旅レポ
眺望最高のテレワーク用ラウンジを整備した「ユインチホテル南城」で沖縄ワーケーション体験
2020年10月25日 16:04
新型コロナウイルス禍のさなか、テレワーク、リモートワークが一気に普及した。以前から“働き方改革”や、東京オリンピック・パラリンピックを見据えた取り組みで注目されたことはあったが、実際に新しい働き方が珍しいものではなくなった点で2020年は記憶される年になるだろう。
この流れのなか、日本においても「ワーケーション」への注目が高まっている。この言葉がワーク(仕事)とバケーション(休暇)の造語であるとおり、リモートワークの活用によって仕事と休暇を両立させる、言い換えれば、休暇を兼ねつつ仕事をするスタイルだ。リモートワークの環境が整っていないことや、長期休暇を取る人が少ない日本社会の傾向から、あまり浸透していないワークスタイルだったが、コロナ禍で前者の整備が進み、リモートワークなら、ある程度の勤務時間の自由度を持たせることもできることから注目が高まった。
そんなワーケーション。仕事の面で見れば、ホテルなどにネットワーク環境をはじめとする“仕事をできる環境がある”ことが前提条件になるし、一方で自分なりの楽しい休暇を楽しめる土地であることが絶対だ。今回、そうした条件が整っている街にあり、テレワーク向け施設も備える沖縄県南城市のホテル「ウェルネスリゾート沖縄休暇センター ユインチホテル南城」(以下、ユインチホテル南城)で、ワーケーションを体験してみた。
沖縄ワーケーション体験。本島南部の観光や温泉も満喫
ユインチホテル南城は、2018年に新設された南城市役所の目の前に所在。元々は厚生年金の休暇センターだった施設で、2009年に医療法人であるタピックが継承し、ホテルとして運用しているものとなる。従来は現在の「本館」と呼ばれる場所に53室の客室を備えていたが、2017年に新たに「アネックス」棟を建設。計147室の客室を備えるホテルとなった。
今回の主題であるテレワーク、ワーケーションといったニーズに向けては昨年度から取り組みを開始。6階にあったレストランを「ラウンジ『感謝』」に改装し、テレワークスペースとして7月18日にリニューアルオープンした。
ユインチホテル南城 総支配人の砂川卓郎氏によると「2019年11月から構想があり、新型コロナウイルスの影響の有無にかかわらずリニューアルすることは決まっていた」という。実際、2020年度(令和2年度)沖縄テレワーク推進事業の施設整備事業、施設活用事業の交付も受けており、以前から計画が進められていたことが分かる。
また、その施設整備事業においては、沖縄セルラー電話とコンソーシアム(企業連合)を設立。「一般客室にもWi-Fiを整備しているが、6階(ラウンジ)は一般フロアとは別の回線を引いている。テレワークするにあたっては、仕事関係のやりとりもあり、セキュリティ関係もしっかりしなければならないと考え、インフラ系を沖縄セルラー電話さんにお願いして構築していただいた」(砂川氏)という。
ちなみに客室において何度か測定したところ、上り/下りそれぞれピークが90Mbps以上、最低速度のときでも約50Mbpsとわりと高速な印象を受けたのだが、テレワークスペースとしているラウンジは別回線とすることで、セキュリティ面はもちろん、速度面でもさらに安定したものとなっている。
その6階のラウンジは、北向きに大きな窓があり、中城湾を一望できる絶景が広がっている。カウンター席のほか、4人掛けのテーブル席や大テーブルの席など座席のバリエーションも豊富で、1人での利用から、仕事の仲間内や部署単位での共同利用など、さまざまな使い方ができそうだ。また、1人掛け席の一部は、高さのある背もたれの椅子を採用。後方からの視界を遮って作業に没入することができる。
また、ラウンジ「感謝」は時間を区切って運用。9時~18時はラウンジとして利用し、ドリンクや軽食を無料で提供。複合機の利用もできる時間帯となる。さらにこの時間内でも9時~14時は「テレワークタイム」として小学生以下の利用を制限。静かに仕事に没頭できる時間を提供している。
ラウンジタイム中、宿泊者は無料で利用できるほか、宿泊者以外も1時間1100円で利用できるようになっており、ホテルのフロントで料金を支払ったうえで入室可能となる。
夜の19時~22時はバーとして開放。有料にはなるがアルコール類も提供している。もちろん、この時間もWi-Fiなどは利用できるので、仕事のために活用することも可能だ。実際、那覇市内の企業でリモートワークを推奨している企業のスタッフや、フリーランスの利用は多いという。
ちなみに、ユインチホテル南城にとって、このラウンジは母体のタピック沖縄が医療法人であることにも深い関わりを持つという。というのは、同ホテルは新型コロナ禍のなか、4月下旬から6月末まで臨時休業。その間に今後のホテルのあり方として「ウェルネスツーリズム」を推進する方針を決めたという。ウェルネスとは広い意味での「健康」を表わす言葉だ。
砂川氏は「運動をするのも一つのウェルネス。がんなどの療養もウェルネス。観光市場におけるウェルネスと、医療としてのウェルネスの両方を進めようと思っている。特に(タピック沖縄の)病院はリハビリテーションを専門としている。海外にはリハビリの概念がない国もあるので、将来的には海外からのリハビリツーリズムにも力を入れたい」と展望を語る。
さらに、身体面だけではなく、心のケアにも着目しているという。砂川氏「テレワークできる職種は限られているが、そのような職種では退職者が多かったり、心に課題を抱える方が多かったりすると聞いている。こちらで宿泊、食事をし、仕事もしながら心身ともに回復して会社に戻っていただければ」と話すとおり、後述するように温泉やアクティビティも充実しており、リフレッシュしやすい環境で仕事をすることで心のリハビリができるホテルも目指している。
中城湾を望む客室でもワーケーション
客室は全室が中城湾に面した北向きとなっている。今回は2017年に新築されたアネックス側の洋室デラックスの客室に宿泊したが、小さいながらもテラスが設けられており、テーブルと椅子も用意されている。こちらで仕事をするもよし、気分転換をするもよしのうれしいスペースだ。
また、室内には本来は化粧台だが作業にも使える机のほか、ソファとテーブルが設置されており、気分によってさまざまなスタイルで仕事を進められる。電源まわりも充実しており不足はない。本来は化粧台なので仕方ないのだが、こと仕事をする点にフォーカスすると、身体的には背もたれのある椅子が好ましい。もっとも、あまりに仕事場感が高まると気分的なリラックス効果が薄くなる可能性もあり、これはこれでよいのかも知れない。
もちろんホテルの客室としても良好で、浴室からも中城湾が見られるほか、ベッドの枕/クッションも複数の柔らかさが用意されている。客室全体の清潔感もある。ワーケーションという視点を省いて見ても、安らげる空間が提供されている。
掛け流しの温泉も魅力。夏のプールなど、アクティビティも充実
同ホテルの目玉となっているのが、源泉掛け流しの温泉を備えることだ。「天然温泉さしきの・猿人の湯」と名付けられた温泉施設のほか、温泉付きの和室8室や、貸切湯も用意している。
ちなみに「猿人の湯」の名前は、猿人の一種であるアルディピテクス・ラミダスが生まれたころの太古の海水が温泉に含まれていることに由来。この海水はメタケイ酸やカルシウムなどの栄養塩類が多く含まれ、現在の海水は異なる性質を持っているという。
天然温泉さしきの・猿人の湯では、展望風呂も備わっており、昼は海を一望、夜は夜景と星空を楽しみながらの入浴が可能。ロビーには物販店やレストランも備えており、湯上がりの余韻に浸って旅行気分を味わうこともできる。
先述のとおり、温泉付き和室や貸切風呂を用意しているのもありがたい。家族でゆっくり温泉を利用したい場合のほか、お年寄りやハンディキャップを持つ人、タトゥーが入っているなどの理由で共同温泉を利用しにくい(あるいは、できない)人であっても、温泉を楽しむ手段が用意されている。
今回、温泉付き和室を見学させてもらうことができたが、浴場のデザインは、すのこを敷き詰めたような床面に、ゆっくりと流れ出る温泉の湯出し口の組み合わせという本格派。子供2名の家族で入っても十分な広さを持っている。
なにより、温泉からあがってすぐに畳でくつろげるのは個室ならではの魅力だ。
さらに気分転換ができる施設も多数ある。まず目を引くのは、巨大なウォータースライダーだ。屋外プールで、ホテル備え付けプールとは思えない規模のプールが容易されている。こちらは夏季のみの営業とはなるが、夏はプール、冬は温泉という楽しみが用意されている。
加えて、約3万5000坪の敷地内には、ジムやプール、体育館などを備えるスポーツ施設「ペアーレ」のほか、テニスコートやゴルフ場も用意。机に向かっている時間が長くなりがちなテレワークの気分転換のために、気軽に体を動かせるのはうれしい。
このほかにも、広大な敷地を活用したバギーや、無人島「コマカ島」でのマリンスポーツなども用意されており、家族、グループでリゾート気分を楽しむホテルとしても魅力だ。
豊富な地元食材を使った料理をビュッフェで
食事は本館2階のレストラン「サンピア」を利用。朝、夕それぞれの時間帯に合わせたビュッフェ形式で食事を提供している。
しゃぶしゃぶを初めとする豚肉料理や、沖縄そば、紅芋パンなど、郷土の食事が多数用意されている。また、もずくのような南城市の名産品も多い。砂川氏によると「食事にはこだわっており、料理長が地元の農家さんをまわって購入するなど注力している」とのこと。
また地元の食事だけでなく、朝食、夕食ともに和洋中とバリエーションが豊富なのも魅力で、好みはもちろん、数日間の滞在であっても飽きにくいよう配慮を感じる。もちろん、スイーツも用意されており、甘党の筆者は、黒糖を使った白玉ぜんざいに沖縄らしさを感じるのだった。
公共交通機関でのアクセスに便利な立地もポイント。南城市内もバスで
本稿の冒頭近くで、ユインチホテル南城は、南城市役所の目の前にあることを紹介した。この立地は、公共交通機関を活用するうえで非常に大きな意味を持っている。というのは、南城市はバスによる周遊がしやすいからだ。
南城市は旧島尻郡の4町村が合併して成立した経緯から、路線バス網も各町村の区割りに準じたものになっていたという。しかしながら、2019年10月に南城市全体で再編。市内を周遊する「Nバス」や乗合タクシーの運行を開始するなど、沖縄MaaS事業とも連携して、二次交通、三次交通で市内を観光できる環境整備に取り組んでいる。
那覇市街地から離れた場所への沖縄観光ではレンタカーを利用する人も多いと思うが、砂川氏は「沖縄旅行は何か月も前から準備して、人によっては多くの費用をかけて来られる。8割ぐらいの方がレンタカーを利用するが、万が一事故が起きてしまえば、そのすべての時間と費用を失ってしまう。レンタカーを使うのは一つのリスクだと思う。公共交通で観光できる街を南城市は作っていきたいと思っている。それに我々も足並みをそろえて進みたい」と話す。
南城市内はもちろんのこと、那覇や糸満のバスターミナルなど市外へのバスも市役所に停車。那覇空港とのアクセスも、ゆいレールとバスの組み合わせで往来できる。ホテルにバスを利用して訪れる旅客も増えているという。
さらに砂川氏は、1泊の需要が多い同ホテルの長期滞在の需要掘り起こしを「使命」と語り、多くの観光地を持つ南城市内を、路線バスを使って周遊してもらえるよう、南城市とともにPRに努める考え。
そうした南城市の観光スポットについては、別記事でお伝えすることにしたい。