井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

改めて、18きっぷの使い方について考えてみた

運転本数が少ないことで知られる難物、小野田線・本山支線の終着駅、長門本山駅で。中国地方は、普通列車しか走っていない区間がけっこう多い

 6月2日に、夏の「青春18きっぷ」発売に関する発表があった。

 昨年、自動改札機への対応を筆頭とする制度・仕様の変更が行なわれた。そのため、これまで可能だった使い方ができなくなったなどの理由から、不満の声が上がる場面も見られるようである。それならそれで、従来の先入観や固定観念はひとまず捨てて、違った種類の使い方提案をしてみてもいいのではないか、と考えた。

安上がりに遠くまで行くためだけのものなのか?

 18きっぷの典型的な使い方として「安上がりに遠くまで行ける」があるのは紛れもない事実であろう。

 実際、18きっぷのシーズンに東海道本線、東北本線、上越線あたりの普通列車に乗ると、「いかにも」な乗客を多く見かけたものである。実際にそれを実行する利用者が、購入者全体でどの程度の比率を占めていたかは、手元にデータがないので分からないが。

 筆者自身も「ネタ」として、「東京から普通列車ばかり乗り継いで北上したら、1日でどこまで行けるか」を、ダイヤ改正の度に時刻表で調べていた。「実は青森まで行けてしまう」というだけでも驚かれるかもしれないが、その経路に少々の意外性があるのもおもしろい。

2025年6月現在の時刻表で調べた結果。上野を朝一番に発つと、東北本線~北上線~奥羽本線、あるいは高崎線~上越線~信越本線~白新線~羽越本線~奥羽本線経由で青森まで日着できる。IGRいわて銀河鉄道を経由すれば、花輪線経由も選択肢に加わる。以前は使えた仙山線経由は、今のダイヤでは大館が限界
こちら、北海道編。朝一番に札幌を発つと、函館本線~石北本線~釧網本線経由で釧路まで行ける。ちなみに、岩見沢~旭川間を走り通す普通列車は、921Dの次は旭川着13時37分の2363Mまでない
逆方向ではなんと、稚内あるいは釧路から倶知安まで日着できる

 ただし、調べるだけで実行はしていない。18きっぷを携えて東北方面を北上したことはあるが、山形や盛岡あたりが北限だ。それは「朝の5時過ぎから夕方の23時近くまで、ひたすら普通列車に乗り続けるのは、さすがにしんどい」という理由が大きい。

制度変更を機に頭の切り替えも

 さて。制度変更を契機に、ちょっと考え直してみてはどうだろうか。「安上がりに遠くまで行く」以外に、18きっぷが活きる使い方はないのか。

 新幹線や特急や飛行機で目的エリアまで行って、現地で18きっぷを使って各地を行ったり来たりして、また新幹線や特急や飛行機で帰ってくる。そんな使い方もあっていい。なにも、修行僧のようにひたすらゆっくり遠くを目指すだけが鉄道旅行ではない。

 それに、18きっぷみたいな「フリー乗車」タイプのきっぷは、行き止まりの終着駅で折り返す際に、いちいち出場してきっぷを買い直す手間がかからない。また、気まぐれで旅程を変更することがあっても、きっぷを買い直す手間がかからない。

 これは筆者が十数年前に実際にやったことだが、実は「全線乗りつぶし」で18きっぷが活きる場面がある。それは、普通列車しか走っていない路線が多いエリアを集中的に乗って回る場面。具体的に挙げると、中国地方や東北地方が該当する。

北上線で。ここに限らず、東北地方を東西方向に走る路線の多くは、普通列車しか走っていない
姫新線の中国勝山駅で。このときは、たまたま臨時快速「ハレノモリ」が走っていたが、普段は単行気動車の普通列車が行き来するだけの区間である

 なにも「全線制覇」を目指さなくても、普通列車しか走っていないようなエリアを周遊するような場面であれば、今でも18きっぷは十分に有用である。

 また、特急列車が走っていても本数が少ない路線では、普通列車を利用する場面が増える可能性がある。羽越本線の酒田以北や、常磐線のいわき以北、特急「大雪」が特別快速化された石北本線あたりが典型例といえる。すると、これまた18きっぷが活きる可能性につながる。

石北本線の特別快速「きたみ」(撮影時はまだ特別快速だった)。2025年3月改正以降は、快速「きたみ」に加えて、特別快速「大雪」が2往復走っている

3日もあればいろいろできる

 筆者のように、「ノートPCがあればどこでも仕事ができる」人はともかく、一般的な勤め人にとっては、さすがに連続する5日間の休みを捻出するのは難しい。しかし3日間なら、まだ可能性があるのではないか。

 3日間用の18きっぷは1万円だから、3で割ると1日あたり3333円。JRのうち本州3社の運賃表でいうと、営業キロ181~200kmの領域にあたる。飯田線なら全線、東海道本線なら東京~安倍川程度となる。

飯田線の名物「渡らない橋」こと第六水窪川橋梁。ここは特急も走っている区間だが、普通列車の方が観察しやすいかもしれない
このとおり、対岸に接近しながらも逆戻りして、水窪川を二度、渡る

 これはストレートに乗った場合の数字だが、どこかのエリア内で行ったり来たりする場合には、もっと短い乗車距離でも元を取れるだろう。JRの運賃制度は遠距離逓減制(距離が長くなるほどに、1kmあたりの賃率が下がる)に基づいているから、そうなる。

 場合によっては、3日間用でも2日で元を取れるぐらいに乗ってしまうかもしれない。それなら、3日目の分がムダになってもムダとはいえない。筆者自身、そんなフリーパスの使い方をしたことがある。

「そもそも論」として、「元を取る」ことにばかり気をとられるのもいかがなものか。3日間で1万円の18きっぷを買って、トータルで3000円分ぐらいしか乗りませんでした、となればさすがにもったいない。しかし若干のマイナスぐらいなら、気ままに旅する自由度を買ったと思ってもいいのではないか。

みんなして似たような行程になる場面も出てくる

 ただ、普通列車しか走っていないようなエリアでは往々にして、列車の運転本数が少ない。すると必然的に、「乗り継ぎがうまく行くパターン」が限られてしまい、周囲が「同好の士」だらけになることがある。

 これは筆者自身も何度も経験がある話で、列車の運転本数が少なければどうにもならない話ではある。ただ、「幹線の長距離移動」に利用者が集中するのと同じような形で、特定のエリアに利用が集まるものだろうか。

午後に、芸備線の新見方面と三次方面、それと木次線の列車が「全員集合」することで知られる備後落合駅。このときは、山間の駅が“同好の士”でいくらかにぎわう
別の日に、備後落合に到着する木次線の車中から眺めた様子。芸備線の2列車はすでに到着している

「ひたすら遠くに行くだけ」と比べると、自由度や柔軟性があるし、結果として宿泊地も分散することにならないだろうか。そうなれば、特定の列車に利用が集中する事態は緩和されるかもしれない。