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実質廃止発表の「弘南鉄道大鰐線」このまま消えゆく? 経営努力・支援策実らず「燃え尽き廃止」の背景

50年間で乗客93%減少。長らく赤字の大鰐線、ついに力尽きる?

 かつては年間389万人に利用されていた「弘南鉄道大鰐線」(中央弘前駅~大鰐駅間、13.9km)を、2027年をもって運行休止させる意向が弘南鉄道から示された。この路線は開業以来の赤字と設備の老朽化に悩まされており、そのまま70余年の歴史に幕を閉じる可能性が高い。

 大鰐線の沿線には、大学なら弘前大学、弘前学院大学、高校なら東奥義塾高校、弘前高校、弘前実業、聖愛中高などが連なり、文教都市・弘前の通学を支えてきた。また拠点駅である「中央弘前駅」はJR奥羽本線・弘前駅とは1km以上離れているものの、至近にある土手町は、古くから百貨店などの商業施設が集中しており、大鰐線で引き寄せられた買い物客によるにぎわいに支えられてきた。

弘南鉄道の路線図(平成28年度地域公共交通活性化シンポジウム資料より)

 しかし、1971年に389万人を運んでいた大鰐線の利用者は年々減少。2023年には全盛期の7%、27.1万人にとどまっている。かつて1時間に2本、快速の運行もあったにもかかわらず、現在はほとんどの時間で1時間に1本。昼間の利用客が極度に少ないだけでなく、近年は朝の電車も昔ほど混雑しなくなっているという。

 長らく赤字であったとはいえ、大鰐線は沿線自治体の補助によってなんとか生きながらえてきた。コロナ禍を辛うじて乗り越えたいま、弘南鉄道はなぜ自ら大鰐線の休止を決断したのだろうか。開業時から今にいたるまでの、沿線の動きをまとめてみよう。

「冬季はほとんど交通手段ナシ」地元有力者+三菱で誕生した大鰐線

中央弘前駅
大鰐駅。左横がJR奥羽本線・大鰐駅

 大鰐線の沿線である平川西岸、津軽平野の南西部はもともと道路事情が劣悪であり、木炭バスは冬場にはことごとく運休。かつ、並行する奥羽本線(当時)は貨物列車や特急列車がメインで、普通列車の運転本数は極少……という環境であったという。

 ここで、もともと津軽鉄道の役員であり、鉄道関係に明るかった岩淵勉・弘前市長(当時)が、鉄道のシステム開発を目論んでいた三菱電機を巻き込み、「地元有力者+三菱連合」で「弘前電気鉄道・大鰐線」を1952(昭和27)年に開業。しかし一度も黒字を計上できずに、弘前市のもう1社の私鉄・弘南鉄道に路線を譲渡し、今にいたる。

 一方で、もともと弘南鉄道の路線である弘南線は年間500万人に利用され、安定して黒字を計上し、赤字の大鰐線を救ってきた。しかし弘南線も2017年に赤字に転落してしまい、大鰐線の赤字も膨らむ一方。

 経営改善への道筋が立てられない大鰐線に対して沿線自治体は、奥羽本線をまたぐ「石川鉄橋」の架け替え費用5000万のうち9割を負担するなどして支えてきた。さらに、自治体で構成する協議会は支援計画を策定し、2021年から2030年まで10年間の維持のために「弘南線・大鰐線合わせて設備改修に5.9億円」「大鰐線には赤字補填2.3億円」といった施策を取る。

 ただし、大鰐線に関しては「2023年後の実績を見たうえで、2026年度以降を判断(目標は2019年の赤字額[6590万円]より2000万円の収支改善)」と、含みを持たせた。

 そして2023年、大鰐線は1億3000万円の赤字で、目標をまったく達成できていない。

老朽化で起きてしまった脱線事故。大鰐線は「鉄道会社・自治体の“双方燃え尽き廃止”」

奥羽本線をまたぎ越す「石川鉄橋」から
車内の装飾

 実は大鰐線は、2023年に3か月にもおよぶ運休を余儀なくされ、赤字額が膨らんでいる。

 まず8月にレールの摩耗による脱線事故を起こし、約2週間運休。再開後も9月には異常が見つかり、未然の事故を防ぐために2か月半にもおよぶ運休に踏み切っている。これらは線路や設備の老朽化が原因であるものの、保線を担当する人員は必要の半分程度である14人程度しかいない。弘南鉄道側によると、脱線の原因は「保守人員の不足」もあるという(2024年9月22日 東奥日報より)。

 安全面で抜本的な対策を打つには、これまでの設備改修に加えて、保線要員の人員補充とノウハウの引継ぎが必要となる。くわえて、電気代や人件費の高騰で、追加の補助が必要となる可能性も高い。さらに、線内の48か所の橋が約30年で耐用年数を越え、40億円以上の更新費用が必要との試算も出ている(2024年6月・弘前市定例議会)。

 事故・運休が相次ぎ、コロナ禍の影響が残っていたことを考え、「別の年度の様子を見ては?」という声もあった。しかし、あまりにも今後が見通せない状況を受けて、2024年9月の弘前市議会定例議会では「支援の抜本見直しが必要」「大鰐線の閉じ方を検討すべき」などの声が相次ぎ、紛糾したという。

 それでも弘前市は存続を模索していたものの、もともと2013年にも大鰐線廃止を申し出ていた(のちに撤回)弘南鉄道が、みずから休止を申し出た。いわば、「休止」という選択は、赤字に耐えて最低限の体制で大鰐線を存続させてきた弘南鉄道がギブアップを宣言し、終わりの見えない支援を行なってきた自治体が応えるという、双方の「燃え尽き廃止」と言えるだろう。

大鰐線、存続はかなわないのか? 苦戦の原因は「少子化&土手町の衰退」

中三弘前店

 大鰐線はもはや、存続がかなわないのか? ……現状を見る限り、これ以上の延命は難しいと言わざるを得ない。

 まず、大鰐線の沿線に連なる学校が、少子化によって軒並み生徒数が減少、そのまま通学利用者の減少に連なっている。なかでも、東奥義塾高校は2017年に募集を一挙に85人も減少させており、目の前にある義塾高校前駅の利用者も、2011年の339人から10年で111人まで減少している。かつ同校は生徒獲得のためにスクールバスを運行させており、中央弘前駅の西側にある「城西団地」や、沿線の1kmほど西側にある樹木地区をカバーする「石渡線」は「そろそろバス増やしてほしい!」というほどに利用が多いという(卒業生談)。

 このほか聖愛高校(「聖愛中高前駅」下車)も、近年は募集人員を大幅に減らしている。大鰐線の通学定期の減少は続いており、積極的な利用策を打った2016年のように、「定期外の利用者は2000人増加、通学定期は11370人減少」のような年も。文教都市・弘前を支えてきた大鰐線は、これ以上の施策を打っても乗客が増えそうにない。

 また、終点・中央弘前駅に近い土手町は、「ダックシティ(カネ長武田)」「ハイローザ」などの百貨店、商業ビルがつぎつぎと閉鎖・移転。さらに、なんとか生きながらえていた百貨店「中三弘前店」も、2024年8月29日に破産、そのまま閉店してしまった。なお筆者はたまたま5日前に訪問していたが、すでに仕入れが厳しかったのか、2階以上で数人しか来客を見かけないという、寂しい状況になっていた。

 大鰐線は「電車で中三まで行けば、帰りの運賃は100円」という企画乗車券「わにサポ」で中三と共存してきたが、土手町の核となる商業施設がない以上、昔のように「お買い物で大鰐線」需要は見込めない。こうなると、「レンガ倉庫美術館」などの観光資源は周囲にあるものの、JR弘前駅から1km以上離れてつながっていない大鰐線に、これ以上乗客を獲得できる余地はない。

 少子化で通学手段としての価値が落ち、土手町の空洞化で中央弘前駅の価値が落ち、さらに今後の補修費用も雪だるま式に膨らむ大鰐線は、早めにLRT化などの策をとっていたとしても、行く末が厳しかったのではないか。

バスの方がカバー率3倍強。大鰐線代替バスは「大至急で検討着手の必要性」

中央弘前駅には、快速運行時の名残が残る

 2016年に弘南鉄道が発表した資料によると、当時の総人口17.3万人のうち、バスを利用しやすい地区の人口は全体の90%(約16.1万人)。一方で、鉄道を利用しやすい地区の人口は25%(約4.5万人)だという(「地域公共交通活性化シンポジウムin関西」資料より)。

 このエリアの宅地は津軽平野の西側、岩木山のふもとに広く点在しており、いくら大鰐線が「JRが1駅しか途中駅を構えていない弘前~大鰐に12駅を設置」していても、そう乗客を増やせるわけでもない。大鰐線をそのまま代行バスに置き換えた場合、6人の運転手が必要(弘前市の試算。ただしJR奥羽本線の乗り入れを考慮せず)だといい、早期に代替バスの計画を練る必要があるだろう。

弘南バス車両

 さしあたっての課題は、「大鰐線に並行する道路がない」こと。中央弘前駅・土手町から並走する県道127号は弘南バス・小栗山線が1時間に2~3本運行しているものの大鰐線から500mほどの距離があり、かつ片側1車線、路肩幅は狭い(特に西弘前周辺)。学校は大鰐線寄りに立地するため、1校ずつ寄ると所要時間がかかる。平日昼間や弘前~大鰐間の通し利用が少ないとしても、「代替バス、これどうするんだ?」と考えてしまう要素は多い。

 ここは各校のスクールバス増強やJR弘前駅からの乗り入れだけでなく、可能であれば中央弘前駅~小栗山駅間あたり(県道との交点。弘南バスの営業所も近い)のバス専用道化・弘前中央病院の裏手などへの停留所増設を考えてもよいかもしれない(ただし、そこまでの敷地幅があるか……)。

 また、代替バス運行だけでなく、「雨風や寒さをしのいで待てる、駅舎になるだけ近い環境づくり」も考えていきたいものだ(事例:コンビニに委託してイートインをバス待ちで使ってもらえるようにする、など)。

 いずれにせよ、大鰐線が休止となる2027年まで3年「しかない」。まずは代替バスの形を早急に話し合ったうえで、黒字化の希望が残る弘南線に、補助と保守人員、待遇面でのリソースを集中した方がよい。