井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

あっつい夏の鉄道旅行で気をつけたいこと

JR北海道のキハ54形気動車は、当節ではめずらしくなった非冷房車。これは6月半ばの撮影だが、すでに窓を開けている人がいるのが分かる

「暑い、暑い」とボヤいたところで涼しくなるわけではないので、あまりこういうことを口にしないようにはしているのだが、それでも暑いものは暑い。

 とはいえ、夏はお出かけのシーズンでもある。その暑い夏の鉄道旅行で気をつけないといけないことは何かあるだろうか、と考えてみた。

車内にいる分には涼しいことが多い

 その昔には、夏が近付くと毎年のように「冷房化率」が話題になったものだ。昔は冷房車がめずらしかったからだが、今ではむしろ、冷房がない車両の方がめずらしい。

 冷房がなければ、もちろん窓は全開、扇風機も作動させている。それでも暑いものは暑い。それに、窓が全開だと走行中は強い風が吹き込んでくるから、モノが飛ばされる心配をしないといけない。女性なら髪が乱される心配も出てくるだろう。

 その非冷房車のことを「暖房車」と呼ぶジョークがある。冷房が作動していればそんなことはないが、非冷房車では車内の温度が30度台後半まで上がってしまった経験がある。まさに暖房車だ。ただし、本来の暖房車とは、冬季に暖房用の蒸気を客車に送るための、ボイラーを積んだ車両のこと。大抵、用途廃止になった蒸気機関車のボイラーを流用して作られていた。

函館本線の普通列車で。32.4℃と表示されているが、これはまだ手ぬるい
ある夏の、根室本線の普通列車で。車内温度計はなんと36℃を指していた
こちらは首都圏の話だが、山万ユーカリが丘線の車両は冷房が付いていない
そこで夏季に「おしぼり配布」のサービスをしている。今年も実施中

 閑話休題。冷房の有無だけでなく、窓から射し込んでくる日射しも体感温度に影響する。日射しというと、まぶしいかどうかが問題だと考えそうになるが、それだけではない。可視光線だけでなく、紫外線も赤外線も降り注いでくることを忘れてはいけない。

 クルマを運転する機会が多いと日焼けが気になる、という話があるが、それなら鉄道も同じである。ただしクルマと違うのは、自分が運転するわけではないから、暑かったりまぶしかったりするときにはカーテンを閉められること。

 ところが最近の車両では、そのカーテンを備えていないものが少なくない。金属材料を練り込んだ熱線吸収ガラスを使用することで、カーテンの設置を省略しているからだ(だからガラスに色がついてしまい、車窓の景色が妙な色になる)。

 また、窓ガラスに紫外線カットの機能を持たせている車両が増えてきた。日焼けを気にする方にとっては、ありがたい話であろう。ただし、すべての車両がそうなっているわけでもないので、古い車両にあたれば話は違う。

近鉄8A系の窓ガラス。UVカット機能を持たせていることをアピールしている
熱線吸収ガラスを使用して、ロールカーテンを省略しているE531系。

しかし、車両の外に出れば暑い

 あいにくと、ずっと車中で過ごしているわけではない。鉄道やバスが飛行機と比べて不利だと思うのは、乗降の際にどうしても、屋外に出なければならない場面があることだ(飛行機でも皆無ではないが)。

 駅のホームでは、座って列車を待つ乗客のために、ベンチが備えられていることが多い。かつてはそれが単純にむき出しで設置されていることが多かったが、都市部を中心に、囲いを設けて空調も備えたホーム待合室を設置する事例が増えた。夏だけでなく冬にもありがたいものであるから、設置されているものなら活用したい。

新下関駅で。右手の奥にホーム待合室が設置されているのが分かる。ベンチが列車と逆の方向を向いているのは、「立ち上がってフラフラと進んでしまった結果として発生する転落事故」を予防するため
JRグループだけでなく民鉄でも、ホーム待合室の設置が進んでいる。これは近鉄名古屋線の戸田駅

 そもそも駅のホームは「屋外」であるから暑いし、場合によってはホーム上屋がなくて直射日光が照りつけてくることもある。すると、普通に屋外で過ごす場合と同じ対策が必要になる。

 第一、鉄道旅行だからといって、ずっと駅の構内と車両のなかに引きこもっているわけではない。だから、やはりなにがしかの暑さ対策、日焼け対策は必要であろう。ただ、混雑する駅のホームで日傘を広げるのは慎みたいところ。

 あと、熱中症や脱水症状を避けるための対策も考えなければならない。日本では、駅のホームに飲料自販機が設置されている場面が多いのが助かる。車内の自販機設置事例はすっかり減ってしまったから、補給するなら駅で、ということになる。

 そして、汗をかいてベタベタになった状態のままだと快適とはいえないから、ウエットティッシュとかパウダーシートとかいったアイテムを荷物に入れておいて、活用したいところではある。

夏こそ身軽に動けるようにしたい

 汗をかく分だけ着替えを多く必要とするのはしんどいところだが、夏場のお出かけではできるだけ身軽にすることも考えてみたい。大荷物を抱えて歩き回れば、大汗をかく上に体力を消耗する。

 着替えを大量に持ち歩く代わりに、出先でこまめに洗濯すれば、少しは荷物が減る。日本国内なら、洗剤ぐらいはコンビニなどで現地調達できるし、コインランドリーが設置されているビジネスホテルは少なくない。

 筆者は商売上、ノートPCとカメラ機材が少なからぬ分量と重量になっており、荷物を重くする原因を作っている。そのため、夏場になると小型軽量のボディやレンズを持ち出す場面が増えることもある。取材のときにはそうもいっていられないのだが。

 そこで高倍率ズームレンズを使えば、カメラ機材をいくらか減らすことはできる。さらに開き直って、「いっそ、標準単焦点1本で済ませてしまえ」という考えもアリかもしれない。

 このほか、スマートフォンに充電器、モバイルバッテリ、といった具合に、現代の旅行では持ち歩く電気製品の数と重量がバカにならない。これも、集約したり小型化したりできないかどうか、考えてみたい。