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御殿場市とKDDI、最新技術で富士登山と周辺観光の魅力を発信
2023年7月13日 00:09
- 2023年7月12日 発表
静岡県御殿場市とKDDIは7月12日、富士登山と周辺観光についての魅力を発信する取り組みを共同で行なっていくと発表した。
両者はこれまでもコロナ禍における富士山観光の課題解決をテーマにした取り組みを行なってきたが、今回の取り組みは、KDDIが保有する衛星通信やVR(仮想現実)などの技術を活用し、それらをさらに進化させたものとなる。
衛星通信サービスのStarlinkを活用したものとしては、富士山の八合目付近にある山小屋にネットワークカメラやStarlinkの通信アンテナ、気象センサーを設置。登山道の状況などを撮影し、気温や風速などとあわせて五合目やWebサイトでライブ配信する。
今年は新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行したことで登山者が大幅に増えることが見込まれており、中でも富士登山の厳しさを知らない新規登山客や外国人観光客が軽装での登山を試みることなどが問題となっていることから、八合目付近の状況をライブ配信することで、その現実を伝え、救助要請の増加を防止し、安全な富士登山を啓発していく狙いがある。
VR技術を活用したものとしては、東京から御殿場市に向かうバスツアー形式の実証実験を実施する。参加者は、バスの車内でスマートグラスを着用し、御殿場市内の観光地の映像を見ながら、現地スタッフからの説明を受ける。その後、あらかじめ設定された4つのコースの中から1つを選択し、実際に訪問していく流れとなる。
12日に富士山御殿場口新五合目のMt.FUJI TRAIL STATIONで開催された発表会には、御殿場市長の勝又正美氏とKDDI 中部総支社総支社長の嶋﨑敏光氏が出席。
勝又氏は、「昨年はコロナ禍でありながらも6万3000人を超える方々に(五合目の)トレイルステーションに来ていただき、観光客の来訪者も3万9000人程度と過去最大を記録した。今年はコロナの位置づけも変わり、さらに多くの方が富士山を目指して来訪する」と期待を寄せながらも、「今年の富士山は弾丸登山や軽装備の危険な登山者の増加が危惧されている。当市としては安全に富士登山をしてもらうための啓発、情報発信が非常に重要なものだと思っている」として、今回の取り組みの意義を強調した。
嶋﨑氏は、同市と包括連携協定を結び、これまで実施してきた外国人観光客向けの翻訳タクシー(2019年)やコロナ禍での観光の分散化を目指したバーチャルガイド(2021年)といった先端技術を活用した取り組みや、富士山をはじめとする山間部の通信エリア化への同社の取り組みを紹介。
今回の取り組みについては、同市が抱える課題について昨年の下期から協議を重ねてきた。昨年、同市には20~30件の登山者からの救助要請があったとのことで、こうした事態を事前に防ぐことが大きな課題であることが分かり、これに取り組むことにしたという。
また、御殿場市にとっては富士登山が大きな観光資源であることに違いはないが、それ以外の観光スポットの知名度が相対的に高くないという課題もあった。スマートグラスを活用して遠隔でガイドを行なうものとしては、すでに「auビジュアルガイド」というソリューションがあったが、今回は、移動する観光バスの中での利用を想定しながら、360度の映像を使ったり、通信技術を活用して現地ガイドとのコミュニケーションできるようにしたりできるように拡張を行なったという。
実際のツアーは、SNSで募集した20名のモニター参加者を対象に8月19日に実施されるが、今回はその内容を体験することができた。
参加者にはバス内でXREALのスマートグラス「XREAL Air(Nreal Air)」とスマートフォンが貸し出され、「富士山満喫コース」「ゆったり・癒しコース」「名水満喫コース」「COLOコース」の4つの周遊コースの見どころが現地ガイドから案内される。
参加者はスマートフォンの画面上のマイクボタンをタップすることで、現地スタッフに質問することもできるようになっており、説明を受けながら4つのコースのうち、どれに参加したいかを決める。御殿場市に到着すると、タクシーに乗り換え、それぞれのコースを巡っていく。
スマートグラスを活用した体験は、これまでにもさまざまな観光施設で実験的に導入されているが、事前に用意された映像を再生するだけのものが中心だった。今回のものは、通信事業者らしく、リアルタイムに現地の担当者とコミュニケーションできるところが面白く、移動中のバスという退屈な空間を有意義に過ごせるのも魅力の一つと言えるだろう。
KDDIでは、現段階ではあくまでトライアルという位置づけで、8月のツアー参加者の反応を見た上で実用化を検討していきたいとしている。