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JAL、飲酒した副操縦士の逮捕で再発防止策。「顔認証などで検査の厳格化を検討」と赤坂社長

2018年11月16日 会見

日本航空株式会社 代表取締役社長 赤坂祐二氏

 JAL(日本航空)は、10月28日のJL44便(ロンドン・ヒースロー国際空港~羽田空港線)に乗務予定だった副操縦士から英国の基準を上回るアルコール量が検出され、現地警察に拘束、のちに逮捕されたことについて会見を行なった。会見では、代表取締役社長 赤坂祐二氏と取締役専務執行役員 運航本部長 進俊則氏が登壇、調査結果の報告と再発防止策について説明した。

 会見冒頭で赤坂氏は、「これまで現場で安全運航に携わってきたものとして強く責任を感じている」と述べ、同日10時に国土交通省航空局に調査の経過と再発防止策などの報告書を提出したという。

 事件の経緯はすでに各所で報道されているが、10月28日19時出発予定だったヒースロー発JL44便の運航乗務員3名(統括機長、機長、副操縦士)のうち、副操縦士について、アルコール臭がすることを空港内のバス運転手が気付き通報、警察による検査で基準値を超えるアルコール濃度が検出されたというもの。その後の発表で英国の法令に定められた血中アルコール濃度が基準値の200mg/Lを大きく超える1890mg/Lであったことが分かっている。当該副操縦士は逮捕・起訴されており、11月29日に判決が言い渡される。なお、JL44便は予定より1時間9分遅れの20時9分に出発している。

会見には社長の赤坂氏と運航本部長の進俊則氏が登壇

 同社の調査経過では、当該副操縦士が社内のアルコール検査をすり抜けており、「意図的に不正な測定をしたのか」について、(拘留中のため)まだ本人から聞き取りをできていないとしながら、拘留直前に本人から「申し訳ありません」と不正を認めるような発言があったと説明。旧型のアルコール検査機に呼気を吹きかける際、吹きかける量・角度を微妙に調整すると検査をすり抜けられることが把握できたとして、当該副操縦士が不正な手法を使ったものと結論づけた。

 機内に入るまでバス車内やブリーフィングなどでしばらく同席した2名の機長がアルコール臭に気付かなかった点については、これまでに計4回の聞き取りを行なったが、「気付かなかった」と回答しているという。そのうえで、「今になってみると、副操縦士が自分たちから距離を取っているように思えた」とも答えている。なお、両機長は社内でのアルコール検査時に相互確認を怠っていたことが分かっている。

 副操縦士が当日接触したCA(客室乗務員)や保安担当者など計13名にも聞き取りを実施したが、通報を行なったバス運転手以外の申し出はなかったと説明。

 当該副操縦士の飲酒は、「乗務開始12時間前から運航終了までの飲酒を禁じる」とした運航規程に沿っていたものの、結果的に基準値を超えるような酒量になっていた。この点について赤坂氏は、「安全意識が欠如しており、認識が甘い。(呼気に含まれるアルコール量を)自覚をしていたはず。運航乗務員としての適性に欠けている。社員としての意識に欠けている。判決後、厳重な処分にならざるを得ない」と非常に厳しい態度で指摘した。

日本航空株式会社 取締役専務執行役員 運航本部長 進俊則氏

 続いて、運航本部長の進氏が当日の移動経路などを説明。運航乗務員3名は空港近傍のホテルから同社の空港事務所へバスで移動しており、バス運転手が副操縦士のアルコール臭に気付いたのもこの時点で、副操縦士は運転台の直後の席に座っていたという。その距離は約60cmほど。その後、エレベータや空港事務所でのブリーフィング、再度のバス乗車、スタッフ用の空港セキュリティチェック、コクピットなどで当該副操縦士は計13名と接触しているが、アルコール臭に気付いたものはいなかった。

 また、ブリーフィングで行なう社内のアルコール検査は、関係者の証言をもとにビデオを使って当日の様子を再現したが、聞き取りによると統括機長は「グリーンライトの点灯は見たが、吹きかけるところは見ていない」、もう1名の機長は「吹きかける時間が短いとは思ったが、しっかり口を近付けていた」として、両名とも不完全な相互確認だったことが明らかになった。

 通報を受けた警察官がコクピットで副操縦士を呼び出した際、当該副操縦士は「飲酒はしていない。マウスウォッシュのせいなのでうがいさせてほしい」旨を大声で発したと拘束前の様子も説明があった。

 進氏は機長の責任も指摘。副操縦士については「前日に過度な飲酒を行なっていたという意識の欠如」があったと述べ、社内でのアルコール検査については「安全運航のためのプロセスが不足していた」とまとめた。

ホテルから空港事務所への移動経路
移動中のバス内で運転手が気付き、通報
会見では再現ビデオで当日の様子を示した

 再び赤坂氏からは再発防止策について説明があった。その骨子は以下のとおり。

実施済みの再発防止策

・旧型検査機の正確な使用法の徹底
・文書などによる事例周知と注意喚起
・アルコール検査時の地上スタッフの立ち会い
・乗務開始24時間前以降の飲酒の禁止
・国内/海外滞在地における飲酒の禁止

今後実施する再発防止策

・海外空港への新型検査機の配備(11月19日までに完了予定、ロンドンは1日に配備済み)
・運航規程へのアルコール濃度制限値の設定
・制限値を越えた場合の厳罰の明文化
・アルコールによるメンタルや健康面の影響がある社員のフォロー
・CA、整備士、運航管理者、グランドハンドリング従事者へのアルコール検査導入
・アルコールの正確な知識の付与/確認、適度な摂取量の周知
・グループ各社を含めた再発防止策の実施

 新型のアルコール検査機はすでに国内空港へは配備済みで、吹き込み式で精度が高く、「まず不正ができない」ものという。赤坂氏は、新型検査機の配備が遅れていたことや今回の事件について、「新型検査機が配備されていれば防ぐことができた。経営と私の責任はきわめて重大」として、また副操縦士が拘束されたために本来3名で乗務するところを機長2名で運航した判断については「完全な誤りだった」と述べた。

 また質疑中には、「お酒がいかに怖いものか自覚しなければならない。世代間コミュニケーションとして飲酒を是としているところがあったが、見直さなければならないと考えている」「これから新しいテクノロジを使って検査精度や手法を改善できる可能性があると思っている。今後いち早く取り入れていきたい。具体的には顔認証が使えるのではないかと社内でも検討に入っている」などと説明。

 関係者の処分については、拘留中の副操縦士は「判決後に厳重な処分」、2名の機長は「現在乗務停止中で副操縦士の処分後に検討」と説明。また、赤坂氏は役員報酬の20%(1か月分)を返上、進氏も10%(1か月分)を返上としながら、役員の懲戒は社外取締役を含む委員会で今後決定することが決まっており、「私の責任はこんなもの(役員報酬の返上)で済むとは思っていない」と覚悟を表わした。