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NEXCO中日本、東名高速の橋梁リニューアル工事現場を公開

将来にわたって長く安心して使えるように

2016年5月23日 公開

リニューアル工事が行なわれている用宗高架橋

 NEXCO中日本(中日本高速道路)は5月23日、高速道路リニューアルプロジェクトについての説明会を実施するとともに、この5月からリニューアル工事に着手した東名高速道路の静岡IC(インターチェンジ)~焼津IC間にある「用宗高架橋」(もちむねこうかきょう・静岡市駿河区)の現場を公開した。

中日本高速道路株式会社 代表取締役社長CEO 宮池克人氏

 静岡保全・サービスセンター(静岡市駿河区)で行なわれた説明会には、NEXCO中日本 代表取締役社長CEO 宮池克人氏およびNEXCO中日本 静岡保全・サービスセンター所長 石橋善明氏が出席した。

 宮池CEOはまず、NEXCO中日本管内における高速道路の現況に触れ、「名神高速道路は開通して50年以上経っている」「30年以上経過した道路が60%」であり、老朽化が進んでいると説明。その要因については「大型車の交通量増加」「過積載」「冬期に使用する凍結防止剤(塩化ナトリウム)」などを挙げた。

 こうした道路の老朽化はすでにアメリカで顕在化しており、1930年~40年代に多く架けられた橋梁が1980年代に崩落などの被害が起き、「荒廃するアメリカ」と呼ばれたことを紹介。「日本はアメリカより30年ほど遅れて道路建設が進んだため、2010年代以降に多くの道路施設が老朽化」「同じ轍を踏まないために大規模なリニューアル工事をはじめた」と、工事の意義を説明。

 工事を行なうポイントは橋梁、土構造物、トンネルであり、橋梁については耐久性の高いコンクリート製床版に交換、さらに床版の上に高性能な防水材を使用すると工事内容を紹介。「将来にわたって長く安心して使える」とした。そのほか、斜面に打ち込むグラウンドアンカーの打ち増し、トンネルの損傷を防ぐ工事も併せて行なうとした。

 また、こうした工事を行なうことで渋滞が発生してしまうのは避けられないが、「できるだけ工事の期間を短くするためにプレキャストの製品を使う」ほか、「対面通行、あるいはダブルネットワークを使いながら、交通に対する規制を最小限にして工事を進めていく。皆さまのご協力をお願いしたい」と話した。

 ただし、例年行なっている「集中工事」と異なり、土日祝日も工事を行ない、期間も約2カ月と長期に渡るため、「夏休み前までには終了する予定だが週末などは渋滞する可能性がある。Webサイトやポスター、リーフレット、情報板、渋滞予測などを出しているのでご利用いただいて、できるだけ渋滞回避にご協力をお願いしたい」と利用者への協力を呼びかけた。

 昨年からスタートしたリニューアル工事はこれから15年(2015年~2029年)かけて実施される。予算は「最初の5年間で2000億円、5年~10年で4000億円、10年~15年で4000億円と合計で1兆円規模を予定」しており、原資については「道路の償還期間を10年間延長する」と説明。「道路が将来に長く使えるようなカタチでリニューアルを進めていく」と締めくくった。

高速道路の現状
老朽化が進展する高速道路
日本の橋梁の現状
日本とアメリカにおける橋梁の現状
荒廃するアメリカが示唆するもの
リニューアル工事内容
リニューアル工事内容
高速道路リニューアルプロジェクトの工夫
集中工事との違い
2016年度のリニューアル工事の予定
おわりに
NEXCO中日本 静岡保全・サービスセンター所長 石橋善明氏

 続いて石橋所長が用宗高架橋(静岡市駿河区)工事の概要を説明。同高架橋は1969年2月1日に供用を開始した9径間、全長252mの鋼製鈑桁橋で、工事が必要とされるのはP7橋脚、P8橋脚、A2橋台間の延長72m。工事前の状況は「床版からの漏水が見られる」とのこと。これは「コンクリート床版の中に雨水がしみこんで鉄筋がさびて膨張、浮きや剥離が発生したもの」で、その後の調査により床版を貫通するひび割れも確認。これまでも床版増圧などの補修実績があるものの「東海道本線の上空でもあり抜本的な対策が必要であると判断された」と説明した。

【お詫びと訂正】初出時、用宗高架橋の所在地ならびに、石橋善明氏の氏名表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

用宗高架橋の概要
用宗高架橋の工事概要
用宗高架橋の工事概要
影響を最小限にする工夫

 工事については「工事箇所の交通を遮断するための切り替え工事」を5月9日から5月17日にかけて実施。5月18日0時から対面通行を開始したことにより、本体工事に着手。5月22日までに舗装面の切削および壁高欄を撤去。5月23日からコンクリート床版の撤去および新しい床版のセット、壁高欄の設置、床版の防水工事、舗装と続く。これを7月2日までに完了し、上下線の復旧工事を経て7月10日には工事を完了する予定だという。

工事部分の模型

 今回の工事にあたっては利用者への影響を最小限とするための工夫として、「路肩を利用した上下4車線化」「プレキャスト製品による工事期間の短縮」の2点をピックアップ。

 前者は3車線道路として供用されていた上り線を4車線化したもので、「車線幅は若干狭くなっているものの片側2車線を確保することができ、交通集中による渋滞はほとんど発生しないと見込んでいる」とした。

変更前

路肩(3250mm)/第1走行車線(3500mm)/第2走行車線(3750mm)/第3走行車線(3500mm)/側帯(750mm)

変更後

路肩(500mm)/上り走行車線(3250mm)/上り走行車線(3250mm)/中央分離帯(1060mm)/下り走行車線(3250mm)/下り走行車線(3250mm)/路肩(500mm)

 後者についてはプレキャスト床版を使用することで「現地で型枠を組んで、鉄筋を組んで、コンクリートを打設する、という従来工法に比べ約1カ月の工期短縮を見込んでいる」と説明した。

用宗高架橋。直下をJR東海道本線が通っている
奥がP7橋脚、手前がP8橋脚。この部分だけ補修対象となったのは元々の施工方法が異なっていたためでは? とのこと
下を通る市道にはリニューアル工事の看板が建てられていた
現場は上り線を利用して上下4車線の対面通行になっている(NEXCO中日本提供)
東京側を見たところ
取材日は既設床版の撤去作業が行なわれていた。大きな音が出る工事は昼間に行なわれる
10トン車で運搬できるよう1.95×5.5m(約5.5トン)に切断
切断した床版をジャッキで桁から引き剥がす
170トンクレーンを使って床版を撤去
1日あたり7枚ぐらい交換する。新床版の設置は夜間に行なう(NEXCO中日本提供)
これが壁高欄と呼ばれる部分
撤去された壁高欄(中央分離帯側)。新設するのはプレキャストになる
撤去された壁高欄。こちら側は従来通り型枠を作ってコンクリートを打設する方法になる
鋼製の桁に劣化は見られない。ここに新しい床版をセットする
「合理化継ぎ手構造」を採用したプレキャスト床版。床版厚を薄くできるほか施工性の向上などのメリットがある
手前が中央分離帯側になる。サイズは1.95×12~13mで重量は約12~13トンほど。72mの工事区間で33枚を使用する
間詰め部。2枚の床版を付き合わせてから縦方向の鉄筋を組みコンクリートを打設する
事前に2本の鉄筋の間に縦方向の鉄筋を配筋しておくことができるため作業性が向上

(安田 剛)