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首都高、首都圏の大学生を対象に「首都高点検・補修デモ 2017」を開催
首都高の安全を維持するための最新技術を学生たちが体験
2017年6月1日 18:07
- 2017年5月26日 実施
首都高(首都高速道路)は5月26日、首都高神奈川6号川崎線 大師JCT(ジャンクション)高架下の大師補修基地で、「首都高点検・補修デモ 2017」を実施した。このデモンストレーションは、首都圏の土木工学等専攻の大学生を対象として2008年から毎年開催されており、今年で10回目。高所作業車を使った実橋の点検や補修作業、ドローンでの点検困難箇所の効率的な点検方法など、首都高のメンテナンス業務の内容や技術を紹介するもので、学生が「安全・安心の技術」を理解し、将来の技術者の育成に役立てようというもの。今回は9大学から44人の学生が参加した。
会場となる大師補修基地は清掃の基地で、供用区間の全長が320kmある首都高のうち、横浜・川崎地区の約90kmの路線の清掃すべてがこの基地を起点にしている。神奈川地区で開催されたのは初めてとなり、展示用の車両や説明パネル、案内板、テントなどが設置され、学生たちを出迎えた。
開会式では、首都高速道路 保全・交通部 点検・補修推進室 室長の谷雅史氏が登壇し、「今日見ていただくのは、私たちが日ごろから、日夜、構造物を管理するためにしている点検技術の一部。そのなかでも、最先端の技術を見ていただきたい」と挨拶した。また、「現在、全長320kmの約10%が50年をすでに超えており、20年後は60%以上が50年を超える。年間6万件の修復が必要な損傷を確認している。20年後、その先でも、今と同じような安全が確保できるように日々開発を続けている。今回のデモを契機に、いろいろなことを考えていただきたい」と語った。
デモンストレーションは特殊車両、点検や補修などの技術など、ジャンルごとに4つのブロックに分けて展示され、参加者は3つのグループに分かれてまわった。展示や解説されていた内容をそれぞれ紹介する。
高所作業車
高所作業車を用いた接近点検のデモンストレーションでは、実際に学生たちが高所作業車に乗って点検の方法や、どこに損傷がよく見つかるかなどの説明を受けた。会場となった場所は鋼製の橋梁だったが、コンクリート製の橋梁での点検箇所、点検方法などの解説を受けた。
特殊清掃車
展示と解説のみだった特殊清掃車はトンネルや壁面を清掃する車両。今まで人力でやっていたが、特殊清掃車を走らせることで、自動でクルマが清掃してくれる。トンネル壁面などの側面を清掃する車両と、路面を清掃する2種類の車両が展示された。
多電源標識車
環境に配慮し、車両負荷も低減する標識車。充電式電池の場合、車両バッテリの消耗やバッテリ故障が発生すると散光灯や表示が消え、現場作業の中断につながる。多電源標識車は、「フューエルセーフ機能」によって3つの電源から最適な電源を自動的に選択して供給する。
車両エンジンがかかっている場合は、車両より電源が供給される。車両エンジンが止まっていて標識用バッテリの充電がある場合は標識用バッテリから供給、標識用バッテリ残量が0%になるとディーゼル発電機が起動し、標識用バッテリを充電しつつ電源を供給する。
ディーゼル発電機は、標識用バッテリの充電が80%になると停止し、標識用バッテリでの電源供給に切り替わる。標識用バッテリ%は満充電で約10時間の使用が可能という。
軸重試験車
通行車両の軸重を管理するため料金所に設置されている軸重設備の精度は、軸重試験車を実際に走らせて確認を行なっている。軸重試験車は、架装部のウエイトを移動させることにより、軸重値(後軸値)を8~15トン間で設定できる。軸重試験車は料金所だけでなく、一般道路における重量計測や橋梁の構造調査などにも活用できる。
水噴霧点検車
水噴霧点検車を使えば、水噴霧設備(消火設備)の点検作業を通行車の走行車線を確保しながら行なえるため、全面通行止めをせずに実施できる。水噴霧ヘッドを上下左右前後に動くバケット(集水装置)で格納して、放水点検をする。格納バケットをホースで水噴霧点検車両に接続することで、水噴霧ヘッドの個別放水量の測定も可能としている。
エコ標識車
高性能なリン酸鉄リチウムイオンバッテリの搭載と、LED式回転灯など表示機器の省電力化で、標識類を10時間以上稼働させることができる。エンジンを動かさずに稼働できるため、燃料とCO2を削減し、企業経営や環境に優しい標識車としている。
ETC用電界強度測定車
通行止めや車線規制を行なわず、走行しながらETCの電界強度を測定できる。車両に搭載したPCで測定結果がすぐに確認できるため、その後の対応の迅速化が図れる。操作は簡単で、ボタンを押してPCの設定ができれば誰でも簡単に計測ができるという。3つのアンテナで電波の状態を同時に計測でき、緊急時に迅速に対応できるのも特徴。
また、展示はされていなかったが、電界強度測定結果とビデオ録画とを画像処理により組み合わせ、視覚的に電波の発射状況を把握できる電波可視化装置の解説もあった。電波可視化装置は、アンテナからの直接波だけではなく、車両や周辺構造物への反射波も測定することができ、反射源特定に効果を発揮するという。
MMS(モービル・マッピング・システム)車
レーザースキャナーと全方位カメラによって、道路および周辺の3次元座標データと連続映像を取得する。全方位カメラ以外にも、路面の状態を詳細に記録するカメラが取り付けられている。MMS車で取得した情報を解析し、次項のインフラドクターで活用する。
インフラドクター
建物内では、スライドを使ったインフラドクターの解説があった。インフラドクターとは、GIS(地理情報システム)と3次元点群データを活用して、道路や構造物の維持管理業務を支援するシステム。実際に計測した座標をもとにした道路や建造物の3Dモデルをシステム上に構築し、2次元CAD図作成、3次元CADモデル化、寸法計測やシミュレーション、図面作成など多彩な活用ができる。点検業務などにも活用でき、コンクリートの浮きや剥離なども分かるという。
首都高以外のほかの管理者が管理する構造物に関しても確認ができ、現場に行かなくても形状や状態を確認できるというのがポイント。インフラドクターのサービスの提供はWebクラウド上で行なわれ、事務所のPC以外にも、現場でタブレットを使って見ることもできる。現在、2台のMMS車が毎日首都高を走ってデータを取得している。
照度・電界測定車
道路照明の明るさ(照度)、料金所のETCやトンネル内ラジオ放送の電波の電界強度、トンネル内の温度や湿度、路面温度を高速走行しながら交通規制を行なわず、精度の高い測定を可能としている。測定データをもとに劣化などの診断をし、維持管理業務に活用する。
脱硝装置点検
会場から歩いて数分の場所にある大師換気所に移動し、脱硝設備の説明があった。大師換気所は、横羽線と湾岸線の間にある大師トンネル内の空気を脱硝設備を使ってきれいな空気にしている。トンネル内の空気を換気ファンにより換気所内に取り込み、電気収塵機で浮遊粒子物質(SPM)を除去したあと、脱硝装置で二酸化窒素(NO2)を吸着除去する。電気集塵機によるSPNの除去率は80%以上、脱硝装置によるNO2除去率は90%以上だという。
学生たちは脱硝装置の説明を受けたあと、内部を見学。また、浄化された空気を排出する大型ファンの点検方法などのデモンストレーションがあった。見学したときはトンネル内の空気があまり汚れていないためファンが回転しておらず、点検のデモンストレーションのためにファンを起動した。
ドローン
ドローンのデモンストレーションでは、3種類のドローンが解説された。現在、構造物の点検は、法律で5年に1度しなくてはならない。基本的には高所作業車を使い、人による接近目視をはじめとした点検をするが、高架下の状況や周囲に建物が近接していたりすると、高所作業車の点検ができない場合がある。人が接近するのが難しいような場所では、ドローンにより構造物の状況を把握できるように開発を進めているという。
最初に飛んだドローンは、桁に張り付いて、桁の表面がどのような状況になっているかを確認するもの。ドローン上部にローラーが付いており、上空で張り付いたまま移動できる。コンクリートの床板の表面にあるクラックなどを確認する。
次のドローンは薄く作られており、支承の点検用として用いられる。飛行して橋台の上に乗り、支承に近づいて点検する。
最後は、道路状況を確認するドローン。大規模な地震などの災害が発生すると、高速道路が通行止めになる。交通開放するには、道路の状況が安全かどうかを確認しなくてはならないが、現在は、黄色いパトロールカーで道路状況を確認している。災害時はクルマが滞留していて車両による確認がスムーズにできないということで、ドローンを使って空から点検するというもの。
狭隘部点検ロボット
鋼製の伸縮装置の裏側など、狭隘な場所にロボットを侵入させ点検する。美装化対策箇所や伸縮継手下面、ゲルバー桁端部などの狭隘部にデジタルカメラを搭載したロボットを遠隔操作で走行させ、鮮明な画像を撮影し、画像から損傷を見つけることが可能となっている。
Bランク補修(亀裂補修、高力ボルト締め)
Bランク補修とは、計画的に補修が必要な損傷のことで、橋梁の高齢化に耐えられるように鋼構造物の補修・補強を実施する。交通量の増大や重車両の頻繁な走行により疲労亀裂が発生し、亀裂が成長すると橋梁の崩壊に至る危険性があるため、発見次第、早急な対応が必要となる。まず、切削して亀裂の除去(滑らかに仕上げて応力を流れやすくする)や、亀裂先端にストップホール(応力の解放をする)で応急処置を施し、恒久措置として溶接継手から高力ボルト継手に変更し継手の強度を上げる。デモンストレーションでは、厚く堅牢な鋼材に穴を開け、ボルト止めまでを実践した。
各種探査、点検、試験
さまざまな探査や点検、試験などの技術説明とデモンストレーションは大きなテントに集約し、まとめて見学できるように配置されていた。照明ポール基部用磁粉探傷装置や磁粉探傷試験、超音波探傷試験など、損傷の状態を把握する技術や、電磁波レーダー法や反発度法などのコンクリートの非破壊検査技術などのデモンストレーションが行なわれ、学生たちに丁寧な解説がされていた。
閉会式では、首都高 神奈川管理局 部長の今村幸一氏が登壇し、「道路を守るということは、見えないところで一生懸命働いている人がたくさんいる。今日、皆さんを案内した人も首都高を支えている人たち。今回紹介したのは一部の技術で、さらに技術を開発したり、使ったりして道路を守っている。少しでも興味が沸いたらうれしい」と締めくくった。
首都高では5月10日から6月9日までを「首都高安全月間」として定め、「点検・補修デモ2017」以外にも、首都高ウォッチングなどの諸活動を実施している。