旅レポ
ANAが日本~カンボジア直行便を新規就航、伸び盛りの街プノンペンの旅(その2)
市内北側の美術とグルメめぐり
2016年10月6日 13:41
タイとベトナムの間に位置する、落ち着いてまだ20年の若い国
あらためて、カンボジアの概要を説明したい。現在の「カンボジア王国」は東南アジアのインドシナ半島に位置する国で、日本の約1/2弱の広さ。西をタイ、東をベトナムに国境を接し、首都はプノンペン。日本からはANAの直行便で6時間20分、時差は2時間。人口は約1500万人で、プノンペン周辺に約200万人、アンコール・ワットで有名なシェムリアップには約10万人が住む。シュムリアップへの観光客数は年間500万人。主要産業はGDPの30%以上を占める農業で、次いで縫製業や建築業、観光業などが占める。平均年齢が24.9歳という、日本の46.9歳と比べると恐ろしく若い人の多い国でもある。
歴史的にはインドと中国の中継地点として9~13世紀にクメール王国として繁栄し、一時インドシナ半島に広く勢力を広げる。その後さまざな経緯を経てから1993年に国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)主導で選挙が実施され、新生「カンボジア王国」が誕生、1998年の第2回の総選挙後、1999年にASEANに正式加盟。これ以降、海外からの投資が増加して急速に発展している。
UNTACからの流れもあり、欧米や日本の政府、NGOなどの支援団体の活動がいまなお盛んで、観光地ではNGO関連団体が運営するショップをよく見かける。一方で現在、プノンペンの街中は開発ラッシュで、いたるところで高層ビルや高級コンドミニアムが建設されている。プノンペンの街中では電気・ガス・水道などのインフラは一通り問題ないレベルで、滞在中停電もなかった。特に水道に関しては、日本の北九州市上下水道局が技術支援していることもあり東南アジアではめずらしく水道の水を飲んでも問題ないほとレベルが高い。
公用語はクメール語で、通貨はリエル(4000リエル=1ドル)。紙幣だけで硬貨はない。ただしプノンペンの街中ではほとんどがUSドルでも表記されており、1ドル以下のおつりはリエル札で払われる。店員にも簡単な英語が通じるので、街中には欧米人の観光客がかなり多い。
ちなみに言語や料理で使われる「クメール」という表記は、元の語源は「カンボジア」と同じ。一般的に国名にはカンボジア、伝統的な文化や料理については「クメール」が使われる。
街中はトゥクトゥクで移動。観光では朝早いスタートが必須
移動の基本は3輪タクシーのトゥクトゥク。プノンペンはそれほど広くない街で、有名な観光地やレストランは縦横4km程度のエリアに集中している。電車もバスもなく、タクシーも少ないのでトゥクトゥクでの移動がメインになる。
ただ、このトゥクトゥクの当たり外れと値段交渉が観光客にとって実は一番面倒に感じた。プノンペンはタイやベトナムに比べるとお店の客引きなどがほとんどおらず観光しやすいのだが、このトゥクトゥクの客引きだけは非常にしつこいし、メーターもないので値段交渉も面倒だ。そのため一日街中の観光をするなら貸し切りが最適。料金は8時間で30ドル(約3120円、1ドル=104円換算)程度。トゥクトゥクを貸し切りするときは、宿泊しているホテルが契約している人を頼むと間違いない。
また、トゥクトゥクに乗っていてもすれ違いざまにバイクに荷物をひったくられたり、携帯電話を盗られるということも起きる。トゥクトゥクに乗っている間は荷物を座席に置かずに抱える。カメラはたすき掛け、携帯電話はカバンにしまう、などの対策は必要だ。なお、カンボジアでも「Pokémon GO」が開始されているが街中にはさほどポケストップは多くなく、ユーザーもあまりみかけない。防犯面からもトゥクトゥクや歩道でのプレイは危険。車の中やレストラン以外では自粛したほうがよさそうだ。
また、もしSIMフリーのスマホがあればぜひ現地のSIMカードを購入することをおすすめする。数日の滞在なら5ドル(約520円)ほどで十分だ。SIMカードは空港や街中の携帯電話ショップなどいたるところで入手できる。プノンペン市内のWi-Fiの普及率はかなり高く、レストランやカフェ、ショップではたいてい無料のWi-Fiが提供されているので日本で使っているスマホでもポイントごとに利用はできるのだが、トゥクトゥクのドライバーと待ち合わせしたり、一緒に行く旅仲間同士で連絡を取ったりするときは現地の番号が使えると自由度が非常に高くなる。プノンペン観光ではガイドブックを頼りに行ってみたが移転していたとか、レストランの開店時間が変わっているなど想定外の場面に頻繁に出くわす。「次の手」を探すのにもスマホは便利だ。
この日は現地に住む日本人の方に同行をお願いして、トゥクトゥクでプノンペン市内、おもに北半分の観光へ向かった。朝6時30分起床、ホテルで朝食をとって、8時30分にはホテルを出発。朝早めでも2時間の時差があるのでラクだった。プノンペンの観光地はほとんどの施設が8時からオープンしていて、逆に昼は11時~14時の3時間の長い休憩がある場合があり、夕方は17時には終了する場合もある。朝のうちにどのくらい見て回れるかで充実度が変わってくるようだ。
王宮、シルバーパゴダ、国立博物館でクメールの歴史と美術に触れる
まずは王宮観光からスタート。王宮は、現在のカンボジア国王のシハモニ王が実際に居住し、公務が行われている場所。公開されている一部分を見学できる。入場料は6.5ドル(約676円)。現在の建物は1919年にフランス人建築家が再建したもの。
広々とした王宮内には大小20ほどの建築物がある。基本的には外観を見るのみだが、ていねいに手入れされた庭の緑と、黄金の宮殿とのコントラストがとても美しい。各建築物は伝統的なクメール様式の屋根で、ところどころヨーロッパの様式が融合したような不思議な美しさもある。
王宮観光のメインは中央の「即位殿」。クメール様式の屋根と尖塔が見事。残念ながら内部は撮影禁止だが、入り口から中を見ることができる。伝統的な外観に反して中はフランスの宮殿のような作りになっている不思議な作りで思わず二度見するがそれはそれで見応えがある。
王宮のとなりには、仏教行事が行われる「シルバーパゴダ」と呼ばれる建物があり、こちらも内部が豪華絢爛。床にはシルバーのタイルが敷きつめられ、天井にはシャンデリア。金銀で作られ宝石がちりばめられた、大小さまざまな仏像が納められている。どれもあっさり陳列されていて、ひとつひとつの解説は少ないのだが、こんなにすごい宝物が一カ所に集められていいのかというぐらいの集結ぶりだった。
シルバーパゴダの周囲は長い壁画回廊。修復中のカ所も多いがヒンドゥー教の聖典「ラーマーヤナ」のストーリーが緻密に描かれていて見応えがある。この壁画回廊、なぜか多くの観光客はほとんどパスしていて、独占状態。ラーマーヤナのあらすじを見ながら鑑賞するととても面白い。
シルバーパゴダから出口に向かうと「クメール文化・生活博物館」があり、玉座から宝物、衣装まで大量に展示されている。こちらはどこも象のモチーフだらけ。昔カンボジアには像が大量にいたそうで、一説によると植民地時代にフランス政府が開発に邪魔だからとタイに3万頭売ってしまい、激減したらしいが、それも信じられるぐらいにモチーフとして像だらけだった。出口近くには伝統的な住居が再現されていて、こちらもとても興味深い。
王宮の北には国立博物館がある。入館料は5ドル(約520円)。アンコール・ワットを代表とする、各地の遺跡から発掘された文化財が集められた博物館だ。建物は真っ赤なクメール様式の建物。建物の外観と中庭は撮影可能だが、内部は撮影不可。ちなみに日本人の団体観光客と出会ったのは旅をとおして空港とここだけだった。
館内は大きな回廊になっており、時代を追って見て回ることができる。展示物は、石像やレリーフ、伝統的な織物などが中心。アンコール・ワット観光の前後にセットで見ると、「この像があの遺跡から発掘されたのか」とピースがつながる。月、水、金、土の19時~20時には、敷地内で伝統舞踊の「アプサラダンス」や演劇も行なわれている。15~25ドル(約1560~2600円)のチケット制。
マイルドなカンボジア料理を堪能。巨大なセントラル・マーケットに圧倒
王宮、シルバーパゴダ、国立博物館とめぐって時間は12時すぎ。国立博物館の近くは、「アートショップ通り」と呼ばれるエリアで、絵画や仏像、お土産物を売る店が並んでいる。その通りにあるショップのひとつ「Watthan Artisans Cambodia.2」へ。デザインがよく、ていねいに作られた洋服やアクセサリー、木彫りの品が並ぶ店で、地雷によって負傷した人などを手工芸品の職人として育成し自立支援を促す団体が運営している。
続いてカンボジア料理をベースにしたキュイジーヌレストラン「ロムデン(ROMDENG)」で昼食。ストリートチルドレンとその家族を支援する団体が運営するレストランで、調理や接客トレーニングの場としても使われている。料理の美味しさで定評があり、13時すぎには欧米人の客でいっぱいになっていた。
店内は、緑あふれる庭のある一軒家を改築した作り。子供たちの描いた絵画や雑貨類を売るスペースが併設されている。インターネット上の情報では、カンボジアで一般的に食べられるという「蜘蛛の素揚げ」で有名な店だが、もちろんほかの料理も美味しい。どれもハーブをベースにていねいに作られたマイルドな味で食べやすい。特にチキンのカレーはとても美味しかった。カンボジアではカレーはフランスパンで食べるのが基本だそうで、確かにスープカレーが食べやすかった。
食事を終えて中心街にある「セントラル・マーケット」へ。歴史ある市場だが、2013年に改築され、通路も比較的広くて観光しやすい。中央に広いドームがあり、そこを中心に×の字状に棟が伸びる独特の形をしている。衣類から雑貨、電化製品、宝飾品、食材、食堂まで種類ごとにあらゆる店が並ぶ。観光客も多いが市場として地元の人が日常的に利用している場で、食材は新鮮なものがあると定評があるそうだ。
館内の各店舗は、ベトナムやタイに比べると客引きはあまり激しくないので比較的ゆっくり見て回れる。英語は数字や色などはたいてい通じた。値段の表示はないので交渉は必須だが、最初に10倍からスタートするベトナムの市場などとは違い、数件聞いた限りでは高くても1.5倍ぐらいの提示か、値引きがないといった具合でそれほど高額を示されることはなかった。Tシャツなどの衣類から雑貨、お土産物などあらゆるものが並ぶ。ただ、「かわいいな」と思って手に取るとベトナム産だったりタイ産だったりすることも多く、現地産ではないものも多いようだ。
プノンペンのセントラルマーケット #theta360 -Spherical Image - RICOH THETA
ワット・プノン観光&リバーサイドの人気スイーツで癒される
次に、プノンペンの街の由来となった寺「ワット・プノン」へ。街の北にある、丘の上に建てられたこじんまりした寺で、周辺は緑豊かな公園になっていてすがすがしい空気が漂うエリアだ。建立したのは14世紀末にこの地に住んでいた裕福なペン夫人。婦人がメコン川から拾った流木に仏像があったため、その仏像を安置するために建てたのがこのワット・プノン(=丘の寺)である。つまり現在の街の名前「プノンペン」は、「ペン夫人の丘」、という意味だ。このペン夫人の立像が、ワット・プノンに隣接する広場に立てられている。
ワットプノン #theta360 -Spherical Image - RICOH THETA
ワット・プノンへの入場は外国人は1ドル(約104円)が必要。入り口右のチケット売り場でチケットを購入し、両側にナーガの立つ階段を上ると、赤い本堂がある。ここは内部も撮影が可能。中央には黄金の仏像があり、その周りにも複数の仏像が安置されている。壁面や天井には仏陀の一生が描かれ、見応えがある。地元の人にとってのパワースポットとしていまも信仰を集めているそうで、ロウソクや花、お供え物などが多数並んでいた。
ワット・プノンの近くにはコロニアル風の建物の中央郵便局があり、郵便やEMSなどはここから発送できる。記念切手などもここで購入可能だ。この郵便局でこの旅唯一の自販機をみかけたので、トゥクトゥクの背中に大量に広告が出ていた「SAMURAI」を飲んでみた。炭酸入りの甘い甘いエナジードリンクで、かき氷のイチゴを溶かした味がした。しかし甘い。
そのままトレンサップ川沿いの「リバーサイド」と呼ばれるエリアへ向かい、人気のアイスクリーム店「blue pumpkin」へ。プノンペン市内やシェムリアップ、空港などにも店舗がある人気店で、種類豊富なアイスクリームや、美味しそうなパンなどの軽食がとれる。リバーサイド店の2階はゆったりしたソファが並ぶオシャレなスペースもある。一押しは「ドリアン」だそうで、恐る恐る食べてみたがクリーミーで非常に美味しかった。
このほか、リバーサイドにはカジュアルで雰囲気のよいカフェがたくさんある。地元の人気店「BROWN」ではパンやスイーツも併売されていて小腹も満たせる。コーヒーは十分美味しいが、指定しないとアイスコーヒー類は基本的にシロップ入りになり非常に甘くされてしまうので注意。このリバーサイド、基本的には外国人向けのオシャレな店やブティックホテルが並ぶ雰囲気のいいエリアだが、夜遅くになると治安にやや不安がある地域でもあるようだ。
このリバーサイドは、シソワット・キー通り沿いに広い歩道が整備されたエリアで、地元の子供がサッカーをしたり、大人数でエアロビをしたりしている。ベンチも多いので川を見ながらゆっくり雰囲気を楽しめるスペースだ。トレンサップ川を下る遊覧船もいくつか運航されている。大小多くの遊覧船があり特に夕方は雰囲気もよい。客引きによるトラブルもあるようなので、ホテルでおすすめの遊覧船を紹介してもらうと安心だ。夕方は雨が降っていることも多いので、夕日が見れそうなチャンスがあったら逃さないようにしたい。
プノンペンはエステ天国。ショップのレベルは玉石混交で下調べ必須
プノンペンは、実はスパやマッサージのお店が多い。1時間あたり15~20ドル(約1560円~2080円)程度と安いので、滞在中毎日受けるビジネスマンも多いそうだ。ただし、腕の良さはピンキリなので、レベルの高い施術が受けられる店舗を選ぶ必要はある。女子旅なら、毎日エステ三昧というプランも楽しそうだ。
ネイルバーも多く、市場でもネイルの店舗や出張で地元の人にネイルをしている姿をよくみかけた。夕方、リバーサイドからアートショップ通りに戻り、ストリートチルドレンやその家族を支援する欧米系の団体が運営するショップ「FRIENDS 'N' STUFF」」へ行った際に、併設されたネイルバーをトライしてみた。ネイルで5.5ドル(約572円)、ネイルアートがプラス4ドル(約416円)と格安。衛生状態には差があるので、機具などがしっかり殺菌されている、安心できるお店がよい。
その後は、さらに気になるショップを巡ったり、プノンペンで特徴あるお土産物などを探索。ガイドさんの紹介でNGO団体が主体になって行なわれていたベンチャーショップの集まる展示会に参加させてもらった。
天然素材のせっけん、シルクのスカーフ、銃弾を再利用したアクセサリなどをお土産に購入。すでにショップがある人気店から、オンライン販売やイベント時に出店する店舗などさまざまだったが、オーナーは欧米系で現地在住の方が多かった。週末ベンチャー起業のような形でトライしたり、数年で事業化したりと活動がとてもうまい。こうした起業家の集まりが定期的に行なわれていて、交流がとても盛んなようだった。
一方で、日本からも大手企業の進出はもちろん、カンボジアに個人で起業に来る人もとても多いそうだ。在カンボジアの日本人は2270人(2014年10月現在、外務省発表数値)。街中には和食店や焼き肉店など日本人向けのレストランが想像以上に多い。日本でプノンペン情報がほとんど入手できなかったのに、現地に着いたとたん、日本人向けに現地情報を伝えるフリーペーパーを4~5種類ホテルで渡された。どれも観光情報やレストラン情報、現地事情が掲載され、定期発行されている。これだけ日本国内と現地で、同じ日本語情報でありながら差があるところもめずらしい。
カンボジアは、ビジネスビザが300ドル(約3万1200円)で取得でき、外資に対する投資優遇措置がとても手厚い。急速に発展している街だけあって、アイディアひとつでチャレンジしやすい面があるとのこと。夢破れて帰国する人ももちろん多いそうだが、平均年齢が若く勢いがあり、まだ足りないものが多い街である点が魅力的なようで、トライしに来る人が後を絶たないそうだ。
この日、街中をまる1日トゥクトゥクで巡るだけでも街の玉石混交ぶりが手にとるようにわかって面白かった。市場でも有名な通りでも、「このあたりならまず失敗する店はない」「歩くだけでウインドウショッピングが楽しい」というエリアはなく、よい店が残念な店の間に紛れているので、たった4km四方の中心地なのに、ピンポイントでトゥクトゥクで移動するのが効率的。短い時間で効率よく周るには、入念な下調べが必須の街だとよくわかった。
この日は交流会で話し込んでしまい、観光はここまでで終了。21時にはホテルに戻って簡単に食事をして就寝し、最終日の朝早い観光に備えた。