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かつての関西へのメインルート「南海フェリー」撤退へ。このまま消えゆくしかないのか?

南海フェリー「フェリーあい」

 鉄道との組み合わせで、四国と「関西のド真ん中」を結び付けてきた「南海フェリー」(和歌山港~徳島港)が、航路ごと消滅してしまうかもしれない。

 同社の親会社である大手私鉄「南海電鉄」が、南海フェリーについて「2028年3月をもってフェリー事業撤退」を表明した。代わって航路を担う会社がなければ、そのままフェリーは運航終了となる。

 本州・和歌山県と四国・徳島県を半世紀にわたって結び続けてきた南海フェリーの消滅危機は、両側の2県のみならず全国ニュースとして報じられ、長時間Yahoo!トピックスで取り上げられるほどの反応を見せた。

 一見してローカル航路に見える南海フェリーだが、その役割は「2県を移動するフェリー」にとどまるものではなかった。航路撤退の要因と影響を探るとともに、今後の往く末についても考察してみよう。

フェリー+鉄道は「南海四国ライン」。関西へのメインルートだった過去

南海電鉄・和歌山港駅
「フェリーあい」船内

 南海フェリーの撤退報道には、やや上の世代の方が多く反応を示したように見える。その要因は、この航路が南海電鉄の電車と一体化された「鉄道連絡船」であり、長らく「四国~関西間のメインルートだった」ことにある。

 和歌山港は専用デッキで南海電鉄 和歌山港駅と直結しており、2002年に運航を終了した高速船+特急「サザン」なら、徳島港~難波駅間を最短2時間8分で移動できた。この所要時間は驚くべきことに、いま明石海峡大橋を経由している徳島~大阪間の高速バスとほぼ同等だ。

 南海電鉄も関西一円で「難波~徳島は南海四国ライン(フェリー・鉄道を含めた愛称)」といったCMを多量に流し、この航路が四国へのメインルートであることを喧伝していた。

 徳島~大阪間は「淡路フェリー(淡路島・大磯港~神戸・須磨港)経由」などの選択肢があったものの、鉄道接続もないうえに、渋滞が激しい淡路島内でのバスの時間が読めないため、今一つ信頼がなく……。一方で南海フェリーは、快適さと定時性もあってか政治家・芸能人をはじめビジネス利用も多く、四国出身の筆者は幼少時に、高速船「マリンホーク」の桟橋で徳島県知事 三木申三氏(当時)に抱っこしてもらったことがある、らしい(まったく記憶にない)。

 ともあれ、この「南海四国ライン」が、数ある瀬戸内のフェリーのなかでも、花形航路の扱いであったことは間違いない。

全国でもめずらしかった「両端とも鉄道連絡アリ」航路

国鉄小松島港駅・跡地 写真奥にフェリーが発着していた

 さらに特筆すべきは、徳島県側の「小松島港」(1996年に寄港終了)にもフェリーとの連絡鉄道として「国鉄小松島港線」が存在した。

 長らく「高速船は徳島港、フェリーは小松島港(国鉄小松島港駅と接続。1985年廃止)」であったため、徳島県側にも阿波池田・高知方面(急行「よしの川」「阿佐」)、松山方面(急行「予土」)などの接続列車があり、かなりの広範囲で四国から関西に行くなら南海フェリー経由と認識されていたのだ。

 南海電鉄は難波~徳島間の「鉄道+船舶」ルートを数十年にわたって育てており、鳴門公園・かずら橋といった徳島県の代表的な名所に向かうバスを組み合わせて、関西から徳島への誘客をはかった。徳島県は地理的な近さから関西のような扱いを受けることも多く(実際に大阪の準キーテレビ局が受信できる)、南海電鉄にとっても自社の牙城・和歌山県の隣県である徳島県に、勢力を広げたいという意思もあったのだろう。

 徳島県側の最大手「徳島バス」は、こういった経緯の名残もあってか、いまだに南海グループの一員だ。さらに、駅前一等地にも商業施設「南海ショッピングプラザ」(のちの「とくしまCITY」)を建設するなど、県内のいたるところに「南海案件」があった時代を覚えている人々も多い。そのなかでのフェリー撤退報道に「あの南海が、徳島行きの船から手を引くのか!」という反応が大きかったのも、当然のことであろう。

業績トントンも、新造船が……。撤退の背景

旅客・貨物の利用状況推移(南海電鉄Webサイト)
和歌山港でのトラック積込

 そんな南海フェリーだが、コロナ禍から復調して以降は利用者も年間30万人台をキープしており、2022年からは収支もマイナス900万円~プラス2500万円と、絶妙に“トントン”をキープしている。

 明石海峡大橋の開通、徳島に直通する高速バスの開業から二十数年が経っており、まったく必要がない航路であれば、とうに消滅しているはず。さして業績がわるくないにもかかわらず、なぜ南海グループは「撤退」の決断を下したのか?

 最大の要因は、所有する2隻のうち1隻である「フェリーかつらぎ」の老朽化だ。一般的なフェリー船体が20年程度で入れ替えとなるなか、かつらぎは1999年から四半世紀にわたって就航しており、撤退発表の前月にも機関の故障で休航を余儀なくされたばかり。もう一隻の「フェリーあい」と比べても、船内でデスクワークができるか、できないか程度に乗り心地が違う。限界を迎えている船体を「概算費用40億円で新造船に入れ替え」る必要性は、火を見るよりも明らかだ。

 もう1つの要因は「地元自治体との交渉不調」。親会社である南海電鉄は「フェリーかつらぎの船体更新」「赤字の補填」という2項目の条件を自治体に打診するも、断られたことから「2028年3月をめどに撤退」という発表にいたった。

 こればかりは自治体の熱意の差が決め手となり、国交省を動かして「共有建造制度」で船の建造費用(40億円)を一定額抑えるという手段もある。ただ撤退報道後は和歌山県知事 宮崎泉氏が存続に前向きであるものの、徳島県知事 後藤田正純氏が「(影響をいったん調査するものの)撤退を受け入れる」と明言しており、両県の協力関係は難しいものがあるかもしれない。

 国交省・JRTT(船舶の共有建造元。実質的な国の機関)などへのヒアリングも、根回しによる条件闘争もなく数日で「撤退容認」を口にしてしまうあたり、後藤田知事としては必要な航路でも関わりたくないのであろう。

 そして、最後の要因は「南海電鉄のビジネス上の旨味の減少」だ。いまや明石海峡大橋を経由する高速バス(南海バス・徳島バスなどが運行)が対徳島県での移動の主役であり、徳島バスと手を組んだ観光誘客も、高速バスを組み合わせた方が明らかに便利だ。

 好調な利用を保っている徳島~関西の都市間移動も、高速バス料金より3割以上も安い乗車券「好きっぷ」(片道2500円)によって成り立っている。さらに、途中駅がすでに廃止となり、フェリー接続以外の役割しかない鉄道線「和歌山港線」の維持費用を含めると……莫大な経費のわりには、利用実態が格安きっぷ頼みという航路維持は「割りに合わない」ものだろう。

 この状態に加えて、2019年に新造船「フェリーあい」が就航した直後にコロナ禍に見舞われ、業績不振に陥るという不幸もあった。「あい」の建造費用すら返済のめどが立っていないのに、「かつらぎ」の建造費用が加わるとなると、経営上のリスクが大き過ぎる。

 こうして振り帰ると、フェリー事業の撤退表明も、やむを得ないものだったのだろう。

継続なるか? 和歌山~徳島航路

徳島港フェリー乗り場。市営バスが接続で待機している

 さて、南海フェリーは今後どうなるのか。「航路撤退・廃止」以外の道はないのか?

 南海電鉄の公式リリースによると、「フェリー廃止」ではなく「撤退」とだけ伝えられているうえに、2年の猶予がある。まだ利用者が一定数いる状態でもあり、自治体の援助や他社の引き受けがあれば、フェリー航路としての存続や、南海の運営継続もあり得るのだろう。

 ただ、フェリーの業績をけん引するクルマ利用が、ここ30年で「乗用車 18万台→9万台」「貨物車 10.9万台→2.5万台」に落ち込んでおり、他航路の水準と比べても公費を投入しづらい状況ではある。

 近畿圏への貨物を増量するにしても、航路が2時間少々であるためトラックにとって「休憩」として使いづらい。かつ、フェリーのトラック航送は2万円前後にもかかわらず、多くのトラックが使う「ETCコーポレートカード」(基本は40%引き)なら、徳島~大阪間の通行料金も1万円内に収まるはず。明石海峡大橋を経由して速く到着させた方がドライバーの勤務時間削減にもなり、わざわざフェリーに乗船させるメリットが、現状でなさ過ぎるのだ。

 都市間移動の徒歩客や観光利用で考えても、南海から他社に引き継がれて「好きっぷ」が廃止になれば、どこまで利用者を維持できるか……。社会的に必要な航路ではあるが、近い将来を含めて、貨物・旅客とも経営環境が八方ふさがりであるのは間違いない。

 ここで、参考として挙げたいのが、同様に経営危機に陥ったことがある「伊勢湾フェリー」(愛知県 伊良湖港~三重県 鳥羽港)の事例だ。同社は財務上のピンチに陥った際、大株主であった近鉄・名鉄が「1株=1円」で株式を売却、当時の経営陣がMBO(自社株買い付け)を行なうことで、廃止を免れていまも存続している。

 両側の愛知県田原市、三重県鳥羽市なども株式を引き受け、直近の手元資金を緊急融資することで、航路廃止を辛うじて免れた。南海フェリーと同様に陸路で数倍の遠回りを余儀なくされるうえに、伊良湖・伊勢を周遊する観光客の多さから自治体・各方面の支持を得やすかったうえに、何より経営陣が踏ん張った、という事例だ。

 南海フェリーの場合は……自治体・経営陣に、ここまでの熱意があるようには見えない。「必要だけど、経営改善の見込みがない」航路を、今後どう扱っていくのか。悩ましい状況ではあるが、今後を見守っていきたい。