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東武の新型N100系スペーシアX、個室やバックシェルの上級シートを早速体験してきた!

2022年7月15日 実施

東武鉄道がスペーシアXの接客設備を公開した

 東武鉄道は7月15日、新形特急車「N100系」に関する発表会を開催した。あわせて、愛称「スペーシアX」と運行開始日も発表された。

 東武鉄道は長きにわたり、日光を「沿線の重要な観光地」と位置付けており、過去にも時代の先端を行く特急車を送り出して「日光・鬼怒川への足」としてきた。そして、新たに登場するのがN100系「スペーシアX」となる。

車両の愛称は「スペーシアX」、運行開始日は2023年7月15日を予定している。まず2編成体制でスタートする
「より上質なフラグシップ特急を」「沿線地域の素晴らしさを国内外に発信していく起爆剤に」と語る、東武鉄道株式会社 代表取締役社長 根津嘉澄氏

愛称は「スペーシアX」、2023年7月15日の運行開始

 東武鉄道は1990年6月1日に、100系「スペーシア」(SPACIA)をデビューさせた。この愛称は「宇宙」を意味する「SPACE」に「IA」をつけて固有名詞化したもの。日光線の特急「けごん」、鬼怒川線の特急「きぬ」「スペーシアきぬ」などで使われている。2011~2012年にかけて内外装のリニューアルが行なわれたが、すでに車齢は30年を超えている。

1990年から32年間に渡り、日光・鬼怒川への足を務めてきている100系「スペーシア」

 そこで、100系の後継として登場するのが、N100系。導入発表は2021年11月で、日立製作所で合計4編成を製造・導入する。形式は、100系の「ニューバージョン」「NEW 100系」ということで、開発段階で使っていた呼称がそのまま使われることになった。

 ただし車両の愛称は新たに付けることになり、6月1日から7月14日まで、「愛称予想キャンペーン」が行なわれていた。そこで挙げられた候補は、「プレミアムスペーシア」「スペーシアX(エックス)」「グランスペーシア」「スペーシアルクス」の4種類。このキャンペーンは、100系「スペーシア」の1万5000通より多い2万1000通の応募があったという。

 そして発表された愛称は「スペーシアX」。このXには、旅体験(Experience)に加えて、「お客さまに提供するさまざまな価値」として挙げられているExcellent、Extra、Excitingといった意味も込めている。また、愛称ロゴは日光線沿線・鹿沼の「鹿沼組子」をイメージしており、これは両先頭車のエクステリアでもデザイン・モチーフになっている。そして実現した、六角形の側窓を並べた両先頭車のエクステリアも「X」に通じるものがある。

 100系のフォルムを受け継いだとするエクステリア、要所要所に取り入れられた日光や江戸の歴史、そして沿線の特徴や名物。地域性やヘリテージを活かしつつ、過度に奇をてらわない、息の長いデザインに留意したようだ。

会場に置かれたN100系の模型。東武日光・鬼怒川温泉方の2両(1・2号車)で、側面の車号は「N101-6」「N101-5」となっていた。実車も同様であれば、付番体系は100系と同じとなる

運行体系と設備、料金

 運行開始は、発表会からちょうど1年後となる2023年7月15日を予定している。その時点では2編成を用意するが、その後に2編成を追加して、最終的に4編成とする。

 運行区間は浅草~東武日光・鬼怒川間温泉で、途中の停車駅は「とうきょうスカイツリー」「北千住」「春日部」「栃木」「新鹿沼」「下今市」、それと鬼怒川温泉行きでは「東武ワールドスクウェア」。JR線への乗り入れは行なわない。

 なお、7月15日15時から、HIS、クラブツーリズム、東武トップツアーズによる旅行商品の販売を開始している。

 さて、N100系の特徴は接客設備の多様化にある。イメージ図と、陣容、料金についてまとめておく。

接客設備は6種類。左列が上から順に「コックピットスイート」「コンパートメント」「スタンダードシート」。右列が上から順に「コックピットラウンジ」「プレミアムシート」「ボックスシート」

スペーシアXの接客設備

スタンダードシート: 3~5号車の3両。2-2列配置。浅草~東武日光間の料金は1940円
プレミアムシート: 2号車。2-1列配置。浅草~東武日光間の料金は2520円
コックピットラウンジ: 1号車(東武日光・鬼怒川温泉方先頭車)。スタンダードシート料金に加えて、特別座席料金として1人用200円、2人用400円、4人用800円が必要になる
コックピットスイート: 6号車(浅草方先頭車)。プライベートジェットをイメージした7人用個室。スタンダードシート料金に加えて、特別座席料金として1万2180円(1室あたり)が必要になる
コンパートメント: 6号車(浅草方先頭車)。定員4名の個室。スタンダードシート料金に加えて、特別座席料金として6040円(1室あたり)が必要になる
ボックスシート: 5号車の一部に設置される、2人用の向かい合わせ半個室。スタンダードシート料金に加えて、特別座席料金として400円(1室あたり)が必要になる

 コックピットスイートの特別座席料金が1万2180円と聞くと高そうに見えるが、定員の7で割れば1人あたり1740円。そう考えると割安ではないか。そのコックピットスイートとコックピットラウンジは運転台の直後にあり、前方/後方の展望を楽しめる。

多様な接客設備が特色

 現行の100系「スペーシア」では「ゆったりした移動」にこだわったが、N100系「スペーシアX」では「パーソナルな環境が当たり前になった時代への適応」「ワンランク上の乗車体験により、旅先への期待を深める」「自分だけの特別な日光・鬼怒川につながる」「それぞれの旅行スタイルに合った座席をお選びいただける」といった考えが打ち出された。

 今回の発表会では、コンパートメント以外について、体験会も行なわれた。コックピットラウンジはVR(Virtual Reality)による仮想体験、そのほかは実物のシートが置かれる形となった。

スタンダードシート。シートピッチは1100mmで、1160mmが一般的なJRのグリーン車に迫る
PCの利用なども想定して、通常より大型化された背面テーブルを備える。電源コンセントも背面設置
向かい合わせにすると背面テーブルが使えなくなるため、別途、インアームテーブルも用意される
リクライニングさせると、背ずりが倒れるとともに、座面の前方が少し持ち上がり、後方が少し沈み込む
別の角度から。これはリクライニングさせていない状態
右側の席でリクライニングさせた状態。座面の手前側が少し持ち上がり、奥が少し沈み込んでいる様子がお分かりいただけるだろうか
プレミアムシート(2人掛け)。シートピッチは1200mm
東武鉄道では初めてとなるバックシェルタイプで、後ろの人に気兼ねなくリクライニングさせることができる
電動式のリクライニング機構も東武鉄道では初めて。動きはシンプルで、「背ずりを倒すとともに座面が前方にせり出す」「元に戻す」のいずれか
左右の席の中間に、ドリンクホルダーと電源コンセントが設置される
背面テーブルはなく、インアームテーブルのみ。そこでテーブルを展開式として、大きなスペースを確保できるようにしたのはプレミアムシートの特徴
枕の左右を持ち上げて、ネックピローとして使える仕掛けもある。列車は上下だけでなく左右にも揺れるので、そちらのホールドに気を使ったわけだ
読書灯も組み込まれている。スイッチは電動リクライニングのそれと同じ場所
バックシェルと背ずりの間にモノが落ちてしまわないように、仕切りが組み込まれている。バックシェルならではの、設計者が気を使うポイント
ボックスシートの片割れ。向かい合わせで2人用との設定だが、小さな子供連れなら一緒に座れるぐらいに幅の余裕がある。窓側の肘掛けの下に電源コンセントがある
視線を遮り、パーソナル感を高めるために高さのある仕切りが設けられており、その内側にはコートフックが設けられている。テーブルは固定式で、ドリンク用の凹みもある
コックピットスイート。今回、実物が置かれたのは手前側のソファとテーブルで、奥の方は「前面展望のイメージ」となった
コックピットスイートのソファとテーブル。運転台背面側の壁面に、電源コンセントらしきものが描かれている。コックピットスイートとコックピットラウンジは、ソファに電源コンセントを取り付けるのが難しいため、壁面設置となるようだ
コンパートメントの展示はなかったが、そこで使われる灯具が展示された。灯具に電源コンセントを併設する形なのが分かる
コックピットラウンジはVR体験で。最近では鉄道車両の設計に際してデジタル・モデルを活用する場面が増えているという。いちいちモックアップを作ると時間も経費もかかるが、デジタル化はスピードアップと経費節減に貢献する。そのモデルが活用されたものと思われる
1号車の連結面側に設けられるカフェでは、オリジナルのドリンク、アペタイザー、スイーツを提供する。これはクラフトビール「Nikko Brewing」の一群。コックピットラウンジと同じ号車だが、ほかの号車の乗客でもカフェの利用は可能
こちらはカフェで提供される予定のクラフトコーヒー「日光珈琲」
「ニッコーラ」という、駄洒落のようなネーミングのコーラも供されるようだ
行先・種別・愛称などの表示に使用する側面表示器は、視認性の問題などからLEDが多い。しかしN100系では交通電業社の液晶ディスプレイ「彩VISION」が使われる。柔軟に表示内容を変えられるのは液晶の強みだ

 なお、N100系の両先頭車には荷棚がない。そこで5号車以外の各車では、交通系ICカードをキーとするワイヤーロック付き荷物置場をデッキに設置することになっているという。

東武特急のヘリテージ

 もともと、東武鉄道が日光・鬼怒川方面で運行している特急は、それぞれの時代における一般的水準を上回る接客設備を備えてくる傾向が強い。

 現行の100系では、「JRのグリーン車に迫る、広いシートピッチの腰掛」「ホテルの客室を意識した4人用個室」「ビュッフェの設置と軽食・飲料のシートサービス」といった具合である。その前に運行していた1720系では、国鉄の一等車(当時)に迫るスペックの腰掛を備えるだけでなく、軽食・飲料のシートサービス。そして、コンパクトながら誰でも自由に利用できる「ジュークボックス設置のサロンルーム」が有名だった。

 日光といえば世界的に知られた観光地であり、昔から外国人観光客も多い。そこで、1720系が運行されていた昭和40年代からすでに、英語での車内放送も行なわれていた。列車によっては、日本人より外国人の乗客の方が多かったという。なかには、自席を放っておいてサロンルームに入り浸り、ジュークボックスで音楽をかけまくっていた人もいたそうだ。

六角形の側窓

 N100系6両編成のうち、両先頭車では、一般的な四角形ではなく、六角形の側窓が使われる点が目を引く。強度の関係で角を丸めてはいるが、全体としては六角形だ。極めてめずらしい形であり、間柱が途中で細くなるから強度計算では気を使ったところだろう。

 かつて、東海道新幹線用の試作車両1000形のうち1両(B編成の1004号車)で、側窓の間柱にX型の骨格を入れた関係から側窓が六角形になった。ただし、これは量産車では採用されなかった。

 N100系におけるデザイン・モチーフの1つに、鹿沼組子が挙げられている。六角形の側窓も、その1つの現われであり、もちろん東海道新幹線の試作車両とは何の関係もない。とはいえ、どちらもメーカーは同じ日立製作所。不思議な偶然の一致だ。

フォトセッションで顔を揃えた、根津社長(中央)、浅草駅長の飯塚和浩氏(左)、東武日光駅長の阿久津孝行氏(右)。発駅と着駅のトップが顔を揃える