ニュース

飛行機部品の製造からA380の塗装まで、大韓航空 航空宇宙部門の中心施設「テックセンター」を見学

2018年11月6日 取材

エアバス A380にも対応する塗装ハンガーなど、航空宇宙関連を複合的に手がける「大韓航空テックセンター」を見学

 大韓航空が日本路線での運航を開始したCS300(エアバス A220-300)型機に搭乗したレポートを別記事(「広々とした機内が快適な大韓航空のCS300(エアバス A220-300)型機に搭乗。セントレア~釜山線から日本路線に導入開始」)でお届けしているが、釜山訪問時には大韓航空が釜山に設ける「大韓航空テックセンター」を見学した。

 釜山・金海国際空港に隣接して建つ大韓航空テックセンターは、東京ドーム約15個分に相当する約71万m2という広大な敷地に、66棟の建物が集まる。ここには整備用のハンガー(格納庫)のほか、総2階建ての航空機として知られるエアバス A380型機にも対応する塗装ハンガー、軍用航空機(ヘリコプターや戦闘機など)のオーバーホールに対応するハンガーなどが並ぶ。

 大韓航空というと韓国のフラッグシップキャリアという航空会社のイメージが強いが、同社の組織内にある「航空宇宙部門(Aerospace Division)」では、人工衛星などの宇宙産業、ボーイングやエアバス、エンブラエル向けの航空機部品の製造にも携わっている。さらに、研究開発部門では、韓国政府が推進する無人機の開発にも参画。そうした施設も、釜山のテックセンターに集まっている。

大韓航空テックセンターのエントランス。歴代旅客機のモデルプレーンのほか、人工衛星などの模型も展示されており、航空宇宙関連の複合企業らしさを感じさせる
釜山の金海国際空港に隣接し、東京ドーム約15個分の広大な敷地に66棟の建物が集まる大韓航空テックセンター
航空機の整備だけでなく、航空機部品の製造、無人機の開発、軍用機メンテナンスの受託など、さまざまな事業を展開する
沿革。2005年にボーイング 787型機の国際共同開発に参加。2010年代にはエアバス A320型機/A330型機、ボーイング 737 MAX型機のウィングレット製造を請け負っている

 整備についてはソウルの仁川国際空港に隣接した整備施設もあるそうで、エアバス A380型機の重整備を除いてはすべて自社内で完結できる体制を整えているとのこと。この日のテックセンターでは、ボーイング 777-200型機とエアバス A330-200型機が整備を受けていた。

ボーイング 777-200型機が収まる整備用ハンガー
整備中のボーイング 777-200型機
整備中のエアバス A330-200型機。スカイチーム塗装の機体

 塗装ハンガーは、1998年に建設。当時はボーイング 747型機に対応するサイズだったものを、2017年にエアバス A380型機に対応するサイズへと改修した。大韓航空によるとアジアにおいてエアバス A380型機の塗装が可能な施設は2か所しかないそうだ。

 訪問時もちょうどエアバス A380型機が塗装に入っており、塗装を落として下塗りのプライマーが剥き出しになっている状態だった。同機の塗装に要する期間は約2週間ほどとのこと。また、水平尾翼の根本部分については、当初はシルバーで塗装する範囲が広かったが、新たに塗装を見直して、根本まで大韓航空のアクアブルーで塗装するような工程へ切り替えている。

 ちなみに、この塗装ハンガーではボーイング 787型機などを含む、さまざまな機体の塗装を行なっている。ボーイングは787型機において、色を付けるベースコートと、光沢を付けるクリアコートの2層とするBCCC(ベースコート・クリアコート)という手法で塗装を行なっている。大韓航空テックセンターでは現時点ではBCCCを採用していないが、2018年から導入を開始する予定になっているとのことだ。

塗装ハンガーの航空機搬出入口
塗装ハンガーの出入り口
他社の運航機材を含め、過去に塗装した機体の例が掲示されていた
塗装工程の紹介パネル
過去に使われた塗装器具や、塗装見本などをディスプレイ
作業や搬出入の指示を行なうハンガー・コントール・センターから見学。下塗りのプライマーが剥き出しになったエアバス A380型機の作業が行なわれていた。写真右下は、水平尾翼付け根部分の塗装の変更点

 こうした整備や塗装、撮影が制限された軍用機の整備については、航空会社が持つ整備部門とその延長線上にある分野といえるが、先述のとおり大韓航空は、このテックセンターにおいて製造業や重工業の分野といえる飛行機部品製造などに携わっている点が特筆される。

 製作している航空部品の例を挙げると、ボーイング向けとしては、787型機のランディングギア格納庫の前後の壁や、テール部分、主翼端のブレンデッドウィングレット。ボーイング 737型機の上下に分離したウィングレットなどを製造。炭素繊維複合素材(CFRP)を用いた部品も多いが、カーボン(炭素繊維)を重ね合わせる専用の設備では、大型の部品や複雑な形状の部品も成型でき、焼いて硬化させるオートグレープを経て完成へ向かう。

 ボーイング 787型機のランディングギアを格納する前後の壁については、日本の重工業各社が製造しているパーツとの関連もあり、大韓航空テックセンターで製造した部品を日本へ送り、例えばスバルが自社で製造した部品と合わせて組み立て、ドリームリフター(ボーイング 747LCF)でセントレアからシアトルへ輸送、という流れになっているという。

 エアバス向けでは、エアバス A320型機向けのウィングレット(シャークレット)部分や、エアバス A330neo型機のウィングレット、エアバス A350 XWB型機の貨物室ドアなどを製造。エアバスの方針で複数の企業が製造する体制をとっているなか、エアバス A320型機のシャークレットは約50%を大韓航空が製造している。その製造は2ライン並列に行なわれ、1か月で55機分(110枚)ほどの生産が可能という。

エアバス A320型機のシャークレット製造ライン
エアバス向け航空機部品出荷のマイルストーンなどを示した横断幕。エアバス A320型機のシャークレットは2014年2月時点で納入数が1000個に達している
エアバス A320型機のシャークレット製造ライン。左から手前に向かって次々に送られ、完成へと近づいていく。奥側と並行して2ラインで製造している
製造途中のウィングレット
完成品
こちらはエアバス A350 XWB型機の貨物室ドアの検査室。開閉を繰り返すことで生じる負荷に対して規定の強度になっているかをチェックしている
貨物室ドアの裏側。この部品だけでも炭素繊維複合素材のほかアルミ、チタンなどが使われる
貨物室ドアの内側に貼られる化粧パネル

 このほか、大韓航空テックセンター内では無人機の研究開発なども行なっており、韓国で初めての航空機となったヘリコプター「500MD」の無人運転化に取り組んでいる部門などもあり、航空会社というよりは、航空宇宙関連のコングロマリットといっても過言ではなさそうだ。

 大韓航空では、こうした飛行機部品の製造などにも携わることで、部品そのものの安全性や技術的なことを理解でき、その知識を航空機の整備に反映させることで運航の安全性向上につなげるよう取り組んでいるという。