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本屋で売ってるリカバリーウェア、なぜ40代以降にも支持される? 宝島社「疲労回復ウェア」開発の裏側に迫る
2026年1月16日 06:00
- 2026年1月 時点
近年、急速に市場を拡大している「リカバリーウェア」。着て寝るだけで血行を促進し、疲労回復をサポートするという魔法のような衣類だが、その市場に異色のプレイヤーが参戦している。ファッション誌やブランドムック(付録本)で知られる宝島社だ。
なぜ出版社がアパレル、それもリカバリーウェアを手がけるのか? 開発担当者への取材を通じて、書店での意外な販売戦略や、若者のみならず40代以降に支持される切実な理由が見えてきた。話を伺ったのは、宝島社 コンテンツ&プロダクツ局 局長の藤定修一氏。
出版社が本気で作った疲労回復ウェア「リカバリープロ ラボ」
宝島社が販売するリカバリーウェアこと「リカバリープロ ラボ」。正式な商品名は「[一般医療機器] Recoverypro Lab. 疲労回復ウェア」。“出版社が本気で作った疲労回復ウェア”をキャッチコピーに、2023年2月に発売し、累計販売数は35万着に達している(2025年12月時点)。
そもそも、今各社がしのぎを削るリカバリーウェアとは、特殊な鉱物を練り込んだ生地が血行を促進する一般医療機器(ものすごく簡単に言うと、温泉や岩盤浴で得られる疲労回復効果に似た仕組みを利用した衣類)のことで、部屋着やパジャマとして愛用している人も増えてきた。記者自身、2025年に買ってよかったモノ指3本には入る、まさに令和のライフハックアイテムだと感じている。
宝島社「リカバリープロ ラボ」の価格だが、ベーシックな長袖シャツ・ロングパンツは上下セットで9900円。大手ブランドでは2~3万台も多いなか、安すぎず高すぎない価格設定と、ファッション誌のノウハウを活かした高いデザイン性が大きな強みだ。“こういうのがほしかった!”という読者の悩みに寄り添う、編集者ならではのこだわりが詰まっている。
発売当初は女性向けだったが、現在は販路の拡大や色・サイズの充実により、性別を問わずギフト需要や旅行用としても支持を広げている。
――まずは「リカバリープロ ラボ」開発のきっかけを教えてください。
藤定氏:もともとは、雑誌・書籍を販売する自社ECサイト「宝島チャンネル」の会員数100万人突破を記念し、その会員向けに「何か特別な企画や商品を提供できないか」という想いから始まりました。
今から4年前、ある展示会でリカバリーウェアのサンプルに出会い、“着るだけで疲労回復”のコンセプトが面白いと思って自宅で試してみると、「着て寝た翌朝の感覚が明らかに違う」と感じました。この画期的なアイテムを、宝島チャンネルの読者さん向けに商品化できないかと考え、自社ECサイトで発売を始めたのが1年後の2023年2月のことです。
当時はまだ、世間一般にリカバリーウェアが浸透しきっていないころでしたが、購入者の多くは普段から雑誌を愛読している情報感度の高い層であり、予想に反して売れ行きは好調で、約2か月間で完売するヒットを記録しました。
「よいものを知らしめる」のが出版社の仕事
――なぜ出版社である宝島社がリカバリーウェアの開発に乗り出したのでしょうか。
藤定氏:私たちの根底にあるのは、「本当によいものを広く知らしめるのが出版社の仕事である」という使命感です。編集者は本能的に「これ面白いよ!」「これすごくいいよ!」という情報を読者に伝えたいと考えています。
以前、コンビニで大ヒットした「真空断熱タンブラー」付録ムック(コンビニの専用マシンで買ったコーヒーもそのままセットできる保冷保温タンブラー)もそうでしたが、「まだ皆が知らないけれど、生活を劇的によくするアイテム」を見つけ出し、手の届きやすい価格で世に出すことは、雑誌作りとまったく同じプロセスなんです。
私自身、リカバリーウェアのサンプルを試して「朝起きたときの感覚が違う」と確信したとき、この感動を読者にも体験してほしい!と思いました。
――実際に発売して、どんな反応がありましたか?
藤定氏:最初は社内でも「着るだけで疲労回復?」「うそ臭い」「本当に効果があるのか」とまったく信用されませんでした(笑)。社内企画を通すために、盛って言ってるんだろうと、信用してもらえず。
そこで、ファッション誌のスタイリストやモデル、自社の営業や広報担当など、とにかく身近な目利きのプロたちに製品を試してもらったところ、「もう1着ほしい」「親にプレゼントしたい」と評価が激変し、応援してくれる人が増えていきました。購入者アンケートでも、77%の方が効果を実感したと回答しています。
では、残りの23%の方には? というのがあるのですが、体質や日々の疲れ度合い、生活習慣など、人によって疲労回復の実感には差があるので、逆にこの数字はリアリティがあっていいのかな?と思い、(情報を)オープンにしました。20年近くブランドムックの制作に携わってきましたが、こんなに老若男女と幅広く喜んでもらえる商品は初めてかもしれません。
あと、「人に勧めたい」という声が81%。実際、自分のまわりでも気に入ってくれて、ご両親などにプレゼントしたと言ってくれることが多いです。
予想を反する売れ行き。アンテナの高い“書店客”が手に取った
――書店での販売も好調だと伺いました。衣類を本屋で売ることにハードルはなかったのですか?
藤定氏:当初、社内では「本屋で1万円近い商品は売れない」という声もありました。一般的に、書店のお客さんが支払う金額の限界値は2000円〜3000円程度(たとえば高価な本だと写真集などがMAX)と考えられていました。しかし展開してみると、書店に集まるお客さまとの相性が抜群によいことが分かったんです。
小売では、たとえばコンビニは「おにぎりや飲み物を買う」といった目的買いのお客さんが中心だと思いますが、書店には「何か面白いモノはないか」「新しい情報を得たい」という知的好奇心を持って訪れるお客さんが多い。そうした情報感度の高い層は、当時まだ一般的ではなかった「リカバリーウェア」という新しい概念に対しても敏感に反応し、その価値をすぐに理解してくれました。大事なのは「お客さまは金額だけでなく、価値とのバランスで判断する」ということでした。
それを確信したのが2024年冬、東京・丸善丸の内本店で行なったポップアップショップです。観察していると“金曜日”に本を数冊まとめて購入するお客さんが、そのままリカバリーウェアも一緒にレジへ持っていく姿が目立ちました。「あ、週末にこうやってリラックスして読書したいんだろうな」、という相性のよさを感じました。
でも書籍とは異なり、衣類にはM・L・XLなどのサイズ展開があります。これらを通常の棚や平積みで管理・陳列することは、書店のオペレーション上、非常に困難でした。そこで2025年4月、書店に専用の販売キット(フロア什器)を導入しました。
いわゆる専用の販売棚とセットで書店に卸すことで、選びやすく売れ行きも伸び、導入当初は約100店舗からのスタートでしたが、現在では1000店舗以上の書店にこの専用コーナーが広がっています。
業界の勢力図では“中の下”。あえて低価格を貫く理由と、そのカラクリ
一般医療機器(家庭用遠赤外線血行促進用衣)として届け出されているものでは、現在20ブランド以上のリカバリーウェアがある。
各社で「価格」や「デザイン」の仕様に差があって、たとえば圧倒的な安さで人気のワークマンの「MEDIHEAL(メディヒール)」は上下セットで3800円。リカバリーウェア最大手であるTENTIALの「BAKUNE(バクネ)」は上下セットで2万6480円(いずれもベーシックな長袖シャツ・ロングパンツを上下セットで購入した場合で、2026年1月時点の価格)。
ほかにも、トレーナータイプや半袖タイプなどがラインアップしていて、ジャンルも、寝具メーカー系からスポーツアパレル系、アウトドアブランド系までさまざまある。
――宝島社は上下セットで1万円以下。業界の勢力図でいうと、どこですか?
藤定氏:私たちの価格帯の立ち位置は「中の下」くらいです。他社さんが2〜3万円、低価格の商品が3000〜5000円というなかで、うちは1万円を切る。自分たちで企画から作らないと、お手頃価格で読者に届かない気がしているからこその価格設定なんです。
――低価格だと、品質を心配する声もありませんか?
藤定氏:当初、自社サイトのコアなお客さま用へのサービス商品として企画したので、よい商品を極力お得に購入できるように、利益率をかなり抑えました。自社ECのみでの販売を想定してたため、薄利で、原価率が高いのですが、宝島チャンネルのお客さんも“お得な商品”と思ってくれたので、自社EC以外で販売する際も価格をそのままで販売していました。決して、お得だから品質が低いとかではなくて、コストはかかるけれど、販売価格は抑えてある、という商品なんです。
それから、私たちは自社メディアを持っています。テレビCMなどの多額な広告宣伝費をかけず、自社雑誌やSNSで商品情報を届けることで宣伝コストを抑え、その分を、より多くの人が手に取りやすい商品価格に還元することができます。また、ブランドムックのノウハウを活かして大量生産ができるのも、(買う側にとっては)高コスパの理由です。
昨年、着心地やデザインのアップデートを行ない、500円値上げさせていただきました。あまりに利益率が苦しかったための決断ですが、依然として市場では“中の下”のお手頃価格を維持しています。
一般医療機器を名乗るには厳格なルールがある
――最近、他社製品が自主回収される事例もありました。一般医療機器としての「リカバリーウェア」には、厳しい基準があるそうですね。
藤定氏:はい。正式には「家庭用遠赤外線血行促進用衣」といい、生地に練り込まれたセラミックなどの鉱物が、人から出る体温(遠赤外線)を吸収・輻射することで血行を促進する一般医療機器(クラスI)です。これは厚生労働省が定めた分類であり、製造・販売するにはPMDA(医薬品医療機器総合機構)への届出と、定められた試験・基準を満たす必要があります。
一般医療機器のリカバリーウェアとして疲労回復を謳うには、上腕部や大腿部などの大きな筋肉をしっかり覆い、肌との接触面を多く確保しなければなりません。したがって、ネックウォーマーや靴下のような商品では、一般医療機器としての販売はできません。
――効果効能の表現についてもルールがあるのでしょうか。
藤定氏:効果効能は「疲労回復」「血行促進」「筋肉のコリ緩和」「筋肉の疲れ軽減」の4点のみで、その他の効果効能の表現は一切使えません。このルールを徹底して守らなければなりません。
注意すべき点として、「リカバリーウェア」という言葉自体は一般名称であるため、PMDAに届け出していない商品でも名乗ること自体は可能です。しかし、その場合に「疲労回復」や「血行促進」という具体的な効能を1つでも書くと、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)違反となります。
一般医療機器としての手続きを踏まえたあとに、消費者はより安心して効果が裏付けられた製品を選ぶことができます。
――ちなみにリカバリーウェアって夏は暑くないんですか?
藤定氏:私は一年中、自社商品を着て寝ていますが、夏向けの半袖・ショートパンツを使っているので、暑苦しいと思ったことはないです。冷房をつけて寝ると、ちょうどよい感じになります。冷房なしだと、暑いと感じる男性はいるかもしれません。女性は、夏でも上は半袖、下はロングパンツを選ぶ方が多いようです。
――半袖半パンだと効果が半減しない?
藤定氏:面積が半分だからといって、効果が単純に半減するかどうかは、個人差があります。そもそも効果を感じにくい体質の人もいますが、(半袖半パンタイプを含め、一般医療機器のリカバリーウェアは、上腕部や大腿部などの大きな筋肉をしっかり覆い、肌との接触面を多く確保している形状も定義の1つなので)、特に疲労を感じやすい40代以降の層からは、夏場の半袖・ショートパンツのスタイルでも高い支持があり、十分な反応が得られています。
――洗濯したら効果が薄れない?
藤定氏:これは薄れません。セラミック(特殊鉱物)を糸に練りこんでいるので、洗濯しても効果は失いません。私自身3年前の商品を着ることもあり、体感として効果が落ちたということはありませんでした。
ただし衣類なので、“やぶれ”や“よれ”といった経年劣化による効果の低減は考えられ、耐用年数は2年を推奨しています。
40代以降の“切実な悩み”に応えるデザイン
興味深いことに、トレンドに敏感な20~30代よりも、40代を境に購入者が急増するという。活発で代謝のいい若者たち以上に、自力での疲労回復が難しくなってきた世代にとって「疲れが取れる」という言葉は切実だ。
宝島社の「リカバリープロ ラボ」は、そういった客層の声を反映しながら、細かなアップデートを重ねてきた。
――ターゲット層やデザインの特徴、他社との違いを教えてください。
藤定氏:当初は自社ECサイト「宝島チャンネル」会員読者の90%以上が女性であったため、ターゲットも女性を意識していましたが、書店での販売が始まり、男性客がかなり増えました。
若い人だと自力で疲労回復できちゃうからか、効果についてあまりピンとこないみたいなんですけれど、40代になったらみんな疲れてるのか、「疲れが取れる」というだけで反応が変わるんですね。
これもあって、50代向けライフスタイル誌「大人のおしゃれ手帖」の読者層(40〜50代以降の女性)や現場スタッフの意見を反映し、「お尻をすっぽり隠す丈」や「膝小僧を出さないショートパンツ」を開発したり、百貨店の顧客の意見を受けて、Mだと小さいがLだと大きすぎる人向けの「ゆったりMサイズ」を加えたりと、細かいアップデートを重ねてきました。
藤定氏:従来のリカバリーウェアでは、アスリート向けのスポーティなイメージが先行していた分、そういった女性らしいデザインや、他社にはない“パープル”などのカラバリが大好評でした。
また、急な宅配便への対応やワンマイル(近所)の外出もこなせる、“いかにもパジャマ”に見えないファッション性と実用性を両立している点もこだわりです。
年齢を重ねることで、より「ストレスのない着心地」を重視するようになります。当初ブランドタグは生地でしたが、肌に当たってチクチクするという不満を受け、今はプリントタグへと改良しています。
――一方で、若年層の間でも話題になっていると伺いました。
藤定氏:はい。自社のビューティブランド「BRILMY(ブリルミー)」とハローキティがコラボしたモデルを、TikTokerのふろくちゃんが紹介してくれたところ、動画が60万回以上再生され、大きな反響を呼びました。若い世代には、疲労回復の機能性に加えて、「萌え袖ができるサムホール付きデザイン」や「化粧水やパックをつけやすい、深い首回りのデザイン」「キャラクターのかわいさ」といったファッション性が刺さっています。
ライセンスの商品は作るハードルが高いのですが、私たちはこれまで雑誌・ブランドムックで築いた関係があるので、スヌーピーやディズニー、ムーミンといったキャラクターデザインやブランドコラボ商品をスピーディに実現できるのも、大きな強みです。
“クリスマス直前が一番売れた”リカバリーウェア。ギフト・旅行用にもちょどいい
――これからバレンタイン・ホワイトデー、春の新生活などイベント続々です。ギフトとしての需要は?
藤定氏:実は昨年、一番売れたのはクリスマスの直前、1週間前でした。百貨店の催事場や書店店頭では、24日・25日の直前になって売上が急増しました。
なかでもディズニーの「ベイマックス」デザインや大きいL・XLサイズは、女性が男性へのプレゼントとして購入されるケースが目立ちました。
リカバリーウェアは、贈る相手に「お疲れさま」「ゆっくり休んでね」という思いをダイレクトに伝えられるアイテムです。好き嫌いが分かれにくい実用的なギフトとして、駆け込みで買われる方が非常に多かったのが印象的でした。
それもあって、リカバリーウェア専用のギフトBOX・袋など、ラッピング資材をいっぱい作ったんですよ。ディズニーやハローキティ、スヌーピーコラボ専用のギフトラッピングも好評です。宝島チャンネルで取り扱っています。
――旅行・出張・お出かけでの活用メリットは? こんなシーンにお勧め、という例を教えてください。
藤定氏:荷物にならないコンパクトさです。先日、弊社の編集部員がフィンランド出張へ行った際、長袖と半袖の両方のセットを持って行きましたが、「かさばらない」「分厚く重ならない」からパッキングしやすく、旅のお供にお勧めだと語っていました。
また、リカバリープロ ラボはゆったりしたサイズ感で作られているため、飛行機内など移動での着用にも向いていて、長時間の移動を快適に過ごした人にお勧めです。ビジネスホテルなどの備え付けのパジャマは、生地が薄いなど「しっくりこない」場合も多いですが、自前のリカバリーウェアを持参することで、旅先でも質の高いリラックスタイムを確保できると思います。
「部屋着にもなるが、外にも着ていける」ことを目指して開発したので、コンビニや散歩など、ちょっとした外出着(ワンマイルウェア)にもぴったりです。
ほかにも具体的な口コミとして、男性からは「筋トレ後にすごい愛用するようになった」という声や、「ゴルフ後に筋肉の疲れの軽減のためにこれを着るとすごい和らいだ」といった体験談が寄せられていて、アクティビティを楽しんだあとのリカバリーにもぜひ活用してほいしいです。
――最後に、今後の展開について教えてください。
藤定氏:昨年12月に、冬向けの起毛フリースとインナーを発売しました。起毛フリースタイプは非常に暖かく、インナーは薄手でも血行促進に効果があるので冬の外出にも重宝します。
また、現在5色(ブラック・グレー・ダークグレー・パープル・ネイビー)を展開していますが、実は新色のネイビーがブラックを上回る人気となっています。このニーズを受け、今年の夏には「ネイビーの半袖・ショートパンツ」の投入を予定しています。さらに、9月ごろには新たなキャラクターデザインやコラボ商品の発表も控えています。
新商品を出すとなると(届出が必要な場合もあり)、企画から発売まで最低でも1年はかかるのですが、さらに進化させた商品、かゆいところに手が届く商品を開発中です。楽しみにしていてください!
――ありがとうございました。












































