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新しい成田空港の新滑走路とワンターミナル化で構想検討会。空港ビルは「閉鎖を伴う大改修・建て替えが必要」
2022年10月28日 19:00
- 2022年10月21日 実施
NAA(成田国際空港)は10月21日、成田空港のさらなる機能強化に向けた「『新しい成田空港』構想検討会」の第1回を運輸総合研究所で開催した。
会場にはオンライン参加も含め、成田空港の代表取締役社長である田村明比古氏を始めとするNAAの経営陣、周辺各市町村の市長や町長、千葉県の副知事、構想検討会の委員長を務める運輸総合研究所の所長である山内弘隆氏や各大学関係者が集まった。
検討会自体は非公開だが、NAAのスタッフが今回どのような内容で進められたのかを説明したほか、終了後に田村社長と山内委員長が取材陣に対して感想を述べた。
発着回数50万回を目指して2029年までに滑走路を3本体制にする
成田空港は東京と世界を結ぶ国際空港として、1978年に「新東京国際空港」として開港した。44年の歴史を持つわけだが、1992年に第2旅客ターミナルビルがオープン、2002年にはB滑走路を暫定で供用開始するなど、航空産業の発展とともに機能が強化されてきた。近年ではLCCの成長もあり、2015年に第3旅客ターミナルをオープンさせ、年間発着枠も30万回へと増強された。旺盛なインバウンド需要を背景に、コロナ禍前には発着回数は年間25万回を超え、4318万人の旅客利用があった。
世界の航空需要の高まりはアジア地域はとくに高く、2016年の四者協議会で提出された資料では、国とNAAは2020年代には成田空港の発着回数は年間30万回を超え、2030年代初頭から2040年代後半には年間50万回に達すると予測した。年間50万回に到達するころには、年間旅客数7500万人、年間貨物取扱量300万トンになると予測しており、今の施設や設備では到底カバーできない数字になる。そのため、NAAでは新しい成田空港の姿として「発着回数50万回」を掲げて、大規模な空港整備を検討している。
「成田空港の明日を、いっしょに」と名付けられた特設Webサイトでも詳細に解説されているが、発着回数が50万回になることで、旅客数は7500万人、貨物取扱量は300万トン、空港内従業員数は7万人に増加すると見られており、空港周辺地域においては産業振興やインフラ整備、生活環境の向上など、さまざまなプラス効果が出るとしている。
発着回数50万回に向けた機能強化の取り組みとして進められているのが、B滑走路の延伸とC滑走路の新設だ。
現在、成田空港は4000mのA滑走路と2500mのB滑走路の2本体制で運用しているが、運用時間の制限(6時~24時)もあることから発着回数を伸ばそうとなると、2本ではどうしても厳しい。さらにエアバス A380などの大型機は長めの離陸滑走距離を必要とするので、機種によっては使える滑走路が限定されるのも課題として挙げられていた。
そのため、B滑走路は北側に1000mほど延伸し、新設するC滑走路はB滑走路の南側に同距離の3500mを整備する予定だ。どちらも2029年の供用開始を目指す。B滑走路の延伸先には東関東自動車道が通っているが、こちらは将来的にトンネル化してB滑走路の地下を通過させる。そのため、延伸工事中に使用する迂回ルートの敷設を10月19日に開始しており、こちらは2024年春ごろに完成するとしている。
構想検討会ではワンターミナル化も議論される予定
構想検討会は全部で4回を予定しており、NAAが事業者や有識者を交えた内部検討会において固まってきた構想をたたき台として、国や県、地方自治体を交えて意見を聞きながら計画を立てていくものになっている。
9月14日に千葉県主催で行なわれた四者意見交換会では言葉だけで説明しただけだったので、NAAが改めて構想検討会として申し入れた形だ。出席者には「新しい成田空港」の使命と課題を説明する資料が配られ、それぞれ意見を述べてもらい認識をすり合わせながら検討会は進められた。
NAAが掲げる使命は「ヒト・モノの交流を活性化し、日本の産業や観光の国際競争力強化に寄与」することであり、安心・安全な空港の運営、航空ネットワークの拡充、周辺地域への貢献、利用客が求める利便性の向上、気候変動問題への取り組みなどを挙げている。その使命に対しての課題は、日本の空の表玄関としての価値向上であり、それを解決するためには新滑走路の整備であったり設備の刷新、最新技術を取り入れたサービスの提供、地域と良好な発展を目指すためのインフラ整備などを行なう旨を説明した。
その中には事前の報道で話題になっている「ワンターミナル化」に対する議論も含まれており、50年前に設計された旅客ターミナルではすでに増改築を行なうにも限界が来ているため「UD対応の構造的な困難さ」「低く圧迫感のある天井」「先進技術の導入を阻む狭隘な設備スペース」「駅から遠いターミナル」など問題点も多い。また、運用しながらの工事では外壁や屋根の全面改修、設備配線更新が難しいため、「閉鎖を伴う大改修・建て替えによる抜本的な対応が必要」と説明した。
構想検討会のあとにワンターミナルの開業時期を詰めていく
検討会を終えて取材に応じた山内委員長は、「どういうコンセプトで方向性を打ち出していくのかが大事であり、これからの具体的な議論をするなかで、方向性に沿って議論することの必要性は皆さんご同意いただけたかと思います」と第1回目の目的は果たしたと評価し、今後についてはそれぞれの立場とビジョンに合わせて個別の議論を進めていくことが重要であると話した。
田村社長にはワンターミナル化する時期についての質問が出たが、「滑走路だけできても機能は十分に強化できないと思っておりますので、大きく遅れることなく、やっていければいいなという願望を持っています」と述べるにとどまった。現状はいつまでに完成させるといった段階ではなく、「検討会で構想が具体化していくわけでして、そこで具体化された次のステップで今度はもうちょっと具体的な話になると思っています」と答えた。
構想検討会は今後、第2回~第4回までが予定されており、それぞれ個別のテーマに沿って議論を行なう。11月26日予定の2回目は、航空貨物の物流強化を目指して整備される新貨物地区がテーマになる。12月23日予定の3回目は利便性と効率性を高めるワンターミナル化を取り上げる。2023年1月18日予定の4回目は、道路アクセスの向上と鉄道アクセスの改善について話し合いが行なわれる予定だ。