旅レポ

レンタサイクルで巡る沖縄県粟国島。360度の眺望「マハラ展望台」とブランド塩「粟国の塩」

沖縄県粟国島に行ってきました

 OCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)が主催する「粟国島(あぐにじま)メディアツアー」に参加して、粟国島に滞在してきました。

 おさらいになりますが、基本情報を少々。粟国島は沖縄本島から北西約60kmに位置する外周約12kmの島で、那覇市の泊港から1日1便出ている「フェリー粟国」が唯一の交通手段です。4月から7月にかけてはロウニンアジやイソマグロなどの大型回遊魚や、ギンガメアジの大群が織りなす巨大トルネードが見られるダイビングスポットとして非常に有名で、全国各地から多くのダイバーがこの島を訪れるそうです。

 そんなこの島のハイシーズンのにぎやかさが去り、落ち着きを取り戻したこの島の日常と、この島の文化に触れてきました。

北風が強い時期でしたが天候もよく快適な船旅でした

 沖縄本島、那覇市の泊フェリーターミナルから2時間15分の船旅は、都会の喧騒から逃れ頭をリセットするのに十分な時間です。北風が強くなるこの時期にしては穏やかな天候に恵まれ我々ツアー一行は快適な船旅を楽しめましたが、揺れが予想されるような天候であれば沖合いに出る前にサッサと寝てしまうのも一つの手です。もちろん船にはゴロ寝しながら過ごせる船室もありますし、枕も毛布も備えられています。

那覇の泊フェリーターミナルと粟国港を結ぶフェリーが唯一の交通手段で、ほかの多くのフェリーに見られるようこの船もゴロリと寝転んで過ごせる船室があります。毛布も枕も用意してありますので船酔いが心配な方は寝てしまうのが一番です

まずは粟国島体験交流施設「島あしび館」を目指してみよう

この島の観光協会がある粟国島体験交流施設「島あしび館」

 粟国港に到着したら、まず島の観光協会のある粟国島体験交流施設「島あしび館」を訪ねてみることをお勧めします。ここではさまざまな島の観光情報が得られるほか、この島で行なわれるさまざまな体験メニューの受け付け、そしてレンタカーやレンタサイクルの受け付けもできます。また体験工房も併設しているまさに島内観光の中心地なのです。

 施設は港から歩いて10分程度と近く、島の主要施設を巡る村営バスを利用する場合でも「粟国島観光協会まで」と運転手に伝えると、バス停のない建物の前まで送ってくれるそうです。

島内の交通手段は主に、アシスト付き自転車、レンタルEV、そして村営バス。また乗合タクシーが用意されているので事前に村役場の総務課(098-988-2016)に問い合わせてみるのがお勧め

 我々一行もここからレンタサイクルを借りて南の島の風を感じながら島巡りを楽しみました。

レンタサイクルで行く島の西端「マハラ展望台」

マハラ展望台と風力発電施設

 島の外周が12km程度と小さな粟国島では自転車で巡ると効率よく、そして最も濃密な時間を過ごせるように感じます。素朴で自然に恵まれた島ですが、道路はよく整備されているのでとても快適です。しかも観光協会で用意する自転車はすべてアシスト付きですので、島の西部にあるアップダウンもそれほど苦になりません。また路面にはこの島のさまざまな観光名所までの距離と方向が分かる案内用のサインが描かれているので迷うこともありません。

よく整備された舗装と路面サインがサイクリングをサポートしてくれてとても分かりやすくい粟国島の道路。基本的には信号機はいらないのだが、島内の子供たちが信号機というものを知るために、島には1か所だけ信号機が設置されている

 まずは島の西端、マハラ展望台へ向かいます。粟国島は全体的に見れば平坦な島ですが、かつて火山活動があったという西側にあるこの展望台だけは高い位置にあり、上り坂の洗礼(おおげさ?)を受けますが、アシスト自転車ですから慢性的に運動不足の筆者でも気持ちよく向かえます。

島の西端、白色凝灰岩の上に立つ黄色い屋根がマハラ展望台

 晴れた日にはここから沖縄本島や慶良間諸島の島々が見渡せるとのことですが、今回は天候に恵まれずおあずけでした。少々残念ではありましたが、それでも360度視界を遮るものがない気持ちよさは格別です。もちろん風を遮るものもないので風力発電に最適の場所でもあって、展望台のそばにある風力発電施設1つで島の電力の4分の1をまかなえてしまうそうです。この島にとって風は生活と密着したとても大切なものなのです。

 ちなみにサイクリング中、沿道でヤギとか牛に普通に出会ってしまうのは都市部で暮らす者にとっては、それだけで新鮮な風景です。

サイクリングを楽しんでいるとヤギとか牛とか猫とかに会います。村民よりもよく目にしました

信仰心の強い島民の聖地「洞寺(てら)」

洞寺(てら)

 洞窟の「洞」に「寺」と書いて“てら”。なんだか不思議な名前のスポットの正体は鍾乳洞です。ちなみに「地球」と書いてテラと読ませる表記はラテン語の“terra”が由来だとか聞いたことがありますが、粟国島のものは日本語の「寺(てら)」で、約200年前に那覇から流刑された僧侶が余生を送った場所ということでこの名が付いたそうで、信仰心の強い島の住民はここを聖地として崇め、立木などの伐採を今でも一切禁じているそうです。

 そのため立派な門をくぐったあとは手付かずの(もちろん歩道はありますが)雑木林をしばらく歩き、鍾乳洞に向かいます。規模はそれほど大きくはないものの、見事な鍾乳洞の中は階段が整備され安全に見学できます。入り口から一気に下って洞内へ入るので、振り返り見上げた開口部から見える空と雑木林、そして鍾乳石のコントラストはちょっぴり神秘的です。

「洞寺」と書いて「てら」と読みます
雑木林を進んで鍾乳洞をめざします
見学ルートは足元がしっかりしているので安心です
入り口から一気に下りますので振り向くと空が見えます
見上げた空とがなんだか不思議な感じ。200年前にここで過ごした僧侶もこんな風景を見たのでしょうか
規模は小さいものの見事な鍾乳洞です

自転車だからこそ感じる島の暮らし

島の集落にある石垣と背の高いフク木の防風林

 冬場、風の強いこの島の集落には、石垣と背の高いフク木の防風林が多く見られます。100年以上前のものも多く、古いものは300年以上の樹齢だというフク木が両脇にそびえ立った道を自転車で散策すると、家々のそばには昭和初期まで使われていたというトゥージと呼ばれる瓶のような石水槽が多く見られます。現在は海水の淡水化施設が整備されていますので水に困ることはありませんが、川がなく生活用水の確保に苦労した、かつてのこの島の歴史が垣間見えます。

 島のいたるところにあるフク木ですが、観光協会ではこの木を使った染色体験も行なっています。島の思い出の品を自分の手で作ってみるのも楽しいものです。

島の集落には映画「ナヴィの恋」のロケ地、ナヴィの家もあります。今年は台風が多かったので少々被害があったようです
民家の庭にはすっかり使われなくなったトゥージと呼ばれる石水槽が見られます
運ん崎の海岸線から見る粟国港。この島唯一の玄関口
観光協会に申し込めばフク木を使った染色体験もできます

ブランド塩「粟国の塩」を生産する「沖縄海塩研究所」

沖縄海塩研究所

 島の北端、のどかな海沿いにポツンと建っているのが「沖縄海塩研究所」です。今回我々のツアーではクルマでうかがいましたが、観光協会から自転車を利用しても20分程度のところにあります。ちなみに名前に研究所とありますが、研究専門の施設というわけではありません。豊かで美しい海水と風の力によって塩を生産する施設です。

竹に何度も海水を流しながら塩分濃度を上げる

 作り方はいたってシンプル。ポンプで汲み上げた海水を大量に吊るされた竹にポンプで1週間以上流しつつ循環させ、海水を風にさらし塩分濃度を上げる(海水の6~7倍、塩分濃度約20%)→それを(かん水と言う)平釜で30時間、人の手で焦げないようにかき混ぜ続けゆっくり煮詰める「釜炊き」→炊き上がった塩を脱水槽に移して6~18日程度自然乾燥→袋詰め→完成。

 何も足さず、何も引かず、ただただ時間をかけて人の手で作る工程がここでは見られます。ここでは釜炊きのほか天日で乾燥、結晶化させた「天日塩」も作られていますが夏場でも20日、この時期ですと60日程度かかるそうです。「釜炊き塩」とは違う風味にファンも多いとのことですが、天候に左右され量産できないのが難点です。

 ちなみに「釜炊き塩」はまろやかで、「天日塩」は結晶が荒く、しょっぱさが強いそうです。

穴あきブロックを積み上げた「採かんタワー」。このなかを通り抜ける風によって塩分濃度を上げていく
釜炊き塩をつくる平釜
30時間交代しながら人の手で攪拌する。この作業が塩の味に大きく影響するとのことだ
天日塩を作るハウス。気温の低い冬場だと60日程度かかるそうだ
左が釜炊き塩、右が天日塩。見た目も大きく違う
袋や瓶に詰めて完成

 ここで使う海水は汚染されている海では使うことのできない表層水を使っていて、ミネラルが豊富だそうです。その味わいはさぞかし美味しかろうと思い尋ねてみると、ここの塩は“塩味をつける”のではなくあくまで“素材の味を引き立てる役割”だと、塩づくりの作業同様説明も商品アピールもとても地味なものでした。「おむすびや野菜の塩もみとかに使ってもらえると、お米や野菜が美味しく食べられますよ」と、あくまで黒子に徹した「沖縄海塩研究所」の見学は、我々の生活に密着した「塩」ならではの親近感と素朴さ加減が相まって、昨今はやりの大人の社会科見学とはちょっと違う時間を過ごせました。

 フク木の防風林、島の電力を支える風力発電、風の力を利用した塩づくり、と風にまつわるものも多いこの島の観光は、華やかな夏のマリンスポーツとは対照的な裏メニューのような感じがして、その地味さ加減にとても癒されます。この島でゆったり過ごしながら、夜は島には数えるほどしかない飲食店に出かけ島の人に混じってお酒でも飲みながら過ごす。そして星のきれいな夜道を歩いて宿に向かう。

 一見地味なようで、何かいろいろな味わいが感じられるこの島で過ごす時間は、特に慌ただしい都市部で過ごす人にとっては日常では得難いものだと思います。

高橋 学

1966年 北海道生まれ。仕事柄、国内外へ出かける機会が多く、滞在先では空いた時間に街を散歩するのが楽しみ。国内の温泉地から東南アジアの山岳地帯やジャングルまで様々なフィールドで目にした感動をお届けしたいと思っています。