ニュース

東上線エリアの“渡し船”が意匠のルーツ? 隠れデザイン盛りだくさん、東武の新造車両90000系を見てきた

ゆくゆくは有楽町線・副都心線直通に投入

2026年7月13日 公開
池袋方から見た90000系の外観。前面の青は、以前から東武で用いられている「フューチャーブルー」を塗装したもの

 東武鉄道は7月13日、東上線の新型車両90000系を報道公開した。東上線の新造車導入は、2007年に運行を開始した50070系以来。

 2025年3月26日に導入を発表していたもので、有楽町線・副都心線直通系統で使われている9000系の後継車となる。9月26日に営業運転を開始する予定だ。

東上線のみならず、新木場や横浜にも姿を見せる

 90000系は有楽町線・副都心線直通系統に入る車両のため、副都心線の先にある東急の東横線と新横浜線、横浜高速鉄道のみなとみらい線まで乗り入れる想定となっている。ただし当初は、自社線内での運行からスタートする。地下鉄への直通運転を開始する時期はまだ公にしていない。

東武東上線と有楽町線・副都心線の相互直通運転で用いられている車両のうち、この9000系・7編成が最初の代替対象になる
こちらはマイナーチェンジ車の9050型。2編成が稼働している
東上線と地下鉄の直通運転には50070系も使われているが、まだ車齢が若く、こちらは代替対象にはならない

 他社線との相互直通運転で使われる車両はみんなそうだが、単に相互直通運転に適合する車両を造るというだけでなく、「他社線内における自社の顔」という性質も帯びる。

 複数社の多種多様な車両が行き交うのは、相互直通運転を実施している路線の特徴だ。そこで「あっ、東武の新型車だ」と気付いてもらうことには無視できない意味がある。

 ただし、車両の寸法や扉の位置、走行性能など、相互直通運転を行なう各社で統一しておかなければならない要素はいろいろある。そこで特徴を出すのは現実的ではないし、乗客がストレートに違いを感じられる部分でもない。

 やはり、乗客から見てすぐに分かるのは、内外装の意匠や設備類の使い勝手といったところ。目に見えないところでは、乗り心地や静粛性、空調の効きといった話も出てくる。

デザインコンセプトは「渡し船」

 90000系のエクステリアやインテリアの意匠設計については「東武グループが目指す『人にやさしく 人と地域が共に輝きつづける社会』の実現を念頭にした」と説明されている。

 そのうえで「東上線エリアにおける人や物流のルーツが、荒川や新河岸川の『舟運』にあることに着目して、『地域と人と未来をつなぐ、わたし舟』をコンセプトにした」とのこと。では、そのコンセプトはどのような形で現車に反映されたのか。

 例えば、先頭部は下部から反り上がるように丸みを持たせた逆スラント形状、つまり上方が前方にせり出した形になっている。後方に向けて傾斜させる「スラント形態」はポピュラーだが、逆はめずらしい。これについて東武鉄道では「高瀬舟の船底から着想した」と説明している。

前頭部を真横から見ると、下部に丸みを持たせた形状と、上方が前方にせり出した逆スラント型が明瞭に分かる。この形状の関係で、点検や清掃のために前面に取り付く場面で足場にするためのステップを設置する必要が生じた。写真で連結器の手前に見えるのがそれだ
車内は一般的なロングシートだが、ここでも「舟運をイメージしたデザインを目指した」と説明されている
実は、座面と背ズリの間はベルクロ(マジックテープ)でつないであり、隙間にモノが入り込む事態を防止している
袖仕切り部の立涌柄も、舟運のイメージを反映させたもの
枯山水をイメージした床敷物の柄。ただし波模様になっているのは中央部だけで、両サイドはまっすぐ。「まっすぐになっているエリアから先に足を投げ出さないでね」という隠れメッセージだ
各車の車端部にある優先席・フリースペースの部分は、床敷物の柄が異なる。ここも波模様にはなっていない
車椅子やベビーカーのためのフリースペースでは、窓を囲むようにして手すりが設けられている。揺れたときに咄嗟に吊手を掴むのは難しいから、ということで掴みやすさに配慮した。なお、ここの窓は開かない
貫通路の扉はガラス製で、ここにも川や舟運をイメージした模様が入っている。これは扉の存在を視覚的に認識してもらうためのものでもある
吊手は交互に高さを変えており、小柄な人でも利用しやすいようになっている
座席部に設けられているスタンションポールは、上部のパイプとは表面仕上げが異なり、指紋が残りにくいマットな表面加工になっている
荷棚はガラス製で、下から見上げたときに荷物の有無が分かりやすい。つまり忘れ物がないかどうかの確認をしやすい
側扉の上部には、液晶ディスプレイを使用する車内情報表示装置を設置。利便性だけでなく、バリアフリーの観点から見ても有用な設備である。17インチのものが2画面ある
車端部以外の側窓は開閉可能で、これぐらいまで開く
側扉の窓は下縁を下げて大きくしているので、小さな子供でも外を見やすい。昔は逆に、側扉の窓を意図的に小さくする車両がけっこうあったが、時代が変われば変わるものである
その側扉の、窓まわりの青色は濃淡2種類ある。優先席・フリースペースがあるところは、視覚的に区別しやすいように窓まわりを淡い青にしている。車内保温のために4扉のうち3扉を閉めた場合、窓まわりが淡い青の扉だけが開いた状態になる

運行・検修サイドにとっての新型車両の意味

「何を当たり前のことを」といわれそうだが、電車は電力会社から買ってきた電力で走る。だから、電車の省エネ性能を向上させると、動力費の低減につながる。

 90000系では、フルSiC(炭化珪素)化した可変電圧・可変周波数(VVVF)インバータで高効率の誘導電動機を駆動する主回路システムを採用、さらに車内照明のLED化などといった施策を取り入れている。これにより、消費電力は9000系と比べて40%以上の削減になるとしている。

 走行用の誘導電動機は、9000系が使用している直流電動機と比べると構造がシンプルで、保守の負担が少ない。東武鉄道に限ったことではないが、新型車両の導入には、そういう意味もある。

 そして、90000系の設計に際しては「デザイン性とメンテナンス性の両立」が図られた。見栄えだけでメンテナンスに手がかかるのも、メンテナンスのことばかり考えて殺風景になってしまうのも好ましくはない。どれだけ高いレベルで両者のバランスをとるかが勝負である。

 また、古くなった機器は故障しやすくなるし、スペアパーツの入手性もわるくなる。新型車両の新製導入によって信頼性の向上につなげることができれば、安定運行の一助にもなる。

90000系の走行用VVVFインバータ装置
90000系の電動台車。形式はSS196M(TRS-25M)。10両のうち6両はモーターがない付随車で、そちらの台車形式はSS196T(TRS-25T)。なお、一部の電動台車には空転防止のためのセラミック噴射装置が取り付けられている(写真の左側軸)
空調装置は熱交換器の清掃機能を備えた。送風機を止めた状態で熱交換器のフィンを着霜させてから送風機を作動させる。すると霜が溶けて、付着した埃も一緒に落ちてくれる仕掛けだ。そのあとに送風運転でダクト内を乾燥させることで、カビも防いでいる
運転台。運転士の前上方に4画面あるディスプレイは、可動式ホーム柵を設置している駅で、乗降状況確認用カメラの映像を表示するもの
運転台に設置する機器が増えるのは昨今の趨勢で、そのため仕切壁は窓が少ない

90000系の導入計画は?

 では、この90000系は今後、どこまで増えるのか。冒頭でも書いたように、まず9000系の代替として10両編成7本・70両を導入するが、そのあとも増備が続く。

 2025年度第2四半期の決算説明資料において、10000系・30000系の代替としても90000系を導入する方針が示された。また、第206期有価証券報告書では「設備の新設、除却等の計画」として、9000系の代替車両新造を2023年4月~2029年3月にかけて、10000系・30000系の代替車両新造を2026年4月~2032年3月にかけて実施するとしている。

 現時点で90000系・9050型が10連×9編成、10000系が10連×3編成、10030型が10連×12編成、30000系が10連×15編成ある。これらがいずれ、90000系で置き換えられるということだろう。

 10000系・30000系は地下鉄に乗り入れるわけではない。しかし、地上線も含めて車種の統一が進めば、運用の面でも保守の面でも合理的になる。例えば、事故や故障で使えない車両が出たときに代車の手配が容易になるし、予備品の整理統合も期待できる。

 なお、50000系10連×7編成、50070系10連×7編成、50090系10連×6編成は運用を継続する。すると将来的に、50000系の一族と90000系が「東上線の顔」になるわけだ。

報道公開の際には3編成が並べられた。今後、さらに増備が続く
報道公開では「急行 池袋」と自社線内向けの表示になっていたが、将来は「新木場」や「元町・中華街」が表示される日が来る。ちなみに前部標識灯はLEDで、写真はハイビーム状態。ロービームでは内側の左右4灯ずつが点灯する
後部標識灯は前部標識灯の左右に設置している
すでに営業運行開始の告知がなされているほか、「誕生記念スタンプラリー」も行なう