旅レポ
ANAが日本~カンボジア直行便を新規就航、伸び盛りの街プノンペンの旅(その1)
到着前から現地の食に触れる、ビジネスクラスのおもてなし
2016年10月6日 13:40
世界遺産「アンコール・ワット」で有名なカンボジア。意外にも、これまで日本からカンボジアへの直行便はなく、タイやベトナム経由での入国が必要だった。そのカンボジアの首都プノンペンへANA(全日本空輸)が9月1日から定期直行便を就航。先日就航セレモニーも行なわれた。
今回は、実際にそのANAの成田~プノンペン線に搭乗。ANAのボーイング 787型機、ビジネスクラスの快適すぎる搭乗体験と、いい意味で想像と大きく違ったプノンペンでの観光を3回に分けてレポートする。
軽食から仕事まであらゆるニーズが満たされるラウンジ
成田~プノンペン線は1日1往復で、日本からの行きが「NH817便」で成田10時50分発、プノンペン15時10分着。帰りが「NH818便」でプノンペン22時50分発、成田 翌日06時45着となる。行きは実質6時間20分のフライトだ。行きは早朝にチェックインし、帰国で成田に着くのも早朝、という便になる。時差は2時間。行きは現地が1日が2時間長く感じ、帰りは搭乗して寝て起きると朝。有意義に時間が使える。
今回はビジネスクラスの搭乗体験だったため、成田空港のANAラウンジも利用ができた。ANAラウンジは、ビジネスクラスの利用者のほか、プレミアムエコノミーサービスの利用者も利用が可能なラウンジだ。成田空港第1ターミナルには、ANAラウンジが第4サテライトと第5サテライトの2カ所ある。今回は第1ターミナル3階、第5サテライト出発ロビーのANAラウンジを利用したが、両方とも基本的な提供内容は同じ。さらに第4サテライトのANAラウンジでは、現在アーケードゲームの「スター・ウォーズ:バトル ポッド」も体験できる。
ファーストクラスや「ダイヤモンドサービス」メンバーが利用できる「ANA SUITE LOUNGE」とANAラウンジは入り口が同じで、中で階が分かれる構造になっている。ラウンジオープン時間は第4サテライトが7時~最終便出発まで、第5サテライトが6時30分~第5サテライト出発の最終便出発まで。このほか、ANAラウンジよりもシンプルな「ANA ARRIVAL LOUNGE」が南1Fに国際線到着、国内線出発の兼用で設置されている(ラウンジオープン時間 6時30分~19時30分)。
第5サテライトのANAラウンジの場合、入ってすぐのカウンターで、当日の航空券を提示。ビジネスは左へ、ファーストは右へ進む。ANAラウンジに入ってすぐ左には新聞や雑誌の置いてあるラックやカウンターがあり、ここで国際線の乗り継ぎのチェックインや座席の変更なども行なえる。
ANAラウンジに入ってすぐの空間には、広々とした座席スペースがあり、右側に軽食がずらりと並んだカウンターが設置されている。プノンペン線は成田10時50分発のため、早朝に自宅を出る方が多い。今回ラウンジに行った9時台は多くの乗客がラウンジで朝食をとっていた。
軽食の内容は、サンドイッチやおにぎり、パンなどの軽食。右奥の「ヌードルバー」と呼ばれるカウンターではうどん、そば、ラーメン、カレーなどがオーダー形式で提供されている。また、生ビールのサーバーやワイン、日本酒などのアルコール類も種類が豊富。早朝だったので利用者は少なかったが、グラスもしっかり冷やされていて準備は完璧だ。フライドポテトや焼きそばなどのフライ物などと一緒に並べられていた。
ラウンジ内は、長いカウンターテーブル、食事がしやすいテーブル席のほか、サイドテーブル付きの大型のソファが革張り、布地、など何種類か設置されていた。壁掛けテレビが見られるソファや、眺めのよい窓際は特に人気がある。また、どの座席にもコンセントが備えつけられ、スマホの充電やノートPCの利用に活用されている。
このラウンジの構造はL字型で、入ってすぐの空間も広いのだが、左奥に進むとさらに広いソファ空間と、仕事に集中しやすそうなテーブルやチェアの揃った静かな空間が広がっていて、こちらにも軽食とドリンクが提供されているカウンターがもうひとつあった。さらに奥には壁で仕切られたマッサージチェアが設置されたスペースや、会議までできそうな広めのテーブルとイスまである。9時台の時点では3割ほどしか席は使われていなかったが、昼間の利用者が多いタイミングでも、目的に応じて十分場所を選べる余裕がありそうだ。
ほかにも、出国フロアでは長い行列ができていることも多い外貨両替ができる外貨自動両替機や、パソコンからのプリントもできるコピー機、専用のトイレ、清潔でメイクもしやすい化粧室のほか、喫煙室や、アメニティ類の揃ったシャワールームも設置。搭乗前のさまざまなニーズに対応できるサービスが提供されており、搭乗や乗り換えで数時間あっても、ここで直前まで快適に過ごせそうだ。
窓際で朝食を取りながら航空機を眺め、快適なWi-Fiでメールの処理をしていると時間はあっという間。快適すぎて時間を忘れそうになる。電源とWi-Fiとプリンターと食事が揃うこの空間で夕方まで仕事し続けたくなる誘惑に駆られたが、10時50分発のNH817はこの日36番搭乗口から10時25分搭乗開始予定。後ろ髪を引かれる思いで搭乗口へ向かった。
シートピッチ約150cmで広々、充実した日本語コンテンツに安心感
快適すぎるANAラウンジから、この日成田~プノンペン線が出発する第1ターミナル3階出発ロビーの第3サテライト、36番搭乗口へ移動。途中、搭乗する機体が見えた。中型機ながら航続距離が長い、国内線でもおなじみのボーイング 787-8型機だ。この日はANAが導入したボーイング 787-8ドリームライナーの1号機、2号機だけにされた特別塗装機だった。
成田~プノンペン線で使われるボーイング 787-8型機は、座席数240席(ビジネス42席、エコノミー198席)のタイプ。ビジネスクラス、エコノミーとも前後で2ブロックに分けられ、ビジネスクラスは中央にバーコーナー、エコノミークラスはギャレイを配置し、サービスを受けやすくなっている。
基本的にビジネスクラスは2-2-2の横6席、エコノミークラスは3-3-3の横9席。エコノミークラスも各座席に個別のモニターが設置されている。搭乗したビジネスクラスの座席は「ANA BUSINESS CRADLE」と呼ばれる座席で、後ろの座席に影響せずに全体が前に動いてリクライニングする構造。シートピッチは約150cmあり、足を伸ばして快適に眠れる広さがある。
各座席には、隣の席との間に「ディバイダー」と呼ばれる大型の仕切りがあるため座っている状態では隣の人の顔はほとんど見えない。2席の中央にリクライニングやモニター、リモコンなどの操作部、コンセントなどがまとめられている。日本国内のコンセントと同様にそのまま使うことができる。
モニター画面は収納されており、アームレストから引き出して視聴。テーブルは逆側のアームレストに収納されている。映画やテレビ番組などの日本語コンテンツが充実しているのは日系航空会社ならでは。雑誌や新聞も、週刊誌から女性誌、スポーツ新聞までさまざま取り揃えられていて安心感があった。
ちなみに、この機体はWi-Fiによるインターネット接続にまだ対応していなかったが、順次Wi-Fi対応になるべく改修されている最中。この路線のボーイング 787-8型機でもWi-Fi接続に対応していく見込みだとのことだ。
アメニティとしては、寝具セットとスリッパ類、ヘッドフォンが各席に配られている。「コンフォーター」と呼ばれる羽毛の掛け布団は軽くて大きく、体全体がすっぽり隠れるかなり大型のもの。スリッパには靴べらつきだ。そのほか寒ければカーディガンの貸し出しサービスも行なわれている。
ちなみに搭乗した便はスムーズに手続きが進みボーディングブリッジを離れたのは早かったが、成田空港の滑走路が混雑しており離陸まではかなり時間がかかった。搭乗してすぐにウエルカムドリンクが配られ、リラックスして離陸までの時間を過ごせた。
定評あるANAセレクトのワイン。うま味が強く香草の風味を感じるメニューに満足
離陸から1時間ほどで、ドリンクのサービスが始まった。充実したワインのラインアップのほか、日本酒、ビール、カクテルなどのアルコール類、お茶やジュース、コーラなどのノンアルコール類のラインアップも数多い。個人的には以前ANAの便に乗ったときとてもおいしいオーストラリア産のシラーズを知ってしばらくシラーズばかり飲み続けていたことがあったので、今回もワインのラインアップが楽しみだった。ANAのファーストクラス、ビジネスクラスはこれまで世界的な機内ワインのセレクションで数々の賞を受賞しているだけあって間違いない印象だ。
担当いただいたCA(客室乗務員)さんによると、今回の白ワインでは、特にブルゴーニュ産のシャルドネがおすすめだという。ニュージーランド産のソーヴィニヨン・ブランとどちらにするか迷っていたら、どちらも注いでくれ、飲み比べになってしまった。幸せだ。ここでずっと飲み比べしていたい。
CAさんが勧めてくれた「マコン・リュニー・レ・ジュニエーブル【2014】」は確かにとてもおいしくて感動。1本3180円(税込、ANAショッピングA-styleでの価格)のワインで、今回の旅で飲んだお酒の中で一番おいしかった。
以前、同じようにANAで知ったワインが国内でどこにも売っておらず何年も入手できなかった経験があったので、帰国後ANAの公式通販サイト「ANAショッピングA-style」で数本確保。ANAのビジネスクラスやファーストクラスに採用されたワインが、ときどきANAの公式通販でしか入手できない珍しいものであることがあるのだが、これもそういうタイプのワインなのか、ほかで見当たらなかった。ANAの公式通販は侮れない。
さて、肝心の食事は「和食」か「洋食」から選択できる。洋食は、アペタイザーが「牛タンのテリーヌ スモークサーモントラウトと蜜柑のソース」。メインディッシュは「チキンのロースト ハニーとコリアンダーの香り ハニーとヴィネガー風味のソース」か、「カサゴの唐揚げのアジアンスパイシー風 ターメリックライスを添えて」のどちらかを選択する。ブレッドが添えられるほか、デザートは月替わりで、9月が「ココパッション」だった。
味はというと、アペタイザーのテリーヌは牛タンが使われていて食感が楽しい一品。添えられたにこごりはレモングラスが効き、うま味も強い。これが少しの量だったのに忘れられないおいしさだった。スモークサーモンは、ズッキーニや塩とハーブで味付けされたクリームチーズに乗せられていて、オレンジのソースがとてもさわやか。ピクルスは酸味とうま味の両方を強く感じた。
メインには「カサゴの唐揚げのアジアンスパイシー風 ターメリックライスを添えて」を選択。少しピリ辛の味付けの中にコリアンダーの香りがして、あっさりしたサフランライスとよく合う味付けだった。これからこうした香草たっぷりの食事をしにいくのだ、とあらためて意識。実際、旅行中食べた多くの料理にこのコリアンダーの味がした。
デザートはパッションフルーツとココナッツのムース。下層がパンナコッタ、上部がムースの構造で、トッピングされた甘いマンゴーや、カリカリしたパッションフルーツの種などいろいろな食感が1皿で楽しめるデザートだ。
和食は「烏賊と紅鮭のやんしゅう漬け」「つぶ貝昆布〆」「牛時雨稲荷うどん」「紅鮭昆布巻き」を口取りに、「鰆みぞれ煮」「俵御飯」を主菜に、味噌汁、和菓子に「狭山ほうじ茶葛餅」で構成されたメニュー。残念ながらいただいてはいないが、繊細な飾り付けで見た目にも鮮やか。世界的な和食ブームを受けてうま味にだしを効かせるなどこだわったメニューだそうで、とてもおいしそうだった。
食後はコーヒーや紅茶などのドリンクやお菓子がサーブされた。このとき出されたビスケット「フォンダンビスキュイ(ミルク)」が初めて食べる食感でとてもおいしくて、何度か後述のバーコーナーに取りに行ってしまった。あとから調べたら“麦チョコ産みの親”の東京の洋菓子店「レーマン」のお菓子だった。次回東京からお土産を買う必要が出たらここのものを買おうと心に決めた。
食後はビジネスクラス用のバーラウンジがオープン。着陸前には「軽めのお食事」も提供
2ブロックに分かれたビジネスクラスの中央には、少し立っていたいときに使えるバーコーナーが設置されている。ここでワインや、チョコレートやビスケット、おかきなど少しつまめるものが提供されているほか、新聞や雑誌、歯ブラシセット、マウスリフレッシュ、アイマスク、イヤプラグ、フェイス&ハンドクリーム、マスク、くしなどのアメニティ、快眠用のANAオリジナルのアロマカードなどが自由に手に取れるようになっていた。ワインなどはもちろんCAさんがサーブしてくれる。
このバーコーナーに設置されていた、カンボジアと日本の国旗、青と赤の折り鶴は、成田~プノンペン線の就航を記念した、キャプテンとクルーの方々の手作りのもの。同じようにエコノミークラスのギャレーにもディスプレイされていた。エコノミークラスのほうに展示してあったカンボジア国旗は寺院の柄もキャプテンが手書きしたそうで、あまりの細かさに挫折してビジネスクラスのほうはプリントしたそうだ。
また、細かい情報だがANAグループ機内誌の「翼の王国(WINGSPAN)」9月号は「今月の旅先」という特集にカンボジアを紹介。アンコール・ワット近郊の街シェムリアップを中心にカンボジアの食や民間医療とハーブの関わりについて書かれた内容なのだが、旅の間とても役に立った。
カンボジアの伝統料理「クメール料理」を食べると、ほとんどの料理に強いハーブの香りがして、皿の底にすりつぶされたハーブが姿を現す。機内で読んでいたこの記事のおかげで、それがハーブ類をすりつぶして作るクメール料理のベースとなる「クルーン」と呼ばれるペースト状の調味料によるものだと理解できた。サラダの調味料からカレーのベースまで、ハーブ類を鉢の中でトントンたたいてすりつぶして作るこのクルーンを何度も意識させられ、カンボジア滞在中の食事がとても理解しやすかった。
さて、1回目の食事が終わったあと、「舞茸うどん」や「チキンカツサンドウィッチ」「芽乃舎 野菜スープ」などの「軽めのお食事」を、好きな時間に好きな量を頼むことができる。着陸の1時間ほど少し前に取る人が多いようだ。
この「軽めのお食事」メニューにあった「芽乃舎 野菜スープ」は、数年前からブームが続く、芽乃舎(かやのや)のだしをベースにしたもの。東京ミッドタウンやコレド室町3にも店舗を構えるこの大人気ブランドのだしを使ったスープをお願いした。クメール料理の味のベースがクルーンなら、日本料理の味のベースはだし。期待どおりのおいしさに満足できた。
着陸が近くなり、CAさんから成田~プノンペン線就航記念のステッカーが配られた。プノンペンにある王宮と独立記念塔がモチーフになった明るいステッカーだ。最後に小型のペットボトルに入った水も配られた。着陸後にそれほど意識せずカバンに入れていたのだが、結果的にこのペットボトルが滞在中活用することになった。
そうこうしているうちに飛行機はどんどん高度を下げ、プノンペン国際空港に着陸体勢に入った。眼下に見える見たことのないほど巨大な入道雲、広い湿地と自由に氾濫する川、どこまでも青々と広がる田畑にここが農業国だと再確認させられる。一方で中心部が近づくと大量の一戸建てが並ぶ開発区や工場が突然現れ始め、今まさに激変しつつある街の姿が垣間見える。着陸前に眼下に広がるこのプノンペン郊外から街中への光景は必見だ。
成田を出発してプノンペンまでは6時間20分の旅だが、感覚的にはとても短く感じた。到着時、現地は時差が2時間。日本時間では17時台だが、こちらの時間ではまだ15時。空港からの移動を考えても、時間的には当日中にまだ少し観光をする余裕があるのがありがたい。
プノンペン国際空港は2001年に完成した比較的新しい空港だ。長さ3000m×幅44mの滑走路が1本ある。日本の地方都市にありそうな小さな空港だが、近代化されており入国審査もスムーズ。20以上の国際線の航空会社が就航し、4つの国内線が就航している。発着回数は年間約3万6千回、利用者数は300万人ほどで、2015年に有料ラウンジもオープン。こちらも今まさに空港内のあちこちで施設や店舗の整備が続けられている最中だ。
空港内は近代化され、入国手続きもスムーズ。ただし、手荷物を受け取って、一歩外に出ると喧噪に巻き込まれるので、ビジネスクラスのゆったりとした空気との落差に引きそうになるが、まずは空港内でUSドルと少額のカンボジアクメールへの両替、5ドルほどのスマホのSIMカードの入手、12ドルのエアポートタクシーの定額チケットなどをカウンターで購入してタクシーで市内へ向かう。コツさえ押さえれば激変するプノンペンの街は想像以上に楽しめるはずだ。次回以降にてお伝えしたい。