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東武鉄道が顔認証改札機を本日導入。手ぶら・顔パスの改札通過を見てきた!

2025年11月13日 実施
東武鉄道と日立製作所の生体認証が顔パス改札に対応

 東武鉄道と日立製作所は、生体認証サービス「SAKULaLa(サクララ)」に顔認証を導入、東武宇都宮線の改札での利用を開始した。

 従来のSAKULaLaで指静脈のみだった生体認証に、パナソニック コネクトの技術を活用した顔認証を追加することで、鉄道改札や店舗決済、入退管理などの多様なシーンに拡大できるようになっており、指静脈認証と顔認証の複数の生体認証を同一プラットフォーム上で提供するサービスとしてはこれが国内初とのこと。

 そして、今回発表した顔認証を活用したSAKULaLaサービスの第1弾として、11月13日13時から、東武宇都宮線 東武宇都宮駅~栃木駅の12駅で顔認証による自動改札の通過が可能になった。

SAKULaLaの顔認証で改札を通過する様子

ICカードを取り出さずに手ぶら・顔パスで改札通過

 顔認証で自動改札を通過できるのは、東武宇都宮駅~栃木駅間の顔認証対応改札機を設置しているIC定期券所有者で、事前にSAKULaLaへ顔情報と定期券のICカード番号を登録する必要がある。

 なお、顔認証改札が設置されていない駅をまたいだ利用はできない。また、実現時期は未定だが、将来の定期券以外の乗車券への対応も検討している。

 サービス開始の段階では、既存の自動改札機に独立型の顔認証用タブレットを設置し、そのタブレット内蔵カメラで顔を撮影して顔認証を行なう。また、2026年春以降には、オムロンソーシャルソリューションズ、日本信号、東芝、パナソニック コネクトと連携し、一部の駅で顔認証カメラ内蔵の自動改札を設置するとともに、東武東上線や東武アーバンパークラインの一部エリアへの導入も視野に入れているという。

 加えて、このSAKULaLaを利用した顔認証での改札通過のシステムは、東武線だけでなくほかの鉄道会社でも活用できるよう、汎用性の高いシステム構築を目指すとしている。

 今回の発表会では、顔認証カメラを内蔵する自動改札機の実機を展示し、実際に顔パスで改札するデモも行なったが、非常にスムーズに通過できることを確認できた。

顔認証対応改札について説明する、東武鉄道株式会社 経営企画本部 本部長 竜江義玄氏
11月13日からデジタルアイデンティティ共通プラットフォーム「SAKULaLa」が顔認証に対応
顔認証を活用する新サービスとして、顔認証自動改札、店舗決済、施設への入退館の提供を開始
SAKULaLaの顔認証対応サービス第1弾として、東武宇都宮線で顔認証改札を開始
開始当初は既存自動改札機に独立型の顔認証用タブレットを追加して実現するが、2026年春に顔認証カメラを内蔵した自動改札機を設置予定
顔認証用カメラ内蔵自動改札機は、オムロンソーシャルソリューションズ、日本信号、東芝、パナソニック コネクトと連携して実現する
将来は定期券以外の乗車券への対応やほかの鉄道事業者への導入も推進する計画
会場に設置された顔認証カメラ内蔵の自動改札機。2026年春に東武宇都宮線の一部駅への導入を予定している
顔認証のカメラを改札機の奥と中央付近の2か所に搭載
手前のLEDで顔認証に対応していることを示す
顔認証でスムーズに改札を通過することが確認できた

顔認証決済ではポイント付与まで対応

 また、SAKULaLaの顔認証を利用したサービスは、東武鉄道の自動改札だけでなく、店舗決済やオフィスビルなどの入退館などにも活用していく。

 SAKULaLaは2024年9月のサービス開始以降、東京ソラマチや東武ストア、埼玉県越谷・川越エリアの飲食店、上新電機の一部店舗、東武宇都宮ホテルのセルフチェックイン機など、現在までに約30店舗で導入されている。これらは指静脈認証を活用したものだったが、今後は顔認証による決済も展開する。

 顔認証決済ではJCBと協業し、国内の決済端末設置数の約50%を占める日本カードネットワークの決済端末「JET-S」シリーズと連携。対応するJET-Sシリーズ端末にSAKULaLaアプリケーションをインストールすることで、新たな決済端末を用意することなく顔認証決済が可能になる。あらかじめSAKULaLaにクレジットカードを登録しておくと、顔認証で登録したクレジットカードでの決済が行なえる。

 それに加え、ポイントカード情報もSAKULaLaに登録しておくことで、顔認証決済と同時にポイントを付与する仕組みも提供する。こちらはJCBの共通ポイント・マイル導入サービス「POICHI」を活用して実現する。

 店舗での顔認証決済サービスの提供開始は2026年春を予定しており、まずは東武グループの店舗やファミリーマートなど、東武線沿線の店舗を中心に導入を開始し、将来は全国展開も想定。また、JCBはSAKULaLaサービスの拡充や加盟店開拓にも携わることになる。

店舗での顔認証決済はJCBとの協業により実現
顔認証決済について説明する、株式会社ジェーシービー 執行役員 ソリューション営業推進部 部長 榊原英人氏
クレジットカードや個人情報、ポイント情報などを連携することで、顔認証だけで決済からポイント付与まで行なえるため、利用者の決済や事業者のオペレーション効率化を実現できる
決済端末「JET-S」シリーズにSAKULaLaアプリケーションをインストールすることで、顔認証決済を実現
SAKULaLaに対応するオムロン製のJET-S端末。今後は他社製端末への対応も進める予定
決済時には、セキュリティ対策のためSAKULaLaに登録している電話番号の入力が必要
QRコード決済用のカメラを利用して顔を撮影し顔認証を行なう
SAKULaLaに登録している複数のクレジットカードのなかから使いたいカードを選択可能
まずは東武線沿線の店舗を中心に導入を進めていく
将来は、首都圏や大阪、福岡、さらには全国展開も想定している

 オフィスビルや商業施設の入退館システムでの利用は、日立ビルシステムが提供する総合型入退館管理システム「秘堰(HISEKI)」と連携して実現。利用する企業や商業施設が、従業員や利用者をSAKULaLaに登録。従業員や利用者はSAKULaLaに顔情報を登録することで、顔認証だけで入退館が可能となる。2026年春より東武鉄道のオフィス入退館での利用を開始する予定。

 このようにSAKULaLaの新サービスは、まずは東武グループ内での導入を進めることで先行事例を積み上げつつ、将来はグループ外の顧客や行政サービスへの展開も進める計画だ。

日立ビルシステムが提供する総合型入退館管理システム「秘堰(HISEKI)」と連携した入退館機能も提供

 東武鉄道 取締役 執行役員 鉄道事業本部長の鈴木孝朗氏は、SAKULaLaの特徴として、クレジットカードや会員情報など、複数のデジタルアイデンティティを生体情報と紐付けて管理することで、一度の生体情報登録情報で、業種を横断して手ぶらで多様なサービスが利用可能である点と、利用シーンに応じて住所や年齢、ポイント番号など必要な情報のみを取り出して活用できる点にあると説明。

 これにより、一回の情報登録ですべての対応加盟店や施設を生体認証で利用できるのはもちろん、利用時にはスマホやカードが不要となるだけでなく、年齢制限のサービス提供も確認不要で行なえる。

 利用者はいちいちスマホやカードを取り出すことなく生体認証だけで決済したり改札通過や入退館が可能となり、それも一度の情報登録だけで全対応店舗や施設で利用できるため、登録作業も含めた煩雑さから開放される。事業社にとっては目視による確認作業の省力化や労働力不足の解消、会員証の貸し借りやカード偽造といった不正防止にも役立つ。

 こういったSAKULaLaの特徴を活かし、デジタルを活用した社会インフラとして社会課題の解決を目指していきたいとした。

東武鉄道株式会社 取締役 執行役員 鉄道事業本部長 鈴木孝朗氏
SAKULaLa特徴を活かし、デジタルを活用した社会インフラとして社会課題の解決を目指す

 日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット 事業執行役員 マネージド&プラットフォームサービス事業部 事業部長の石田貴一氏は、SAKULaLaが指静脈認証と顔認証に対応したことで、高頻度でスピーディな認証が必要な場面では顔認証、利用者の意思表示やアクションが必要な認証では指静脈認証、高機密のシステムや施設での認証では指静脈認証と顔認証の双方を利用することで、交通インフラから公共施設、金融、クラウドなどさまざまなインフラを安全かつ手ぶらで利用できると説明。

 さらに、SAKULaLaとAIとの連携により、登録情報を活用したAIによる新たな顧客体験を提供したり、自治体や民間と連携した利用者に合わせた行政・民間サービスの提案などにも活用できるよう、顧客体験の変革を目指したいとした。

株式会社日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット 事業執行役員 マネージド&プラットフォームサービス事業部 事業部長 石田貴一氏
指静脈認証と顔認証に対応したことで、高頻度でスピーディな認証から高機密のシステムや施設での認証まで、さまざまなインフラを安全かつ手ぶらで利用できる

 質疑応答では、生体情報を扱ううえでのセキュリティ体制についての問いがあった。SAKULaLaの生体認証は日立が提供する公開型生体認証基盤に対応した「生体認証統合基盤サービス」を利用しており、生体情報そのものは保管せず、生体情報をもとに作られた暗号化された公開鍵のみを保管することで優れたセキュリティ性を確保しているという。また、認証時に取得した顔情報も、認証後に即座に破棄され情報が残ることはなく、この点でも安全性に優れると説明。

 また、インバウンドの活性化に親和性があり、オーバーツーリズム問題の解決にもつながる可能性があるとし、外国人観光客向けへの展開も検討しているという。現時点で決まっていることはないが、今後関係者と協議しながら積極的に取り組んで行きたいとした。