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成田空港に山積みの課題を解決する「ワンターミナル構想」。建設候補地の要件とは?

NAA、「新しい成田空港」構想検討会 第3回

2022年12月23日 実施

運輸総合研究所で開催された第3回「『新しい成田空港』構想検討会」

 NAA(成田国際空港)は12月23日、成田空港のさらなる機能強化に向けた「『新しい成田空港』構想検討会」の第3回を運輸総合研究所で開催した。

 初回や2回目と同様、会場にはオンライン参加も含め、代表取締役社長である田村明比古氏を始めとするNAAの経営陣、周辺各市町村の市長や町長、千葉県の副知事、構想検討会の委員長を務める運輸総合研究所の所長である山内弘隆氏や各大学関係者が集まった。

 検討会が終了したあと、田村社長と山内委員長が取材陣に対して感想を述べ、NAAのスタッフが話し合われた内容について説明した。

成田国際空港株式会社 代表取締役社長 田村明比古氏
一般財団法人運輸総合研究所 所長 山内弘隆氏

 新しい成田空港を目指すべく、第1回目の検討会では発着回数50万回を可能とする3本目の滑走路と大規模な空港整備を題材とし、第2回目の検討会では貿易港としての貨物施設について、委員会の識者や行政担当者に意見を求めた。

 第3回の今回は、新しい成田空港を象徴するターミナル施設の「ワンターミナル化」について話し合いが行なわれた。ワンターミナル化を推進するうえで、世界における航空旅客の概況、成田空港における航空旅客事業の状況、目指すべき国際拠点空港としての姿、これからの成田空港に求められる機能について詳細な説明をし、出席者に意見や要望を求めた。

世界の人口増に伴い観光客数も増加し、航空需要は20年で現在の2倍と予測

 国連の資料によると2022年11月には世界の人口は80億人に達し、今後もアジアとアフリカを中心に人口が増え、2030年には約85~86億人、2050年には約94~101億人に達すると予想されている。

 人口増加に伴い世界の国際観光客数も増加しており、UNWTO(国連世界観光機関)の資料によるとコロナ前ではあるが2019年には14億6000万人に達している。国際観光収入のこの10年間の成長は、同期間のGDP成長率を上回っているのも特記すべき数字だと説明した。今後も国際観光客数は増加を続け、2030年ごろには18億人に到達すると見込まれている。

 世界的に観光客が増加すると航空需要も比例して増え続けており、IATA(国際航空運送協会)が2022年6月に発表した予測では、世界の航空旅客数はコロナ禍から急回復し、今後20年で2019年比約2倍の78億人に達するとされている。

 そのなかでもエリア別の成長率ではアジア地域がもっとも高く、今後20年で2019年比2.5倍超の需要増を見込んでいる。現在ニーズの高い北米~アジア間は、2019年は約3105万人であったのが2040年には約1.7倍の5247万人に増えるとされ、20年間で約2100万人の旅客流動が新たに創出されると見られている。

 需要増の背景にはLCCのシェア拡大と航空機の性能向上があることも説明された。一例として、LCCで多く採用されているエアバスのA320シリーズは、スタンダードタイプが航続距離5950~6300km(メーカーカタログ値)であるところ、航続距離を伸ばしたA321neo(LR)が約7400km、さらに強化されたA321neo(XLR)は約8700kmのフライトを可能にしており、小型の機材でもより多くの都市に就航できるとしている。

成田空港の利用客数も増加しているがシェアは大幅に低下

 世界的な流れ同様、成田空港を含む日本における航空需要も年々増加している。日本の人口は2008年をピークに減少傾向ではあるが、コロナ前は国内線旅客数・出国日本人数ともに増加傾向を示しており、2013年ごろからは訪日旅客の大幅な伸びも見られ、日本に多くの観光客が訪れるようになった。

 OECD(経済協力開発機構)のデータを見ても、観光競争力・観光開発指数ランキングで2011年は22位であった日本が、2015年には9位、2019年には4位、2021年には1位に躍進し、国際旅行市場における日本のプレゼンスがことさら向上している。そのような背景もあり、国とNAAが予測した成田空港の航空需要は2020年代には発着回数が年間30万回を超え、2030年代初頭から2040年代後半にかけては年間50万回に達すると見込まれている。また、国際線においては、主要航空会社の週間運航便数がもっとも多い空港であることも説明した。

 一方、需要が増えるにつれ、発着枠が足りなくなる問題も出てきており、航空会社からの就航需要に応えきれていない時間帯(14時~18時)が存在する。また、北米とアジアの乗継市場は全体的に伸びているとはいえ、香港、桃園(台北)、仁川(ソウル)といった競合空港にシェアを奪われている厳しい現実もある。

 ACI(国際空港評議会)が発表している国際旅客数の空港ランキングにおいてもシェアの低下は読み取れ、2000年は8位(2660万人)、2005年は7位(3031万人)、2010年は10位(3216万人)、2015年は17位(3055万人)、2019年は18位(3665万人)にまで低下している。競合空港の2019年の順位は、香港が4位(7142万人)、仁川が5位(7061万人)、桃園が10位(4869万人)となっている。

 ちなみに2019年の1位はドバイ(8640万人)で、2015年より長年1位であったロンドン(ヒースロー)を抜き去っている。このような状況から、首都圏を発着地とする需要のみならず、アジアをはじめとする三国間流動や国際線・国内線の乗継需要を取り込む国際ハブ空港を目指すとし、早々に空港機能強化に着手する必要があることを繰り返し説明した。

ワンターミナル建設候補地の要件も説明

 現在の成田空港が抱える課題は多く、利用者、航空会社、関連事業者から不満の声は多い。開港当初からの施設レイアウトであったり、既存施設の老朽化、取扱容量の不足、労働力の不足、非効率な施設など、解決しなければならない課題は山積みだ。それに加え、増大する自然災害への対応、サステナブル社会へ繋がる脱炭素化への取り組みも必須となっている。それらを解決するために最適と思われるのがワンターミナル化構想だ。

 旅客ターミナルの配置は「集約ワンターミナル方式」と「分散ユニットターミナル方式」に分けられる。集約ワンターミナルとしては、イスタンブール、北京大興、スキポール、デンバーを例に挙げ、分散ユニットターミナル(3つ以上のターミナル)としては、ヒースロー、ニューヨーク(JFK)、ロサンゼルス、チャンギ、ドバイを紹介した。その中間に当たる2つのターミナルを持つ空港としては、仁川、香港、桃園、フランクフルトを挙げた。

 集約ワンターミナル、分散ユニットターミナル、それぞれに特性の違いがあるが、NAAがワンターミナルを目指す理由としては、旅客事業を取り巻く概況、成田空港のあるべき姿、既存施設が抱える課題を踏まえると、集約ワンターミナル方式に優位性があると説明した。

 それは、集約することで延床面積を1~1.5割ほどコンパクトにでき、効率のよい運用が可能になること。利用客側からすると、シンプルで分かりやすいのもメリットだ。また、集約することにより環境負荷も低減できるとしている。

 一方、ワンターミナルになることにより、移動距離が長くなる懸念点もある。そういった課題に対しては、同一アライアンスのフライトはまとまったエリアにアサインすることで乗継時の歩行距離を短縮し、ターミナル内の移動は目的に応じた適切な移動補助手段を用意するとしている。また、将来的に改装が必要になった場合に備え、複数のユニットからなる構造にすることで、部分的に閉鎖しても稼働できるような設計にすることも説明した。

 新しい旅客ターミナルをどこに建設するかについては、配置に必要とされる要件を説明した。それは、「滑走路の配置とバランスの取れた位置にあること」「ある程度まとまりのあるエリアが確保可能なこと」「既存ターミナルの運用を継続しながら、段階的な整備が可能なこと」「アクセス機能(鉄道・道路)の接続が可能なこと」の4点。要件から候補地はかなり絞られそうだが、現段階では建設候補地の場所は明言されなかった。

新設予定のC滑走路も含めた拡張予定。新しいターミナルは、4つの要件を満たすエリアに建設するとしている

ワンターミナルで進めて行くことで意見は一致

 検討会を終えて山内委員長は取材陣に対し、増え続ける航空需要や近隣諸国の乗継需要、三国間流動も取り込める国際ハブ空港として機能強化するには、旅客利便性をいかに高めるかが重要であるとし、そのためにはワンターミナル化がよいのではないかという議題で意見や要望を発表してもらったと話した。

 田村社長は、世界的な航空需要の高まりに対して、日本における需要を取り込むには努力していく必要があるとし、そのためにも首都圏の玄関口として責務を果たしていくためにも機能強化は不可欠であると述べた。旅客の利便性、事業者の利便性を高めるためにもワンターミナル化を目指していくとし、「大きな方向性として、ご異論はなかったと考えております。ただし、専門的な部分についてご指摘いただいた部分もありますし、ご地元からのご要望やご期待のお声もいただきましたので、これからよく消化しながら、検討しながら前に進んで行けたらと思っています」と話した。

検討会の感想を述べ、質問に答える田村社長と山内委員長

 次回、1月18日に予定されている構想検討会の第4回目は、道路アクセスの向上と鉄道アクセスの改善について話し合いが行なわれ、年度内を目標に構想を取りまとめる計画だ。