旅レポ
「ワールド ドリーム」香港就航視察航海。2泊3日で大型客船を食べつくす遊びつくす
2017年11月30日 00:00
既報のとおり、アジア海域で大型客船を運航しているクルーズクルーズは、新造客船「ワールド ドリーム」の就役に伴い、これまで同社が香港発着クルーズ航路で運航していた「ゲンティン ドリーム」が新たに設けたシンガポール発着クルーズ航路に異動し、ワールド ドリームを香港発着クルーズ航路に就航させた。11月17日に香港のカイタック・クルーズターミナルに入港したワールド ドリームでは、就航記念式典と「命名式」を執り行ない、引き続き、11月17日から翌々日19日まで週末2泊3日のクルージングに出港した。
この航海はワールド ドリームが香港航路に就航して初めての営業航海となるだけでなく、世界各国の旅行業界関係者を対象にした視察航海も併せて実施している。この視察航海に乗船した。
なお、ドリームクルーズが運航する香港発着クルーズの視察航海については、2016年11月に就航した「ゲンティン ドリーム」の乗船レポートを3回に分けて掲載。香港国際空港に到着してからカイタック・クルーズターミナルまでの移動や乗船手続きの状況、そして、下船した後の香港観光に関する情報については、そちらの記事で詳しく紹介している。詳しくは記事末の関連記事を参照されたい。
この記事では、本格的な外国航路の大型客船によるクルージングを初めて体験する50過ぎ日本男子(おじさん)の「週末2泊3日の船上生活」をつぶさに紹介する。
平均的な現役世代でも香港発着2泊3日なら気軽にクルージングできる
仕事をしている「現役世代」にとって、「船旅」には独特の高いハードルがある。そのなかでも問題となるのが、「船旅ができるほどまとまった休みを取ることができない」「移動手段にすぎない船に乗っている時間がもったいない」「船酔いが心配」だろう。
「船旅ができるほどまとまった休みを取ることができない」では、クルージングに限らず、旅行全般にいえることだが、特に船旅というと、豪華客船で世界一周旅行! とはいかなくても、ゆっくり進む客船でいくつかの観光地に寄港してまわるには1カ月、少なくとも2~3週間のまとまった休みがないと参加できないと考えている人は多い。これは特に日本だけの特殊事情ではなく、ドリームクルーズが運航しているアジア諸国ではどこも同様という。仕事を退職した高齢世代は別にして、若い世代、特に仕事や子育てなどで忙しい日常を過ごしている世代には、船旅は難しいという先入観がある。
そのような事情を考慮してドリームワールドで運航しているのが、金曜日の夜に出港して日曜日の朝に帰港する2泊3日の週末クルーズプラン「WEEKEND ISLAND WANDERING」だ。金曜日の20時に香港のカイタック・クルーズターミナルを出港して、土曜日は終日航海して「担杆列島」(担杆島と二洲島からなる)、「佳蓬列島」(由北尖島、廓湾島、牙鷹洲などからなる、この海域の島々では最も南に位置する)を経て、万山列島の南端にある大万山島と小万山島の南岸まで達して折り返す、香港南方沖合20海里(約37km)の海域に東西11海里(約20.3km)にわたって散らばる小島や島礁の景色を楽しみ、日曜日の10時には香港に帰港する。
香港近隣に在住しているなら金曜日に仕事を終えてから船に向かい、日曜日に下船したら家で旅の疲れを癒して、月曜から仕事に取り掛かれる。日本人だって、金曜日だけ休暇をとれば、昼前の便で日本を出立したら金曜日の出港に十分間に合うし、日曜の午前中に下船して香港市内でランチを楽しんでも、午後出立する便で帰国すれば終電が気にならない時間に帰宅できる。これならいつもお疲れ気味の日本男子(おじさん)でも週明けの仕事に影響しない。実際、今回視察航海に参加した私も帰国翌日の月曜日の朝、「お! 全然大丈夫じゃないか。これなら普通に働けるね」と言いながら仕事場に向かっている。
まずは週末を過ごす船室「Balcony Deluxe」をつぶさにチェック
日本から空路香港について、空港から出港するカイタック・クルーズターミナルに移動し、乗船手続きと出国手続きを経て乗船するまでの過程は、関連記事「アジア初のプレミアム客船『ゲンティン ドリーム』で巡る2泊3日の香港ウィークエンドクルーズ(1日目)で紹介している。なお、11月19日からターミナルに「ワールド ドリーム超巨大レゴモデル」が展示してあるが(関連記事「ドリームクルーズ、同社2隻目となる新造船『ワールド ドリーム』を香港で公開」)、非常に細かいところまで実船を再現しているので、見ているだけでテンションが上がってくるはずだ。
18時から出国手続きと手荷物検査を経てワールド ドリームに乗船できる。今回利用する船室等級は「Balcony Deluxe」で、場所は第9デッキ左舷側中央の9630室だ。ワールド ドリームの船室で最も数が多いスタンダードな等級はバルコニーを設けた外側船室の「Balcony」で、Balcony Deluxeはその1つ上の等級になる。両者の違いは床面積で、Balconyは20m2、Balcony Deluxeは22m2。どちらも間口は同じサイズで、ドアからバルコニーまでの奥行きが異なる。Balcony Deluxeは奥行きが長いぶん、トイレと洗面台、シャワールームがあるエリアがBalconyより広くなっている。ただ、それ以外のベッドサイズやソファ、デスク、クローゼット、液晶テレビ、コンセントの種類と数などは共通する。
なお、ドリームクルーズ所属客船の船室番号は、下3桁がデッキにおける場所を、上1~2桁がデッキ番号を示す。デッキ番号はデッキプランと一致しており、右三桁については、
・偶数は窓のある外側船室
・奇数は窓のない内側の船室
・右舷側船室は船首から船尾に向かって001~499
・左舷側船室は船首から船尾に向かって500~999
というルールになっている。外側船室は船体の前部から後部までほぼ連続してあるが、内側の船室は“とびとび”の配置なので、下3桁は“向かい”にある外側船室と揃えてある。ワールド ドリームは右舷側通路と左舷側通路で床に敷いたじゅうたんの色が同じなので、意外と自分のいる場所が分からなくなりやすい。そのようなときは、外側船室の部屋番号を参照すれば自分の居場所を簡単に把握できる。
船室に入るには乗船手続きで受け取った「クルーズキー」をドアのセンサー部分にかざす。すると、センサーのLEDがグリーンに光ってロックが解除される。「これから過ごす部屋のドアを開ける瞬間」は旅の楽しみの1つだが、普段経験することがほとんどない「客船の船室」ということもあって、いつにも増して期待が高まる。さあ開けるぞ!
ドアを開けると手前左に照明関係のスイッチと姿見が、手前右にはシャワーと洗面台、トイレを備えたエリアに続くドアがある。左手奥にソファがあり、その奥にベッドが続く。右手は大きな鏡を備えた横長のデスクの奥に大型液晶テレビが続き、さらに絵画をかけた向こうにバルコニーにアクセスする引き戸が見える。内部は奥行きがあって広く感じる。おおおっ! これが大型客船の船室か!
トイレは座面サイズ十分でゆったり使える。手すりを高い位置と低い位置に用意していて男子小用時でも大用時でも体が支えられる(しかし、後述のように支えが必要になるほど船が揺れることはなかった)。排出方式は航空機や新幹線と同様に吸引式なので、バシュっと結構な音とともにきれいに排出してくれる。
シャワーカランはハンドタイプでスタンドの高さを調整できる。また、2×3カ所に噴出ノズルを設けて体全体にお湯をかけることも可能だ(この仕掛けを知らないと、体全体で水を受け止めてうおおおお! と叫ぶことになる)。シャワー脇にシャンプーとボディソープ両用ボトルを備え付けてあるが、ドリームクルーズのオリジナルブランド「Clystal Life」のシャンプーとコンディショナー、ボディソープも船室アメニティで用意している。アメニティでは、ほかにも歯ブラシに髭剃り、くし、バニティキット、シャワーキャップがある。アメニティキットのパッケージは、すべての種類を並べると1つのデザインになるような工夫を施している。洗面台には2つのカランを備えており飲用もできる。どちらも温水~冷水の温度調整が可能だ。
鏡台を兼ねたデスクは規格違い(BFとOC)のコンセントを2つ用意している。このほかにベッドサイド両側にはそれぞれBFタイプのコンセント1基に加えて充電用USBポートを2基ずつ備えている。充電用USBポートが多いというのが1人で複数のモバイルデバイスを使う現代では実に便利で、実際、睡眠中にスマートフォンとタブレット、そして、モバイルバッテリまで充電できた。デスクには無料の飲料水2本とインスタントコーヒー、紅茶を用意していて、日中のベッドメイキングで補充してくれる。
クローゼットは左に5段の棚(うち1段はセキュリティボックス用)を備え、右をハンガーエリアにしている。ハンガーエリアに衣服をかけてみたところ、標準で用意している2着のバスローブに加えて、シャツ、ズボン、スーツなどに分割しても持ち込み衣服全8着の収納が可能だった。ハンガーは12本備える。
旅慣れた人は、ここで「ええっ! 服8着! しかも一気に全部出してしまうの? 2泊3日なのに?」と驚くかもしれない。しかし、超私的に船旅の師匠としてその著作に接していた柳原良平氏は「船室は船旅で生活の場になるところ。持ってきた衣服をすべてクローゼットに収納するとそこから船室は生活の場になる」と述べている。確かに、今回船室について持ち込んだ衣類をすべてスーツケースからクローゼットに移し替えただけで、船室が「自分のもの」になったような気分。これはなにげにうれしくなる。
そして「服8着!」だが、ワールド ドリームでは特に明文化した「ドレスコード」はパンフレットなどで案内していない。ただ、ディナーに有料の上級レストランや上級船室専用のゲンティンクラブレストランなどを利用する場合は「ビジネスアタイア」「スマートカジュアル」の着用が望ましいと旅行代理店から案内がある。日本男子のなかには「ド、ド、ドレスコード?」と聞いただけで、気が重くなってしまう人も少なくないだろうが、ここでいうビジネスアタイアもスマートカジュアルも、通常のビジネススーツ、もしくは、ダークジャケットにネクタイで十分だ。このためにスーツを新調するなど気負う必要はない。
とはいえ、「せっかく大型客船に乗るのだから」とファッションを思いっきり楽しんでもよい。タキシード、となるとワールド ドリームでも見かけることはなかったが、普段の生活ではなかなか着る機会のない「金ボタンをあしらったダブルのブレザースーツ」を持ち込んでもよい。日本男子には日常ではなんとなく恥ずかしくてできないファッションでも、別世界の客船なら思いっきり振り切って楽しんでも許される。実はこの「日常ではできないことが思いっきり楽しめる」ことが船旅の最も大きな特徴なのではないかと、このあと船旅のなかで何度も感じることになる。
船旅は、食べて食べて、食べまくる
船室に入って衣類をクローゼットに納めてひと心地ついたら、ベッドに用意してあった船内新聞「Dream Daily」に目をとおしてみよう。乗船当日の船内新聞には歓迎メッセージと主要スタッフの紹介、喫煙ルール、船室等級のアップグレード案内とともにその日に予定しているショーや映画の上映予定、アクティビティの内容やレストラン、バー、ショップなどの施設案内と利用可能時間を記載している。
特に注意したいのが利用可能時間だ。船が航行している間はずっと使えると思いがちだが、24時間利用できる施設は意外と限られている。多くのレストランは21時30分から22時30分に終了し、バーとラウンジもほとんどが1時には閉まってしまう。早めの利用が肝要だ。なお、船内施設やエンタテイメントの案内と利用時間については、あとで紹介するアプリや船室の液晶テレビでも参照できるほか、一部上級レストランや施設ではオンライン予約も可能だ。
乗船最初のディナーは、上級レストラン「Prime SteakHouse」を選んだ。コースのセットメニューと一品料理のアラカルトメニューから選べるほか、併設するSeafood Grillからもアラカルトメニューを注文できる。記念すべき乗船最初のディナーということでコースのセットメニューとSeafood Grillのアラカルトを注文する。コースメニューの構成はシーザーサラダから始まり、クラムチャウダーを経て、メインのオージービーフを使ったストリップステーキのグリーンペッパーソース添えに続く。パンに添えたバターは柔らかい桜色をしている。
「な、なんすかこれ?」「ソーセージを練りこんだバターでございます」
パンに塗って食べてみると、おお! これは確かにソーセージだ。シーザーサラダは見た目美しく、クラムチャウダーは味優しく、メインのステーキをナイフで切ると中の赤みが程よい焼き加減を示している。添えてある鮮やかな黄身を絡めて舌に乗せると……、
「う、うめー! じゃなくて、美味しいー!」
思わず地が出てしまうほどのうまさだった。
メインのステーキと同時にSeafood Grillに注文した盛り合わせボイルの大皿も届いた。これまたすごい。大皿にはロブスターから生ガキ、カニ、そしてザリガニまでが山盛りだ。「いやちょっとおなか一杯になってきたかな」という同席者の声を聴きつつ、「私に任せてください」と志願して山盛りのシーフードを攻略する。ザリガニとは初顔合わせの戦いだったが、ドリームクルーズのY氏からのアドバイス「しっぽをくいっとひねるときれいに身が取れます」でクリアできた。
デザートのチーズケーキはサイズ大きめで、こちらもベリーソースが斬新なデザインで添えてある。厚いステーキに山盛りのシーフードと戦ったあとのビッグなデザートに、これはどうも、と思ったが、食べてみるとあっさりしていて重くない。意外なほどにすいすいとお腹の中に入っていく。サラダもクラムチャウダーもステーキもシーフードもそうだが、味付けが程よく食べやすいのが印象的だった。
こういうディナーを、「ディナーの作法なんて知らないし覚えるの大変だし」としり込みしてしまう日本男子も少なからずいるかもしれない。ワールド ドリームには気軽に食事ができるカフェテリア「The Lido」もあって、実際そちらはノージャケット・ノーネクタイの船客がほとんどだ。けれども、せっかくの外国客船だ。慣れないテーブルマナーを体験するのも楽しい。とりあえず「並べてあるフォークとナイフとスプーンを外側から使う」を守ればあとは何とかなるし、いよいよ困ったら隣に聞けば大抵は親切に教えてくれる。これも「日常ではできないことが思いっきり楽しめる」船旅だからできる体験だ。
船上なのに絶妙なバランスでうなるプロダクトショー
ディナーが始まったのが20時。デザートのチーズケーキと戦い始めたのが22時30分。ワールド ドリームは予定より少し遅れた21時30分、さりげなく静かに出港していた。南下するワールド ドリームの右舷には香港島、左舷には本土の街明かりが広がる。カイタック・クルーズターミナルは特に見送る人もバンドの演奏もなく静かだが、ビルに設置した大型液晶にはワールド ドリームの就航を歓迎するメッセージが流れていた。
ディナーが終わるとちょうど船内劇場「Zodic Theater」でショーが始まる時間になっていた。ドリームクルーズは業界向け専門媒体「Travel Weekly Asia」でベストクルーズエンタテイメント部門の2017年リーダーズチョイスを受賞するなど、エンタテイメントプログラムで高い評価を得ている。
とはいえ、日本男子にとって「客船のショー」というのは「団体旅行の温泉旅館の大広間で繰り広げられる演芸の微妙なレベルに耐えがたきを耐え」という認識だ。うーむ、貴重な時間をかえって観客が気を使わなければならないかもしれない「出し物」に費やすのはどうか、と思っていたのだが。
「なにこれすごい」
航海初日のショー「SONIO-'A TALE OF TWO DRAMS'」は、すべてのダンサーの動きが流れる音楽の縦の線にピタリと合わさるので、見た目にとても気持ちよい。それぞれのポーズとそのポーズに至る流れも全員がシンクロしている。さらに揺れる船上なのに、絶妙なバランスを要求するアクロバティックなダンスも随時に登場する。衣装に背景、CGを組み合わせた照明や映像もそれぞれが絵画のように美しい。
本格的なショー初体験の日本男子は、顔には出さずに淡々と取材撮影を続けていたが、内心では「すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすっごっいいいいいい」と、さながらエヴァンゲリオンの相原ケンスケ状態になっていた。
船の上で遊んで遊んで遊びまくる
明けて2日目は、どこにも寄港しない終日航海となる。船室のバルコニーに出て左舷側海域を見渡すとすでに陸は見えず周囲に船影もない。持ち込みの双眼鏡ではるか左舷後方7時の方向にうっすらと船らしきものが見えるのみだ。
食べて食べて食べまくる船旅だから、目が覚めたらすかさず朝食に向かう。船内で朝食と提供してくれるのは、カフェテリアのThe LidoとダイニングのDream Dining Room Upper、同Lowerだ。LidoとDream Dining Room Lowerは6時30分から、Dream Dining Room Upperは7時から利用できる。朝食に限らず、この3つのレストランは、航海中1日6回まで無料で食事ができる。The Lidoはメインプールやウォーターパークなどオープンデッキがある第16デッキの後甲板に設けたビュッフェタイプのカジュアルなレストランという雰囲気で、家族連れを中心に大変にぎやかだ。服装も“普段着”がほとんどだ。
一方、Dream Dining Roomは第7デッキと第8デッキの後甲板にある“2階建て”のレストランでThe Lidoと比べると上品な雰囲気の内装だ。1階(第7デッキ部分)のLowerは、中央にダンスができる床を用意しデッキ2層ぶんを吹き抜けにしている。2階(第8デッキ部分)のUpperはそのダンス用フロアを取り囲むレイアウトで、その見た目は社交ダンス(競技ダンス)で使うボールルーム(ballroom)のようだ。提供するメニューはLowerとUpperで異なっており、Upeerは中華はメイン、Lowerは多国籍としている。
こちらもビュッフェなので、「うーむ、前日のディナーがまだ残っている感じだから、フルーツにしようかな」などと自分のお腹と相談して選べるが、「うう、でもこの鶏そば美味しそうじゃん」なんて持ってきたり、ウエイターが「卵料理はいかがいたしますか」と聞いてくるので「んじゃ目玉焼きで!」なんてお願いすると“両目”がやってきたりするので、朝から厳しい戦いになりそうだと思っていたが、食べてみるとこれまた味付けあっさりですいすい入ってしまうから客船の食事って侮れない。
お腹も膨らんだところで、船が備えるアクティビティに挑戦だ。ワールド ドリームでは若い世代の利用者に訴求すべく、1番船のゲンティン ドリームにはなかったVRゲームやe-Sportを楽しめる「ESC Experience Lab」を新設した。第17デッキに設けたスペースには、SamsungのVRシステム「Gear VR」とIcarosの“フィットネス”ギア「iCAROS」を組み合わせたハンググライダー/マリンダイビングシミュレータ、そして、Virtuixの歩行型VRデバイス「Virtuix Omni」とHTCのVRシステム「HTC Vive」を組み合わせたFPSと、日本でもまだ発売されたばかりの最新デバイスでVRゲームを体験できる。ちなみに、Virtuix OmniもiCAROSも“高額”なゲームデバイスだが、ESC Experience LabにはVirtuix Omniを6台、iCAROSを4台も用意している。
Virtuix OmniとHTC Viveの組み合わせでプレイするFPSは、スペースの限られた船内でも広大なプレイ空間を縦横無尽に「走り回って」敵と戦うことができる。1回で十数分程度プレイできるが、かなりの運動量でびっしょりと汗を流したほどだ。Gear VRとiCAROSを組み合わせたハンググライダーシミュレータは、本来「体幹を鍛えるフィットネスギア」だけあって、両腕と両足だけで体を支えるため、それだけで「手足がプルプルしてきた」のに加えて、自分の飛行コースを制御するため体の重心を移動させ、その移動に合わせてデバイスが傾いてさらに力が必要になると、こちらもかなりの運動量になるようだ。
ほかにも、VRを導入したゲームマシンとしては、自分でデザインしたコースでジェットコースターを体感できる「FINGER COASTER」に、子供向けのアクションゲームとして、忍者になって飛んでくる果物を切るスマートフォンゲームとしても人気のあった「Fruit Ninja」のVRバージョンを用意している。また、VRではないが、レーシングゲームの「Need for Speed」を導入したゲーミングPCと曲面パネルを採用した3台の大画面マルチディスプレイ環境を、ハンドル、ペダル、そして、フォースフィードバックに対応したシートを組み込んだ「Vesaro Advanced Stage 9 Vesaro 195」に搭載した「体感レーシングシミュレータ」を3台、そして、こちらもフォースフィードバックに対応するSTAR WARSのアーケードシューティングマシン「STAR WARS Battle Pod/Flatscreen Edition」を8台設置していた。
FINGER COASTERは、外から動作している姿を見ているぶんにはそれほど激しく動いておらず、あまり期待していなかったが、実際に乗り込んでみると、VRゴーグルに映し出される立体動画と連動した「下降するときのお腹の中がふわっと浮かび上がる“ひゅーっ”な感覚」や「急激にカーブしたときのGでシートに押し付けられる感覚」のおかげで、思わず「うわああああああ」と声が出てしまったのを告白せずにはいられない。
船内で汗を流したあとは、屋外のアトラクションで汗を流す。ワールド ドリームには屋外アトラクションとして、ミニサッカーができるコートや7周で1kmになるジョギングコース、そして、クライミングウォールなどを設けている。なかでもユニークなのが5本もチューブを用意したウォータースライダーとロープと鉄骨を組み合わせたアスレチックコース「ロープコース」だ。ロープコースの最後は舷外に張り出したロープにハーネスをかけて海の上の滑り降りる「ジップライン」を体験できる(軍艦で乗員の洋上移送に使う「ハイライン」に近い)。
もういい歳をしてまともな運動もしなくなって久しい日本男子(おじさん)としては、そんな危険な真似はしないでゆっくりとデッキチェアで酒でも飲んでいたいと思うところだが、なぜか船の上ではハイテンションになってしまったようで、「帆船の登檣礼(とうしょうれい)みたいでかっこいいじゃない」と言いながら果敢にも挑戦してしまった。
トライするのは若者がほとんどで周囲も不安に見守るなか、ハーネルとヘルメットを装着して階段を上がってコースに挑んでみると、結構すいすいと進むことができる。舷外ギリギリに設けたポールにたって風を受けながら周囲を見渡せば「うひょおおおお、きもちいい」と思わず声が出てしまう。普段ならやらないことを思わずやってしまう。ここでも「船旅の不思議」を体感した。
ワールド ドリームのデジタルツールを使いこなす
ロープコースを無事終えて、続いてこれも人生初体験のウォータースライダーを5チューブ全制覇したところでお昼になる。ランチはアジアの屋台レストラン的雰囲気を醸し出している「Blue Laroon」を選んだ。日本男子としては、アジアン料理は海南鶏飯ぐらいしか知らなかったりするが、ここでは、ラクサ、サテ、バクテー、ホッケンミーなど東南アジアの代表的な料理を提供している。季節は晩秋で日本はとても寒くなった11月中旬の週末だが、香港沖南方200海里(約370km)の海域では27℃と暑い。この暑さでも東南アジアの料理はぐいぐいと腹の中に入っていく。
さあ、またしてもお腹は膨れた。午後はなにをして過ごそうか。こういうとき便利なのがモバイルアプリの「Dream Cruises」だ。Dream Cruisesでは、その日の航海予定、入港出港予定時間、天候、日の出日の入り時刻、風速の各情報に加えて、船内新聞に掲載しているエンタテイメントプログラムやアクティビティプログラム、レストランやバー、ラウンジ、スパなど施設の利用時間と場所に関する情報だけでなく、一部の上級レストランでは予約もアプリからできる。また、船客同士で利用できるチャット機能も備えており、船室番号で相手を指定すれば日本語を含む2バイト文字でもメッセージを送受信可能だ。
ワールド ドリームは人工衛星回線を利用したインターネット接続サービスを提供している。船内には無線LANのアクセスポイントを用意して航海中でもインターネットを利用できる。乗船前にAppStore(iOS版)またはGoogle Play(Android版)からダウンロードしてインストールしておくとなにかと便利だが、船内でアクセスポイント「Dream Wi-Fi」に接続し、ブラウザでポータルサイトにアクセスすれば認証フォームが開くので、船室番号など聞かれた質問の答えを入力すると、船内で使うインターネット接続プランを購入できる。
利用できる時間と通信速度は異なる7種類のプランを用意しているが、低速の「Standard」はメールやSMS、Twitterなどテキストメッセージ主体で、FacebookやWebサービスは「Premium」を選ぶように推奨している。ベストエフォートなので、乗船している船客の数や、彼らがどれだけデータ通信を利用するかで状況は大きく変わると思うが、データ通信速度の参考値として満室だった視察航海における航海2日目20時に、Premiumプランを契約してRBB TODAY SPEEDTESTで測定した値を紹介しておくと、pingは270~252ms、下りスピードが1.41~1.77Mbps、上りスピードが1.04~1.80Mbpsだった。
なお、船室に備えている液晶テレビでは、Dream Cruisesで利用できる機能に加えて、Dream Cruisesが制作したオリジナル番組(ハルペイントをデザインしたジャッキー・ツアイ氏のドキュメンタリーなど)や、船首に設置したライブカメラの映像を確認できる。
通なスポット「Bridge Viewing Room」の楽しみ方
出港から針路南南東で平均20ノット(約37km/h)で航行していたワールド ドリームは、午後になって針路を東に変え、速度も4ノット(約7.4km/h)とほぼデッドスローの状態でゆるゆると海を漂う。速度を落としたことで船上を流れる風は穏やかになり、船客もゆったりとした雰囲気になってきた。船内の施設やレストランや露天甲板のアトラクションをせずに「ぼけぇ」と過ごすなら、第16デッキのメインプールやその上層第17デッキでメインプールを囲むサンデッキにあるデッキチェアでくつろぐのがよい。
のどが乾いたらサンデッキ前方の右舷左舷それぞれにあるSUNDECK BAR STARBOARD/PORTSIDEでドリンクを頼もう。アルコールだけでなく日本ではあまり見ることがない「Ginger Beer」などのノンアルコールドリンクも種類が豊富だから「私、実は下戸」な人でもくつろげる。第15デッキ最後部には、Zouk BeachClubのジャクジーが両舷に備えてあるが、そこから船尾向こうに広がる傾きつつある太陽とその光を反射する静かな海面を眺めていると、とてつもなくゆったりとしてしまう。
夕刻になって陽も傾いてくるころ、ワールド ドリームは17ノット(約31.5km/h)に増速し、静かだった船尾海面にウェーキー(航跡波)を引き始め、北北西に転針した。香港への帰路に就いたところで航海最後の晩餐だ。
上級中華レストランの「Slik Road」で、航海1日目のPrime Steakhouseと同じくセットメニューのコース料理を選んだ。構成は、ロブスターのチリマヨネーズ和えとホタテのチリソース炒め、焦がしフォアグラ包み揚げの3点盛りから始まり、巻貝と虫草花のチキンスープに続いて、蒸しタラの野菜オリーブオイル漬け添え、サーロイン角ステーキの黒コショウと蜂蜜ソースがけ、アラスカカニ入り焼きそばのメインディッシュ3点が登場する。デザートはモモとパパイヤのシロップ漬けとシロキクラゲのココナッツミルク。またしても優しい味付けでめでたく完食満腹でディナーが終わった。
ディナーが終わるとZodiac Theaterでプロダクションショーの開演だ。2日目のプログラム「SOME LIKE IT HOT」は、ドリームクルーズが得意とするボールルームダンスを主体とした内容で、1950年代から1960年代をイメージした華やかな舞台美術と衣装をまとったダンサーが、ワルツ、フォックストロット、マンボとボールルームダンスの定番をレベルの高い動きで堪能させてくれる。またしても「すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすっごっいいいいいい」と、視察も取材も忘れてステージのダンスパフォーマンスに没入してしまった。
航海最後のショーも終わって、その興奮を第5デッキにあるCystal Life Asian Spaのフットマッサージで鎮めて自分の船室に戻り、寝る前に明日の海況予報をチェックしてみる。ワールド ドリームはインターネットが利用できるので、いつも自分が使っている海況数値予報アプリ「Windfinder」で香港島の風速と波高を確認してみると「未明から昼前にかけて風速16ノット(毎秒約8m)超、波の高さは2.4m」と出た。通常この海域は風速5m以下、波高1m未満だから、これは高い。沿岸の香港島でこれだから、いま航海している沖合はもっとすごいことになるはずだ。そこで、広域数値予報をチェックしてみると、これから進む予定の海域で風速27ノット(毎秒約13m)から31ノット(毎秒約15m)との数値が出てきた。台風並みとまではいかないものの、それに近い大しけの海況になるはずだ。こ、これは……。
ワールド ドリームが出港してから今に至るまで、風弱く波穏やかな海況もあってか、「微動だにしない」まま航海を続けている。「船が動いている」と意識することがない。それゆえに、多くの日本人が船旅で不安に思う「船酔いになったらどうしよう」という不安はまったくもって心配いらない。
しかし、さすがに風速30ノット超の波高2.5mという大しけの海では、船らしく揺れてくれるに違いない。こういう海況ではブリッジも操船で苦労しているのではないだろうか。
そんなときに、チェックしておきたいのが第15デッキ前方にある「Bridge Viewing Room」だ。いま、客船ではセキュリティ上の理由からブリッジに入室できる「ブリッジツアー」というものはほとんど実施していない。ドリームクルーズでも原則立ち入り禁止だ。その代わりに、ブリッジ内部を後方からガラス窓越しに見学できるBridge Viewing Roomを設けている。ただし、夜間は照明が漏れて操船の邪魔にならないようにブラインドを降ろしていて、ブリッジを見ることはできない。それでも、Bridge Viewing Roomに設置している大型ディスプレイで表示する電子海図とAIS(船舶自動識別装置)と連携した航法システムの画面と操船状況を示す画面を見ると、大しけにおける操船の苦労をうかがい知ることができる。
電子海図(ENC)とAISと連携した航法システム「ECDIS」には、海図にGPSから取得した位置情報でプロットした自船の位置と、AISからVHFを使って取得した他船の位置情報をプロットしている。そのほかにも自分の船の船首が向いている対地方位と船のセンサーから得た速度、それに実際に進んでいる対地方位とGPSから得た対地針路に加えて、AISで取得した他船の速度と方位、そして最も近接するまでの時間などを表示する。
また、もう1台のディスプレイでは慣性航法システムと船上センサーから得たより精度の高い船首方位と針路、そして、風向風速に風によって船が流されている方位まで表示できる「Comming」システムの画面を表示する。船はエンジンを使って航行していても風を受けると船体に受けた風力の影響で流されて、船首が向いている方向から船が進む方向がずれてしまう。この影響はワールド ドリームのような喫水線から上の船型が大きい大型船になるほど大きくなる。
迫力あるウェーキーを堪能できる穴場スポットは
実際にCommingの表示データを確認してみると、船首方位(Heading)は342.1度で進んでいる方向(Coruse)は331.4度、ドリフト(外力で針路が流される方位)は7.5度、ROT(回頭率)は4.3度毎秒という状況にあった。これは操船にかなり苦労しているはずだ。船上センサーで測定した風力は毎秒19~27mもある。ワールド ドリームも20ノット近い速度を出しているのでその合成分は差し引かないといけないが、それでも、船体が受けている風の影響は毎秒15~17mに相当する。
しかし、それでもワールド ドリームの振れはわずかだ。確かに立っていると左右に揺らぐ力を感じるかもしれないが、よろけるほどではない。階段の上り下りも不自由を感じない。ただ、ワールド ドリームが起こすウェーキーは大きく、時折、大波を船首で割ってズズンと力を感じることもある。こういうとき、迫力あるウェーキーを堪能できるポイントがいくつかある。まず、船客が立ち寄れるデッキで最も下層になる第5デッキ前方にあるCrystal Life AsianSpaにある最前方の舷側窓だ。最も海面に近く最も船首に近いので船首で砕け、その猛烈な勢いで流れているウェーキーを間近で堪能できる。
ただ、この場所はAsian Spa利用者しかアクセスできない。上層デッキになるが迫力のあるウェーキーをチェックできる穴場スポットもある。それは、第17デッキのサンデッキから前方に向かって歩き、SunDeck Barを過ぎて上層第18デッキに上がる階段を登り切ったポイントだ。舷外に張り出しているので海の上に立って船首方向を眺めれば、風を受けながらブリッジウィングの向こうに船首で砕ける勇壮なウェーキーを堪能できる。航海している船を体感したいならば、ここがベストポジションだろう。
外国航路の客船なら、できないことができてしまう不思議
大しけの海を難なく乗り越えて、ワールド ドリームは予定より早く、7時30分ごろにカイタック・クルーズターミナルに帰港した。そこから下船して、香港の街並みを観光し、午後出発する航空便で夜日本に帰国して、深夜に帰宅するまでの流れは、こちらの記事(関連記事「アジア初のプレミアム客船「ゲンティン ドリーム」で巡る2泊3日の香港ウィークエンドクルーズ(3日目)」で紹介があるとおりだ。
船好きで港好きなら、香港島にわたって香港海事博物館からその東に広がる公園を散策して、本土側にあるオーシャンターミナルとカイタック・クルーズターミナルに憩う客船やスターフェリーに遊覧船、作業船など香港独特の小型船舶が行き交う姿など、世界でも有数の美しさを誇る香港の港の風景を堪能しておきたい。
この記事の冒頭で、外国航路の船旅には「船旅ができるほどまとまった休みを取ることができない」「移動手段にすぎない船に乗っている時間がもったいない」「船酔いが心配」という高いハードルがあるといった。ワールド ドリームの2泊3日の視察航海で、このハードルはどれも解決できることが分かる。
普段は自分を出すことが苦手な平均的な日本人(おじさん)も、外国航路の大型客船という非日常な空間で思いっきり弾けてしまえるのは今回の私で実証済みだ。