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段ボールが道路の寿命を延ばす。首都高ら5社が部分的腐食を高品質&省工程で補修する「スポットリフレ工法」公開

通行止めすることなく橋などの構造物を延命する部分補修を実現

2018年6月13日 公開

首都高ら5社は、特殊高所技術と段ボールで部分的な腐食に対して効率よく防食処理する「スポットリフレ工法」を開発

 首都高(首都高速道路)、Splice-lab、極東メタリコン興業、特殊高所技術、土木研究センターの5社は6月13日、高架橋梁など道路の構造物に発生した部分的な腐食(サビ)に対して、高所での作業と新開発した段ボール製の補修器具を用いて、高品質かつ短時間で防食のための再塗装を行なう「スポットリフレ工法」を開発。実際にスポットリフレ工法を用いた補修の様子を報道公開した。

「スポットリフレ工法」とは、道路構造物に発生した部分的な腐食に対して、高品質な再塗装を、短期間で効率的に行なえる工法で、効率的に構造物の腐食を補修していくことで構造物の延命を図る。通常、こうした部分的な腐食に対しては、ひとまず様子見とするか、必要があれば足場を組んで大規模な補修が行なわれるかのどちらかとなっていた。

 説明を行なった首都高 保全・交通部 保全企画課長の永田佳文氏は、「クルマでちょっと傷が付いてもすべて塗装し直すことがないのと同じ」と話す。さらに、「日本全国を見ると10年後に50歳以上の橋が50%以上。それらを壊さずに使い続けようとすると維持管理をしなければならない。維持管理には『コスト』『時間』『人』が必要。最初の2つはなんとかなるが、『人』は50年後に生産人口が半分になるので、いままでの塗装のやり方では駄目」と開発の背景を説明。今回のスポットリフレ工法について「塗装の概念が変わる」とアピールする。

首都高速道路株式会社 保全・交通部 保全企画課長 永田佳文氏
スポットリフレ工法のキモとなる段ボール製の補修器具。バキュームホースとブラストホースを別々に差し込み、内部の負圧を保つことで部分補修の素地調整にブラスト工法を適用できるようにした。内部は粉塵でボロボロにならないよう黒いテープで補強している

 この工法ポイントは、素地調整のためにスポット的にブラスト工法を適用できるようにした点にある。素地調整とは塗装する面を、塗装に適した素地へと調整する工程で、完全に旧塗膜やサビを取り切り塗装に適した形状を作ることが目的となる。

 通常の高所作業などでは素地調整に、電気工具を使った研磨によって作業をしているが、スポットリフレ工法では「ブラスト工法」を用いるのが特徴となる。ブラスト工法とは研硝材と呼ばれる砂状の素材を高圧で吹き付け、鋼材の表面を削っていく手法で、表面に適度な凹凸が付くことで塗装のノリもよくなる。

 素地調整においては、もっともクオリティの高い結果を出せるとのことだが、打ち付けた研硝材、古い塗膜やサビなどが粉塵となって飛散するため、密閉された環境での作業が必要となる。足場を組んだ場合には防護工を張り、そのなかで作業員が施工を行なっているという。

素地調整の違いを見せる極東メタリコン工業株式会社 代表取締役専務 小寺健史氏(左)。右は今回の工法のマネジメントも担当したSplice-Lab 代表で株式会社特殊高所技術 執行役員の片山英資氏。高所作業でのブラスト工法は極東メタリコン工業と特殊高所技術の両社の技術によって実現している
部分補修で一般的な電動工具による素地調整(写真左)と、ブラスト工法による素地調整(写真右)。電動工具では深く侵食したサビを取り切れないことがあり、塗装をしても再びサビが発生する可能性があるのに対し、ブラスト工法ではサビを完全に取って鋼鉄の素地を完全に出し切り、塗装に適した凹凸も付ける高品位な素地調整が可能という

 対してスポットリフレ工法では、段ボールを使った補修器具を用い、高所作業の人員2名によりスポット的にブラスト工法を適用できるようにした。そのキモとなる補修器具は、「開発に1年弱かかった」(永田氏)という。この箱の1面は施工部、そのほかの面にはバキュームホースとブラストホースを取り付ける口のほか、吸気口、作業用の窓などが設けられる。

 バキューム機はブラストの粉塵を吸入するとともに、箱の内部を負圧状態にすることで、粉塵が箱の外に飛散するのを防ぐ。負圧が高すぎても箱が潰れ、低すぎては粉塵が外部に飛散してしまう。一定の負圧を維持するバランスを見つける点が技術的には一つのハードルだったという。

 ちなみに、材料を段ボールとしたのは「現場での加工」を想定しているという。施工部の状況が常に一定とは限らず、例えば腐食部の近くにあるリブを避けるために切り欠きを入れる必要が生じるなど、現場で分かったことにその場で対応できることを重視した。

 構造物に発生した数cm四方のサビを部分的に補修するという発想自体が以前はなかったとのことで、作業員は粉塵の舞うなかで作業する必要はなく、ブラストを打つことで発生した廃棄物も箱のなかで完結できる。現在の段ボールでは最大50×50cm程度の施工を行なうことを想定。施工部へは袋に入れてつり上げ、作業終了後はそのまま袋に入れて廃棄の工程へまわすという。

足場を組む必要はなく、作業員2名が構造物にぶら下がって作業を行なう
袋に入れられた状態でスポットリフレ工法に用いる補修器具をつり上げる。最後に再び袋に収めて降ろし、そのまま廃棄する工程へと持っていける
つり上げられた補修器具を位置決めし、写真中央の黄色いバンドで固定。さらに養生テープ(一般的な養生テープと同じとのこと)でしっかりと固定&密閉する。ここで構造物の形状に合わせて補修器具を加工することもあるため、段ボール製であることが有効だという
スポットリフレ工法に用いるブラストとバキュームに必要な機械はトラック1台で運搬。写真右の「H-14D」と書かれたコンプレッサーが圧縮空気を作り、その左側のドレインを通して水分を除去。写真中央のバキュームブラスト機でブラストの打ち出しと、粉塵の吸引を行なう
青いホースがバキューム用。補修器具の下側に固定する。粉塵対策のマスクをしているが、これは“念のため”のレベルで、基本的に粉塵が器具の外部に出ることはないという
左の茶色いホースがブラストを打ち出すホースで、補修器具の内部を通して先端を調整
終了後はつり上げに使った袋に収納して降ろす

 さらに、塗装についても、省工程な重防食塗料を採用。ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズ ジャパンが製造販売する、超厚膜無溶剤系セラミックエポキシ樹脂塗料「Brushable-S(ブラッシャブル-エス)」で、従来から市販されていたものだが、首都高向けにパッケージを変えて納入している。

 従来の塗装では5工程を5日間かけて塗っていたが、本塗料では1工程で一定以上の膜厚を確保でき、低粘度でハケで塗れて、ダレがないため上向き面にも適用できる。さらに本品を下塗りしたあと10分後にはカラー塗料を上塗り可能というものだ。

 2液混合の塗料で、仕切り棒を外してもむようにすれば袋のなかで混合できるので高所での作業もしやすいパッケージにしているほか、塗料ワンパッケージで正しい膜厚で塗れる面積が約0.3m2となっており、スポットリフレ工法の50×50cm=約0.25m2とほぼ適合。永田氏は「これを使えば膜厚が確実に取れ、品質を保証できる。スポットリフレの箱と、(塗料の)パッケージの組み合わせで確実に膜厚を取れるようにしている」と説明した。

超厚膜無溶剤系セラミックエポキシ樹脂塗料「Brushable-S(ブラッシャブル-エス)」。仕切り棒で隔てられた2液(白い主剤と半透明な硬化剤)がワンパッケージになっており、棒を外せば手で混合して塗料を作れ、このパッケージで0.3m2の面積に必要な膜厚で塗布できる
マスキングテープで塗装範囲を決定。上向き面だが、塗料のダレがなくハケで塗ることができる。膜厚のチェック(オレンジ色の工具)をして完成

 報道公開では1時間ほどで一連の作業が完了。塗料の完全乾燥までを含めても8時間ほどで完了する。足場を組む場合はこのように一部分だけ補修をするということがなく大規模な作業になるが、スポットリフレ工法では、ミニマムでトラック1~2台分ほどのスペースがあれば作業が行なえることから、地上側から作業する場合なら通行止めを必要としない場合もあるほか、道路側からぶら下がる場合でも1~2時間の夜間車線規制で済むという。

 この高所作業を行なえる特殊高所技術のスタッフは70名ほどとのこと。スポットリフレ工法は特許を出願しているところで、今後、首都高で導入を進めていくが、すでに他社や自治体などからの引き合いもあることから、広く普及を図っていく。

作業前(写真左)、素地調整(写真中央)、塗装後(写真右)。この一連の作業を1時間足らずで終え、塗装の乾燥も含めて8時間ほどで補修が完了する。色を付ける場合は、写真右の塗装後、10分ほどで上塗りが可能になる