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本当に売れる?が瞬時に大増産。「ミャクミャクひっぱりだこ飯」はなぜここまでヒットしたのか、淡路屋に聞いてみた

淡路屋「ミャクミャクひっぱりだこ飯」

万博閉幕から3か月。まだまだ売れる「ミャクミャクひっぱりだこ飯」

 184日間で約2530万人が訪れた大阪・関西万博の閉幕から、はや3か月。公式キャラクター・ミャクミャクのイラストを容器にあしらった駅弁「ミャクミャクひっぱりだこ飯」の勢いが止まらない。

 駅や販売店での販売は即時に売り切れ、ネット通販に切り替えれば「待機列3万人以上」売れ行きは想定の数倍のまま推移しているという。争奪戦のし烈さは、予約サイトにさえつながらなかった閉幕前の万博チケットに近いものがある。

 製造元の淡路屋も、ここまで人気はまったくの想定外だったといい、フル回転で必死の増産を行なっている。閉幕後も、思わぬ形で万博レガシーとなったミャクミャクひっぱりだこ飯は、なぜここまでの人気を保ち続けているのか。

タコ壺容器入りのタコ飯。食べ終わっても使える!

ノーマルバージョンの「ひっぱりだこ飯」
ミャクミャクひっぱりだこ飯

 新神戸駅・西明石駅などの駅弁を手がける淡路屋は、1903年(明治36年)の創業から120年以上の歴史を誇る、関西屈指の駅弁業者だ。最大のヒット商品は、1998年の明石海峡大橋開通とともに発売した「ひっぱりだこ飯」で、発売からシリーズ累計で1600万個も売れているという。

 人気の秘密は、海の恵みを最大限に活かした「タコづくし」の美味さにある。タコの煮汁を加えて炊き込んだタコ飯の上に、明石名物のタコ足がごろんと入る。付け合わせのタケノコ、人参などのアクセントも食感が心地よく、食べ進めると飯のなかから、タコ入りの練り物(タコボール)が入る。タコと醤油の香ばしい香りに満たされつつ、どっしりしたボリュームに満たされる逸品だ。

 もう1つの人気の秘密は「タコ壺型の容器」。ミャクミャクがプリントされた高さ約10cmの陶器はずっしりと質感があり、食べたあとも食材の保管や文房具入れ・インテリア小物など、さまざまな用途に使える。もちろん、上を覆うように付いている掛け紙も、ミャクミャクオリジナルバージョンだ。

 なお、縦長の容器はミャクミャクグッズの保管にもよく使われる。なかには、人気商品「ミャクミャクもっちりぬいぐるみ」をタコ壺型容器にピタッと収めて「壺入りミャクミャク」の記念撮影を行なう人々も多くいた。壺とぬいぐるみの組み合わせ、最初からこのために作ったのでは?と思わせるそのジャストフィットぶり!

ミャクミャクのぬいぐるみがジャストフィット

 ミャクミャクひっぱりだこ飯が大ヒット商品になれた理由は、終盤にかけて加速度を増した万博の人気や、ひっぱりだこ飯のブランド力といった揺るぎない要因もあっただろう。しかしそれ以上に、「タコ壺型陶器」の完成度の高さを口コミで広め、「ぬいぐるみがジャストフィットで入る」「100円ショップのグッズを使ってテラリウムにできる」といった使い方を次々と見つけて広めた購入者、ミャクミャクファンのおかげでもある。

 そして、予想外の人気や争奪戦の現状を正直にSNSで発信し続け、根強く入手待ちを呼びかけ続けた、淡路屋のSNS戦略も多くの万博ファンの心を掴んだ。「淡路屋パビリオン」とも呼ばれる商品の豊富さに気づいてほかの商品を頼む方も多く、「ハローキティ」「パンダコパンダ」「923形ドクターイエロー」といったひっぱりだこ飯シリーズが、ミャクミャクひっぱりだこ飯につられて売り切れたそうで(1月上旬に発売再開予定)、会期終了から年をまたいでも止まらない「ミャクミャクフィーバー」に、淡路屋はまだまだ乗り続けそうだ。

 ただ、このミャクミャクひっぱりだこ飯発売前には、当初に生産予定であった1.5万個の完売すら危ぶまれ、増産など想像もしていなかったという。そこから大ヒットに至る経緯と、予想外の人気によって生じた新たな苦悩などのお話を、淡路屋 副社長の柳本雄基さんに伺った。

もともとは「そんなに売れない」想定だった?

株式会社淡路屋 副社長 柳本雄基さん

 ミャクミャクひっぱりだこ飯の売れ行きによくない見通しが立てられていた理由、それは「発売日の遅れ」だ。

 企画段階では10月13日までしか販売できない予定であったうえに、本来なら8月中旬に発売する予定が、陶器の製造遅れで、発売は9月18日に。万博会期終了まで1か月を切っており、1.5万個の完売はとても想像できなかったという。

 ところが、発売日には淡路屋の自社売店(新神戸・神戸・西明石・明石・鶴橋)のすべてが、開店前の整理券対応で完売。最も多く在庫を配置した大阪環状線 鶴橋駅には100人以上の行列ができたうえに、東京駅 駅弁屋「祭」では改札が開く朝4時10分の前からミャクミャクひっぱりだこ飯待ちの人々が並んでいたそうだ。

 駅弁屋「祭」では人気商品が出るたびにすさまじい行列ができるが、駅弁のために早朝から待つ例は、そう聞かない。各地でただ事ではない売れ行きが次々と伝えられ、「もっと穏やかに売れるだろう」と見られていた予測は外れた。柳本さんは初日に店頭にできた待機列を見てすぐ5万個増産を決断したが、実際の陶器の納品はかなり先であり、今度は売れ過ぎによって「別の方向で焦った」という。

 店頭での混乱のために、10月には店頭中心であった販売方法をオンライン・店頭取り置きに切り替えた。しかし直販サイトの初日の待機列は3万3000人に達し、実際には数十万にもおよぶ閲覧があったという。もちろんWebサイトがすんなりつながるわけもなく、しばらくは会期末の万博チケットと同様の争奪戦が繰り広げられることとなる。

 あっという間に在庫は売れていき、10月26日をもって、いったん販売休止に。1か月後の11月20日にネット上での予約を再開したが、それでも通販サイトに5000人程度の待機列ができ購入できない人々も多数いる状況で、柳本さんは「Webサイトの改修がなかなか追い付かず、申し訳ない」と語っていた。

淡路屋神戸工場(Webサイトより)

 そして、ミャクミャクひっぱりだこ飯を生産する側の苦労も、並大抵のものではなかったという。

 同社の工場では1日80人前後の人々が商品製造に従事しており、従業員にムリがかかり過ぎない範囲で商品を受注、増産体制を構築していたそうだ。それでも先に述べたとおり、ミャクミャクひっぱりだこ飯をきっかけに、数種類あるほかのひっぱりだこ飯シリーズや、果ては「クロミランチ」などほかの弁当も大幅に売り上げを伸ばしたという。こうなると、生産を担う工場の方も、少しでも需要に応えようと必死だ。

 接客を担う店頭の販売員も事務方も、「ミャクミャクひっぱりだこ飯が買えない!」「いつ売る?」という問い合わせの多さに音を上げるなど、想定外のヒットの影響は、各部署におよんだ。こういった方々に感謝の気持ちを伝えるべく、淡路屋では万博熱も冷めやらぬ11月に、ボーナスとはまた別の「特別賞与」を実施。製造・販売の現場で苦労をした人たちには、特に手厚く支給したという。

まだまだ人気のミャクミャクひっぱりだこ飯、今後は?

2023年の阪神優勝を記念して発売した「アレ入りひっぱりだこ飯」。バリエーションは多い

 ミャクミャクひっぱりだこ飯は、これまでのひっぱりだこ飯シリーズのなかでも過去最高に売れているという(ノーマル版を除く)。ただ、柳本さんが心を痛めているのは、「転売の多さ」だ。

 あまりにも転売が多いと、欲しい人々のところに商品が届かない。淡路屋としても購買履歴から調査はしているそうで、裏側での対策は実行しているものの、いくらでも新しいアカウントや届け先を指定されてしまうので、現況はいたちごっこ。なかなか効果的な対策がないという。なにぶん商品が(日持ちしない)弁当でもあり、発送する事務の作業の限界がある。ただ柳本さんは、「最大の対策は、徹底した供給」と言い切り、増産体制をしっかり構築していきたいと考えているそうだ。

 なお、2026年1月現在では、5万個追加の発注もすでに底をつき始めており、現在でも1万個単位で陶器の追加生産を続けているという。2025年12月には、「2026年4月分」の受注生産が始まったものの、こちらも数時間で完売してしまったという。

 柳本さんも「準備ができ次第5月分、6月分の受注生産も行なうので、まだ入手できていない方は待っていてほしい」とのこと。万博人気に乗って争奪戦になるほどの人気が出たミャクミャクひっぱりだこ飯、今後どこまで勢いを保ち続けるかが注目したい。