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成田空港の新ターミナル(T4)、全体像が明らかに。運用開始は2030年代前半を目指す

「新しい成田空港」構想検討会 第9回

2024年6月6日 公開

都内で開催された第9回「『新しい成田空港』構想検討会」

 NAA(成田国際空港)は今後の航空需要の増加に対応すべく、成田空港のさらなる機能強化に向けた「『新しい成田空港』構想検討会」の第9回を都内で開催した。

 今回は2023年3月に発表した中間とりまとめをさらに議論を重ねて深度化させた「とりまとめ2.0」として用意し、代表取締役社長の田村明比古氏をはじめとするNAAの経営陣、周辺各市町村の市長や町長、千葉県の副知事、構想検討会の委員長を務める運輸総合研究所の所長である山内弘隆氏らが集まって意見を述べた。

 2023年3月に作成した中間とりまとめの報告後、「旅客ターミナルを再構築し、集約型のワンターミナルへ」「新貨物地区の整備により航空物流機能を集約」「さまざまな選択肢で空港全体としての最適アクセスを実現」「地域と空港との相互連携による一体的・持続的発展」という4つの方向性が示されて検討を重ねてきた。

成田空港が目指す4つの方向性

旅客ターミナルのワンターミナル化

 すでに発表されているとおり、成田空港は将来的に現在のターミナル(第1、第2、第3)を集約し、新ターミナル(第4ターミナル)に一本化して運用する。

 集約することにより、複数分散型に比べてコンパクトかつ十分な取り扱い容量を確保し、投資やランニングコストの抑制も期待できるとしている。形状については、いろいろと議論やシミュレーションをした結果、ロングピア型を採用する予定だ。

 第4ターミナルが完成して共用開始するまでは、3つのステップに分けて工事が行なわれる。ステップ1では、第4ターミナルの半分(東側)を整備し、既存の第2・第3ターミナルと接続して運用する。ステップ2では、すみやかに第4ターミナルの増築(西側)を開始し、CIQ(税関、出入国管理、検疫所)などの本館機能を集約して運用を開始する。ステップ3では、需要や外部環境・経営状況に応じて、第1ターミナル跡地に本館やコンコースを増築する。

 ターミナル館内においてはモビリティを導入して旅行者の利便性を向上させる予定であり、最新モビリティの動向を注視しつつ、機材やルートの選定を行なう。

新旅客ターミナルと新貨物地区の配置イメージ
段階を踏みながら新設する第4ターミナルに機能を集約し、ワンターミナルにする構想
ターミナルの形状は数あるタイプのなかからロングピア型を想定
それぞれの形状のメリットやデメリットを示したもの
モビリティルートの構成案
移動時間や歩行時間のシミュレーション結果

空港施設全体のゾーニング

 新ターミナルである第4ターミナルは、第2ターミナルの南側に設置する。第2・第3ターミナルは前述したように第4ターミナルと接続し、集約されるまでは共用を続ける。集約後については、将来的にはターミナル拡張エリアとして想定しているが、それまではオープンスポットとして活用することも考えているとのこと。そのほか、ビジネスジェット需要の取り込みを考えて、都心アクセス(空飛ぶクルマなどによる都心へのアクセス強化)やFBO(運航支援事業者)施設の設置も検討している。

空港施設全体のゾーニングイメージ(ターミナル・構内地区)

 貨物地区については現在使用している北貨物地区と南貨物地区を廃止し、新貨物地区を延伸工事を行なうB滑走路と新設するC滑走路の中間に設置する予定だ。北貨物地区は事業者との協議や外部環境・経営状況をかんがみてその後の活用方法を検討するとし、南貨物地区は航空会社の整備拠点として活用することを想定している。

空港施設全体のゾーニングイメージ(貨物・整備地区)
最高水準の物流効率性を備えた施設を建設する予定

交通アクセスの改善

 成田空港への交通アクセスについては、新駅(第4ターミナル)の建設・輸送力増強、P&BR(パークアンドバスライド)の採用、空港周辺道路の整備を検討している。P&BRは、バスを使って新ターミナルや貨物・整備地区、周辺の大型駐車場を結ぶ交通手段で、空港内に車を乗り入れないことから渋滞の緩和、定時制の確保が期待できるとしている。

P&BRを使った交通ネットワークのイメージ

航空需要の予測と施設の整備スケジュール

 各施設の想定規模や整備スケジュールは図にあるとおりだが、いくつかのステップごとにプロジェクトが進められる。インバウンドの増加などにより今後も航空需要が伸長していくと見られるなかで、2030年代~2040年代後半には旅客数が7500万人、取扱貨物量が300万トンに達するとしている。

 現在は発着回数が年間30万回(協定で決められた数字であり、キャパは34万回ある)、旅客ターミナルの収容人数が年間5700万人、貨物の取扱能力は年間240万トンある。それをステップ1~2完了時には、発着回数を40万回、旅客ターミナルの収容人数を6600万人、貨物取扱能力は280万トンまで増強する。

 B滑走路とC滑走路は2028年度末までに共用を開始するスケジュールになっている。施設については、2030年前半に予定されている第4ターミナルの建設と新貨物地区の上屋を建設するための前捌き工事を2020年代中頃から始めたい意向だ。第4ターミナルの供用開始と同時に新駅も使用できるようにしたいことから、鉄道事業者と協議しながら2020年代後半には鉄道の工事も始めたいとしている。

発着回数・旅客数・航空貨物取扱量の予測と各施設の想定規模・整備スケジュール
新旅客ターミナル(第4ターミナル)の整備ステップ

施設の建設事業費は8000億円を想定

 旅客施設と貨物施設を含めた事業費は現在のところ8000億円を想定。これには鉄道や滑走路整備の事業費は含まれていない。2030年代に大規模な先行投資が集中することから一時的に収益を押し下げる可能性はあるものの、中長期的な航空需要の増大により、財務健全性を大きく損なうことなく構想の実現は可能であると説明した。

 検討会が終了したあと、田村社長と山内委員長が取材陣に対して感想を述べた。山内委員長によると参加者からは大きな異論もなく、同案の同意が得られたとし、歴史的な背景や地域との関係などいろいろと難しい要素があるなかで今回のイメージも含めたものを出せたことに対し「意義のあることだと強く感じています」と話した。

 田村社長は開港してから50年近く経つ成田空港は、航空需要の伸びに対し、日本の玄関口として必要な機能強化を実施する時期に来ていることを改めて説明した。そのなかでとりまとめ案を策定することは関係者の共通認識を作り上げるためにも非常に重要なプロセスであることだったとし、「今後は実現に向けて前に進んで行きたいと思います」と話した。

 NAAでは本案に細かな修正を加えて月内にも「とりまとめ2.0」を作成し、国や関係各所に働きかけて早期実現を目指す。

一般財団法人 運輸総合研究所 所長 山内弘隆氏
成田国際空港株式会社 代表取締役社長 田村明比古氏