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JTAの無料機内Wi-Fiは2倍速い!  新さくらジンベエの高速Wi-Fi「2Ku」アンテナ設置作業を見学してきた

日本トランスオーシャン航空のボーイング 737-800型機は、全機「2Ku」Wi-Fiに

2018年2月1日 就航

JTAの新さくらジンベエは就航前にWi-Fi改修を受けた

 JTA(日本トランスオーシャン航空)は2月1日、退役予定の特別塗装機「さくらジンベエ」(ボーイング 737-400型機)の置き換えとして、「新さくらジンベエ」(ボーイング 737-800型機、登録記号:JA06RK)を就航した。その初便では受験生を応援するイベントが催され、沖縄の熱帯魚が描かれた車両に見守られて福岡へ飛び立っていった(関連記事「日本トランスオーシャン航空、新さくらジンベエ就航。受験生に“合格行き”搭乗券を配布」)。

 同じく3月までに退役する「ジンベエジェット」に代わり投入した「新ジンベエジェット」(登録記号:JA05RK)は、すでに2017年10月22日に就航しており、その模様は関連記事「機内でVRゴーグルの配布も。機内Wi-FiでVRコンテンツが楽しめる『新ジンベエジェット』初便に乗ってみた」でお伝えしたとおり。

 そして今回、本誌はJTAのメンテナンスセンター(沖縄県那覇市)でWi-Fi改修を受ける新さくらジンベエの作業風景を見る機会を得たので、ここに紹介したい。

JTAメンテナンスセンターでWi-Fi改修を受ける新さくらジンベエ

「2Ku」アンテナとは

 JALやJTAの国内線で機内W-Fiサービスを利用したことがあれば、雲のアイコンと「運営者 Gogo」という表示に見覚えがあるはずだ。Gogoは米国に本社を置く機内インターネットサービスのプロバイダで、JAL/JTAのほか、米国ではデルタ航空やユナイテッド航空、アメリカン航空などが、欧州ではエールフランスやKLMオランダ航空、ブリティッシュ・エアウェイズなどがGogoのサービスを採用している。

 飛行機が機内インターネットサービスを実現する方法には2つのアプローチがあり、1つは機体下部にアンテナを搭載し、地上の基地局と通信する方式。もう1つは、機体の上部にアンテナを搭載し、衛星と通信する方式だ。Gogoはどちらのソリューションも用意しているが、前者は地上に多数の基地局を整備する必要があり、JAL/JTAが採用しているのは後者の衛星を使ったインターネットサービスだ。

 今回取り付け作業を見ることができたのは、「2Ku」と呼ばれる新しい方式の衛星用アンテナで、Gogoが提供している従来方式の「Ku」と比べて、2倍以上の高速化を実現している。

「Ku(K-under)」とは衛星通信で利用する周波数帯域のことで、12~18GHz帯域をK-under、Kuバンドと呼んでいる。ちなみに、11~12GHz付近はBS/CS放送が利用している帯域でもある。

「Kバンドの下の帯域」であることからK-underと名付けられており、その上の18~27GHzを「K」バンド、さらに上の27~40GHzは「Ka(K-above)」バンドと定義されている。Gogo以外の他社では機内インターネット接続に「Ka」アンテナを利用する例もあるが、同社は「Kuアンテナの方がKaアンテナより捕捉できる衛星が多い」と説明する。そして、「2Ku」とはKuアンテナが「2つ」あることを意味している(関連記事「Gogoの高速機内インターネット『2Ku』のテスト飛行に乗ってきた(前編)」)。

 JTAは国内他社よりも2Kuアンテナの搭載を積極的に進めており、新さくらジンベエだけでなく、新ジンベエジェットを含む同社保有のボーイング 737-800型機はすべてが2Ku搭載機であり、導入計画にある残り6機の737-800型機もすべて2Kuを搭載するとのことだ。

スマートフォンで機内Wi-Fiに接続する様子。画面に「2Ku」の文字が見える
JTAの機内Wi-Fiは無料で利用できる

2Kuアンテナの取り付け

 取材当日は、まさに2Kuアンテナを新さくらジンベエへ取り付ける直前で、機体上部にはすでにアンテナのマウントが装着してあり、機内からの配線も終わっている、という状況。このマウンタはできるだけ空気抵抗を受けないよう背が低く作られており、アンテナ全体を覆うカバーであるレドーム(レーダードーム)を取り付けても、機体からの張り出しは少ない。

 従来、1基のアンテナで受信/送信を行なっていたが、2Kuでは1基がトランスミッタ(送信機)、もう1基がレシーバ(受信機)となることで通信速度を稼いでいる。そのアンテナは大人1人でも抱えるのが難しいくらいの大きさで、薄型の円形をしていた。これを2つ取り付けるのだが、1基を4人がかりで慎重に持ち上げていた。写真で見ると、アンテナはだいたい人間の胴体くらいの大きさであることが分かる。

足場を組んで作業中
機体上部に取り付けられたマウントと、その横には2つのアンテナ
「TX」と書いてあるのがトランスミッタ(送信機)
「RX」と書いてあるのはレシーバ(受信機)
シールの下にコネクタが見える
機体上部のマウント。背が低めに作られているのが分かる
ケーブルは配線済みだった。奥に見えるのがレドーム
アンテナ、マウント、レドームの全体
アンテナ表面を保護するためにカバーをかぶせて持ち上げる
作業は4人がかり
キレイに収まった
もう一方も設置する
アンテナが2基乗った状態

 それぞれのアンテナには電源ケーブルとイーサネットケーブルを挿し込むコネクタが設けられており、機内からアンテナマウントまで配線済みのケーブルと接続する。ただし、電源ケーブルが非常に太く固いため、キレイに収まるよう熱を加えて曲がりグセを付けて、さらにレドーム内で暴れないようにステーを追加してケーブルも固定する。なお、アンテナの取り付けは電装整備の担当者が行なうが、マウントに穴を開けるといった作業は構造整備の担当者が行なうという。

機体内部からのケーブルをアンテナに挿し込んでいく
挿し込んだ
ケーブルをキレイに収納するため、熱を加えて曲げていく
足場を組んでいるとはいえ、機体上部は曲線なので作業は大変そう
振動でケーブルが暴れないように固定する
印を付けた位置に穴を開ける
穴を開けている様子。穴の位置は現場あわせだ
ステーをあてがってみる
削りかすを吸い取る
ゴミはバッグに集まる
アンテナを持ち上げる際に使ったハンドルを外していく
ハンドルを外し終わる
ステーを取り付けて……
リベット止めする

 今回は時間の都合でステーをリベット止めするところまでしか見ることができず、レドームの取り付けは取材日の翌日以降になるとのことだった。

 最後に、内装を剥がした機内を少しだけ見せてもらうことができた。ギャレーやいくつかのシートを動かして側面から天井にかけて内装が剥がされており、天井部分には無線アクセスポイントが取り付けられていた。

 Gogo製の無線APの型番は「ACWAP0727」と読める。型番からしてIEEE802.11ac対応のワイヤレスアクセスポイントが分かるが、実際11a/ac/b/g/nに対応しているとのこと。周波数帯は2.4GHzと5GHzに対応。ここから白いドーム状の機内用アンテナが伸びており、機内用アンテナは多数取り付けられていた。物理的な作業が終わると、米国からGogoのスタッフが来日し、ソフトウェアの設定を行なってWi-Fi改修が終了する。

11ac対応の無線LANアクセスポイントを搭載
白いドーム状の機内用アンテナ

 JAL(日本航空)の業績が伸びた一因に機内Wi-Fiの無料化が挙げられたり、ANA(全日本空輸)が4月から機内Wi-Fi無料化を発表したりと、旅客機の機内インターネット接続はもはや旅行に欠かせないサービスになりつつある。そんななかいち早く高速化に取り組んでいるJTAのボーイング 737-800型機。機内を快適に過ごすためのサービスの一環として、注目すべき差別化要因と言えるだろう。