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空港で預けた荷物はどうやって運ばれている? JALが羽田空港でのグランドハンドリング作業公開

破損せずに荷物を扱うプロフェッショナルの仕事

2017年2月15日 公開

手荷物の入ったコンテナを運ぶトーイングトラクター

 JAL(日本航空)は2月15日、羽田空港国内線第1ターミナルにおいて搭乗客の預け入れ手荷物の積み降ろしを行なうグランドハンドリング作業を報道向けに公開した。

 出発前、手荷物をカウンターで預け目的地の空港で受け取る。この一連の流れは日常的でギモンに思うことはないかもしれないが、その裏側ではスゴいことをやっているのだ。

 例えば取材した羽田空港国内線の場合、1日の平均乗降客数は17万人以上(2015年度実績)。JALだけに限ってみても取り扱う手荷物は1日あたり約1万個、繁忙期には2万個を超える膨大な数となる。

 こうしたカウンターに預けられた行き先も出発時刻もバラバラな手荷物を、航空機が到着してから次の目的地へと出発するまでの、およそ50分の短い時間で積み込むのがグランドハンドリングの仕事となる。

 もちろん、積み込む前には出発地からの荷物を降ろすことも必要になってくる。それも、そのまま手荷物受取場のサークルベルトに流せばよいというわけではなく、宅配業者へ引き渡す荷物や、乗り継ぎでさらにほかの飛行機へ積み替えなければならない荷物など、実にヤヤコシイのだ。

 羽田空港のJAL運航便でこうした作業を担っているのがJALグランドサービスで、機体の誘導をはじめ貨物や手荷物の取り扱いなど、空港で多岐にわたる作業を担っている。手荷物関連では出発便への積み付けを行なう「手荷物仕分け」、航空機へコンテナを運ぶ「搬送」、コンテナから返却用サークルベルトへ持って行く「返却」の3エリアに分かれており、それぞれ6~7名程度がチームを組んで作業にあたっている。

 こうしたグランドハンドリングの仕事を航空機の到着から出発までの流れに沿って紹介しよう。

荷物をコンテナ内に積み込み

 羽田空港の第1ターミナル2階のチェックインカウンターで預けられた手荷物は、コンベアによって荷さばき場(ソーティング場)のサークルベルトへと運ばれる。羽田空港第1ターミナルの場合、航空機の発着数が多いこともあって、こうしたサークルベルトが南ウイング、北ウイングに3台ずつ計6台設置されている。

 2階からコンベアで運ばれてきた荷物は、ここで便ごとのコンテナに積み替えられる。それぞれの場所に振り分ける仕組みがあるのだが、そこは非公開となっている。詳しくは明かせないとのことだが、航空会社ごとに正確に効率よく作業を行なうノウハウがあるらしい。

ソーティング場はターミナルビルの1階にある
サークルベルトの周囲に各行き先のコンテナが並ぶ
コンテナには便名を書いたフダが掲げられている

 取材したサークルベルトには10台ほどのコンテナが並び、スタッフが手際よく手荷物を積み込んでいた。スムーズに作業しているが、荷物のタグで行き先を目視でチェック、タグのバーコードをリーダーで読み取り、コンテナに貼られているチェックリストのバーコードと照合、そして積み込みという段取りになっているそうだ。

 チェックリストとリーダーで読み取った数が合わなければエラーが出るため、必然的にすべての荷物が間違いなく積み込まれたか否かが分かるようになっているわけだ。そうした作業を行ないつつも、前方のコンテナで作業を行なっているスタッフは担当便の荷物をチェックしつつ、担当外の荷物でもタグが見やすい位置になるように向きを揃える、なんて細やかな心配りも。これもヒューマンエラーを防ぐ措置の一環だという。

タグを読み取るリーダー
コンテナに貼られたチェックリスト
荷物が隙間なく積み込まれていく
前方では積み込む荷物をチェックしつつ後続のスタッフが作業しやすいようタグの向きを揃えていた
出発まで時間のある便の荷物は1カ所にまとめられている

 1台のコンテナに積み込める荷物はおおよそ50~60個程度。基本的には流れてきた順番に積み込むものの、「ベビーカーやホイールチェアーといった壊れやすいモノは上に」「取扱注意のタグがあるモノは隙間に入れてテンションが掛からないようにする」「重量のあるモノはハンドル(取っ手)を持たないで2点で持つ」といったあたりを心がけているそうだ。荷物に気を配りつつも限りのあるスペースをいかに上手く使っていくか。そのあたりのセンスが問われるところだ。

 ファーストクラスの乗客やJALグローバルクラブ会員が預けるプライオリティタグ付きの荷物に関しては、別のコンテナを使用したり、いったんよけておいて、あとら積み込んだり、コンテナを使わずバラ積みにしたりと、荷物の数に応じて臨機応変に対応しているという。

 チェックインカウンターの締め切り時刻は出発の20分前まで。つまり、手荷物のコンテナへの積み込み作業はそのあとまで続くことになる。その時刻を過ぎ、すべての荷物の積み込みが終了すると搬送スタッフにバトンタッチとなる。

積み込みが終わったコンテナを閉じる
作業台からトーイングトラクターが牽引する台車へ

航空機の到着から出発までに荷物を降ろして積み込む

 搬送スタッフは荷物を降ろす作業があるため、目的の便が到着する前からスポット脇でスタンバイ。エンジンが完全に停止してから作業に取りかかることになる。

 今回取材したJL308便は福岡発羽田行きで、使用機材はボーイング 767-300ER型機(登録記号:JA622J)。2016年12月30日に就航したばかりのドラえもんが描かれた特別塗装機だ。ボーイング 767型機は右側面前後にコンテナのドアがあるほか、右後部にもバラ積み用のドアが設けられている。

 コンテナ側はハイリフトローダー、バラ積み側にはベルトローダーが横付けされ、コンテナや荷物を次々に降ろしていく。最初に出てくるのは乗客の手荷物だ。トーイングトラクターに託されたコンテナは1つ、2つとごく少量ながら、すぐに返却する必要があるため手荷物受取場へと出発していく。

取材日に福岡から羽田に到着したJL308便は、特別塗装機「ドラえもんジェット」だった
JL308便の到着を待つベルトローダー
エンジン停止とともに作業を開始
ボーイング 767型機のバラ積み用ハッチは左側面後方。ベルトローダーが横付けされる
ボーイング 777型機のバラ積み用ハッチはコンテナと同じく右側面にある
バラ積みされていた手荷物が運び出される。コンテナへの積み替えは人力
真っ先に手荷物受取場へ向かう
同時に貨物用コンテナの運び出しも行なわれていた
ハッチ内に見える赤い爪がコンテナを支えるラッチ
手前がハイリフトローダー

 その後に続くのが航空貨物。ボーイング 767型機の場合は前部に8個、後部に7個のコンテナが収納できるとあって、次々にコンテナが運び出されていく。なかにはJALのコンテナだけでなく運送事業者のロゴが入った専用コンテナの姿も目に付く。

 こうしたコンテナには規格があり通常サイズと、その半分の小型サイズ、それに冷蔵用のコンテナなどのバリエーションがあるという。この冷蔵用コンテナは生鮮品の輸送に用いられるもので、航空機では電源の供給を受けられないため、ドライアイスと単一乾電池駆動のファンで冷却を行なっているそうだ。

 10時30分に到着したJL308便は、次に12時15分発のJL915便として那覇に向かう。那覇や札幌といった遠方に向かう便はやはり貨物の量も多いとのことで、多くのコンテナが胴体に飲み込まれていく。出発直前、後部カーゴスペースに乗客の手荷物を積んだコンテナ2個を収納して作業は完了。JL915便は無事に出発した。

右側が標準サイズのコンテナ。左側はハーフサイズ
標準サイズコンテナのスペック
細長いコンテナはバラ積み手荷物用
大型楽器用コンテナなんていうのもある
積み込みが始まった。まずは貨物コンテナから
多くのコンテナが機体内に飲み込まれていく
出発間際、手荷物を積んだコンテナが2個到着、2個1組でハイリフトローダーに載せて積み込む
ハッチを閉じて出発準備が完了
ブロックアウト
那覇に向けて飛び立っていった

搭乗客の荷物をサークルベルトへ

 機体から降ろされたコンテナは手荷物受取場に直結したサークルベルト前に。どの便の荷物をどのレーンに流すのかは、手荷物受取場のスタッフが状況を見ながら決めるとのことで、ベルト上部のモニターに便名が映し出されている。

 コンテナを積んだカーゴトレーラーが到着すると、スタッフは便名を確認しつつコンテナを開きベビーカーなどを先に、続いてプライオリティタグの付いた荷物を流していく。積み込み時にある程度考えられているため右から左へ流すだけかと思いきや、宅配業者へ渡す荷物や乗り継ぎ客の荷物などもあるため、「ここでフライトが終わる荷物か否か」のチェックをしっかりと行なっている。

 ここでチェックされた乗り継ぎの荷物はスタッフが直接、次の便のスタッフに手渡す。その際も「○○便から乗り継ぎの荷物が○個ある」ことが伝えられているため、間違いなく荷物が乗り継ぎ便に積み込まれるわけだ。

手荷物返却用のサークルベルト。壁の向こう側は手荷物受取場のターンテーブルになっている
3番にやってきたのは鹿児島からのJL644便の荷物
手際よくコンテナを開いていく
バラ積み手荷物用コンテナの内部
最初にプライオリティタグの付いた荷物を流す
男性中心の現場のように思えるが最近は女性が増え1割ほどを占めるとのこと
どんどん流していく
よく見るとハンドルの向きが揃っている。荷物を受け取りやすいようにとの配慮だ
宅配向けの荷物は別のコンテナに集約

 荷物が機体から降ろされサークルベルトに流されるまでの時間は、天候や駐機位置によって差が出るもののおよそ10分ほど。ただ、受託手荷物の数が多い時やフライトに乱れがあった時などはどうしても時間がかかってしまうことになる。そのため、カーゴトレーラーを2便に分けるなど少しでも早く返却できるように工夫しているそうだ。

 そのほかにも、ベルト上に荷物を置く際には「お客さま側にハンドルが来るようにしている」そうだ。これらの気配りはスタッフ全員が「お客さま目線でどうなのか?」「自分の荷物だったどうなのか?」を常に意識し、丁寧に扱うように心がけているためだという。

 また、「手荷物の取り扱い現場は定時運航を維持する最後の要の作業。便が集中する時間は特に効率よく作業するなど、遅れを出さないように気を配っている」とのこと。

 これらの複雑なオペレーションをこなしつつも、国内線での「ロストバゲッジ」や手荷物の破損といった事例を聞くことはほとんどない。素早く、正確に、そして丁寧に。空港でお土産や身の回りの手荷物を間違いなく受け取ることができるのは、そんな仕事が行なわれているからこそ、なのである。

現場で説明してくれた株式会社グラテックの水上武也氏
株式会社JALグランドサービス 東京支店 総務部 業務グループ 主任の安田秀明氏