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新しい成田空港に関する第2回構想検討会。貨物施設の1か所集約で効率化図り、年間取扱量300万トンの対応目指す

2022年11月21日 開催

運輸総合研究所で開催された第2回「『新しい成田空港』構想検討会」

 NAA(成田国際空港)は11月21日、成田空港のさらなる機能強化に向けた「『新しい成田空港』構想検討会」の第2回を運輸総合研究所で開催した。

 前回(10月21日)同様、会場にはオンライン参加も含め、成田空港の代表取締役社長である田村明比古氏をはじめとするNAAの経営陣、周辺各市町村の市長や町長、千葉県の副知事、構想検討会の委員長を務める運輸総合研究所の所長である山内弘隆氏や各大学関係者が集まった。

 検討会終了後、田村社長と山内委員長が取材陣に対して感想を述べ、話し合いの内容についてNAAのスタッフが説明した。

成田国際空港株式会社 代表取締役社長 田村明比古氏
一般財団法人 運輸総合研究所 所長 山内弘隆氏

年間貨物取扱量300万トンを可能とする空港へ

 成田空港では今後回復が見込まれるインバウンドと、好調が続く貨物輸送の需要に応えるため、年間の発着回数50万回を可能とする大規模な空港整備を検討していることは第1回目で話し合われた(関連記事「新しい成田空港の新滑走路とワンターミナル化で構想検討会。空港ビルは『閉鎖を伴う大改修・建て替えが必要』」)。

 NAAの見込みでは2020年代には年間30万回を超え、2030年代初頭~2040年代後半には年間50万回に到達するとし、年間旅客数7500万人、年間貨物取扱量300万トンに達すると予測している。

 検討会の第2回目のテーマは貨物であり、成田空港を取り巻く航空貨物の状況、貿易における成田空港の重要性、目指すべき国際貨物空港としての姿、東アジアの貨物ハブとなるために必要な機能などを説明し、出席者に意見や要望を求めた。

国際的に見ると貨物取扱量はほかの空港と差が開く一方に

 1978年に開港した成田空港は貨物取扱量においても順調に増やしてきており、リーマンショックや東日本大震災などの不況や天災などの影響による一時的な落ち込みはあるものの、近年は2004年の231.2万トンをピークに年間200万トン前後で推移してきた。

 新型コロナウイルスによるパンデミック中は195.9万トンに落ち込んでいるが、旅客に比べると落ち込みは軽微で、2021年には一転して259.1万トンと過去最高を記録するなど特需に沸いた。2021年の主要品目の内訳は、輸出が半導体製造装置、科学光学機器、ICの順で並び、輸入は医薬品、通信機、ICの順となった。

 医薬品はワクチンが占める割合が大きく、通信機はスマートフォンなどのモバイル機器を指している。海運も含めた貿易港として成田空港は金額ベースで日本でもっとも大きな港であり、総額は28兆8972億円と2位の東京港(18兆7198億円)に比べて10兆円もの差がある重要な施設となっている。

 海外の空港と比較すると、2019年のACI(国際空港評議会)の調査によれば、1位は香港(470万トン)、2位は上海浦東(282万トン)、3位は仁川(266万トン)、4位はドバイ(251万トン)、5位はドーハ(217万トン)、6位は台湾桃園(216万トン)で、成田は7位(203万トン)の位置に付けている。

コロナ禍前の数字だが、右下の折れ線グラフが国際貨物取扱量の推移。香港が圧倒的な取扱量を誇る

 旅客同様、東アジアの空輸は大きなウェイトを占め、アジア~欧州、アジア~北米の輸送レーンは、世界全体の5割を占める重要な輸送路になっている。成田は現在7位の位置付けだが、ACIのランキングでは1989年の1位をピークに、1999年は2位、2009年は4位、2019年は7位と、年々そのポジションは低下しているのが現状だ。

 ちなみに2021年は特需もあり、ドバイとドーハを抜いて5位に浮上している。この推移から分かるように、日本を拠点とする大手フォワーダーは、今後も成長が見込まれる海外に急速にシフトを進めており、ますます差が開くことが懸念されている。

貨物取扱量を増やせない理由がある現在の成田空港

 国内では最大の貿易港である成田空港。その国際的地位が低下しているのは、国の産業構造の変化も要因の1つではあるが、他国の空港に比べて劣っている理由は貨物のトランジット率が低いことが挙げられる。成田空港より上位にいる台湾桃園は近年は50%近く、仁川も40%ほどがトランジット扱いの貨物だ。それに対して成田は30%ほどで、7割は直送扱いになっている。

 国際貨物のレーンが欧州とアジア、北米とアジアが主流になっている以上、国内以外のアジアの都市と結んで貨物の取扱量を増やすためにはハブ空港としての魅力がないと集まらない。実際に貨物が集まる空港は貨物エリアが広かったり、近代的な施設整備による効率化、貨物エリアの集約、フォワーダーの空港内誘致といったように、さまざまな工夫が凝らされている。

 一方、成田空港は貨物エリアは手狭で南北の3か所に分かれており、貨物関係の施設は21か所に分散されていて老朽化も見られるといった状況だ。さらに施設面の問題に加え、トランジット貨物を取り込むための制度運用、空港内外の一体的運用のための制度構築といった課題も抱えている。

3か所に分かれている貨物エリア
21か所に分散している貨物を取り扱う施設

 そのような課題を表すように、フォワーダーからは「貨物地区、上屋の分散による非効率的なオペレーション」「フォワーダー施設が空港外に立地していることによる無駄なトラック輸送の発生」「繁忙期の上屋作業遅延による長時間待機」「輸出入トラック動線の輻輳による慢性的な貨物地区内の混雑」などの声が届いている。

 エアライン側からも「貨物地区、上屋の分散による非効率的なオペレーション」「上屋などの施設や航空機周辺スペースの狭隘による作業効率の低下」が問題点として挙げられており、また作業員の高齢化による人手不足も喫緊の課題となっている。

世界最先端の技術導入と運用制度改革への働きかけを模索

 それらの課題を解決するために施設面の対応策として、トランジット貨物取扱施設の効率性向上、貨物地区の集約と効率的な空港アクセスの追求、モーダルシフト・共同輸送への取り組み、eコマース需要を取り込むための施設整備、上屋の高機能化(複層階)、空港内フォワーダー施設の展開などを考えている。

 そのなかには貨物地区内搬送の自動化(共通のパレット・ボックスなどの導入)など、ほかの空港で取り入れられているさらにその先の最先端技術を導入したい考えだ。また、空港アクセスの向上として、高速インターチェンジと貨物地区との間に貨物専用道路を引き込むことも検討している。

 制度面ではトランジット貨物混載手続きの課題を解決し、フォワーダーが自由にフライトを組み合わせ可能な手続きの実現、日系フォワーダーによる成田の3国間輸送拠点化、輸送ロット大型化による成田路線の運賃競争力強化に繋げたいとしている。さらにネットワーク拡大のためにさらに検討が必要ではあるが、国内外の航空会社が自由に就航できる環境として貨物便に対するオープンスカイ、外国の航空会社も成田を拠点とした3国間輸送ができる環境にするための貨物便に対する第5の自由(以遠権)なども関係各所と話し合っていきたいとしている。

 成田空港にとって地域との協業・共栄も重要であり、貨物が周辺に与える影響も大きい。成田空港の貨物取扱を強化することにより、グローバルなeコマースのハブ、取扱量の多い半導体製造装置・医療機器のメンテナンスセンター、航空機エンジンのメンテナンス拠点、国産生鮮品の輸出拠点として企業に参画してもらえるよう、魅力ある空港を目指し、ゆくゆくはエアポートシティと呼ばれる空港と街が一体となった構想も描いていることを参加者に伝えた。

貨物地区も1か所へ集約して効率化を図りたい考えを示す

 検討会を終えて取材に応じた山内委員長は、前回に続き非常によい議論ができたと述べ、コロナ禍においても空港を支えた貨物は非常に重要であり、そのためにも第2回目のテーマにしたのは大きいと評価した。

 そして「貨物輸送は連携のなかで成り立つものでして、エアラインやフォワーダー各社と協調して全体最適を目指すのが重要です。今後は貨物設備を作り直すということなので、最新で最高のものを導入し、他の空港とどんどん競争できるような空港を目指してほしい」と話した。

 ワンターミナル化同様、貨物施設の1か所集約について田村社長は「理想としてはそのような形にしたい。事業者の方から『色々な場所に分散しているのが非効率の原因だ』という意見が強いので、そのような方向にもっていければよいなと思っています」と考えを述べた。

 制度面の課題について質問されると「近隣の東アジアの強力な空港はフリートレードゾーン(自由貿易地域)を上手に活用していたりするので、それらを参考に今後どう対応するのか、国とも一緒に検討していきたいと思います」と答えた。

検討会の感想を述べ、質問に答える田村社長と山内委員長

 次回、12月23日に開催される構想検討会の第3回目は、利便性と効率性を高めるワンターミナル化を取り上げる予定だ。それに続く2023年1月18日予定の4回目は道路アクセスの向上と鉄道アクセスの改善について話し合いが行なわれ、年度内を目標に構想を取りまとめる計画だ。