旅レポ
音楽を巡るユーレイル旅。ショパンが生まれ育ったポーランドとワルシャワを散策
郊外の生家にピアニストたちが訪れる理由。ショパンが愛したスイーツとは?
2018年12月29日 00:00
曲名や、誰が作った曲かは知らなくても、きっと一度は耳にしたことがある「夜想曲第2番」や「別れの曲」。これらは19世紀に活躍した音楽家フレデリック・ショパンによるものだ。7歳で作曲を始め、8歳で早くも自身のコンサートを開き、幼くしてその才能を開花させた彼は、中欧の国ポーランドで生まれた。
ポーランドと聞いて、具体的に何かを思い浮かべられる人はあまり多くないかもしれないが、世界的な音楽家を輩出した国であることは覚えておくべきだろう。
夏に訪れたいショパンの生まれ故郷、ジェラゾヴァ・ヴォラの博物館
欧州の鉄道などが一定期間、定額で乗り放題になるユーレイルパス(ユーレイル グローバルパス)を使い、音楽にゆかりのある国々を巡るプレスツアー。そのスタート地点となったのが、ショパンの故郷であるポーランドの首都ワルシャワだ。中心部からクルマを走らせること約50km、1時間ほどの郊外にあるジェラゾヴァ・ヴォラという村で、フレデリック・ショパンは1810年、楽器演奏もたしなむ両親のもとに生まれた。
そのジェラゾヴァ・ヴォラには、生後約半年というわずかな期間とはいえ、ショパンが過ごした生家となる建物が今でも残されている。父親の仕事の都合で一家がワルシャワに転居したあと、所有者が変わり何度か増築・改築されたものの、近年になって周辺の土地も敷地に組み入れたうえで公園として整備された。母屋はショパンの生涯を追想できる博物館へと生まれ変わり、当時の面影を残しながらひっそりとたたずんでいる。
公園内には休憩できるカフェや、ショパンの経歴を映像で振り返るシアタールームがあり、物思いにふけるショパンの銅像もある。ピアノコンクールを前にしたピアニストが縁起を担いで、銅像の膝に触れるためにわざわざ遠くから訪れることもあるらしい。あちこちに設置された屋外スピーカーからはショパンの優しい、穏やかなピアノの音色が常に流れており、ショパンと同じように物思いにふけりながらのんびり散歩したくなる。
アクセスに便利な公共交通機関はないため、この博物館を訪れるには「ChopinPASS」というツアーを利用するのがお勧め。ミニバスによるワルシャワとの往復料金と博物館の入場料がセットになって、大人119ポーランド・ズウォティ(約3600円、1ポーランド・ズウォティ=30.25円)から。のちほど紹介するワルシャワの博物館「The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw」の入場料もこれに含まれ、さらに野外コンサートがたけなわとなる5~9月なら、毎週日曜日に敷地内で行なわれるピアノコンサートも鑑賞可能だ。営業は火曜日~日曜日。
毎日誰もが気軽にコンサートを楽しめるワルシャワ
ショパンが生後半年から住み始めた首都ワルシャワには、ショパンが身近に感じられる施設が数多くある。旧市街から伸びる「王の道」とも呼ばれる通り沿いには、彼が8歳のときに初めてパブリックコンサートを開いた大統領官邸や、19歳のときの初めての恋人とされるコンスタンチア・グワトコフスカと出会った場所などがある。また、ボタンを押すとショパンの楽曲が流れるベンチが多数設置されているのも見どころ(聞きどころ)だ。
首相官邸をはじめとする政府機関の集まる官庁街の横には、年に300万人が訪れる広大な「ワジェンキ公園」がある。公園内のショパン像が飾られた広場では、5~9月のあいだ、毎週日曜日に野外コンサートが開かれる。ジェラゾヴァ・ヴォラの博物館でもそうだったように、ポーランドでは夏のあいだ、日曜日になると必ずと言っていいほどどこかでコンサートが開催されているのだ。
街中では、どこにでもありそうな小さなカフェでも毎晩ピアノコンサートが開かれていたりする。そんなお店の1つ「Chopin Point」では、平日19時から日替わりで演奏者がショパンのピアノ曲を弾く。鑑賞料金はわずか40~60ポーランド・ズウォティ(約1200~1800円)。演奏するのはショパン国際ピアノコンクールで入賞経験のある人物だったりするから驚く。
しかしコンサートだからといって、かしこまった雰囲気はそれほどない。子供も大人もほとんど普段着で訪れ、1時間ほどピアノの音色に身を委ねたあと、笑顔で帰っていく。日本でそれと似たようなイベントを挙げるのは難しいが、例えば仕事終わりや週末に映画館に行くようなものだろうか。ポーランドでは日常的に、気軽にコンサートを楽しむ文化があり、もちろん観光客も同じように体験できる。
なお、このChopin Pointでは、ショパンの最後の恋人ジョルジュ・サンドが作ったと言われる、ショパンが愛してやまなかったスイーツも味わえる。カシスとチョコレートブラウニーの上に真っ赤なワイルドベリーのクリームが乗ったものだ。作曲・演奏という頭も身体も酷使する職業だったからこそ、これほどの糖分が必要だったのではないかと思わせるほどの甘さ。ショパンがビタミン摂取のためによく飲んだと言われるドングリが原料の“コーヒー”もあり、こちらは胃や舌を休めるのにちょうどよい。
ワジェンキ公園
所在地:Agrykola 1 Street,Warsaw, POLAND
Webサイト:Park Łazienkowski(英語)
Chopin Point Warsaw
所在地:62 Krakowskie Przedmieście St 00-322 Warsaw, POLAND
Webサイト:Chopin Point Warsaw(英語)
ショパンの足跡をたどる博物館とワルシャワを一望できる展望タワー
ショパンの足跡を詳しくたどりたいなら、「The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw」も訪れたい。先述したとおり、ChopinPASSのツアーなら追加料金なしで入場できる博物館だ。旧市街とワジェンキ公園のちょうど中間地点にあり、ワルシャワ中央駅からも徒歩圏内にある地上3階、地下2階の建物となっている。
19世紀に音楽学校として使われていた建物が元になっており、ショパンにゆかりのあるアイテム7500点以上が収蔵されている。直筆の楽譜(のコピー)、晩年に使っていたピアノ、39歳という若さで亡くなったときの遺髪やデスマスクなどを見ることができる。
ショパンや音楽とは関係ないが、ワルシャワに来たらぜひ登っておきたいのが、駅近くにある「Palace of Culture and Science」のタワー。ソ連貴台代の最高指導者ヨシフ・スターリンからポーランドに寄贈されたことで有名な地上273mの高層建築で、最上階の展望フロアからはワルシャワの街並みを東西南北のどの方角からでも一望できる。旧市街の古い街並みと、シャープな現代建築が混在するパノラマは必見だ。
The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw
所在地:1 Okólnik Street, 00-368 Warsaw, POLAND
入場料:22ポーランド・ズウォティ(約660円)
Webサイト:The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw(英語)
Palace of Culture and Science
所在地:plac Defilad 1, 00-901 Warsaw, POLAND
入場料:20ポーランド・ズウォティ(約600円)
Webサイト:Palace of Culture and Science(英語)
ポーランドでショパンの足跡をたどったあとは、ワルシャワ中央駅から寝台特急「EuroNight(ユーロナイト)」に乗ってオーストリアの首都ウィーンを目指す。ちなみにこの列車には「Chopin(ショパン)」という名前が付けられている。名前以外にショパンに関連する要素は特にないけれど、20歳のとき、ワルシャワからウィーンへと音楽活動の拠点を移したショパンの名残がこんなところにも見つけられる。