旅レポ

音楽を巡るユーレイル旅。ショパンが生まれ育ったポーランドとワルシャワを散策

郊外の生家にピアニストたちが訪れる理由。ショパンが愛したスイーツとは?

ショパンの生まれ故郷ポーランドから、音楽を巡るユーレイルの旅がスタート

 曲名や、誰が作った曲かは知らなくても、きっと一度は耳にしたことがある「夜想曲第2番」や「別れの曲」。これらは19世紀に活躍した音楽家フレデリック・ショパンによるものだ。7歳で作曲を始め、8歳で早くも自身のコンサートを開き、幼くしてその才能を開花させた彼は、中欧の国ポーランドで生まれた。

 ポーランドと聞いて、具体的に何かを思い浮かべられる人はあまり多くないかもしれないが、世界的な音楽家を輩出した国であることは覚えておくべきだろう。

今回のユーレイル旅で訪れた都市(C)OpenStreetMap contributors

夏に訪れたいショパンの生まれ故郷、ジェラゾヴァ・ヴォラの博物館

 欧州の鉄道などが一定期間、定額で乗り放題になるユーレイルパス(ユーレイル グローバルパス)を使い、音楽にゆかりのある国々を巡るプレスツアー。そのスタート地点となったのが、ショパンの故郷であるポーランドの首都ワルシャワだ。中心部からクルマを走らせること約50km、1時間ほどの郊外にあるジェラゾヴァ・ヴォラという村で、フレデリック・ショパンは1810年、楽器演奏もたしなむ両親のもとに生まれた。

ジェラゾヴァ・ヴォラにあるショパンの生家でもある博物館
門の前にショパンの名前

 そのジェラゾヴァ・ヴォラには、生後約半年というわずかな期間とはいえ、ショパンが過ごした生家となる建物が今でも残されている。父親の仕事の都合で一家がワルシャワに転居したあと、所有者が変わり何度か増築・改築されたものの、近年になって周辺の土地も敷地に組み入れたうえで公園として整備された。母屋はショパンの生涯を追想できる博物館へと生まれ変わり、当時の面影を残しながらひっそりとたたずんでいる。

きれいに整備された公園と生家
生家の中が博物館となっている
ショパンにゆかりのある調度品やピアノが展示されている
家族の肖像画と、何度か改築したときの間取りの1つ

 公園内には休憩できるカフェや、ショパンの経歴を映像で振り返るシアタールームがあり、物思いにふけるショパンの銅像もある。ピアノコンクールを前にしたピアニストが縁起を担いで、銅像の膝に触れるためにわざわざ遠くから訪れることもあるらしい。あちこちに設置された屋外スピーカーからはショパンの優しい、穏やかなピアノの音色が常に流れており、ショパンと同じように物思いにふけりながらのんびり散歩したくなる。

 アクセスに便利な公共交通機関はないため、この博物館を訪れるには「ChopinPASS」というツアーを利用するのがお勧め。ミニバスによるワルシャワとの往復料金と博物館の入場料がセットになって、大人119ポーランド・ズウォティ(約3600円、1ポーランド・ズウォティ=30.25円)から。のちほど紹介するワルシャワの博物館「The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw」の入場料もこれに含まれ、さらに野外コンサートがたけなわとなる5~9月なら、毎週日曜日に敷地内で行なわれるピアノコンサートも鑑賞可能だ。営業は火曜日~日曜日。

カフェとシアターが入っている建物
シアターではショパンの生涯を解説
カフェの建物内にある木製のショパン像
公園内にはスピーカーが設置され、ショパンの曲が常に流れている
敷地内では川が静かに流れている
ピアノコンクールの前に訪れて縁起を担ぐ人も多いというショパン像。膝部分に手で触れるため色あせている

毎日誰もが気軽にコンサートを楽しめるワルシャワ

 ショパンが生後半年から住み始めた首都ワルシャワには、ショパンが身近に感じられる施設が数多くある。旧市街から伸びる「王の道」とも呼ばれる通り沿いには、彼が8歳のときに初めてパブリックコンサートを開いた大統領官邸や、19歳のときの初めての恋人とされるコンスタンチア・グワトコフスカと出会った場所などがある。また、ボタンを押すとショパンの楽曲が流れるベンチが多数設置されているのも見どころ(聞きどころ)だ。

ワルシャワ旧市街の広場と、ワルシャワの語源となっている守り神の人魚。ワルスという名の漁師がサワという名の人魚を救い出したことからワルシャワという地名になったなど、諸説ある
旧市街に残る城壁
広場近くの建物
ワルシャワ王宮。毎日11時15分に時計下の窓が開き、トランペットの独奏が始まる。第二次世界大戦中の1944年11時15分に爆撃により破壊され、時計が止まったことに由来する
ボタンを押すとショパンの曲が流れるベンチ。ショパンにまつわる建物の場所や解説が彫り込まれている

 首相官邸をはじめとする政府機関の集まる官庁街の横には、年に300万人が訪れる広大な「ワジェンキ公園」がある。公園内のショパン像が飾られた広場では、5~9月のあいだ、毎週日曜日に野外コンサートが開かれる。ジェラゾヴァ・ヴォラの博物館でもそうだったように、ポーランドでは夏のあいだ、日曜日になると必ずと言っていいほどどこかでコンサートが開催されているのだ。

ワジェンキ公園の広場
ショパンの巨大な銅像が飾られている。5〜9月はここで野外コンサートが開かれる
動物も多く見かける広大な公園。もともとは王族の夏の避暑地として利用されていたそう
結婚式などのイベントで利用可能なオランジェリ
かつて王族のプライベートシアターとして使われていた施設。現在はコンサートなどに使われることがある
王族が浴室として使っていた建物。現在は博物館になっている
元々は脱衣所兼休憩室だった部屋に飾られている少し不気味な絵画
隣のこの部屋には浴槽があったという
豪華な調度品や絵画が展示されている

 街中では、どこにでもありそうな小さなカフェでも毎晩ピアノコンサートが開かれていたりする。そんなお店の1つ「Chopin Point」では、平日19時から日替わりで演奏者がショパンのピアノ曲を弾く。鑑賞料金はわずか40~60ポーランド・ズウォティ(約1200~1800円)。演奏するのはショパン国際ピアノコンクールで入賞経験のある人物だったりするから驚く。

平日19時からコンサートが開かれるカフェ「Chopin Point」
ショパン国際ピアノコンクールで入賞経験もあるという人物がショパンを演奏した

 しかしコンサートだからといって、かしこまった雰囲気はそれほどない。子供も大人もほとんど普段着で訪れ、1時間ほどピアノの音色に身を委ねたあと、笑顔で帰っていく。日本でそれと似たようなイベントを挙げるのは難しいが、例えば仕事終わりや週末に映画館に行くようなものだろうか。ポーランドでは日常的に、気軽にコンサートを楽しむ文化があり、もちろん観光客も同じように体験できる。

 なお、このChopin Pointでは、ショパンの最後の恋人ジョルジュ・サンドが作ったと言われる、ショパンが愛してやまなかったスイーツも味わえる。カシスとチョコレートブラウニーの上に真っ赤なワイルドベリーのクリームが乗ったものだ。作曲・演奏という頭も身体も酷使する職業だったからこそ、これほどの糖分が必要だったのではないかと思わせるほどの甘さ。ショパンがビタミン摂取のためによく飲んだと言われるドングリが原料の“コーヒー”もあり、こちらは胃や舌を休めるのにちょうどよい。

ショパンが好んで食べたというスイーツ
ショパンがよく飲んでいたという健康によい“コーヒー”。ドングリを茹でたあと、コーヒー豆のように煎ってすり潰したものが使われている
ワジェンキ公園

所在地:Agrykola 1 Street,Warsaw, POLAND
Webサイト:Park Łazienkowski(英語)

Chopin Point Warsaw

所在地:62 Krakowskie Przedmieście St 00-322 Warsaw, POLAND
Webサイト:Chopin Point Warsaw(英語)

ショパンの足跡をたどる博物館とワルシャワを一望できる展望タワー

「The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw」

 ショパンの足跡を詳しくたどりたいなら、「The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw」も訪れたい。先述したとおり、ChopinPASSのツアーなら追加料金なしで入場できる博物館だ。旧市街とワジェンキ公園のちょうど中間地点にあり、ワルシャワ中央駅からも徒歩圏内にある地上3階、地下2階の建物となっている。

 19世紀に音楽学校として使われていた建物が元になっており、ショパンにゆかりのあるアイテム7500点以上が収蔵されている。直筆の楽譜(のコピー)、晩年に使っていたピアノ、39歳という若さで亡くなったときの遺髪やデスマスクなどを見ることができる。

ショパンの家族の肖像画などが展示されているスペース
ショパンが晩年使用していたというピアノ
引き出しを開けるとショパンの楽譜が現われ、その音楽が流れ出す
ショパンが音楽を学んでいたころの時間割。朝から夕方までびっしり詰まっている
ショパンが手書きした楽譜のコピー。書き直していることも分かる
ショパンの手。ピアニストは指が長いとよく言われるが、ショパンは小さい手だったという
39歳で亡くなったショパンのデスマスクと遺髪

 ショパンや音楽とは関係ないが、ワルシャワに来たらぜひ登っておきたいのが、駅近くにある「Palace of Culture and Science」のタワー。ソ連貴台代の最高指導者ヨシフ・スターリンからポーランドに寄贈されたことで有名な地上273mの高層建築で、最上階の展望フロアからはワルシャワの街並みを東西南北のどの方角からでも一望できる。旧市街の古い街並みと、シャープな現代建築が混在するパノラマは必見だ。

スターリンから寄贈されたという「Palace of Culture and Science」
薄暗くなってくると鮮やかなイルミネーションで彩られる
最上階の展望フロアはSNS映えを狙った内装
東西南北どの方向も見事なパノラマが広がる
The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw

所在地:1 Okólnik Street, 00-368 Warsaw, POLAND
入場料:22ポーランド・ズウォティ(約660円)
Webサイト:The Fryderyk Chopin Museum in Warsaw(英語)

Palace of Culture and Science

所在地:plac Defilad 1, 00-901 Warsaw, POLAND
入場料:20ポーランド・ズウォティ(約600円)
Webサイト:Palace of Culture and Science(英語)

 ポーランドでショパンの足跡をたどったあとは、ワルシャワ中央駅から寝台特急「EuroNight(ユーロナイト)」に乗ってオーストリアの首都ウィーンを目指す。ちなみにこの列車には「Chopin(ショパン)」という名前が付けられている。名前以外にショパンに関連する要素は特にないけれど、20歳のとき、ワルシャワからウィーンへと音楽活動の拠点を移したショパンの名残がこんなところにも見つけられる。

ワルシャワ中央駅の構内
大勢の客で賑わうホーム
ホームで待っていると寝台特急「EuroNight 407 Chopin」が入ってきた
扉にChopinの名前
狭い通路を移動して指定の寝台席へ
3段ベッド化も可能な寝台席
開閉式の洗面台が備え付けられている
水、炭酸水、オレンジジュース、スナック、タオルや洗顔フォームなどが用意されている
朝になるとコーヒーか紅茶のサービスがある。前日夜の乗車直後に車掌が確認に来るので、そのときに伝えよう
こちらがユーレイルパス。乗車前に必ず利用日付を記入しておく必要がある
寝台席は別料金。このときは2人部屋で119ユーロ(約1万5232円、1ユーロ=128円換算)だった
一晩かけてオーストリアの首都ウィーンへ(C)OpenStreetMap contributors

日沼諭史

1977年北海道生まれ。Web媒体記者、モバイルサイト・アプリ運営、IT系広告代理店などを経て、執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、二輪・四輪分野などさまざまなジャンルで活動中。どちらかというと癒やしではなく体力を消耗する旅行(仕事)が好み。Footprint Technologies株式会社代表。著書に「できるGoPro スタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)などがある。