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低空から熊本城や阿蘇の山々を遊覧、ブライトリング DC-3に乗ってみた
77年前に作られた飛行機の乗り心地は?
2017年5月5日 06:00
- 2017年5月1日 実施
スイスの時計メーカーであるブライトリングがサポートして世界一周飛行にチャレンジしている「ブライトリング DC-3」。4月29日に熊本空港(阿蘇くまもと空港)に到着し、以後、1カ月強にわたり日本各地を訪れる予定だ。5月1日には熊本空港を発着地として、報道関係者への体験搭乗の機会が用意された。
機内へは、機体後方に用意されたタラップ(ステア)から乗り込む。このステアには1度に1人しか乗らないよう注意があった。昨今の飛行機でも内蔵式タラップを持つものがあるが、尾輪式の飛DC-3は大きく傾いて停止していることから、ほんの数段で機内に入れる。機内では坂を上るようにして自席に向かう。個人的には機内の坂はあまり気にならず、コンパクトな機体かつ自席が後方でもあったので、階段が少なくあっけなく自席に座れたという印象が残った。
機内は、記者会見の内容をお伝えした記事「毎日が特別――ワールドツアー中のブライトリング DC-3を機長が解説」でも触れているとおり、予備タンクのスペースを確保するために客席数を14席に減らしている。具体的には、2-2の4アブレストの席が前方に2列8席、後方に1列4席と片側に2席のレイアウトになっている。
出発前にはフランシスコ・アグーロ機長による簡単な説明のあと、志太みちるフライトアテンダントから安全のしおりが配布された。驚いたのは、安全のしおりが日本語だったこと。もちろん安全に関する情報なのでローカライズされているのが望ましいのは当たり前なのだが、ブライトリングという会社のよい意味での面白さというか、こだわりを感じた部分でもある。
機内の装備は、新旧が入り交じった不思議な空間だった。一番身近な装備であるシートは、今どきのシートに載せ替えられているようで、よくもわるくも特筆できることはない“普通”なもの。77年前の飛行機に乗って“普通”と感じることを、“普通”のことと捉えてよいかは分からないが。
そして、昨今の旅客機と決定的に違うのが窓だ。レトロな雰囲気を醸し出す木枠だったのも印象的なのだが、それ以上に、非常に大きい四角い窓なのだ。気圧差による機体への影響を避けるために、高高度を飛ぶ飛行機では丸い窓、そうでなく四角に近い窓でも角に丸みを付けるのが一般的な現代とは違い、直角の角を持つ四角い窓は新鮮に感じられる。
また、主翼付近に非常口を持つのは最近の飛行機と同様なのだが、非常口であるという仰々しさが薄く、レバーを回すだけで開いてしまう仕組みなのも驚いた。ブライトリング DC-3に乗るのは招待客などの限られた人のみであり、自分の命にも関わることなのでさすがに好奇心で触ろうという人はいないだろうが、うっかり触ってしまう可能性がありそうなむき出しのレバーという作りも時代が許したものではないだろうか。
いざ、エンジンが始動。“ブォン”という音とともに一気に回転数が上がり、しばらく間があったのちに地上走行へ。滑走路手前で他機の着陸待ちがあったが、滑走路に入ってからはあっという間の離陸。滑走中にふわっとした浮遊感があり、そのまま気が付いたら空に浮かび上がっていた感じだ。目標高度の違いもあるのだろうが、急上昇はなく、優しく空へ向かっていく。
高度は1400~1500フィート(426~453m)と500mに満たない程度で、気流の乱れには敏感に反応するものの、ふわふわと空気に乗っている感覚があり、空を飛んでいる感はジェット機以上。一方で、機内で過ごすうえで古くささを特に感じないのも驚きだ。
こうしたレポートを書くために乗ったフライトなので、「今の飛行機とはここが違う」と書くことが多い方が記者の仕事としてはラクなのだが(笑)、機内に伝わるエンジン音が特に大きいということもなく近くの人との会話もできるし、(これはパイロットの腕かも知れないが)揺れても大きくバランスを崩すということもなく、ごくごく普通の旅客機に乗っているのと変わりない。この日のフライトの揺れは大きかったが、それでも今どきの飛行機と比べての違和感は小さかった。
ジェットエンジンの世代では、機内を与圧して、もっと高い高度を飛ぶようになるなど、DC-3以後も旅客機はさまざまな進化、変化をしていくことになるが、機内における人間が不快に感じない環境という点において、その基準はDC-3の頃からあまり変わっていないのではないかと思われた。
しかし、低い高度を飛んでいるので眺めはよい。阿蘇の山はすぐ傍に迫ってくるし、市街地もビルの姿がよく見える。ヘリコプターや小型飛行機が飛ぶぐらいの高度を、居心地のよい旅客機から楽しめると考えると面白い。機体の下面部分から主翼が伸びる低翼式なので遊覧飛行向きとは言いがたい機体ではあるものの、非常に贅沢な体験であることは確かだろう。
旅客機の歴史を変えた言われるDC-3だが、今乗っても旅客機として十分に活躍できそうな乗り心地に驚かされた今回の搭乗体験。誕生から77年間を経て飛べる状態を維持することの苦労は想像に難くないが、このような乗り心地も丹念なメンテナンスなしにはありえないことだろう。そうした関係者の努力には感服する。世界一周への挑戦はまだ1/3を終えただけで、この先は太平洋横断という大きな挑戦も残されている。ぜひ成功してほしいと祈るばかりだ。
また、これから6月初頭にかけての日本滞在時には、さまざまな場所でブライトリング DC-3を見ることができる。現在公開されているのは下記スケジュールとなるが、ブライトリング DC-3という1機体に留まらず、DC-3という飛行機が日本の空を飛ぶ姿を見られる貴重な機会となるだろう。
5月5日:岩国フレンドシップ・デー2017で地上展示(山口県)
5月19日~21日:神戸市近郊を周回飛行(兵庫県)
5月26日~27日:福島県(中通り、会津)上空を周回飛行
6月3日~4日:RED BULL AIR RACE CHIBA 2017でサイドアクト参加(千葉市幕張)