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国交省、フライトシミュレータや整備場、管制塔で空の安全を守る現場を紹介

羽田の管制塔から空港はどう見える?

2016年2月16日 実施

 国土交通省航空局は、報道関係者向けに航空の安全・安心への取り組みを紹介する「航空の安全・安心ツアー」を東京・羽田空港で2月16日に実施した。

 国交省では現在、羽田空港の機能強化を目指して飛行経路の変更などを検討しており、新しい飛行経路に関係する自治体の住民に理解を求めるべく説明会などを実施している。このツアーもその一環として行なわれたもので、国交省が航空の安全に対してどのような取り組みを行なっているかを、JAL(日本航空)、ANA(全日本空輸)、定期航空協会の協力を得て実施した。

 ここでは主に「パイロット」「整備」「地上」という3つの観点で国交省、各航空会社が実施している安全への取り組みを説明。順に紹介していく。

「技能」「言語」「身体」の観点で管理される―パイロットの安全性

 まずはJALと協力してパイロットの安全性について説明が行なわれた。パイロットは国が一定の基準を定めて、その基準をクリアした人に資格(ライセンス)が与えられるのは想像のとおりだ。加えて、航空会社ごとに別途基準を設けていることもある。

 航空会社のパイロットとして乗務を行なううえで、国交省では大きく3つの基準のクリアを求めている。飛行機を操縦する「技能」、地上管制官らとのコミュニケーションに欠かせない「語学力」、心身ともに健康に運航できる「身体」の3点だ。

「技能」は求められる資格としてはもっともイメージしやすいだろう。専門的には「航空従事者技能証明」と呼ばれる。学科試験、実地試験に合格することで交付される。

 その資格は細分化されており、航空機の種類がいわゆる一般的な固定翼なのか、ヘリコプターのような回転翼なのか、エンジンはレシプロかタービンなのか、機体の型式はどれなのか、など航空機の種類ごとに限定して資格が認められる。例えば、ボーイング製の飛行機は自動車のハンドル(正確には円ではないのだが)のような操縦桿であるのに対して、エアバス製の飛行機はジョイスティック型の操縦桿となる。このように機種ごとの個性に応じた技能を有しているかが基準になるのだ。また、技能証明の維持をするためには定められた技能審査などを毎年継続的に行なう必要もある。

 さらに、技能証明の種類も細分化されている。パイロットについては「自家用操縦士」「事業用操縦士」「准定期運送用操縦士」「定期運送用操縦士」といった資格が用意されており、このうち事業として(つまり有償で)飛行機を運航する際の操縦士は後者3種類の資格が必要になる。なかでも機長になるには「定期運送用操縦士」の資格を持つことが求められる。

 続いての「語学力」ははっきり言ってしまえば「英語力」である。地上の管制官、同じエリアを航行しているほかの飛行機のコミュニケーションをとるために、国際線(より正確には国際航行)を行なう場合には、「航空英語能力証明」で一定以上の資格を有することが求められる。これはICAO(国際民間航空機関)でも定められていることで、国交省も国際基準に沿う規定としているわけだ。国内航行のみを行なう場合はこの証明は求められない。

 求められる英語能力は、一般英語と航空英語に関して「話せる」「理解できる」こと。読み書きの能力は問われない。試験はやはり学科と実地が実施され、両方をパスすることで交付される。

 また航空英語能力証明は、その能力に応じて6段階のレベルが定められる。最上位の「レベル6(Expert)」は母国語(ネイティブ)レベルの英語力を持つ人に与えられ、無期限の資格となる。国際航行を行なうには、このレベル6または「レベル5(Extended)」「レベル4(Operational)」の資格を有することが必要となるが、レベル5とレベル4は有効期間がそれぞれ6年、3年に限定されており、それぞれの期間に合わせて更新する必要がある。

 3つ目の条件となる「身体」については、心身ともに健康であることを証明する「航空身体検査証明」を受ける必要がある。航空身体検査証明は、航空身体検査指定機関で検査を受けた結果を、国土交通大臣または指定航空身体検査医に提出して、航空法で定めされた身体検査基準に適合すると認められれば交付されるという流れになっている。指定機関、指定医ともにその指定の有効期間も定められている。

 検査項目も単なる健康診断というわけではなく、特に視力については、一般の遠見視力だけでなく、近見視力、視野角など多角的に検査される。

 国交省ではこのように基準を定めているが、すべては航空機を安全に飛ばす能力を有するかという観点で定めている。この基準は固定されたものではなく、例えば航空事故などで新たな問題点が見つかればそれに対応した厳しい基準を定めることもあれば、テクノロジの進化で不要な技能など、時代に合わせて変化するものであるという、

 一方、航空会社であるJALにおいても、こうした基準に沿って機長、副操縦士に認定する。機長資格は、総飛行時間3000時間、複数の機種での乗務経験を必要とする。自社養成パイロットの場合は、まず地上勤務を行なったあと、26~30カ月をかけて訓練を受け副操縦士になり、1機種あたり最低でも3~5年程度の経験とおおむね半年程度の機種移行訓練(移行する機種によって差がある)、機長昇格前に1年半程度の訓練など、さまざまな過程を経て、定期運用操縦士の資格、社内での機長認定を受けることになる。

 訓練は航空法に基づき、シミュレータによる定期的な訓練のほか、エンジンの故障や急減圧に対応する訓練である「ADVT(Advanced Training)」、霧などによる視界不良時を想定した「PWAT(Pilot All Weather Traning)」、教官から与えられる突発的な事象に対応する「LOFT(Line Oriented Flight Traning)」、実運航での路線審査などを行なう。加えて副操縦士は、技量維持のための「FOMT」と呼ばれる訓練も義務として年1回行なう必要がある。

 このほか、JAL独自の取り組みとしては、パイロットの安全意識を高めるために行なっている「Flight Saftyセミナー」、ヒューマンエラー抑制のためにコミュニケーション能力を高める目的で実施している「言語技術教育」、世界で起きている事故や不具合事象を参考にした追加訓練「AMET(Automation and Maneuver Extra Traning)」といったことを実施しているという。

ボーイング 787型機のシミュレータ

 この日の取材では、JALが所有するボーイング 787型機のシミュレータ訓練も見学。羽田空港の34R滑走路からの離陸中に片方のエンジンが停止するシチュエーションと、視界不良状態で計器進入方式で着陸を行なうという2パターンのデモンストレーションが行なわれた。

 前者は滑走中の離陸直前に片方のエンジンが停止。すでに離陸決定速度を超えた状態での停止のため、そのまま離陸。片方のエンジンが止まったことで左右の推力が異なる状態を調整しながら上昇し、安全高度(この場合は200ftとのことだった)に達した時点でオートパイロットを作動させ、空港に戻るという流れになる。

 後者は、200m程度の視界の状態で、オートパイロットを使って進入。計器を見ながらフラップやランディングギアを下ろし、霧を抜けて滑走路の着陸灯が見えた時点でオートパイロットを解除して手動で着陸するという流れだった。

 いずれのシーンでも、機長と副操縦士が声をかけあってスムーズに対処がされており、想定シチュエーションを事前に聞いていたとはいえ、離着陸に困難を伴う状況とは思えないほど自然に操縦が行なわれているように見えた。こうした事態を想定した訓練が定期的に行なわれていることの証と言えると思う。もちろんこれはシミュレータでの訓練に過ぎず、パイロットも人間なのでいざ実機で発生したら多少は動揺もするのかもしれないが、そういうときこそ自然な流れで対処できるほどに訓練を重ねていることの効果が発揮されるのだろう。

離陸中に片方のエンジンが停止したという想定。安全高度に達するまでは、ラダーペダルを使って向きを修正しつつ上昇する
霧で視界がさえぎられるなかで着陸。滑走路が見えた段階でオートパイロットを解除して手動着陸する
ボーイング 787型機のコックピットはHUD(ヘッドアップディズプレイ)も特徴。パイロットの視点に合わせて表示されるので、脇からは情報が見えなかった

エンジンは内視鏡検査が可能!?―整備の安全性

 続いては「整備の安全性」であるが、その前に国交省が国内航空会社に対して実施している審査について紹介があった。

 国交省では航空会社が事業を開始するに際して、まずは事業計画を審査する。これにはパイロットや整備の教育、定期運航を行なううえで現実的に実施可能なものかなどが判断される。その内容が問題ないと判断したうえで事業許可を出す。

 事業許可が出たら飛行機を飛ばせるかというと、そうではない。航空会社には運航、整備など子細に渡る規定をマニュアル化することが求められる。これはファイルして並べると机を3~4個使うほど膨大な量になるというが、国交省は全ページをチェック。さらに、整備や運航管理、訓練施設、組織の体制などの実地検査や、緊急事態の想定を含むさまざまなシチュエーションに対応する能力があるかの実証飛行試験が行なわれ、これらをすべてパスすることで、航空会社はようやく運航を開始することができる。

 運航を開始してからも常に監査が行なわれる。事業拡張を含む変更があればそのたびにマニュアルや施設などの審査・検査が行なわれるのはもちろん、安全管理が体系的に行なわれているかを抜き打ち検査を含めて常に監査する。当然ながら新規参入航空会社については、ある程度の期間は重点的にチェックするというが、いわゆるフルサービスエアラインとLCCで差はなく同一の基準でチェックしているという。

 そうした航空会社の安全体制のなかでも重要な位置を占めるのが整備だ。整備は言い換えれば、飛行機そのものの安全性を確保するためのものと言える。ここではANAの整備場で説明が行なわれた。

 ANAグループには、ANA、ANAウイングスという航空事業を行なう会社が持つ整備部門のほか、ドック整備を専門にするANAベースメンテナンステクニクス、空港での離発着前後に必要な点検を行なうライン整備を専門とするANAラインメンテナンステクニクス、装備品の整備やエンジンの整備など部品の整備を専門とするANAコンポーネントテクニクスやANAエンジンテクニクス、部品の出納管理やマニュアルのレビジョン管理を専門とするANAエアロサプライシステムといった整備部門/会社を有する。これらを総称して「e.TEAM ANA」と呼び、横つながりを意識した体制を作っている。

 ここでは、実務のなかでアサーション(主張、提言)を積極的に行なうことで、コミュニケーションや協調性に優れた組織風土を醸成し、e.TEAM ANAがより「リスクに強いプロ集団」なるよう努めている。また、重大事故に結びつく可能性があったいわゆる「ヒヤリハット事象」に対してもリスク評価を行なうことで対策が検討されるという。

 整備作業そのものも体系化されている。不具合などがあれば随時作業は実施されるが、それ以外の定例的に行なわれる作業としては、各空港へ到着してから出発するまでに実施されるライン整備があり、一定期間(約1カ月半~3カ月)ごとに夜間に5時間程度をかけて行なうA整備も実施される。

 もう少し重点的な整備としては、1~2年程度ごとに実施されるC整備があり、これは機体を格納庫に入れて、機体構造や装備品の点検など約10日間をかけて実施される。さらに5~6年程度ごとに行なわれる「HMV(Heavy Maintenance Visit)」では1カ月ほどかけて防蝕処理や経年劣化が起こる部品の交換など、より深い整備が行なわれる。機体メーカーからの新たなオプション品の提案があった場合などには(もちろん導入するか否かは航空会社の判断だが)このタイミングで作業を実施するという。

 この整備を行なう人についても、国交省、ANAそれぞれで資格認定を行なっている。航空機の整備士は国家資格として「一等航空運航整備士」「一等航空整備士」「航空工場整備士」といった資格があり、この資格を有することが前提になってくる。ANAグループではANA整備センター教育訓練部において、入社から約5年をかけて一等航空整備士へ養成する過程を設け、自社養成している。

 ANA社内の認定制度は、整備作業を一般整備、電装、構造などに区分し、それぞれについての技量を認定したうえで実際の作業に従事できる仕組みを設けている。

ANAの第2格納庫。この日はボーイング 777-200ER型機とボーイング 787-8型機が整備に入っていた。ちなみに羽田空港のANAの格納庫は、第1格納庫に最大7機、第2格納庫に最大3機を格納できる

 飛行機そのものも、整備の観点における安全性向上がある。過去の飛行機は信頼性を確保するために定期的な部品交換、分解検査などが必要で、極論すれば実際に壊れないと異常に気付けないため、先まわりして交換することで信頼性を確保していた。一方、現在の飛行機は、状態をモニタリングする能力が大きく向上している。検査や機能試験で状況を確認できるほか、故障の兆候を機体がレポートする機能も持っている。また、エンジンについても分解せずに内部状況を検査できるボアスコープ・インスペクション(BSI)が可能になった。

 BSIは、飛行機のジェットエンジンに設けられた「のぞき穴」(ボアスコープ・ポートと呼ばれる)に内視鏡を挿入して、内部の詳細な検査を行なえる仕組みだ。実際にその装置を使った作業を見学させてもらったが、手元の機械で先端部分をクネクネさせられる様は、病院で使う内視鏡そのもの。とはいえ、先端を固定できないことから実は高度な技術が必要なのだそうだ。

 さらに、この機械では動画や静止画の記録ができる。これにより点検した内容をほかの人が見ることができ、安全性に対する組織的な判断に役立てることができることもメリットになっている。

動画や静止画の記録が可能で、先端をフレキシブルに動かせられるボアスコープ・インスペクションの内視鏡
先端部分(プルーブ)が固定されたタイプなどもある
ボーイング 777-200ER型機のエンジン。タービンの側面に内視鏡を挿入するボアスコープ・ポートを備える

羽田空港の管制塔を見学―地上の安全性

 最後に紹介があったのは「地上」の安全対策だ。飛行機の運航に関連する地上の仕事はあまりに幅広いが、ここでは「管制業務」にフォーカスしたものとなる。飛行機は原則として管制官の指示なしには行動できない。例えば、揺れがひどいので高度を変えたいといった場合でも、まずは管制官にリクエストし、承認を得たうえで行動することが求められる。空の交通は管制官がすべて管理しているといっても過言ではない。

 そのような重要な職務を任される管制官は、採用試験に合格後、航空保安大学校での基礎研修、基礎試験に合格。さらに配属先の管制機関において地域特性などを考慮した訓練があり、その配属先での技能試験に合格して初めて実際の業務に携わることになる。管制官は数年単位で異動が発生するが、そのたびに新たな配属先の管制機関で訓練、技能試験が課されるそうで、その道のりは当然のように厳しいものとなっている。

 管制業務は、空をいくつかのエリアに分けて管理している。ざっくり分けると、1つが空港のまわりのエリアで「航空交通管制圏」と呼ばれ、空港により多少異なる場合もあるが周囲約9km、高度900mまでのエリアが目安になる。さらに交通量の多い空港では航空交通管制圏のまわりに「進入管制区」が設けられる。交通量が多い羽田空港は当然進入管制区が設けられており、成田空港へ向かう飛行機と合わせて「東京進入管制区」として一体で管制している。その外のエリア、すなわち空港と空港の間のエリアと言い換えることもできると思うが、ここは「航空路」と呼ばれ全国4カ所(札幌、東京、福岡、那覇)で管制を行なっている。

ターミナル・レーダー管制業務の訓練施設

 今回の取材では、羽田空港にある進入管制区を管制する「ターミナル・レーダー管制業務」と、航空交通管制区を管制する「飛行場管制業務(タワー)」の訓練を行なうシミュレータ施設を見学した。

 ターミナル・レーダー管制業務は、レーダーや無線で認識した情報をディスプレイに表示し、離着陸それぞれに高度や経路などを確認。衝突がないようにすることはもちろん、着陸する飛行機を一定間隔を空けて並ぶよう指示を出すといったことが必要になる。空港で次々に飛行機が着陸してくる様子を見たことがある人もいると思うが、このターミナル・レーダー管制業務によって、上空でこの状態が作り上げられているわけである。

 ちなみに、羽田空港のA滑走路の場合、着陸直前におおむね4~5nm(ノーティカルマイル)間隔で並ぶよう指示を出すそうだ。これより狭い間隔では危険というのはイメージしやすいが、逆に間隔が空きすぎると滑走路に無駄な空き時間が発生し、空港の発着能力を活かし切れてない状況となるため好ましくない。特に羽田空港のような繁忙空港では、この近からず遠からずの距離を保って着陸させることが非常に重要な意味を持つ。また、1つの滑走路を着陸だけで使う場合はよいが、途中で離陸を挟む場合はあり、飛行場管制業務のスタッフと連携して適切な間隔を作るという。

 トレーニングシステムでは、こうした技術を磨くべく訓練が行なわれる。実物と同様の装置が置かれており、後列でパイロット役の人が付いて訓練を行なう。東京進入管制では、羽田空港が1日約1200機、成田空港が1日約650~680機の、1日で1900機程度を扱っている。シミュレータでは訓練ということで、羽田空港への離陸機と到着機が色分けされて表示されているように設定されていたが、実機では成田空港の離着陸やほかの飛行機も表示されており、管制室にいる20名程度が、それぞれの空港の離発着ごとといった具合に担当を分けて業務をしているそうだ。

実際のターミナル・レーダー管制で使われるものと同様のシステムを使ったシミュレータ
奥にいる管制官が訓練中で、手前にいる人がパイロット役
実際のターミナル・レーダー管制運用室の様子(写真提供:国土交通省)

 続いて見学したのは、飛行場管制業務(タワー)の訓練を行なうシミュレータ施設である。こちらは管制塔の上での業務を想定した訓練を行なう施設で、ほぼ360度を見渡せるようディスプレイが並べられている。

 この施設は2010年の羽田空港D滑走路供用、2011年の成田空港平行滑走路同時運用のスタートを見据え、その業務を訓練する目的で2008年度に導入した。先に説明した転属したばかりの管制官の訓練はもちろん、すでに羽田空港で業務を行なっている管制官も緊急時対応訓練などを行なう。

ほぼ360度(出入り口部分は切れている)見渡せる環境を再現した飛行場管制(タワー)の訓練を行なうシミュレータ

 そして、このあとは羽田空港の管制塔を見学した。D滑走路の供用を開始した2010年に運用を開始した現在の管制塔は115.7mで日本でもっとも高い管制塔で、世界でもバンコク・スワンナプーム空港(132.2m)、クアラルンプール空港(130m)、米アトランタ空港(121.3m)に次いで4番目に高い管制塔となっている。

 この最上部に管制運用室があるわけだが、保安上の理由から撮影は禁止された。ここには、東西南北それぞれに地上走行の管制、滑走路の管制を行なう人がペアで配置されるほか、出発機の目的地や経路などを承認するスタッフが2名、ターミナル・レーダー管制官との調整を行なうスタッフが2名、このチームを統括するリーダーが1名と、おおよそ13~14名程度のチームで管制を行なう。

 管制塔から見ていると空港の飛行機の動きが手に取るように分かるし、D滑走路も両端がはっきりと視認できる。これほどの高さが管制塔に求められるということも理解できる。下記の写真は運用管制室の2フロア下にある「回廊」と呼ばれるフロアで撮影したものだ。ここから見てもかなり見晴らしがよいことが分かるだろう。運用室はさらに高いところにある。

 この日は冬に多い北風時の運用ではなく、A滑走路とC滑走路を離陸、B滑走路とD滑走路を着陸に使う南風運用が行なわれていた。ここで実際に離着陸する飛行機を見ながら説明を受けたのだが、安全性の対策として地上に施してある工夫の1つとして、滑走路を横断するときの警告装置の紹介があった。

 A滑走路を挟んで第1旅客ターミナル向かい側の新しい国際線ターミナルが2010年に供用を開始したが、これに伴い、地上走行時に“A滑走路を横断する”という運用が始まった。離陸滑走にしても着陸時にしても、スピードが乗っている飛行機が滑走路を使っているときに、地上走行の飛行機が進入することは大惨事を生むことになりかねない。そこで、管制官が離陸や着陸の指示を出した際、つまり滑走路を離着陸の飛行機が使うときに、誘導路脇に「STOP」の警告が表示される装置を備えている。もちろん管制官からも滑走路に入らないよう声による指示も出されるわけだが、停止することを伝える手段を二重に設けることで万が一の誤進入を防いでいるのである。

日本第1位、世界第4位の高さを持つ羽田空港の管制塔
115.7mの羽田空港の管制塔。免震構造になっている
管制運用室(写真提供:国土交通省)
現管制塔から見下ろした旧管制塔
A滑走路利用時は横断する飛行機が侵入しないよう「STOP」の警告を表示する
羽田空港の南から南東方面の様子。もっとも遠くにあるD滑走路もしっかり見渡せる
こちらは第1旅客ターミナルと国際線ターミナル、A滑走路がある西側のエリア

 このような航空の安全を確保する取り組みの紹介を受けたが、たった半日の取材であり、これらは取り組みのほんの一部に過ぎないことは言うまでもないだろう。ただ、この取材を通じて見えるのは、1つの安全を確保するために二重、三重の対策をうっていることだ。

 パイロットであればそもそも2名が乗務することで二重化、そのパイロットも国が定める基準+航空会社が定める基準という二重の基準を設け、さらに訓練、言語、身体の検査を重ねている。もっとも推力を要する離陸においても、2個あるエンジンのうち1個が停止しても安全に離陸できるよう設計されていることがシミュレータで示された。

 航空事業そのもの対しては、事業認可前、認可後、運用開始後と何度も審査を重ねているし、整備もライン整備、格納庫での整備、C整備やHMVなど多重の整備体制を敷いている。

 地上からの管制も、決して広くはない管制運用室に多くの人を配置して、誰かに急病などが発生してもバックアップできる体制になっている。管制塔そのものになにかあった場合には、高さが低いとはいえ旧管制塔で運用を継続できるようになっているという。

 外野から見るとちょっと面倒そうに思える部分もあるのだが、監督する国交省、実際に運航を行なう航空会社それぞれが、そのぐらいの徹底した対策をとることで万が一の事態を回避できているのだろう。今後もこのような取り組みを継続して空の安全を守っていってほしい。

(編集部:多和田新也/Photo:堤晋一)