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LRTに役目を譲る、太川蛭子のバス旅も来た……2025年9月に消えゆく「乗り継ぎ可能路線バス」
2025年9月29日 18:00
人材不足、燃料費の高騰、乗客の減少……。地方のバス路線が、次から次へと消えゆく。
本稿では、2025年9月のダイヤ改正で廃止されるバス路線のなかから、他路線への乗り継ぎが可能であったバス路線を中心に取り上げていく。テレビで見たことのある路線だったり、乗り継ぎ環境がちょっとデンジャラスだったり。各路線の状況を見てみよう。
そして、今回の路線廃止後に、どうバス乗り継ぎをすればよいのか? 稚内~沖縄・与那国間などの乗り継ぎルートを単行本「路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版」にまとめたことのある筆者が、「廃止後の最新乗り継ぎルート」を提示していく。
あの「バス乗り継ぎ旅」番組にも登場。廃止で乗り継ぎルート消滅?(岐阜県)
岐阜バス 笠松川島線(2025年10月1日廃止、前日に最終運行)
・川島松倉~笠松駅~松波総合病院
木曽川の中州の上にある旧・川島町エリア(2004年に各務原市に合併)へのバスは、県境を越えて愛知県側の名鉄一宮駅に向かう名鉄バス・一宮川島線と、岐阜県側に向かう岐阜バスを、ある程度乗り継ぎできるようになっていた。
双方の乗り継ぎ拠点は、名鉄側が「川島」、岐阜バス側が「川島松倉」と2種類あるものの、同じ場所を共有。この地に名鉄バス・川島合宿所があったこともあってか、2011年に移転してきた乗り継ぎ地点・バス転回場の敷地は広く、名鉄バス・岐阜バスの双方が発車待ちを行なうように……。岐阜バスは名鉄系列とあってカラーも赤・白で、遠目には同じ会社のバスが数台止まっているようにしか見えないという、ちょっと変わった乗り継ぎスポットだ。
もっとも、バスを乗り継ぐ人々はあまり見かけず、「岐阜側へ行くか」「名古屋側に行くか」という選択肢しかなさそうだ。ただ、路線バスの乗り継ぎ旅を趣味とする方々には重宝されており、テレビ東京系「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」では第14弾(マドンナ・森下千里さん)などで、2社の転回場や、今回廃止となる「笠松川島線」の前身となる「岐阜川島線」などが登場していた。
番組を見た方なら、この場所で「太川陽介さん・蛭子能収さんや森下千里さん、田中要次さん・羽田圭介さんと大島麻衣さんが通っていた!」と、気づくであろう。ざっと言えば、東海圏→北陸圏でバス乗り継ぎルートが設定されると、川島を通らざるを得ない状況なのだ。
そんな乗り継ぎルートに変化が訪れたのは2021年のこと。前身の「岐阜川島線」が通っていた川島大橋が、橋脚に異常が見つかり通行止めに。5月から大幅に迂回したルートを取るようになり、2022年には廃止のうえで現在の「笠松川島線」が開設された。そして本来の「岐阜川島線」ルートに戻ることなく、9月をもって廃止となる。
岐阜バス 笠松川島線、これからの乗り継ぎルート
さて、これで愛知県・岐阜県のバス乗り継ぎはできなくなるのか? ……大丈夫だ。川島名鉄バス・川島バス停の100mほど先に、「各務原市ふれあいバス」の松倉公民館前バス停があり、イオンモール各務原まで出れば、そのあと岐阜バスに乗り継いで岐阜市内に乗り継げるようになっている。経由地は変わるものの、これからもバス乗り継ぎ旅を楽しむことはできそうだ。
「ライトライン」波及効果に沸く宇都宮市、その陰で古豪バス路線が……(栃木県)
ジェイアールバス関東 水都西線(2025年10月1日廃止、前日に最終運行)
・作新学院前~宇都宮駅~芳賀町工業団地管理センター前~茂木
・芳賀町工業団地管理センター前~茂木
※芳賀町工業団地管理センター前~市塙駅間の「芳賀・市塙線」は存続
JR宇都宮駅から県東部の茂木町を結ぶこのバス路線の前身は「鉄道計画」。1922年(大正11年)に公布された「鉄道敷設法」には「第37号 栃木県市塙ヨリ宝積寺に至ル鉄道」との計画が書き込まれており、第38号(茂木町~水戸市)とともに、建設予定の鉄道のルートの先行路線としてバス路線が設定されていた。この路線は、「宇都宮~水戸間の鉄道が完成するまでに移動需要を作っておくためのバス」であり、「水都」という路線名も「“水”戸」「宇“都”宮」に由来する。
利用状況がよければ、全線が鉄道として建設されたかもしれないが……。市貝町・市塙駅~茂木町・茂木駅間は真岡線(現在の真岡鐡道)として建設され、茂木駅~茨城県・長倉宿周辺まではトンネルまで完成したにもかかわらず、太平洋戦争で建設中断。茨城県側で同ルートを走っていた茨城交通・茨城線も1971年に廃止となっており、宇都宮~水戸間を鉄道で結ぶ構想は、ほぼ実現しないまま幻と消えた。
水戸方面へのルートが途絶えたあとも、宇都宮市~茂木町という「栃木県横断」ルートを走り続けてきたが、2023年8月の「宇都宮ライトライン」(路面電車・LRT)開業によって、並行する宇都宮駅~芳賀町内は減便。一部便だけが宇都宮駅・作新学院方面に乗り入れるようになった。
しかし、ライトライン建設の要因ともなった渋滞は大きくは解消されず、鬼怒川を渡る柳田大橋での渋滞で10分、20分は平気で遅れてくるという状況は、あまり変わらなかったようだ。並行区間はライトラインに需要を取られてしまい、作新学院前~宇都宮駅間はもとより関東バスが頻繁に運行している。さらに市塙~茂木駅間は真岡鐡道と並行しており、路線の両端が必要なくなった形だ。
2025年9月のダイヤ改正後は、ライトラインの停留所・JRバス営業所がある芳賀町工業団地管理センター前から市塙駅までの「芳賀・市塙線」が存続。宇都宮駅~芳賀町工業団地管理センター前間はライトラインに1本化される。
ジェイアールバス関東 水都西線、これからのバス乗り継ぎルート
存続区間をたどって市塙駅まで行けば、那須烏山市営バスでJR烏山駅、さらに県境を越えて茨城県・高部まで出て、道の駅北斗星~常陸大宮間の茨城交通バスに乗り継ぐことができる。かつての「水都線」ルートとは少し違うが、まだ栃木県~茨城県の乗り継ぎルートは生きている。
ただ、那須烏山市営バスはきわめて運転本数が少ないうえに、数年前に筆者が乗りに行った際は、運転手さんが運賃箱を指さして「これ見てよ!(100円玉が4枚)これ2週間分よ!」「同じ区間でスクールバス出されちゃったのよ。この路線、早めになくなるよ」と話していたので、早めに乗りに行った方がよいだろう。
箱館戦争の激戦地をゆく「ヘビ注意」の絶景バス乗り継ぎ拠点が消滅(北海道)
函館バス 621系統(2025年10月1日廃止、前日に最終運行)
・江差ターミナル~小砂子~原口漁港前
2014年までJR江差線が経由していた北海道・上ノ国町から、渡島半島を南下して松前町・原口漁港前まで。そこから松前町まで「大漁くんバス」で行けたが、今回のダイヤ改正で上ノ国町内~原口漁港間が廃止となり、乗り継ぎは徒歩のみとなる。
廃止の要因は「町内全域でのデマンドバス転換」。乗客の減少に伴って、町内の函館バス路線がワゴン車を使ったデマンドバス「かみGO!」に転換するにあたって、町境を越えて松前町に向かうバスが廃止となる。不便になる?と思いきや、この辺りに多い「新道から外れた旧道の住民」「バスが入ってこれなかった地区」を経由できるなどの小回りが利き、地元の方の利便性はよさそうだ。
まもなく消えゆく区間のバスの車窓は絶景だ。小砂子集落の南側には、幕末に勃発した「箱館戦争」の史跡が見えるだけでなく、バスから眺める日本海側の夕暮れの解放感たるや、素晴らしいものがあった。
また、小砂子のバス待合室は「ヘビ注意、待合室を出る際は戸を閉めて!(ヘビが入るから)」との注意書きがされており、戸を開けて入ろうとしたら、先客が戸を閉めたことで閉じ込められたであろうヘビが2匹、猛烈な勢いで飛び出てきて……。のどかに見えて、たまにデンジャラスな北海道のバス乗り継ぎ旅を体験できる場所でもあった。いかにも北海道らしい、ゆったりしたバス乗り継ぎ旅も、そろそろできなくなる。
函館バス 621系統、これからのバス乗り継ぎルート
函館から日本海沿いに北上して乗り継いでいくなら、函館バス 610系統で函館駅~江差の市街地で下車。函館バスの路線を乗り継いで熊石町まで行ける。そのあとは近年まで大成学校前、北桧山、せたな町とつながっていたが、熊石~大成間のデマンドバス化などで、移動の難易度はかなり上がった。
ただし、上記のルートは上ノ国町・小砂子を経由しない。もしルートに上ノ国町を組み入れたい場合は、木古内駅から江差線代替バスで上ノ国町の中心部(旧・上ノ国駅に行く場合は「大留」バス停下車)まで行き、「カミGO!」で小砂子方面に乗り継ぐのがよいだろう。気軽に路線バスを次々と乗り継げた時代は、もう昔の話だ……。
そのほかの「2025年9月廃止・乗り継ぎ可能バス」
ほか乗り継ぎ可能な路線では、南海電鉄・河内長野駅~泉北高速鉄道・光明池駅間を結ぶ「南海バス・天野山線」が、路線を短縮。市境を越えて堺市側に向かう区間が廃止となる。
大阪府南部エリアでは、富田林市などに本拠地を置いていた「金剛バス」が2023年に「全線撤退」という衝撃的な形で廃止(主要路線は別事業者で存続)しており、今回のダイヤ改正では、南隣の河内長野市をカバーする南海バスの路線網が、大幅な路線再編・撤退に踏み切る。
なお、金剛バスのエリアは「万博レガシー」として、万博で使用されていたEVモーターズ・ジャパン製のバスを導入、自動運転を視野に入れているという。ただ、山あいで傾斜とカーブが多い富田林市などのエリアを、当初の目標である自動運転でカバーできるのか……注目だ。
こういった「路線バス乗り継ぎルート」に関わる路線は、多くの場合は自治体境・県境などをまたぐため、片側の自治体が「ウチは降りる!」と表明すれば、廃止にいたりやすい。名残惜しくはあるが、乗る側としてできることは「今のうちに乗っておく」「グッズなどで収益を落とす」こと。消えゆく路線バスの風景を、今のうちに記録しておきたい。

































