旅レポ
メンデルスゾーンとバッハが息づくドイツ・ライプツィヒ
日本人女性2人が学ぶドイツ最古の音楽大学も訪問
2019年1月12日 00:00
ヨーロッパの鉄道などが一定期間乗り放題となるユーレイル グローバルパスを使って旅するプレスツアー。今回は最終目的地となるドイツ・ライプツィヒ。
早朝にチェコ・ブルノを出発し、プラハ、ドイツ・ドレスデンを経由して、ライプツィヒ到着は昼過ぎ、およそ7時間かけての大移動となった。
音楽を巡るユーレイル旅
ドイツはベートーベンの出身の地でもあるが、「結婚行進曲」「ヴァイオリン協奏曲」などが有名なフェリックス・メンデルスゾーンのほか、「ブランデンブルク協奏曲」や無伴奏チェロ組曲「プレリュード」のヨハン・ゼバスティアン・バッハもドイツ生まれ。この2人は特にライプツィヒで活躍したことで知られ、その足跡はこの地に数多く残されている。
ベルリンの壁崩壊とも関係する聖ニコライ教会と、バッハの遺骨が眠る聖トーマス教会
2019年は、東西ドイツ統一のきっかけとなったベルリンの壁崩壊からちょうど30年となる節目。そこから直線距離で150kmのところにあるライプツィヒは、実はベルリンの壁崩壊とも密接なつながりがある。
旧市街にあるライプツィヒ最古の教会とされる聖ニコライ教会は、ベルリンの壁崩壊の端緒となったデモの出発地点で、近くの広場にはその集団が移動したときの足あとをかたどった金属プレートが埋め込まれているのだ。
ライプツィヒの代表的なもう1つの教会が、聖トーマス教会。ここはかつてバッハが音楽監督を務め「マタイ受難曲」を生み出した場所とされている。敷地内にはバッハの銅像が建てられ、内部のステンドグラスにも鮮やかな色彩のバッハの姿。彼の遺骨もこの聖トーマス教会に眠っていると言われる。
また、教会のすぐ向かいにはバッハ博物館もあり、当時聖トーマス教会に隣接する学校・寄宿舎に住んでいたバッハにゆかりのある品が展示されている。年間5万人が訪れるバッハ博物館は、その1割の来訪客が日本人とのことで、日本でのバッハの知名度と人気の高さがうかがえる。
バッハ博物館
所在地:Thomaskirchhof 15/16, 04109 Leipzig, Germany
入場料:8ユーロ(約1000円、1ユーロ=125円換算、月初の火曜日は無料)
Webサイト:bach MUSEUM(英語)
現代にも多大な功績を残したメンデルスゾーンの家
これら代表的な教会のあるライプツィヒの旧市街を歩くときは、足元にも注目したい。石畳のところどころで見つけることができるシルバーのプレート。これは演奏記号を模した矢印で、指し示す方向に進むことで音楽に関わりのある観光スポットを巡ることができるというもの。
例えば、ヨーロッパ最古の歌劇場である「ライプツィヒ歌劇場」、現在はデパートになっている「ワーグナーの生家跡」、作曲家シューマンが通ったという「カフェ・バウム」、その妻であるクララ・シューマンが結婚前に住んでいた家などが見つかる。また、ベートーベンの第九を初めて演奏したとされるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の拠点も旧市街にある。ゲヴァントハウスはメンデルスゾーンが音楽監督を務めていたことでも有名だ。
旧市街の南東の外れまで足を伸ばしたところにあるのが、メンデルスゾーンが晩年を過ごした「メンデルスゾーンハウス」。少なくとも10以上の部屋に分かれた2階部分の1フロアを借り切り、妻と5人の子供とともに暮らした。
しかしながら引っ越して住み始めてからわずか2年、38歳の若さでメンデルスゾーンはこの世を去る。それからほかの人の手に渡るなどしたあと、1997年に博物館として全体が改装、修復され、現在はメンデルスゾーンが使用していた楽器や楽譜、趣味で描いていた水彩画などを展示している。当時の生活の様子を再現した家具・調度品、家族の定番料理レシピまで紹介している。
時代の片隅に埋もれてしまっていたバッハの作品「マタイ受難曲」を上演してバッハの音楽が再び脚光を浴びるきっかけを作り、現在の「フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ音楽演劇大学ライプツィヒ」へと受け継がれる「ライプツィヒ音楽院」を創設するなど、多大な功績を残したメンデルスゾーン。メンデルスゾーンハウスにいると、ナチス政権下の決して平穏ではなかった社会情勢でも、負けるまいと必死に生きた彼の人柄や当時の空気感がひしひしと伝わってくるようだ。
メンデルスゾーンハウス
所在地:Goldschmidtstraße 12, 04103 Leipzig, Germany
入場料:8ユーロ(約1000円)
Webサイト:Mendelssohn-Haus(英語)
音楽大学でピアノとフルートを学ぶ日本人女性2人
メンデルスゾーンが礎を築いた、ドイツ最古の音楽大学「フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ音楽演劇大学ライプツィヒ」では、世界中から音楽家を志す人たちが集う。なかには日本人も何人か在籍しており、そのうちの1人である渡辺晴香さんは、現在は作曲も少しずつ学び始めているというピアニスト志望の女性。メンデルスゾーンの作品番号28、「幻想曲 嬰ヘ短調 スコットランドソナタ」などを情感たっぷりに弾いた。
もう1人、フルートをメインにしながら、2018年からはバロック時代に使われていたものと同じ構造の古楽器も新たに学び始めたという大井絵理子さん。指使いが全く異なる2つの楽器を巧みに使い分け、バッハの次男であるカール・エマヌエル・バッハが作曲した「無伴奏フルートのためのソナタ」などを演奏した。
2人とも卒業後は国内・国外にかかわらず音楽に関わりのある仕事に就きたいと話していたが、例えば各国で活動している楽団への所属は極めて狭き門となっているようだ。ライバルとなるアジアや欧米出身の学生には「自分たちにない創造性がある」とも大井さんは語り、音楽家として成功するには傍目から見ても並大抵の努力ではかなわない世界だと思わせられる。が、いずれ遠くない将来、彼女たちが世界の第一線で活躍している姿を見られることを期待せずにはいられない。
音楽を巡るユーレイル旅は、ひとまずこのライプツィヒをもって終着。次回はポーランド、オーストリア、チェコ、ドイツと4カ国を旅するなかで出会った絶品グルメ5選をお届けしたい。