旅レポ
“STAY HOME週間”を「家キャン」で楽しく乗り切る! リビングにテントを張ってキャンプしてみた
2020年4月25日 08:00
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、いま極力人と接触しないこと、外出が必要な場合にはマスク着用やこまめな手洗いといった対策が厳しく求められている。とはいえ、ひたすら家の中に引きこもっての生活は、経済を停滞させ、大きなストレス要因となる。
筆者は今なにかと話題のフリーランスのライター/カメラマンだが、取材の大半が中止または延期となっているため、外出することもめったになくなってしまった。おかげでマスクやエタノールはほとんど減らないが、さすがに1週間以上も家から出ていないと気が滅入ってくる。もともと筆者は登山が趣味なのだが、さすがに「非常事態宣言」下では、でかけるわけにもいかない。
そこで、家から一歩も出ず、自前の登山道具を使って自宅でキャンプする“家キャン”をやってみることにした。実際のアウトドアフィールドではないものの、部屋の雰囲気が大きく変わることで非日常を演出でき、気分がリフレッシュできるのではないか。また、家族も常にいる現状では、テントはちょっとしたプライベート空間として有効ではないかと考えたからだ。なお、庭でのキャンプはオートキャンプと環境が似ていることから、今回は室内にこだわってキャンプしてみた。
先に結論を書くと、思いのほかキャンプの雰囲気が味わえて、大きな気分転換となった。そこで、実際にやってみたことを写真とともに紹介したい。家にいる時間を楽しむアイデアの一つとして参考にしていただければと思う。
使用したアウトドア用品
・テント
・テーブル/チェア
・シュラフ/マット
・コッヘル/ケトル/シェラカップ/マグカップ/ブキ(スプーンや箸など)
・コンパクトストーブ
使用した日用品など
・カセットコンロ
・フライパン/スキレット(中・小)
・ボール×2/網/桜チップ
・食器(仕切りのあるトレー/皿/マグカップ)
・ライトスタンド/レフ電球型蛍光灯(撮影用品)
・毛布
“家キャン”のメリットは、設備の整ったキッチンで料理を作り、後片付けやゴミの処理も日常通りであること、家庭用電源やWi-Fiがそのまま使えるためアウトドアの不便さがいっさいないことなどがある。トイレも風呂も、暑さも寒さも雨も心配しなくていいし、愛猫を家に残しさなくてすむ。デメリットは、天井があることと場所が狭いこと。キャンプならではの解放感がなく、バーベキューなど火を使う料理はほぼできない。また、炎を使うランタンもできれば避けたほうがいいだろう。
リビングを丸ごと“家キャン”空間に
今回の“家キャン”は、最も空間が広く、かつ家具も少なく移動させやすいリビング(約10畳)でやってみた。猫毛の掃除がしやすいよう普段からカーペットを敷いておらず、また天井には電球色のダウンライトもあって屋外でランタンを灯したような雰囲気を作りやすそうだ。もともとここにあったソファやローテーブルなどは物置部屋や廊下、ベランダなどに移動した。
思いのほか空間を広く確保できたので、テントとテーブルを並べて設置してみることに。広い空間を確保できない場合、例えば昼はテーブルのみ、夜はテントのみとしてみたり、テーブルは家のダイニングテーブルをそのまま利用してみたりというのもよさそうだ。正直、筆者ほど雰囲気づくりにこだわらずとも、十分にキャンプ気分は味わえると思う。
筆者はもともとソロキャンパーで、1名用と2~3名用の小さなテントをそれぞれ持っている。今回は空間が広く確保できたので後者を採用。20年前に購入した(現在は絶版)ゴアテックス採用の軽量テントで、3000m峰にも背負っていったことがある“ガチキャン”仕様だ。今回は室内のため、保温と夜露を防ぐためにテント本体に被せるフライシートは装着しない。また、フィールドではテント内に地面の凹凸をある程度軽減するためと保温のためにマットを敷くが、家の中で床暖房を使用する場合はこちらも不要。かわりに毛布などを敷いてもいいし、敷布団を敷いてしまえば普段となんら変わらない寝心地を確保できる。
家庭用電源やWi-Fiを利用して、テント内でタブレットやPCも使用できる。家族と隔離されることでオンラインミーティングにも使えるし、家庭内でのちょっとしたプライベート空間としても、子供たちのあそび場としても2~3名用テントは使い勝手がいいと思う。
次にテーブルとチェアを組み立てた。これはバーベキューに使用するために25年ほど前に買ったもので、ずっと物置の片隅に置いていたものを引っ張り出してきた。木製のケースを広げるとそのなかにチェアが畳まれており、ケースそのものはテーブルの天板になる。それなりに傷んでいたので念入りに掃除し、脚などは床を傷つけないように100円ショップで手に入れたフェルトを貼り付けた。また、天板が木でできているチェアを持ち出し、サイドテーブルとして非常用のLEDランタンも置いてみた。家キャンにランタンは不要だが雰囲気づくりの小物としてうってつけだ。
いつもと違う料理で気分を盛り上げる
さて、キャンプの楽しみといえば、家ではできない(やらない)料理だという人も多いだろう。クルマででかけるオートキャンプでは、バーベキューコンロやダッチオーブンなど大掛かりな調理器具を使ってさまざまな料理に挑戦できる。それに対して家キャンでは、薪や炭を燃やす調理はほぼ不可能だ。ただし、電子レンジやIH/ガスコンロ、グリル、トースターなどキッチンの能力をフルに使うことができる。今回は、夕食、朝食と夜に飲むドリンクとしてホットワインを作ってみた。
作った料理
・チキンのトマト煮込(鶏モモ肉/玉ねぎ/エリンギ/ホールトマトなど)
・海老のアヒージョ(エビ/マッシュルーム/ジャガイモ/ブロッコリー/プチトマトなど)
・燻製(チーズ/アサリ/鶏むね肉/サーモン)
・ホットワイン(赤ワイン/シナモンスティック/オレンジなど)
・ベーコンエッグ(卵/ベーコン/アスパラガス)
・クラッカー(ツナ/チーズ/プチトマト/オリーブ)
・パスタ
・ホットコーヒー
夕食にはチキンのトマト煮込み、アヒージョ、スモーク(燻製)を、朝食にはベーコンエッグを、そして夜にゆっくりくつろぐ際のドリンクとしてホットワインを作ってみた。メニューを決めるにあたって、主にストックしてある食材が使えて、キッチンで手早く作れるものを条件とした。キャンプ料理をするためにわざわざ食材を買いに行くのは、「STAY HOME」の取り組みに反してしまう。どうしてもスーパーなどで食材の追加購入が必要な場合は、日常の料理に必要な買い出しの際に手早く追加するなど、このためだけに外出しないようにしたい。もちろん、無理にふだん使わない食材を揃える必要はなく、日常の食事を作っても十分に楽しめるし、もっと手軽にするなら料理を作らずにピザなどのデリバリーに頼ってもいいと思う。キャンプの雰囲気を楽しめて気分転換ができればそれでいいのだ。
家のなかでスモーク「熱燻」にも挑戦
キャンプではダッチオーブンを使ってスモーク(燻製)に挑戦する人も多いが、実は短時間高温の燻煙で仕上げる「熱燻」なら家屋内でも挑戦しやすい。用意するものはガスコンロ(カセットコンロでもOK)とスキレット、網とアルミホイル、スモークチップ、砂糖のみ。スキレットがない場合はフライパンでもいいが、今回は日本燻製協会を取材した際に教えていただいた、100円ショップで売っている金属製のボウルを2つ使った方法で行なった。
ボウルを2つ向かい合わせにして燻煙を閉じ込めるもので、ボウルの隙間には割りばしなどを挟んで排煙する。この熱燻にはチーズやソーセージが向いているが、ソーセージがなかったので今回は冷蔵庫から鶏むね肉(表面を軽くボイルして冷蔵庫内で1日乾燥)やアサリ(冷蔵庫内で1日乾燥)なども出してきて挑戦してみた。
なお、燻製は必ずキッチンの換気扇の下で行なうこと。洗濯物に臭いが移るなど近隣の迷惑になるので、ベランダで行なうのは絶対に避けよう。
リラックスタイムにホットワインを
食品のストックのなかに料理用の赤ワインやシナモンスティックがあったので、ホットワインも作ってみた。ホットワインは主にワインにハチミツや香辛料、オレンジなどのフルーツを入れてレンジアップするだけの簡単なもので、基本的には香りや甘さを楽しむ飲み物。酒があまり得意ではない人でも比較的飲みやすく、体も温まるのでキャンプでなくともちょっとした気分転換にオススメしたい。
スキレットでアウトドア風ベーコンエッグ
朝食はベーコンエッグとパン、クラッカーにチーズやオリーブやプチトマトを載せた簡単なものとした。ベーコンエッグはふだんの朝食と同じものだが、スキレットで焼くだけでずいぶん雰囲気が変わる。コーヒーもいつもはマグカップに直接いれるが、今回はふだん出番があまりないCHEMEXのコーヒーメーカーを使ってみた。料理はすべてキッチンのIHクッキングヒーターで作ったが、コーヒーの湯だけはコンパクトストーブで沸かした。
“家キャン”をやってみて
なかば思いつきでやってみた“家キャン”だが、思いのほかキャンプの雰囲気が出たと思うし、非日常空間を楽しむことができた。
まずテントやテーブルを設置するためにすべての家具を撤去することで、ふだん手が回っていなかったソファ下やすぐに猫毛がダマになるキャットタワー周辺の大掃除もできた。ホコリは菌の温床にもなりやすいので一石二鳥だ。
テントなどのアウトドアグッズは、いつもはフィールドから帰ってくるとそのまま押し入れにしまい込むことが多かったが、今回は土汚れなども拭き落とし、じっくりとメンテすることができた。また、コンパクトストーブのOD缶(ガスカートリッジ)は、フィールドでのガス切れを恐れて登山には新品を持っていくことが多く、中途半端にガスが残ったカートリッジがいくつも手元にあったが、この機会に数本を使い切って処分できた。
部屋のなかのテントは、ペグを打ち込まなくても風の影響を受けず夜露も降りない。床暖房やエアコンも使えるため、フィールドとはまったく違う快適な空間だった。毛布を敷きつめ、封筒型のシュラフを開いて掛布団として使うことで熟睡できたし、日中はPC作業や読書もできるプライベート空間にもなった。我が家には客間はないが、例えば(この騒動が落ち着いたら)友人が泊まりに来た際などにも、リビングにテントを張って就寝スペースとして提供してもいいと思う。また、テーブルだけ出してくるのも使い勝手がよさそうだ。たまには気分を変えてここで料理を食べたり、在宅勤務のデスクとして活用したりできる。実際、本原稿はこのテーブルで書いているが、いつもと違った雰囲気で新鮮だ。
料理は安全のためキッチンで作り、アウトドアテーブルではカセットコンロやコンパクトストーブで温める程度としたが、これだけでもずいぶん非日常感が楽しめた。ただ、いくつかの料理では食材が不足していたことも事実(例えば、はちみつがなかったのでホットワインに砂糖を入れた)である。買い出しの回数は少ないほうがいいので、実際に家キャンを行なう際には数日前から料理を決め、計画的に食材を揃えておきたい。
キャンプ用品は揃えておいて損はない
今回キャンプ用品を使用してあらためて実感したのが、“キャンプ用品は災害時の備えとしても有効”ということである。例えばドーム型の小型テントは家族の目から隠れられる場にもなったが、これは災害時の避難所で着替えや授乳ができるプライベート空間になることを意味する。CB缶(一般的なカセットガスの規格)が使えるカセットコンロやコンパクトストーブとケトルなどがあれば湯も沸かせる。ガスランタンは灯りだが、ちょっとした暖房にもなる。LEDランタンは停電時に活躍する。クッカーは調理にも使えるしそのまま食器として使える。このように、アウトドア用品を購入する際には、キャンプで家族が快適に過ごせることはもちろん、災害時の備えとすることも念頭において選ぶといいと筆者は考える。
この先ひと段落することはあっても、当面完全に解決するものではなく、人類はこれからこのウイルスと折り合いをつけながら生きていくことになる。ともあれ、今年の大型連休は「STAY HOME週間」なので、家の中で最大限工夫して生活を楽しみ、いつかアウトドアフィールドで本当のキャンプができるようになったら、その際はこれらキャンプ道具を持ち出し、今度こそ薪や炭火を使って、大勢で豪快にバーベキューやグリル料理を楽しみたいと思う。