旅レポ
「熊野古道」に追加認定された世界遺産をめぐる旅(その2)
北郡越をとおり、熊野本宮大社、川湯温泉へ
2017年2月15日 00:00
2016年10月に開催された第40回ユネスコ世界遺産委員会で、熊野参詣道中辺路(なかへじ)・大辺路(おおへじ)、高野山参詣道の計22カ所が世界遺産に登録された。これは、2004年に世界遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」に追加したものとなる。
和歌山県田辺市では、新たに世界遺産入りした5カ所を巡るプレスツアーを実施、前回の「鬪雞神社」とその周辺を紹介したが、今回はその2として、中辺路のうち世界遺産に追加登録された区間を実際に歩いてみる。初日に歩いたのは、北郡越(ほくそぎごえ)・赤木越・長尾坂・潮見峠越のうちの「北郡越」だ。
「熊野古道」である北郡越ルートを行く
現在の田辺市鮎川から田辺市滝尻に至る富田川沿いの道が北郡越である。実はこの区間は、南寄りの富田川沿いのルート(北郡越)と、北寄りの潮見峠を越えるルートがあり、北郡越は13世紀ごろまでのメインルート。川沿いのため何度も渡渉する必要があり、水位が高いときなどはまさに命がけだったと伝えられる。
後年、潮見峠越えルートが切り開かれ、参詣者もそちらを通るようになったゆえんである。そのため伊勢続風土記(1839年)では潮見峠越えルートを熊野街道というのに対し、この北郡越ルートは熊野古道と記述されている。
なお、現在の「北郡越」は渡渉する区間はない。また河川改修により川幅も広くなっており、水位が上がっても危険はないようだ。ただし、落ち葉が濡れているなどして滑りやすいところもあるため慎重に進みたい。
北郡越はこのあと、いったん富田川から離れて山を越える。全長は2kmほどで、前半は川に沿い、後半は山を越える。歩行したのは前半の約1.2kmで、説明を聞きながらゆっくり歩いて30分程度だった。狭い谷のため土地に余裕がなく、古道を拡幅して現代の道路とした区間も多い。だからこそ、このように現存している区間が世界遺産として登録され、保護されるわけだ。
熊野詣のハイライト、熊野本宮大社
次に向かったのは熊野本宮大社(2004年7月世界遺産登録)。かつて人々の憧れの聖地である熊野三山のうちの一社で、熊野詣のハイライトだった。
熊野本宮大社はかつて、熊野川の中州に12の社殿が集まり、大斎原(おおゆのはら)と呼ばれていた。しかし1889年(明治22年)、富国強兵政策により山林の伐採が進められた結果の大洪水により、中四社、下四社が流失してしまったのだ。現在の熊野本宮大社は、被災を免れた上四社が高台に移築されたものであり、大斎原跡には大鳥居と碑がある。
移築された上四社は建物としては3棟で、門をくぐり向かって左手にある第一殿と第二殿は一つの建物である。門が2つあるので分かりやすい。ここには夫須美大神(ふすみのおおかみ)・速玉大神(はやたまのおおかみ)が祭られている。中央の第三殿は家津美御子大神(けつみこのおおかみ)で、主神。向かって右の第四殿が天照皇大神(あまてらすおおみかみ)だ。なお、水害で流失した第五殿から第十二殿までの御祭神は、大斎原に合祀されているという。
また、「熊野三山」や「熊野権現」という言葉があることからも分かるように、仏教の影響も色濃く受けている。これは奈良時代以降に神=仏という概念(神仏習合)が強くなってきたため。十二柱の神々それぞれに仏も祭られており、夫須美大神=千手観音、速玉大神=薬師如来、家津美御子大神=阿弥陀如来、天照皇大神=十一面観音である。こうした予備知識を少し覚えていくと、熊野詣もより意義深いものとなるだろう。
熊野の魅力を発信する「世界遺産 熊野本宮館」
熊野本宮大社に行く際にはぜひ訪れてほしい場所が、大社から道路をはさんだ反対側にある世界遺産 熊野本宮館だ。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を取り巻く文化的景観を保存しつつ、熊野の魅力を世界に発信するための拠点として整備された。また、地域の資源を活用するため、樹齢100年以上の紀州材(杉)を270本使用している。
映像やパネル、紀伊半島の俯瞰図などで熊野の地理や歴史が把握できるように工夫されている。時代を追うごとにメインルートが変わっていった熊野古道の歴史も体系的に学べるのだ。時間に余裕があるなら、熊野本宮大社に参拝する前にまずはこちらで予備知識を仕入れていくものいいだろう。
田辺市本宮エリアの名湯、川湯温泉へ
本日の行程を終え、一行は宿泊先、川湯温泉へ。湯の峰温泉、渡瀬温泉とならぶ田辺市本宮エリアの名湯で、熊野本宮大社からわずか3.5kmほどの距離。大塔川の河原に湯が湧くことで知られており、スコップやショベルがあれば自分だけの風呂を掘ることもできる。12月~2月末日のみ河原に用意される無料大浴場「仙人風呂」も有名だ。河原で裸になることに抵抗がある人には公衆浴場がオススメ。営業時間は8時~21時、料金は大人250円、小人130円。
川湯温泉にはホテルから民宿まで十数軒の宿泊施設があるが、今回は「山水館 川湯みどりや」にお世話になった。和室・洋室を合わせて客室数90室の大きなホテルで、お風呂は内湯のほか河原に露天風呂があり、宿泊客は田辺市本宮町内からの送迎もしてくれるという。全室のトイレには温水洗浄便座があり、無料Wi-Fiも完備されているのも現代人にはありがたい。客室からは大塔川のせせらぎと、川の向こうの杉の木立が見渡せた。
夕食はミニ会席料理3品とビュッフェを組み合わせたハーフバイキングスタイルでいただいた。ミニ会席は季節の野菜を使った前菜・お造り・和牛のお鍋。ビュッフェは地元熊野の幸をふんだんに使った料理が約30種類あり、そのなかには鮎の塩焼きなど、ほかのビュッフェではお目にかかれないようなものもあった。
大塔川に自分だけの風呂を掘ってみた
川湯温泉で1泊し、翌日は熊野古道の「赤城越」「潮見峠越え」「長尾坂」を歩く……が、その前にやっておきたいことがあった。
それは大塔川に「自分だけの風呂を掘る」ことだ。筆者は、河原を掘ると湯が湧き出る川湯温泉については以前から知っていて、訪れた際にはぜひ掘ってみたいと思っていた。そこで、宿泊した川湯みどりやのフロントでシャベルをお借りし、プレスツアーの行程に支障が出ないよう、夜明けと同時に一団の4名で温泉を堀りに出かけることにした。
湯が湧き出る河原は、ホテルから東に400mほど歩いたところ。歩いていくとその場所はすぐに分かった。先人が掘った湯船やその跡があり、河原全体からうっすらと湯気が出ている。河原に降り、熱い湯が湧いてきたときに温度を調整できるよう、川面に近い場所の大きな石のないところを掘り始める。表面の小石をシャベルで数回取り除くと、すぐに濁った湯が出てきた。しかし、人が1人浸かれるだけの深さの穴を掘るには2、3時間かかりそうなことにも気づいた。そこで掘る大きさを足湯サイズに変更した。掘り始めから足湯に入るまでは、15分ほどだった。
なお、次回は熊野古道「赤木越・長尾坂・潮見峠越」とお土産の情報を紹介する。