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新日本海フェリー、小樽~舞鶴に「けやき」就航! 同航路21年ぶりの新造船をがっつり見学してきた

2025年11月12日 公開
小樽~舞鶴航路に就航する新フェリー「けやき」

 新日本海フェリーは、小樽~舞鶴の日本海航路に新造船「けやき」(1万4157トン)を投入する。最初の営業運航は11月14日の小樽発~舞鶴行きの予定。就航に先立つ11月12日、舞鶴港フェリーターミナルで報道陣や招待者ら約400名に向けた内覧会を実施した。

 お披露目したフェリー「けやき」は、三菱重工下関造船所で建造されたもので、4月29日に命名・進水し、旅客運航に向けた艤装を行なっていた。船名は京都府舞鶴市の木である欅(ケヤキ)に由来する。主要諸元は、全長199m、全幅25m、総トン数1万4157t、速力28.3ノット(52.4km)で、旅客定員286名、トラック約150台と乗用車約30台を搭載できる。

 本船は、2004年から運航してきた「はまなす」「あかしあ」のうち「はまなす」を代替するもので、同航路への新造船の投入は21年ぶり。なお、2番船の「(新)はまなす」も10月9日に進水しており、2026年6月に就航して「あかしあ」を代替する予定で、これにより小樽~舞鶴航路は新世代のフェリーに入れ替わることになる。

最新技術を盛り込み省エネ化を実現

「けやき」と従来のフェリーとの技術的な違いは、船首が「垂直船首」、船尾が「バトックフロー」と「ダックテール」であること。垂直船首形状(建造した三菱重工はカタナ・バウと呼ぶ)は積み荷により喫水が変動しやすく、また比較的短い距離を高頻度で往復するというフェリーに向いたものとされ、さまざまに条件が変わるなかでの平均燃費の低さを追求した形状だという。

 バトックフローは、船尾付近の船底を(丸みを帯びて船尾に向かってすぼまる従来の形状から)船体中央部の断面形状のまま船尾に向かって底が浅くなる形状としたもので、船尾付近の船底中央に大きな整流板を設けたもの。スクリューに流れる水の速度を均質化することで、スクリューのロスを低減する。

 またダックテールは、船尾にアヒルの尻尾のような水平の延長板を取り付けることで、船尾で発生する渦を抑え後流を整え抵抗を軽減するもの。日本のフェリーとしては初導入の技術で、船尾の浮力を増すことで重心が前方に寄ることも抵抗の軽減に寄与するという。

 さらに、アンチローリングタンクとフィンスタビライザーを組み合わせた減揺システムを新たに導入しており、これによりスタビライザーが小型化、抵抗の減少につながっている。

 これらの新機軸は、いずれも省エネ化を目的に取り入れたものだが、冬季に荒れやすい日本海では動搖の軽減が乗り心地の向上にも直結する技術で、速度の維持(=定時運航性の確保)という点でも効果が期待できそうだ。

11月12日5時50分ごろ、舞鶴港に到着した「けやき」。アヒルの尻尾のように突き出した船尾「ダックテール」に注目

機能的で開放的な船内空間

 船内は、エントランスホールを中心に前方に客室、後方にレストランやオープンデッキを配している。

 客室は全5タイプ(+ドライバーズルーム)で、全76室、定員286名。時代の変化により大勢の団体旅行がほぼなくなり、小グループや個人のツーリストが増えたことから、旧来のフェリーにあったような間仕切りのない大部屋は存在せず、最もリーズナブルな「ツーリストA」でもプライベート空間を確保した寝台となっている。

 また、「ツーリストS」はドアのある個室のためセキュリティも確保でき、シャワーやトイレを備えた「ステート」は1人旅からファミリーまでをカバー、さらに「デラックス」では専用テラスやソファも設けている。

 最上級グレードは「スイート」で、テラスとオーシャンビューの浴室もあり、さながら豪華客船のような船旅が楽しめる。また、「ステート」には「ウィズペット」ルームがあり、ペットと一緒に宿泊が可能。ほかに物流ドライバー向けのドライバーズルームがあり、こちらは「ツーリストS」と同等の個室となっている。

 船内の施設はハデな豪華さではなく上品な優雅さを追求している。エントランスホールは4階から6階の3層吹き抜けで開放的な空間となっており、この周囲にレストランやグリル、浴室などを機能的に配置。これらは「京都」と「歴史」をコンセプトにしており、例えばコース料理を提供するグリルレストラン「大江山」は、百人一首にも詠まれた歌に由来。

 4階、5階と2層吹き抜けのフォワードサロンは、宮津の著名な滝にちなんで「白竜」と名付けられ、また国内フェリー初導入のプロジェクションマッピングを駆使したイマーシブ体験空間は、丹後風土記に描かれた浦島太郎の物語から「龍宮」としている。

エントランスホールは4階から6階までの吹き抜け構造。ここより前部が客室で、後部にはレストランやデッキ、機関部がある

 さて、筆者も年に数回フェリーを利用して移動するが、これまで最も不満だったのは、陸地から離れた洋上では携帯電話の通信ができなくなることだった。また、船内中央に近い客室の場合は陸地が近くても電波が届かないことが多く、舷側の休憩スポットで通信を試みている人もよく見かける。

 一方「けやき」は、新造船らしく船上Wi-Fiサービス(Starlink衛星を使用した高速Wi-Fi)が客室を含む船内ほぼ全域で使用可能とのことで、これは数字には現われにくい本船の大きなアドバンテージといえるだろう。

客室タイプ

ツーリストA

・ツーリストA1(ベッド対面式)
定員1名×22床、料金1万2000円(期間A)
・ツーリストA2(ベッド上下式)
定員1名×22床、料金1万2000円(期間A)
設備: ベッドランプ、荷物棚、ロールカーテン、コンセント(AC100V、USB Type-C)、キルトケット、枕、シーツ

「けやき」には旧来のフェリーにあった大部屋は廃されており、最もリーズナブルなのがツーリストA(指定制寝台席)。ベッドサイズは197×74cmで、各ベッド間に間仕切りとロールシャッターがありプライバシーは確保できるが、鍵などはない。個室内には荷物棚もある。

「ツーリストA1」。ドアはないがシャッターでプライバシーを確保できる
「ツーリストA2」。対面に部屋がないため1人旅に向いている

ツーリストS

・ツーリストS
定員1名×74室、料金1万9000円(期間A)
設備: テーブル、イス、照明、テレビ(HDMI端子付)、コンセント(AC100V、USB Type-C)、キルトケット、枕、シーツ

 テレビがある1段ベッドの部屋で、高さも確保され1人で気兼ねなく過ごせる。ベッドサイズは199×79cmで、デスク前にコンセントがあり、船上Wi-Fiサービスを利用してPC作業も可能。各室にタッチキー式の鍵があり、セキュリティも確保できる。

「ツーリストS」。デスクとチェア、テレビがあり、ドアがロックできるためセキュリティ性も高い
ツーリストAがある4階通路にはロッカーがあり、貴重品などを収納できる

ステートS

・ステートS和洋室(19m2
定員4名×8室、料金2万6000円(期間A)
設備: シャワー、洗浄機能付トイレ、洗面台、冷蔵庫、テレビ(HDMI端子付)、クローゼット、コンセント(AC100V、USB Type-C)、小机、イス、湯沸しポット、茶器セット、ドライヤー、アメニティ

・ステートSツイン(12m2
定員2名×30室、料金2万6000円(期間A)
設備: シャワー、洗浄機能付トイレ、洗面台、冷蔵庫、テレビ(HDMI端子付)、クローゼット、コンセント(AC100V、USB Type-C)、小机、イス、湯沸しポット、茶器セット、ドライヤー、アメニティ

・ステートSウィズペット(12.5m2
定員2名×5室、料金2万4000円+ウィズペットルーム使用料1万5800円(期間A)
設備: シャワー、洗浄機能付トイレ、洗面台、冷蔵庫、テレビ(HDMI端子付)、クローゼット、コンセント(AC100V、USB Type-C)、小机、イス、湯沸しポット、茶器セット、ドライヤー、アメニティ、ペット用ケージ

 子供連れのファミリーやカップルをメインターゲットに、1人での利用にも向いた客室。小樽~舞鶴航路は乗船時間が北行 約21時間、南行 約22時間で客室内に滞在する時間も長くなるため、トイレやシャワーブース、冷蔵庫、アメニティなどビジネスホテル同等の設備・備品を備え、窓から外が眺められるステートSはコスパ・タイパに優れていると言える。

 ベッドサイズは全室203×85cmで、ステートS和洋室のみソファベッド200×80cmが2つある。また、ステートウィズペットの客室は4階デッキのドッグフィールド付近にあり、室内にはペット用ケージを備えている。ペットと泊まれる客室は従来船にも用意されているが、需要が高まっていることから本船では5部屋に増やしたという。

「ステートS(定員4名)」。ソファベッド、シャワートイレ、洗面台、シャワールーム完備でファミリーや小グループに向いている
「ステートS(定員2名)」。ほぼビジネスホテルの使い勝手でカップルはもちろん、1人旅にも最適
「ステート ウィズペット」。4階後部デッキのドッグフィールド近くに5室を用意

デラックスA

・デラックスA(25m2
定員2名×16室、料金3万4600円(期間A)
設備: テラス、バス、洗浄機能付トイレ、洗面台、冷蔵庫、テレビ(HDMI端子付)、クローゼット、コンセント(AC100V、USB Type-C)、デスク、チェア、テーブル、ソファ、湯沸しポット、茶器セット、ドライヤー、アメニティ

 全室オーシャンビューで専用テラス(4.4m2)があり、潮風を感じながら船旅が楽しめる。また室内も広めで、デスク、チェアとは別にテーブルと2人掛けのソファが備わり、ゆったりとくつろげる。ベッドサイズは203×92cm。でワンランク上の船旅を楽しみたい方に。

「デラックスA」。テラスやユニットバスもあり、ワンランク上のゆったりした船旅が楽しめそうだ

スイートルーム

・スイートルーム(55m2
定員2名×2室、料金6万1600円(期間A)
設備: テラス、バス、洗浄機能付トイレ、洗面台、冷蔵庫、テレビ(HDMI端子付)、クローゼット、コンセント(AC100V、USB Type-C)、鏡台、テーブル×2、ソファ、チェア×2、湯沸しポット、茶器セット、ドライヤー、アメニティ

 最上級の客室で、広さは55m2、ベッドサイズは203×122cm、専用テラスとオーシャンビューの浴室を備えており、豪華客船の旅のような体験が可能だ。大きなテレビモニターでリビングからベッドが見えないようにし、日中くつろぐ場と就寝の場をうまく切り分けている。

 また、人気の美容ブランド「ReFa(リファ)」と提携し、ウルトラファインバブルのシャワーヘッド、ビューテックドライヤー、シャンプー、トリートメント、ボディウォッシュを揃えている。食事はコース料理のグリルが楽しめるという。

「スイートルーム」。バルコニー付きで55m2の広さ。浴室には「ReFa」ファインバブルのシャワーも備える
6階の通路。手前のドアはデラックスAで、奥(船首側最前部)にスイートがある

船内設備

エントランスホール4階。小さなステージと固定式の椅子があり、イベントなども行なえそうだ
ホール5階
ホール5階の左舷には円形のソファとキッズルームがあり、小さな子供を安全に遊ばせることができる
右舷は舷窓に向いたカウンター席がある。AC100VとUSB 5Vの電源も用意
ホール6階。両舷に浴室があるためホール自体は広くない
ホールで見かけた美術品のディスプレイ
4階と5階の客室から船首側に進むとフォワードサロン「白竜」があり、晴天の日中には前面展望も楽しめる
6階ホール前方のスクリーンルーム「龍宮」。人をダメにする系のクッションと3面全体に投影される映像でリラックス
5階右舷のグリル「大江山」では昼食と夕食がいただける。12月9日まで就航記念グリルメニューを提供(要事前予約)
5階左舷のレストラン「しゅてん」。大江山を住処としていた鬼、酒呑童子に由来
タッチパネルでの注文、セルフレジでの決済で省人化も図られている
レストランから続くオープンデッキ。夏休み期間中の特定日にはバーベキューガーデンをオープンする
6階ホール脇にある展望大浴場。営業時間は、北行は乗船時~1時と翌8時~20時、南行は乗船時~0時30分と翌8時~20時
脱衣所、浴室ともに広さも十分でジャグジーも備える
露天風呂は天気のいい日中に海や夕陽を見ながら入りたい。フェリーにはめずらしいサウナも完備
6階デッキ。天気のいい日は屋外で潮風に吹かれるのもよさそうだ
4階後部にはペットルームがあり、その外にはドッグフィールドも。また、前述の「ステートウィズペット」の客室からも一般の旅客に会わずにドッグフィールドに出入りできる
船内で見かけたサイネージ。サービス提供時間や現在位置などを常時表示している
内覧会ではブリッジも見学できた。シンプルで操作性の高いシステムを導入しているという

ドライバー用客室、設備

 内覧会では、物流ドライバー向けの客室やレストラン、浴室などの設備も見学できた。これらは4階エントランスホールの後方にコンパクトかつ機能的にまとめられており、船内では体を休めることに努めたいドライバーが一般旅客を気にせず過ごせるように配慮されている。一般旅客と異なり短期間で複数回利用することが多いため、就航後はレストランメニューの充実なども図っていきたいという。これらの設備はなかなか見る機会もないと思うので、この機に紹介したい。

「ドライバールーム」はツーリストSと同等のロック付き個室
ドライバー化粧室・洗濯室
ドライバールームから階段を上がればすぐドライバーズレストランがある。電子レンジや自動販売機もあり使い勝手もよさそうだ

入谷社長「満足度を高めることで将来の需要を喚起」

 11月12日の舞鶴での内覧会に際し、京都府・舞鶴市・京都舞鶴港振興会の主催で就航セレモニーを開催した。セレモニーでは京都府副知事の祝辞、新日本海フェリー代表取締役社長と舞鶴市長のあいさつ、記念品の贈呈などを行なった。

就航セレモニーの列席者。舞鶴市長 鴨田秋津氏(左から2人目)、京都府副知事 武田一寧氏(同3人目)、新日本海フェリー 代表取締役社長 入谷泰生氏(同4人目)らが列席した

 セレモニー後、新日本海フェリーの入谷社長が報道陣の質問に答えた。「けやき」は、代替する「はまなす」よりも全長が約20m短くなったことについての質問には、これは造船所の船台のサイズによるもので、これによってトラックの積載台数も「はまなす」の約175台から約150台に減っているものの、トラック物流が減りつつあることからキャパシティには問題がないと回答。

 また大部屋をなくしてプライバシーが確保されたベッド(ツーリストA)または個室(ツーリストA以外の全室)となっていることについては、従来はフェリーを単なる移動手段ととらえる方が多かったが、現在は旅行に付加価値を求める方が増加しており、大部屋では満足いただけなくなっていると述べ、客室や設備を充実させ、船旅そのものを楽しんでいただけることを目指したと話した。

 同社では、新造船の導入やサービスの向上などにより、乗客の満足度を高めることで将来の需要を喚起していく方針であるという。

新日本海フェリー株式会社 代表取締役社長 入谷泰生氏
舞鶴での内覧会後、「けやき」は11月12日13時に舞鶴港を出港し、就航初便の出発地である小樽港に向かった