旅レポ

映画で知られる沖縄県粟国島を旅する。大規模な白色凝灰岩の地層が美しい「ヤヒジャ海岸」

沖縄県粟国島に行ってきました

 10月の中旬に、OCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)が主催する「粟国島(あぐにじま)メディアツアー」に参加してきました。

 粟国島は沖縄本島から北西約60kmに位置する外周約12kmの島で、4月から7月にかけてロウニンアジやイソマグロなどの大型回遊魚や、ギンガメアジの大群が織りなす巨大トルネードが見られるダイビングスポットして非常に有名です。また、1999年に公開された西田尚美さん主演の映画「ナビィの恋」の舞台としても知られていて、そのロケ地には今でも熱心なファンが訪れるそうです。ちなみに2019年1月に公開予定の映画「洗骨」で再び粟国島は映画の舞台となります。こちらの主演は奥田瑛二さん。監督は沖縄出身のお笑いコンビ ガレッジセールのゴリさんが務めます。

那覇からフェリーで2時間、都会の喧騒から脱出する旅

フェリー粟国

 さて、そんな粟国島への唯一の交通手段はフェリーです。沖縄本島、那覇市の泊港フェリーターミナルから1日1便出ている「フェリー粟国」を利用して約2時間15分。午前9時55分、定刻に出航した船は泊大橋をくぐり、たくさんの飛行機が往き来する那覇空港を左手に見ながら粟国島へ向かいます。

泊港にある旅客ターミナルビル「とまりん」
向かう島ごとに乗船券売り場が違います
粟国島への大人往復乗車券は6480円で30日間有効です
のりばも行き先別に分かれています
渡嘉敷島や座間味島・阿嘉島へ向かうフェリーも停泊していました
港をまたぐ泊大橋をくぐって、いざ粟国島へ!
客席は椅子席、ベンチ席、そして寝ながら過ごせる座席があり自由に選べます
左手に見えるのは那覇空港
デッキで旅立つ飛行機を眺めながら過ごしました

 ここからしばらくは深いブルーの海と空だけの世界。今回は天候にも恵まれたのでデッキに出て空を眺めながら過ごしました。空が広くてとても気持ちのよい旅です。ちなみにネットや資料を調べると空路での案内も見かけますし、島には空港もあるのですが、この原稿執筆時点では就航路線はありませんでしたのでお出かけの際はご注意ください。

洋上に出るといつも以上に空が広く感じ、とても気持ちよいものです
深いブルーの海がどこまでも続きます
今回は波一つない非常に穏やかな船旅でした
島に空港はありますが現在就航している便はありません(2018年11月現在)

 出港から1時間40分ほど経ち、適度な船旅感も味わいながら那覇の街の喧騒を忘れ離島モードに切り替わったころ、遠くに粟国島が見えてきます。

粟国島が見えてきました。左側が断崖絶壁、右側が沖縄らしい白い砂浜であることが分かります

 沖縄の離島といえば抜けるような青さの海と白い砂浜をイメージしがちですが、船から見てこの島の右半分(東側)はそんな沖縄のイメージそのまま。そして左側(西側)には沖縄の離島には珍しい断崖絶壁の荒々しい風景が見えます。珊瑚のリーフに囲まれ白い砂浜に囲まれた東側と沖縄では珍しい火山活動の痕跡が残るダイナミックな造形の西側が1つの島に共存するこの景観こそが粟国島最大の特徴であり、この島の魅力なんだそうです。

断崖絶壁が特徴の島の左側(西側)
白い砂浜が沖縄らしい島の右側(東側)
到着!琉球舞踊「むんじゅる節」はこの粟国島が発祥の地です
「フェリー粟国」は1日1往復。この船が往き来します

 さて、出港から2時間10分。ほぼ定刻に粟国港に到着です。ちょうどお昼時だったので地元の食堂で昼食をとります。壁には全国どこでも見られるような定番メニューが貼られています……が、「ちゃんぽん(ライス)」、ん? ライス付き?とか、「みそ汁」が600円だったりと、よくよく見るとちょっぴり不思議なメニューもあります。

 頼んでみると、「ちゃんぽん(ライス)」は長崎ちゃんぽんみたいな麺料理にライスが添えられているものではなく、炒めた卵や野菜、スパムが乗ったご飯でした。また、みそ汁は定食に添えられるような汁物ではなく、具だくさんのちゃんとした一品料理だったりして、県外の人にとってはちょっぴり珍しいメニューもあります。これは沖縄本島でも同じようで、この島の食文化が本島に近いのだと気付かされます。

一見何の変哲もないメニューですが……
「ちゃんぽん」は麺ではありません。これは沖縄本島でも同じようです
みそ汁はコチラ。具だくさんの単品メニューです
もちろん沖縄そばもあります

 食事が終わったらさっそく島内の観光です。今回は船上から見た左側、沖縄では珍しい火山活動の痕跡が残る西側の荒々しくもとても美しい地形を紹介します。地形と言ってももちろんマニア向けの難しい話ではありません。ただただ美しくも不思議な風景の岩場を散策するだけですが、まるで自然が生んだ色彩と造形を楽しむ美術館巡りのような時間はとても楽しいものでした。

岩を真っ二つに切り裂いたような奇岩「東(あがり)ヤマトゥガー」

「東(あがり)ヤマトゥガー」

 島の南西部に、切り裂いたような岩の隙間から海岸に降りられる奇妙な場所が「東(あがり)ヤマトゥガー」です。まるで人の通行のためにあるような隙間を抜けるとそこは沖縄らしからぬ岩がゴロゴロした海岸線が広がっています。

入り口付近にはベンチがあり階段や手すりも整備されています
何か秘密の場所に立ち入るようなワクワク感
そそり立つ壁は火山岩塊や火山礫が堆積したものでしょうか。今にも崩れそうです

 火山で隆起した成り立ちでありながら、なぜか山も川もなく平坦な地形ゆえ水源の乏しい粟国島ですが、昔ここには泉があったそうです。戦後、湧き出る貴重な真水を貯める貯水タンクや簡易水道施設が作られたそうですが、その跡地に見られる錆びたポンプや水道施設はどこか廃墟感もあり、奇岩で仕切られ村の生活とも切り離された秘密の場所のような感じも相まって、独特の雰囲気を醸し出しています。ちなみに現在粟国島では海水を淡水化する施設が整っていてますので、生活用水に不自由を感じることはないようです。

女性が乗っているのがかつての貯水タンク。手前に錆びついた水道施設も見えます
こちらにはポンプも残っていてYANMARの文字が確認できます。岩肌には1960年6月30日竣工の文字も見えますが日に日に朽ち果てていっているので、この文字もいつまで見られるか分からないとのことです

大規模な白色凝灰岩の地層が美しい「ヤヒジャ海岸」

白色凝灰岩には柔らかい層と硬い層があるため風雨による侵食具合に差があり、このような形状を生み出すそうです

 東ヤマトゥガー散策のあとは、もう少し西側ににある「西(いり)ヤマトゥガー」という駐車場も完備した海岸から海岸沿いを散策します。ここからは歩くたびに岩の表情が変わる自然のアートミュージアムのような場所です。そびえ立つ白色凝灰岩の壁や海へ流れ出る溶岩がそのまま見えるような足元の岩など色、形ともに興味深いものでした。

地元のガイドさんに説明を受ける一行。ここだけ見ても地面の色や崖の色にさまざまなバリエーションがあるのが分かります
岩場ですのでシューズに滑り止めを装着して散策しました
カラフルに堆積した赤い岩、その上のゴツゴツした黒い岩、そして背景に見える横筋の入った崖などその多様な表情が凄いんです
上に流れてきた高温の玄武岩の溶岩により凝灰岩に含まれる鉄分が酸化して赤くなったとか。砂のまま挟まれたような層も見えてもう何が何だか分かりませんが、とにかく不思議な美しさです。そんな溶岩が海に流れていく様子も見て取れ、この地にかつて激しい火山活動があったことがうかがえます
縦横に走るひび割れすら美しい岩。こちらが灰色
酸化した赤い岩に黒い礫が混入しているようです
火山礫が交互に挟まっています
細かい筋が無数に走ったり、侵食により不思議な造形を見せる白色凝灰岩の崖

 また、昔はこの島のいたるところで見られたという生活用水を貯めておく「トゥージ」と呼ばれる瓶のような石水槽も、ここの白色凝灰岩をくり抜き作られたものだそうで、この海岸線は東ヤマトゥガーの貯水施設同様、島民の生活を支える淡水の確保の大切な場所だったようです。

散策していると岩の隙間から植物が生えていたり、ヤドカリがいたり岩場に命の営みが見えたりします
昭和の初期まではトゥージと呼ばれる飲料水用の瓶のような石水槽もここの岩で作られていたようです

 いや、それにしても美しい海岸線でした。ちなみに散策は最干潮時刻の前後2時間程度で、ここの鉱物や植物は島外への持ち出しは禁止されています。

島の移動はレンタカーやレンタサイクルで

 粟国島は外周約12kmと小さな島で、北西部の海岸線には道路がありませんので、観光できる場所の大半は自転車があれば済んでしまいます。島の観光協会ではレンタサイクルやレンタカーが用意されているので事前に予約しておけば安心です。ちなみに自転車はアシスト付き、レンタカーはEV(三菱 i-MiEV)のみです。

 特に自転車に関しては島内の道路のいたるところにさまざまな観光スポットまでの方向と距離がペイントされていて、非常に分かりやすく目的地に向かえますのでオススメです。また、安価な村営バスや乗合タクシーもありますので、その用途やスケジュールに合わせ使い分けると便利だと思います。

レンタサイクルはアシスト付き
レンタカーは全車EV
村の主要施設をまわる村営バス「アニー号」
道路に引かれた緑の誘導線には色々な観光スポットの方向と距離が記してあるので、島巡りは非常に分かりやすくなっています

島の普通の暮らしに溶け込むように過ごす時間

 粟国島には、華やかなテーマパークも観光客相手の飲食店も見当たりません。旅行者もごくごく普通のこの島の暮らしのなかで過ごします。都会の喧騒から2時間程度の船旅で飛び込むこの島の観光は、あまりに普通であるがゆえに、都会暮らしの人間にとってはむしろそれが究極の非日常だったりします。

 もちろん島の東側には沖縄らしい真っ白なビーチやサンゴ礁の海でのマリンスポーツも楽しむことができ、村ではさまざまな体験施設も用意していますが、まずはこの島ならではの風土に触れながら過ごす時間が大きな魅力と感じます。ダイビングで賑わう夏が過ぎ、日常の静けさを取り戻した島で過ごす時間は、今までありそうでなかった贅沢な時間でした。

高橋 学

1966年 北海道生まれ。仕事柄、国内外へ出かける機会が多く、滞在先では空いた時間に街を散歩するのが楽しみ。国内の温泉地から東南アジアの山岳地帯やジャングルまで様々なフィールドで目にした感動をお届けしたいと思っています。