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地元民「命を絞っても来ないかんと!」消えゆくロイヤルホスト香椎店、なぜそこまで惜しまれる?

ロイヤルホスト香椎店。背後はすべて高層住宅街と化してしまった

 オープンから半世紀近くたった2026年8月末、福岡市東区にある「ロイヤルホスト香椎店」が閉店を迎えた。

 通称「ロイホ」は全国に218店舗あり、1つ閉店したところでチェーンの趨勢には影響しない。にもかかわらず、香椎店は閉店発表からずっと行列続き。筆者の前に並んでいた地元のおばあちゃん軍団は「閉店は一大事! 何べんでも、命を削っても来ないかんと!」と、気温33℃にもなる酷暑のなかで行列に並び続けていた……。情熱の注ぎ方が、単なる「ファミレス閉店」の範疇を越え過ぎているではないか!

ロイヤルホスト香椎店の入店を待つ人々の行列。店内を含め20~30組前後の待ちが生じていた

 世間話を続ける限り、地元の方々以外にも遠方からの来店も多く、なかには「パパとママはここでデートしよったと?」と子供に語りかけるファミリーの姿も。幅広い年齢層に閉店を惜しまれており、少なくとも“ただの1店舗の閉店”とは、様子が異なるようだ。

 ロイヤルホスト香椎店は、なぜここまで閉店を惜しまれているのか? まずはこの街・東区香椎が「華やかなショッピングタウン」であった昭和末期を振り返る……その前に、「ロイホではこれを食べないと!」という名物メニューをいただき、他店とはかなり違う「昔ながらの半世紀仕様ロイホの店内を堪能してみよう。

鋭角な三角屋根ロイホ「全国2店」のみ!

 1971年に福岡県北九州市に1号店を出店したロイヤルホストは、早々に全国に勢力を広げていった。そのなかで1976年に開業した香椎店は、ちょっとお洒落な鋭角の三角屋根がよく目立つ。この仕様は全国のロイホでよく見られたものの減少の一途をたどり、今では香椎店・鹿児島店を残すのみだという。

 店内も当時としては広く空間が取られ、斜めに組まれた漆黒の太い柱が、デザインに溶け込んで天井を支えている。さらに店内を見渡すと、「少子化時代に、座席の使いみちがあるか?」と驚くような10人掛けのボックス席があり、壁際には生け花やアートを飾るスペースも。こんな広々とした店内がフル回転するほどに、往時はにぎわっていたのだろう。

ロイヤルホスト香椎店の三角屋根
座席奥に飾られた、薔薇の花束とアート
10人は座れる広々としたボックス席

 現在のファミレスが1席でも多く座席を設置しようとするなか、香椎店ほど空間を贅沢に使うファミレスは、今どきめずらしい。ロイヤルホスト香椎店は、奇跡的に生き残った「古きよき昭和末期のファミレス」としての匂いをいたるところに残しているからこそ、遠くからファンがわざわざ訪れるのだ。

ロイヤルホストといえばオニオングラタンスープ
モーニングでは、ボリュームのある「英国風パン」とホロホロのオムレツをチョイス

 では早速、注文してみよう。開業当時に800円台であった「8オンス(225グラム))ステーキは半世紀で5倍ほどに価格上昇しているが、鉄板ハンバーグやオニオングラタンスープは、いまでも不動の人気メニューのままだ。

 何より、広々とした空間や天井を眺めつつ、ひと息つきながら食べるステーキやハンバーグは絶品だ。今どきのファミレスのようにガヤガヤしておらず、広い座席でワンランク上の料理をじっくり味わう。お値段は少し張るものの、これがロイホの醍醐味だ。

店内のメッセージボード

 入口付近を見回すと、メッセージボードには「初めての外食が香椎ロイホで、家族での外食はいまもロイホ」「ロイホのハンバーグを食べ続けて半世紀、いまも町内会の会合は香椎ロイホ」「ロイホで初デートしていたら、別行動をしていた自分の家族と鉢合わせ。急きょその場で紹介した彼氏が、いまの主人です」など。びっしり書き込まれたエピソードを眺めるだけでも感慨深い。

 そんなロイヤルホスト香椎店について、「香椎」という街の歴史から振り返ってみよう。ロイホの歴史は、戦後の香椎の歴史そのものでもあるのだ。

ロイホの歴史は「古きよき香椎の歴史」

西鉄貝塚線の車両。朝の混雑率がトップクラスであることで知られる

 ロイヤルホスト香椎店の周囲に広がるマンション街だけでなく、いまの国道3号一帯のエリアはもともと「香椎潟」と呼ばれる遠浅の海であった。戦前から埋め立てが続いて国鉄の「香椎操車場」が開設されたあと、1959年には水洗トイレ・ダイニングキッチン(DK)」を備えた「香椎団地」が完成。

 国道の拡張も進み、「ロードサイドの拠点」「最新鋭の住宅街」「エキチカ」という絶好の立地を得られたからこそ、この店はファミレスとして爆発的な人気を得ることができたのだ。

 そしてもう一つ、1980年にはロイホに隣接して「ダイエー香椎店」がオープン。近くにはユニード系列の「アピロス」があり、漫画「クッキングパパ」にも登場する商店街「香椎名店街」(作中では「花椎」)も駅側にある。一帯はすべてが揃った「商都」であり、国道沿いの和白・新宮方面からも「とりあえず香椎に行こう」という買い物客が多かったという。そんな商都のなかにあって、ダイエーとともにファミレスとしての歴史を重ねてきたロイヤルホストは、歴史が浅い香椎を象徴する存在だったのだ。

空洞化と「商都・香椎」の衰退。取り残されたロイホ

香椎名店街も、西鉄高架化と一帯の建て替えで往時の姿が消えた

 しかし、あれだけ広大であった香椎も開発の余地がなくなり、宅地開発は沖合いの「香椎浜」に、商業施設やタワマン開発は博多寄りの千早・貝塚に移り変わっていく。何より、鉄道・バスも充実しているうえに道路も拡張されたため、遊ぶなら博多・天神に出た方が早い。

 こうして、ロイホ横のダイエー香椎店は経営不振もあって2005年に閉店。後継施設もすべて撤退したあと、協議を経てタワマンに用途転換することになった。アピロスも撤退後にカーディーラーに転換されており、香椎に大規模な商業施設やショッピングモールは必要なくなった、といえるだろう。ただ、福岡市近郊のマンション街としてのにぎわいは依然としてあり、一様に衰退と言えないのは、判断が難しいところだ。

 そのなかで、ロイヤルホスト香椎店は昔ながらの面影を保ち、多くの人々の思い出が詰まったままに営業してきた。しかし、老朽化には勝てず閉店を迎えた。「古きよき香椎」の最後の象徴であったこの店が、なぜ熱烈に惜しまれているか、お分かりいただけるだろうか。

香椎ロイホ、建て替え存続なるか?

国道3号・名原方面。1日を通して交通量は多い

 ただ、この店にはまだ存続の可能性が残っている。ロイヤルホストは直近の出店戦略で「高集客エリアへの重点配置」(ターミナル駅・商業施設へのテナント出店)を掲げつつ、ロードサイド店舗の縮小を進めているものの、香椎店はあくまで「建物の老朽化」が理由であるという。

 建て替えも検討されているものの、具体的な時期や形態については未定だという。メッセージボードを見る限り再オープンを求める声も多く、この地に「ロイヤルホスト香椎店」が再登場する未来も、かなり現実味がありそうだ。

 ただ、ロイヤルホストを含む現在のファミレスは、外装・内装とも「空間の有効活用」がトレンドとなっている。もしロイホがこの地に戻ってきても十数階建てのマンション内の1階テナントとなる可能性もあり、特徴的な三角屋根や贅沢な店内空間は、もう戻ってこないかもしれない。

 それでも、地元の方々が「命を削ってでも通いたい」と仰られるほどに、半世紀も営業を続けてきたロイホを愛している。どんな形でも、香椎の地にロイヤルホストが戻ってくることを願いたい。