井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
列車位置情報が「実際の位置と異なる」理由
2025年4月23日 06:00
スマートフォンが普及したころからだろうか、鉄道事業者各社が、列車位置情報を提供するようになった。当初は大都市圏や主要幹線に限られていたが、対象路線・エリアは拡がってきている。列車位置情報があれば、特に遅延が発生したときに、状況が分からずにヤキモキさせられる場面が減る。
「実際の走行位置とは異なる場合があります」
ところが、その列車位置情報を見ていると、ときどき「この区間は実際の走行位置とは異なります」といった但し書き付きになっている場所がある。
素人目に不思議に思えるのは、この但し書きがついている駅と、ついていない駅があること。また、大都市圏の路線では、こうした表示を見かけることがない。
ときには、列車位置情報を見て「そろそろ列車が来るから、ホームに出ようか」ということもあるだろう。ところが、その位置情報に曖昧な部分があると、「まだ来ていない」と思ったら実際には「すでに来ていた」となってしまい、乗り遅れるリスクが考えられる。
だから、列車位置情報を見てホームに出るのであれば、いくらかタイミングに余裕を持たせておく方が無難といえる。A駅・B駅・C駅とあって、B駅の前後で位置情報が不正確になる可能性があるのなら、A駅あるいはC駅まで列車が来たところでホームに出て待機する、といった話になる。
列車の有無を知る仕組みがあり、それに合わせて信号が切り替わる
こうした話が生じる理由は、「列車の位置を把握する仕組みと、その単位」にある。
道路の信号機は「進んでもよい」「進むな」を使い分けて、それをドライバーが遵守するという前提で安全を確保している。交差する一方の道路が「進むな」となっていれば、クルマは出てこない「はず」だから、他方の道路に対して「進んでもよい」と指示しても衝突は起こらない、という理屈になる。
ところが同じように色灯式の表示を用いていても、鉄道の信号機はロジックが異なる。まず、列車が線路上にいるかどうかを把握する仕組みがあり、それに基づいて信号の現示を決めている。
例えば、ある列車から見て前方に別の列車がいて、そのまま進むとぶつかってしまうときに、後続列車に対して停止信号(色は赤)を表示して、「これ以上進むな」と指示することで衝突を防ぐ。
また、単線区間では前方から反対方向の列車がこちらに向けて進んで来る場合がある。このときにも、列車の存在を検知したうえで、逆方向の列車に対して停止信号を表示して衝突を防ぐ。
信号システムのうえでは、線路を複数の区間(閉そく区間という)に区切って、個々の区間には列車を1本しか入れないようにする。その際に、進入の可否を指示するのが信号機の役割となる。
だから単線区間の駅で「対向列車行き違いのために停車いたします」と放送がかかった場合、信号機の現示を見ると、自分が乗っている列車が出発できる状況にあるかどうかが分かる。
停留場が入ると位置のズレが発生し得る
単線で、かつ列車の運転本数がそれほど多くない場合、駅と駅の間を1つの閉そく区間としている。つまり「A駅とB駅の間には1本の列車しか入れません」という意味になる。すると、B駅から来た列車がA駅に到着するまで、A駅からB駅に向かう列車は出せない。出したら正面衝突事故になる。
この図では、両端のA駅とC駅はポイントを設けて複数の線路を備えている。ところが実際には、そういう駅ばかりとは限らない。中間の駅みたいに、線路の脇にホームを設置しただけということもある。
その停留場を挟んだ前後の駅間が1つの閉そく区間になっていると、その駅間全体で列車が「いる」「いない」の区別しかつかない。すると、その停留場前後で「列車位置が実際と異なる場合があります」が発生する。
これは単線区間に限らず複線区間も同様で、列車が在線しているかどうかを駅とその前後で個別に把握できないと、同様の但し書きが現われる。駅とその前後で閉そく区間が別々なら、個別に位置の把握が可能になる。
もともとは指令員のための情報
運行管理を担当する指令員のために、指令員がいる指令所に運行状況を表示する仕組みが作られた。それを外部に出したのが、今の列車走行位置情報サービスである。
ただし、利用者が乗れない列車の情報は、あっても意味がないので除外するのが一般的。だから、回送列車や試運転列車や貨物列車は列車位置情報に現われないことがほとんどだ(たまに例外がある)。
今でこそ、「指令所の表示盤やコンピュータの画面で列車の位置をリアルタイム把握できる」のは当たり前と思われているが、こうなったのは比較的最近のこと。その前はどうしていたかというと、駅から電話で報告が上がってきて、それで初めて遅延の発生を知る、という超アナログなやり方だった。