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星野佳路氏「今の観光課題にあった新Go Toを。国内線割や都市部割が必要」。星野リゾート、2022年の業界予測と新施策
2022年4月15日 13:01
- 2022年4月13日 実施
星野リゾートは4月13日、報道向けの発表会「星野リゾートLIVE 2022 春」をオンライン開催した。
発表会の前半では新たに開業する施設の概要を紹介したが、後半では、星野リゾート 代表 星野佳路氏が2022年の業界予想を行なうとともに、トピックスを3つに分け、新たに始まるポイント制やサブスクリプションサービス、ビジネス向けのワーケーションルームの概要などを説明した(関連記事「星野リゾート、温泉旅館「界」湯布院と雲仙などを紹介。『九州で欧米需要を高めたい』と星野代表」)。
「旅に行っていいんだ!」というメッセージを強く打ち出し、飛行機割や都市部割を!
後半では、まず星野代表が「県民割・ブロック割」についてはマイクロツーリズムを後押しする施策として評価。「界 遠州」「星のや 京都」の稼働率を例に、利用者に“近場で旅行”が定着してきたとともに、魅力の提案やアプローチの仕方が巧みになってきたことも挙げた。インバウンドがない代わりに国内需要が後押ししていることもグラフで説明した。
大都市周辺の観光地が伸びていた一方で、マイクロツーリズムの効果が発揮できないエリアも明確に。「県民割・ブロック割」はマイクロツーリズムを後押しする施策のため、新たなGo To トラベルへの切り替えも必要と強調した。
具体的には、都市部・飛行機移動が伴う北海道や沖縄は成果が出ていないのが現状。新Go Toに関して、「改善版ではなく、今の観光課題にあったGo Toが必要。2020年の夏と2022年の夏とはまったくコロナの状況が違えば、観光産業の状態も違う。
問題は回復の格差があることなので、都市部の宿泊や飛行機(国内線)に対する割引きを手厚くするなど、一番傷んでいるマイクロツーリズムで取れなかった部分にサポートを集中させることが必要。そして“旅に行っていいんだ!”というメッセージを強く打ち出すことも重要」と力説した。
さらにコロナ後もマイクロツーリズムは大事なマーケットとして、「コロナはある意味“巨大なオフシーズンだった”ととらえ、その間にした努力で得たシステムや魅力の創出を今後のオフシーズン対策に活かすべき。日本にオフシーズンがない観光地はないので、全国で対策が可能。オフシーズンに地域全体でマイクロツーリズムに取り組むことで、観光地需要の平準化につながり、非正規雇用から正社員に。さらに正社員が増えることでサービスの質があがり好循環に入ると考えている」とのことだ。
インバウンドは欧米やヨーロッパ、オースラリアからの需要確保が長期的に有効
いまだ戻る兆しが少ないインバウンドについては、前回の発表会同様に2025年「日本国際博覧会(大阪・関西万博)」を目指し、「日本の観光産業全体が期待ではなく目標として動くべき」とした。
まずは国内需要をしっかり復活させることが大事としながら、東アジアの4エリアからの需要に依存し過ぎている日本の観光産業の現状も指摘。見直し時期に来ているとして、「特定地域に依存することはリスクも大きい。世界の旅行情報発信地として非常に重要な欧米をはじめ、ヨーロッパ・オーストラリアからの需要をしっかり確保することが長期的にプラスになる。それに取り組みながらインバウンドを回復させていく発想が大事」とした。
ターゲットを絞る「スモールマスマーケティング戦略」で、コロナ後の需要を掘り起こす
続いて、星野代表が新たに始まる取り組みをトピックスとして紹介。まず最初に取り上げたのは「スモールマス マーケティング戦略」。これはある程度の大きさのあるセグメントを集中的にターゲットにする発想だが、同社は6つに分類し、アフターコロナを見据えてのそれぞれの施策を解説した。
まずは北海道の道民を対象にした「セイコーマート」との取り組み。アクティブ会員200万人を超える「セイコーマートクラブ会員」を対象に、星野リゾートが運営を担う道内の約2000室を有効活用すべく会員向けにさまざまな特典を盛り込む内容だ。「旅々貯まる北海道旅プロジェクト」として2022年2月1日からスタートしており、コロナ禍で進んだ近場へ旅行に出かけ楽しむマイクロツーリズムを後押しする企画となっている。
続いてはビジネス利用客に対しての「OMO ワークルーム」の新設について。こちらはコロナ禍でのワーケーション利用でも好評を得た都市観光ホテルブランド「OMO」の「憧れのリモート書斎プラン」の利用者の声から発展した施策。ホテルラウンジでリモート作業を行なうなかで、オンライン会議での参加が難しく、「個室で声の出せる場所がほしい」というリクエストに応える形で生まれた。
星野代表はOMO ワークルーム新設について、「アフターコロナにおけるワーケーションの定着には専用ルームは絶対に必要で、そのニーズにしっかり応えていこうと。定着のために業界がもっと努力すべきで、その1つがこのワークルーム。11拠点と急速に増えたOMOでまずは標準サービスとして進めていく」と話す。
さらにオフシーズン対策としても有効とのことで、「土日需要だけでなく平日需要も高めるのがワーケーション。オフシーズン対策として、潜在的な需要を掘り起こすチャンスにもなる。積極的に設備やプログラムに投資していきたい」とした。
ワークルームが誕生したことで、フレキシブルオフィスを展開するWeWorkとのサービスの連携も5月1日からスタート。OMO利用者にはWeWork体験クーポンを配布、WeWork会員がOMOに宿泊すれば2時間無料で滞在時に「OMO ワークルーム」が利用できるようになる。
提携に関し星野代表は「出張時にはぜひ我々の施設に宿泊していただきたい。そしてワーケーションではリゾートにも。将来的には世界のWeWork会員に活用していただくことを目指して、宿泊時の割引など特典も検討中」と話した。
なお、ビジネスユースの高まりを反映し「OMO ポイント」の導入も発表。これは、星野リゾートアカウント会員(無料)が公式サイトで予約することで貯まるポイントで、1万ポイント=1万円分の「星野リゾート宿泊ギフト券」に交換できるサービス。
有効期間は約1年間で、国内の星野リゾート全47施設での利用が可能。還元率は5%でスタート時はOMOブランドのみだが、提携施設も順次拡大予定。ビジネスでOMOに宿泊し、交換したギフト券で家族一緒にリゾート滞在などという使い方もできる。
「新たな市場創造」としてはKabuK Styleが運営する宿泊サブスクリプションサービス「HafH」との提携も発表。毎月定額を支払い、獲得したコインを消費し国内外1000件以上の宿泊施設の利用が可能となる同サービスでは「OMO」「BEB」の2ブランド13施設の予約が可能に。
若い世代を中心に人気のサービスだが、星野代表は当初「単なるディスカウントでは?」というイメージもあったという。しかし、利用者に話を聞いてみると「ディスカウント以外の目的で会員になっているユーザーがおり、例えば“自己変革ニーズ”を持つ方など既存の旅行市場じゃない方々がそうとういて、そこがおもしろかった。
今までとは違う市場がHafHで生まれていて、これは一緒に取り組む価値が十分あると判断し提携に至った。順次HafHのマーケットに合ったサービスや部屋を作り、できれば成長体験を通して拡大していきたい」と期待を語った。
さらに70歳以上のシニアマーケットに向けたサブスクも同時に紹介。4月13日から100組限定で申し込みがスタート中の「温泉めぐり 界の定期券」(1名:30万円、2~3名:各60万円 ※入湯税別)は、日本全国の温泉旅館ブランド「界」18施設いずれかに、年間計12泊できるというプランだ。
祝日やお盆に年末年始、繁盛期などの除外日以外で利用でき、予約の煩雑さや価格判断などのストレスをなくし、よりスムーズな旅を後押ししてくれる。同社では対象年齢層に対しインタビューを行なったそうだが、体力面の心配よりも予約部分がネックになっている現状を知り、このスタイルにしたという。
星野代表は「高齢者は日本の旅需要の中心を占めているが、2025年に団塊の世代がすべて後期高齢者になる。なぜ問題かというと、70歳を超えると自然と旅行参加率が落ちてくる。22兆円の国内市場の大きな部分を占めている年代の参加率が下がることに危機感を持たざるをえない状況。今回は100組限定だが、利用者の行動をしっかり確認し来年以降も改善版を提供しながら200組、500組と成長できたらと考えている」とのこと。
シニアマーケットとともに、これからの世代への施策も重要。ミレニアル世代とZ世代に対しては、「国内旅行をしてもらうための仕掛けが必要」と星野氏。コロナ禍でも卒業シーズンに合わせた「卒旅」、20代限定の宿泊プラン「界タビ20s」などで多くの若い世代の需要があったと紹介。
さらに愛犬家に対するサービスも拡充した。9施設から一気に46施設まで受け入れを4月1日からスタート。ペット同伴可の客室稼働率の高さもあり、全国規模での展開へと踏み切った。ペットオーナーが自由に旅行ができるようなサービスを実現していきたいとのこと。
アメニティは本当に必要!? プラスチック資源循環促進法施行で考える脱プラ
トピックス2つ目は4月のプラスチック資源循環促進法施行を踏まえ、ワンウェイプラスチック(一度だけ使われたあと廃棄されると想定されるプラスチック)の代表格とも言えるアメニティ問題について言及。「アメニティ調査報告発表」と題して首都圏を中心に1000人へのアンケート結果を紹介した。
歯ブラシの持参率を調査するとともに、アメニティは“持ち帰って繰り返し使える高品質なものを手頃な価格で提供する”という説明文を提示。環境行動を積極的に取っている人だけでなく、消極的な人もホテルに対しての印象がよくなる結果が出ると同時に、そういった取り組みをしているホテルに対しネガティブな印象が少ないことも分かった。
それを踏まえたうえで「私たちの課題は法律に単に適応するのではなく、施行をきっかけにもっと大きく変革できないか!?ということ」と星野氏。すでに取り組みに踏み切れる段階に日本も来ているとして、「全国のホテル業界の方に提案して、みんなでやろうじゃないか!ということを提言していきたい」とした。
海外進出についてはグアムへ。国内の仕組みをそのまま使え、集客も問題ない
ラストのトピック3本目は海外進出について。現在ハワイ・台湾・中国・インドネシア・バリ島に拠点を構えているが、新たに5軒目として「Onward Beach Resort Guam」の運営に着手する。
グアムのポテンシャルについて星野氏は「グアムは非常にシナジーがあり、集客も問題なく、日本市場と韓国市場が大半を占めているので日本の仕組みがそのまま当てはまり、星野リゾートの運営力をしっかり活かせる場所」と太鼓判。すでにアメリカ本土からの集客が戻ってきているハワイの「サーフジャック ハワイ」を例に、日本も検査関連がなくなれば行き来が戻るので待っているのではなく積極的に動いていきたいとのことだった。
なお、コロナが収まりつつあるなかで、同社は新卒採用も含め積極的に観光人材の育成に努めており、多くの施設の開業が控えている。星野氏は与えられた仕事にしっかりと対応し、投資家の期待に応えていきたいと発表会を締めた。