旅レポ
映画で知られる沖縄県粟国島を旅する。大規模な白色凝灰岩の地層が美しい「ヤヒジャ海岸」
2018年11月18日 00:00
10月の中旬に、OCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)が主催する「粟国島(あぐにじま)メディアツアー」に参加してきました。
粟国島は沖縄本島から北西約60kmに位置する外周約12kmの島で、4月から7月にかけてロウニンアジやイソマグロなどの大型回遊魚や、ギンガメアジの大群が織りなす巨大トルネードが見られるダイビングスポットして非常に有名です。また、1999年に公開された西田尚美さん主演の映画「ナビィの恋」の舞台としても知られていて、そのロケ地には今でも熱心なファンが訪れるそうです。ちなみに2019年1月に公開予定の映画「洗骨」で再び粟国島は映画の舞台となります。こちらの主演は奥田瑛二さん。監督は沖縄出身のお笑いコンビ ガレッジセールのゴリさんが務めます。
那覇からフェリーで2時間、都会の喧騒から脱出する旅
さて、そんな粟国島への唯一の交通手段はフェリーです。沖縄本島、那覇市の泊港フェリーターミナルから1日1便出ている「フェリー粟国」を利用して約2時間15分。午前9時55分、定刻に出航した船は泊大橋をくぐり、たくさんの飛行機が往き来する那覇空港を左手に見ながら粟国島へ向かいます。
ここからしばらくは深いブルーの海と空だけの世界。今回は天候にも恵まれたのでデッキに出て空を眺めながら過ごしました。空が広くてとても気持ちのよい旅です。ちなみにネットや資料を調べると空路での案内も見かけますし、島には空港もあるのですが、この原稿執筆時点では就航路線はありませんでしたのでお出かけの際はご注意ください。
出港から1時間40分ほど経ち、適度な船旅感も味わいながら那覇の街の喧騒を忘れ離島モードに切り替わったころ、遠くに粟国島が見えてきます。
沖縄の離島といえば抜けるような青さの海と白い砂浜をイメージしがちですが、船から見てこの島の右半分(東側)はそんな沖縄のイメージそのまま。そして左側(西側)には沖縄の離島には珍しい断崖絶壁の荒々しい風景が見えます。珊瑚のリーフに囲まれ白い砂浜に囲まれた東側と沖縄では珍しい火山活動の痕跡が残るダイナミックな造形の西側が1つの島に共存するこの景観こそが粟国島最大の特徴であり、この島の魅力なんだそうです。
さて、出港から2時間10分。ほぼ定刻に粟国港に到着です。ちょうどお昼時だったので地元の食堂で昼食をとります。壁には全国どこでも見られるような定番メニューが貼られています……が、「ちゃんぽん(ライス)」、ん? ライス付き?とか、「みそ汁」が600円だったりと、よくよく見るとちょっぴり不思議なメニューもあります。
頼んでみると、「ちゃんぽん(ライス)」は長崎ちゃんぽんみたいな麺料理にライスが添えられているものではなく、炒めた卵や野菜、スパムが乗ったご飯でした。また、みそ汁は定食に添えられるような汁物ではなく、具だくさんのちゃんとした一品料理だったりして、県外の人にとってはちょっぴり珍しいメニューもあります。これは沖縄本島でも同じようで、この島の食文化が本島に近いのだと気付かされます。
食事が終わったらさっそく島内の観光です。今回は船上から見た左側、沖縄では珍しい火山活動の痕跡が残る西側の荒々しくもとても美しい地形を紹介します。地形と言ってももちろんマニア向けの難しい話ではありません。ただただ美しくも不思議な風景の岩場を散策するだけですが、まるで自然が生んだ色彩と造形を楽しむ美術館巡りのような時間はとても楽しいものでした。
岩を真っ二つに切り裂いたような奇岩「東(あがり)ヤマトゥガー」
島の南西部に、切り裂いたような岩の隙間から海岸に降りられる奇妙な場所が「東(あがり)ヤマトゥガー」です。まるで人の通行のためにあるような隙間を抜けるとそこは沖縄らしからぬ岩がゴロゴロした海岸線が広がっています。
火山で隆起した成り立ちでありながら、なぜか山も川もなく平坦な地形ゆえ水源の乏しい粟国島ですが、昔ここには泉があったそうです。戦後、湧き出る貴重な真水を貯める貯水タンクや簡易水道施設が作られたそうですが、その跡地に見られる錆びたポンプや水道施設はどこか廃墟感もあり、奇岩で仕切られ村の生活とも切り離された秘密の場所のような感じも相まって、独特の雰囲気を醸し出しています。ちなみに現在粟国島では海水を淡水化する施設が整っていてますので、生活用水に不自由を感じることはないようです。
大規模な白色凝灰岩の地層が美しい「ヤヒジャ海岸」
東ヤマトゥガー散策のあとは、もう少し西側ににある「西(いり)ヤマトゥガー」という駐車場も完備した海岸から海岸沿いを散策します。ここからは歩くたびに岩の表情が変わる自然のアートミュージアムのような場所です。そびえ立つ白色凝灰岩の壁や海へ流れ出る溶岩がそのまま見えるような足元の岩など色、形ともに興味深いものでした。
また、昔はこの島のいたるところで見られたという生活用水を貯めておく「トゥージ」と呼ばれる瓶のような石水槽も、ここの白色凝灰岩をくり抜き作られたものだそうで、この海岸線は東ヤマトゥガーの貯水施設同様、島民の生活を支える淡水の確保の大切な場所だったようです。
いや、それにしても美しい海岸線でした。ちなみに散策は最干潮時刻の前後2時間程度で、ここの鉱物や植物は島外への持ち出しは禁止されています。
島の移動はレンタカーやレンタサイクルで
粟国島は外周約12kmと小さな島で、北西部の海岸線には道路がありませんので、観光できる場所の大半は自転車があれば済んでしまいます。島の観光協会ではレンタサイクルやレンタカーが用意されているので事前に予約しておけば安心です。ちなみに自転車はアシスト付き、レンタカーはEV(三菱 i-MiEV)のみです。
特に自転車に関しては島内の道路のいたるところにさまざまな観光スポットまでの方向と距離がペイントされていて、非常に分かりやすく目的地に向かえますのでオススメです。また、安価な村営バスや乗合タクシーもありますので、その用途やスケジュールに合わせ使い分けると便利だと思います。
島の普通の暮らしに溶け込むように過ごす時間
粟国島には、華やかなテーマパークも観光客相手の飲食店も見当たりません。旅行者もごくごく普通のこの島の暮らしのなかで過ごします。都会の喧騒から2時間程度の船旅で飛び込むこの島の観光は、あまりに普通であるがゆえに、都会暮らしの人間にとってはむしろそれが究極の非日常だったりします。
もちろん島の東側には沖縄らしい真っ白なビーチやサンゴ礁の海でのマリンスポーツも楽しむことができ、村ではさまざまな体験施設も用意していますが、まずはこの島ならではの風土に触れながら過ごす時間が大きな魅力と感じます。ダイビングで賑わう夏が過ぎ、日常の静けさを取り戻した島で過ごす時間は、今までありそうでなかった贅沢な時間でした。