソンカ選手。こちらも好調な出だしを見せたように思えたが、ゲート4の通過時に水平姿勢がとれていなかったために2秒のペナルティを受け、通過タイム54秒533、公式タイム56秒533となった。
そして、この結果をもって、室屋義秀選手の優勝が決定。会場スクリーンに笑顔の室屋選手が映し出されるとともに、会場内は喜びの歓声と拍手に包まれた。
ワールドチャンピオンシップでも室屋選手がトップに
最終的な順位は以下のように確定し、1位の室屋選手が15ポイントを加算。マルティン・ソンカ選手と同じ30ポイントで並んだが、優勝回数の多さで室屋選手がワールドチャンピオンシップ争いでトップに立った。
レッドブル・エアレース千葉 2017の最終結果
1位:[31]室屋義秀(チーム・ファルケン)
2位:[18]ペトル・コプシュタイン(チーム・シュピールベルク)
3位:[8]マルティン・ソンカ(レッドブルチーム・ソンカ)
4位:[21]マティアス・ドルダラー(マティアス・ドルダラー・レーシング)
5位:[99]マイケル・グーリアン(チーム・グーリアン)
6位:[95]マット・ホール(マット・ホールレーシング)
7位:[84]ピート・マクロード(チーム・マクロード)
8位:[10]カービー・チャンブリス(チーム・チャンブリス)
9位:[11]ミカエル・ブラジョー(ブライトリング・レーシング・チーム)
10位:[26]フアン・ベラルデ(チーム・ベラルデ)
11位:[12]フランソワ・ルボット(FLV・レーシング・チーム・12)
12位:[37]ピーター・ポドランセック(ピーター・ポドランセック・レーシング)
13位:[27]ニコラス・イワノフ(チーム・ハミルトン)
14位:[5]クリスチャン・ボルトン(クリスチャン・ボルトン・レーシング)
ワールドチャンピオンシップ(3戦終了時点のランキング)
1位:[31]室屋義秀(チーム・ファルケン):30pt
2位:[8]マルティン・ソンカ(レッドブルチーム・ソンカ):30pt
3位:[21]マティアス・ドルダラー(マティアス・ドルダラー・レーシング):23pt
4位:[18]ペトル・コプシュタイン(チーム・シュピールベルク):17pt
5位:[84]ピート・マクロード(チーム・マクロード):14pt
6位:[99]マイケル・グーリアン(チーム・グーリアン):14pt
7位:[26]フアン・ベラルデ(チーム・ベラルデ):13pt
8位:[37]ピーター・ポドランセック(ピーター・ポドランセック・レーシング):12pt
9位:[10]カービー・チャンブリス(チーム・チャンブリス):10pt
10位:[27]ニコラス・イワノフ(チーム・ハミルトン):10pt
11位:[95]マット・ホール(マット・ホールレーシング):8pt
12位:[5]クリスチャン・ボルトン(クリスチャン・ボルトン・レーシング):4pt
13位:[11]ミカエル・ブラジョー(ブライトリング・レーシング・チーム):4pt
14位:[12]フランソワ・ルボット(FLV・レーシング・チーム・12):3pt
「勝てたのはラッキー、自分の力だけではない」――室屋選手ら表彰台選手の記者会見
レース終了後には、出場チームのハンガーと滑走路がある浦安市で表彰式が行なわれたのち、レース会場のメディアセンターで1位の室屋義秀選手、2位のペトル・コプシュタイン選手、3位のマルティン・ソンカ選手による記者会見が行なわれた。
3位のマルティン・ソンカ選手はレースの結果について、「作戦どおり、すべて順調に進んでいた。一つだけ間違いをしたのはコックピットで操縦桿を持っていた自分自身で、その一つのミスで優勝を逃してしまった。表彰台に上れたのはうれしいが簡単なミスで優勝を逃したのは複雑な気持ち」と、やや悔いをにじませるコメントを残した。
また、2017年のチャンピオンシップ争いでは、室屋選手に並ばれたものの同ポイントでの2位となっており、「総合チャンピオンと競うポジションにいることはうれしいが、シーズンははじまったばかり。今の時点では、そういうことを考えすぎず一つ一つのレースに集中したい。今シーズンは初戦のアブダビで優勝したが、運がよかった。だが、機体も自分も調子が安定している。それが一番大事。先は長いのでポイントを上げてくるパイロットもいると思うので結果は分からないが、こうして室屋選手と戦うポジションにいることはうれしいし、このままポジションを維持できるよう頑張りたい」と話した。
2位のペトル・コプシュタイン選手は、ソンカ選手と同じチェコのパイロットで、マスタークラスに参戦してからは今回が初めての表彰台。「とにかく安定したフライトをすること、ベストを尽くすことに集中した。千葉は2年前にチャレンジャーズカップで優勝した、よい思い出がある。そして、作戦どおりレースを進めることができた。もちろんこれから改善する点もあり、今日は運もあったと思っている。先輩のチェコのパイロット(ソンカ選手)、室屋選手と一緒に表彰台に立てたことを光栄に思う」と喜んだ。
室屋選手と僅差の争いだったラウンド・オブ・14については、「接戦だった。日本のファンをガッカリさせたくない気持ちはあったが、ベストは尽くしたい、先に進みたいという気持ちがあり、予選よりも攻めるフライトをした。1000分の7秒は距離にして70cmほど。これほどの接戦はめったに見られないと思う。結果的に、私はここで負けたものの一番速い敗者として次のラウンドに進めたのでよかった」とコメントした。
そして優勝した室屋義秀選手は、この日のレースについて「コプシュタイン選手とのヒートは1000分の7秒差。上からも(観客の)フラッグが見えたが、それをみんなで一生懸命振ったので機体が70cmぐらい前に出たのでは(笑)。本当にそのぐらいの差で、それで勝てたのではないかと思っていて、今日の最初の2本はラッキーなところがあり、それは自分だけの力ではないと感じた」と話した。
また、優勝を決めたファイナル・4のフライトについては、「ラウンド・オブ・8でタイムはよかったので、あそこまで攻めるとペナルティをもらうギリギリのラインだった。戦略としてはノーペナルティで、よいタイムをねらうが、スーパーラップではなくてもよいだろうという戦略でいったので落ち着いて飛べた」とコメント。
さらに「ラウンド・オブ・8あたりから風が強くなって、ラウンド・オブ・8は10ノットぐらい、ファイナル・4は15~6ノット、最後は18ノットぐらいまで吹いた。非常にコース取りが難しくなる。ペナルティをもらったラウンド・オブ・8は風の影響。難しいコンディションのなかで対応していくのは困難だったが、ファイナル・4は(風のこともあったので)最初のプランどおりスーパーラップを狙わずに確実に飛ぶ、そういうラインを選んだ。最終的にはそれが勝利につながった」と振り返った。
今回の優勝で2017年のワールドチャンピオンシップのポイントランキングでトップに立った点については、「第3戦が終わったところで、残り5戦、残りの方が多い。この先、すべて勝てるとは思わないが、ファイナル4にきちっと残っていくことで、ポイントは自然と貯まっていくので、ポイントのことをあまり考えずにコンスタントによいレースを続けていくことが大事」としたほか、「前回のサンディエゴ戦は少し覚醒してるような感じがあって、勝てる感じがあった。しかし、今回は実は苦しい戦いだった。きわどい戦いで、自分のミスもあるなかで、ラッキーもあって勝ち上がったので、今日の勝利は自分の力だけで勝ったのではないとすごく感じる。それでも勝てるのは、それなりの底力を蓄えているとは思うので、残り5戦でもう少し精度を上げて、ワールドチャンピオンをとるためには、もう一段安定して戦う必要があると思う」とコメント。
このほか、母国での開催でどのようにして落ち着いた状態を保てるかとの質問には、「9万人のファンが来てくださるのは非常に大きなプレッシャーといえばプレッシャーだが、応援もいただいているので、それを追い風と取るかは自分次第。自分にとっては声援が後押ししてくれると捉えていたので、それがうまく作用したと思う」と返答。
このレッドブル・エアレースの歴史において母国のレースで2勝以上した選手は、過去にポール・ボノム選手(英国)のみであることについての質問には、「パイロットとしてはただ飛ぶだけが一番理想だが、こうしてファンの皆さんにたくさん来ていただくことも大きな役目の一つなので楽しんでやらせてもらっている。しかし、それらをハンドリングしていくことが難しいシチュエーションもあった。ただ、2回目はうまくいったので、なんとなくコツがつかめたので(笑)、3回目もうまくいくんじゃないかなと思う」と母国3勝目に向けての意欲も見せた。