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吉野家はなぜ「白湯ラーメン」店を手掛けるのか? 大阪の「鶏吉」1号店に行ってみた

2026年8月1日 開業
「鶏吉」全景

「吉野家はもはや、ラーメン屋さんなのか?」

 2029年までの5年間で売上高・店舗数を4~5倍、ゆくゆくはラーメンの提供食数・世界ナンバーワンを目指すという大胆な目標を掲げた吉野家ホールディングスは、「牛丼ひとすじ」にとどまらない手を打ち続けている。

 その施策は幅広く、食材卸業者(宝産業)の買収、吉野家での鍋ラーメン定食発売など、さまざま。そして、子会社「キラメキノトリ」発の新ブランド・京都鶏白湯ラーメン「鶏吉(とりきち)」の1号店である「鶏吉 摂津鳥飼店」(大阪府摂津市鳥飼上4-1-38)が、8月1日にオープンしている。

 買収した既存ラーメン店(せたが屋・キラメキノトリなど)の新店出店はあったものの、新ブランドの立ち上げは少なかった。吉野家HDは鶏吉に並々ならぬ期待をしているようで、お話を伺った限りでは、全国での展開も検討しているようだ。

 ひょっとしたら数年後には、吉野家とともに鶏吉のラーメンが、全国を席巻しているかもしれない。そんな期待を抱きつつ、1号店で自慢の「鶏白湯ラーメン」をいただきつつ、今後を分析してみた。

キラメキノトリとも違う? 鶏吉は日常系の鶏白湯ラーメン

府道沿いの店舗は、吉野家時代の面影が残る

 鶏吉の前にある府道19号線は、淀川新橋を挟んで茨木市・寝屋川市を結ぶ幹線道路であり、軽トラや社用車がひっきりなしに駆け抜ける。クルマでのアクセスは至極便利ではあるものの、公共交通だと阪急京都線・茨木市駅、JR京都線・千里丘駅などからバスで20分~30分かかるという、典型的な郊外ロードサイド型の立地だ。

「鶏吉」のメニュー
「鶏吉」のラーメン

 さっそく入店し、タッチパネルで注文する。まずは、この店の看板メニューである「鶏白湯ラーメン」を注文しなくてはなるまい。

 この鶏白湯ラーメンは、鶏吉の直接の親会社であるラーメンチェーン「キラメキノトリ」の看板メニューでもあるが、キラメキよりはあっさりとしつつも、まろやかな鶏スープの旨味をじわり、じわりと感じられる逸品だ。

 レンゲにスープを取ってもキラメキよりサラサラで、これまで鶏白湯になじみのない方でも、抵抗なくその美味しさを感じられるだろう。かつ、小麦の香りもよい低加水ストレート麺の相性がよく、麺が鶏白湯スープの旨味をしっかり吸い取ってくれるため、口に入れるごとにその旨味は増す。通常のラーメンに掌ほどの大サイズチャーシューとチャーハン・餃子がついた「鶏吉SPラーメン」、スープの“鶏密度”も高く、しっかり美味であった。

低加水ストレート麺の採用で、鶏の旨味をしっかり味わえる

 吉野家HDによると、同じように見える鶏白湯スープでも、キラメキノトリは「鶏の旨みを存分に味わえる濃厚な鶏白湯ラーメン」で、鶏吉は「日常のなかで何度でも選ばれる京都鶏白湯ラーメンをコンセプトに、より日常使いしやすいブランド」として開発しているとのこと。どうやら両者は日常・非日常といったコンセプトの違いがありそうだ。

 キラメキは繁華街や都心立地も多くインバウンド(訪日外国人観光客)にも人気があるが、今回の鶏吉は、地元の方や仕事中の移動で普段遣いする方が多いだろう。店内を見渡すと、現時点でもあっという間に食べてあっという間に退店するドライバーの方が多く、飲食店の少ないこのエリアのラーメン店として、鶏吉は貴重な役割を果たすだろう。

吉野家を彷彿とさせるカウンター席
10cmほどの長さがある肉厚な餃子
鶏白湯スープ。あっさり目に味変できる玉ねぎが入っているのもうれしい

このラーメン、ひょっとして「元・○○屋」?

 完食したあとで客席を見渡したところ、2つの島状カウンターと、奥にはテーブル席もあり、どうも牛丼店の既視感が……。それもそのはず、この建物は今年6月まで「吉野家 摂津鳥飼店」であった物件を2か月で改装し、鶏吉としてオープンしている。

 筆者はこの店が吉野家だった頃にも何度か利用しているが、オレンジの吉野家看板が赤地に白抜きの鶏吉看板に変わった以外、ほとんど違和感なくラーメン店に転換されていた。

 2か月という短期間で転換できたということは、この店舗が成功すれば「吉野家から鶏吉へ」スムーズに、ジャストフィットで店舗転換できることだろう。おそらく、低利益の牛丼よりは、採算も取りやすい。吉野家HDによると「将来的な複数店舗展開やエリア展開も視野に入れています」とのことだが、「現時点で具体的な出店計画についてお伝えできる内容はございません」という。

 この「摂津鳥飼店」でしっかり評価を得てからではあるが、インバウンド・観光客が多い立地ならキラメキノトリ、郊外の店舗なら鶏吉といったスタイルで出店することも考えられそうだ。

「鶏吉」のチャーハン

牛丼業界、次々とラーメン業界進出の「なぜ」?

 いま牛丼業界は、コメの価格上昇だけでなくアメリカの関税問題・中国をはじめとする各国の買い付け競争による牛肉の高騰に見舞われ、吉野家も「牛丼一杯・280円」の時代には戻れない。この状況のなかで、価格上昇が比較的緩く、圧倒的な全国チェーンに成長する勝者がいないラーメン業界に、牛丼業界をはじめとした他社が活路を見いだすのは、至極当然の流れであろう……。では、同業他社の動きは、どうなのだろうか?

 まず松屋は、「六厘舎」「舎鈴」などのラーメン店を手掛ける「松富士」を、2025年12月に約91億円で買収。同社の創業者である三田遼斉氏がもともと松屋で勤務していたこともあり、三田氏と松屋フーズ・元社長の緑川源治氏など関係者とかねて交流があったことも、M&Aが順調に進んだ理由であろう。

 2026年1月以降、松富士は「舎鈴」「ジャンクガレッジ」などで新店舗を10店出店しており、松屋の「牛丼以外のマルチブランド化」、松富士の「出店加速」といった双方のメリットは、すでに出ているようだ。

 一方ですき家は、自社でラーメン店「伝丸」などを展開しているものの、吉野家・松屋のようにラーメン事業に本格的に踏み出す様子はない。しかし、これまでハンバーガー(ロッテリア→ゼッテリア)、回転寿司(はま寿司)など幅広い業種の買収によって1兆円企業に成長しただけに、ラーメンチェーンのM&Aによって業界に本格進出する可能性も、大いにありえる。

 いずれにせよ、吉野家のラーメン業界進出の成否は、この鶏吉にもかかっている。他社にない鶏白湯ラーメンでどれだけ支持を獲得できるか、今後とも店舗に足を運んで観察していきたい。

鶏吉 摂津鳥飼店

所在地: 大阪府摂津市鳥飼上4-1-38
業態: 京都鶏白湯ラーメン
営業時間: 11時~23時(LO 22時30分)
席数: 35席(カウンター13席、テーブル22席)