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「機内でどんなワインを飲めばいいの?」、世界一のソムリエ、オリヴィエ・プーシエ氏に聞いてみた
ANAのCA向けワインセミナーで来日
2017年4月12日 00:00
- 2017年4月10日 実施
ANA(全日本空輸)の欧州路線において機内食のワインリストを監修しているオリヴィエ・プーシエ氏が、同社のCA(客室乗務員)向けワインセミナーで講師を務めるため来日した。
ワインセミナーが実施された4月10日にプーシエ氏に話を聞く機会を得たので、どのような指針で機内で提供するワインを選んでいるのか、機内でワインを選ぶときに何に注目すればよいのかといったことを伺った。
オリヴィエ・プーシエ氏は、フランスの有名レストラン「トゥール・ダルジャン」やイギリスの五ツ星ホテル「コノート」、パリの三ツ星レストラン「ルドワイアン」などでソムリエを務めつつ、1990年にフランスで最優秀ソムリエに入賞。2000年にカナダのケベック州・モントリオールで開催された「第10回世界最優秀ソムリエコンクール」で「世界最優秀ソムリエ」の座を獲得している。
現在は、パリの三ツ星レストラン「プレ・カトラン」や、フランスの大統領府で開催される行事も担当する高級ケータリング企業「Lenôtre」において、シェフ・ソムリエとして酒類買い付け全般の責任を負っている。また、2004年~2014年の期間、エールフランス航空の機内で提供するワインの監修をしていたという経歴も持つ。
ANAは、世界最優秀ソムリエであるプーシエ氏が航空会社のワインリストを長年監修してきた経験に注目し、エールフランス航空の任を外れたとのことでアプローチ。するとプーシエ氏はすでに6回来日した経験がある親日家であり、来日の際利用したANAのサービスクオリティに感銘を受けていたそうで、話はスムーズにまとまり、2016年からワインリストの監修を担当している。
「機内食でのワイン選びはスパークリングワインが一番難しい」
人の味覚と嗅覚は地上と機内では気圧の違いによって変化してしまうため、機内食でのワイン選びはそれを考慮する必要があるという。
それはワインも同じで、特にスパークリングワインの選択が難しく、「スパークリングワインは発泡するため、瓶内は地上で6気圧前後からそれ以上になっています。それが機内では余計に気圧が高まって発泡が激しくなってしまい、香りや味わいを楽しみづらくなってしまうことがあります」とのこと。そのため地上での瓶内の気圧が低めの銘柄を選ぶようにしているという。
また、ANAはビジネスクラス以上においてボルドーグラスのステム(脚)を切ったような重心の低いワイングラスを使用しているが、これは機内でワインを楽しむために、合理的で最適だと話す。
「いまだにフルート型の細身のワイングラスでスパークリングワインを提供する航空会社もありますが、それでは炭酸ばかりが際立ってしまいます。できればボルドーグラスのように下の方は広がり、飲み口で少しすぼまるくらいが丁度いいと思います。そのほうが香りをより楽しめるのでお勧めです」と教えてくれた。
ちなみにプーシエ氏のLenôtreでは、地上でのサービスにおいても、スパークリングワインをボルドーグラスに近いシルエットのグラスで提供することが増えているという。
赤ワインはタンニンを特徴とするものは「あまりお勧めできないことが多い」
赤ワインについては、「機内の環境で味わうと、タンニン(渋みのようなニュアンス)を余計に感じやすくなります」とのことで、ブドウの品種でいえば「カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)」「マルベック(Malbec)」「タナ(Tannat)」のようなタンニンを特徴とするものは、「あまりお勧めできないことが多い」という。
そのため「シラー(Syrah)」や「グルナッシュ(Grenache)」のようなストレートな味わいのものを選ぶと、機内でも飲みやすく楽しみやすいとのこと。
カベルネ・ソーヴィニヨンと双璧をなす「ピノ・ノワール(Pinot Noir)」も気になったので聞いてみると、タンニンは控えめなので機内でも問題はないそうだが、「(主にフランスの)ピノ・ノワールの特徴である複雑な香りを十分には楽しめないかもしれない」との回答だった。
産地としては温かいエリアの分かりやすい味わいのワインのほうが機内ではマッチすることが多いそうで、フランスであれば南部のラングドック(Languedoc)やローヌ(Rhône)地方、そのほかヨーロッパではスペインやイタリア、南半球ではチリ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランドがお勧めとのこと。
ニュージーランドは白ワインで使用される「ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)」が有名だが、先ほど話に出たピノ・ノワールも、このエリアではキャラクターが変わり、機内でも楽しみやすいものになっていることが多いそう。オーストラリアは一括りに「オーストラリア・ワイン」ととらえられがちだが、広い国土にはさまざまな表情があり、ピノ・ノワールであればタスマニア方面のものがいいそうだ。
白ワインは「樽香を特徴とするもの以外がお勧め」
白ワインについてプーシエ氏はシンプルに「樽香を特徴とするもの以外がお勧め」と断言。
ワインは木製の樽かステンレスタンクで醸造されるが、樽香を特徴としたワインは、赤も白も機内ではその香りが強調されてあまりお勧めできないという。
樽香はワインリストの説明文では「トーストのような」といった、香ばしさを表わす言葉で表現されることが多く、もともとネガティブなものではない。また、樽で熟成したワインがすべてよくないということではなく、樽香を特徴としたものが機内ではお勧めではないとのこと。
プーシエ氏は新しい、まだ有名ではないブドウ品種を人に伝えることを心がけているそうで、2016年9月~11月にANAのブリュッセル~成田線などで提供された白ワインの「IPG・キクラデス・アトランティス 2015」(ギリシャ)は、サントリーニ島で栽培される「アシルティコ(Assyrtiko)」を80%使用したもので、ミネラルとかすかな塩分を感じ、刺身など和食に合う白ワインとなっており、搭乗客にも好評だったという。
「世界中のワインをセレクションしていくので、ワインを通じても世界を旅してください」
ワインのセレクションで、機内食とのマリアージュをどう意識しているか聞いてみた。
肉は赤ワイン、魚介類は白ワインと一般的にはいわれているが、実際にはマグロと合う赤ワインもあり、機内ではグラスワインで提供されるので、搭乗するたびにいろいろと試して楽しんでほしいと語る。
ANAの機内食は3カ月に1回メニューが変更されるが、そのたびに資料をもらい、内容に合わせてワインを検討しているという。それを積み重ねてきたことで、メニューのベースにある傾向のようなものは掴めてきているので、基本的に合いそうなワインを洗い出しておいて、あとは似通ったものが同時期にメニューに並ばないようにしてワインを選んでいるとのこと。
日本人はクオリティを何よりも大切にするので、「ストレートで分かりやすく、間違いのないワインを選ぶようにしています」と言い、酸っぱ過ぎたり、渋すぎたり、重すぎたりというものは避け、日本人に好まれる丸く柔らかいワインを意識して選んでいるそうだ。
「世界中の素晴らしいワインをワインリストに載せることが私のミッションだと思っています。これからは五大シャトーをリストに載せていることではなく、世界各地のよいワインを載せることが重要になってくると思います。世界中のワインをセレクションしていくので、ワインを通じても世界を旅してください」と話してくれた。
インタビューのあとには、ANAのCAに向けたワインセミナーが実施され、2017年6月からANAの各路線で提供予定の3種類のワインについて、プーシエ氏が解説をした。
セミナーで使用された、2017年6月から提供予定のワイン
Champagne Jacquesson Cuvee N740
提供時期:2017年6月~11月
提供路線:全路線ファーストクラス
生産地:フランス・シャンパーニュ地方
ヴィンテージ:NV(ノン・ヴィンテージ)
タイプ:スパークリングワイン(シャンパーニュ)
使用品種:シャルドネ61%、ピノ・ノワール18%、ピノ・ムニエ21%
味わいチャート(5段階評価):酸味3点、果実味3点、ミネラル2点、甘み1点、ボリューム4点
マリアージュ例:モリュー(網笠茸)のクリーム煮、プロシュート・パルマ、カキフライ・タルタルソース、ハマグリの磯焼、ブリア・サヴァラン(フレッシュチーズ)
Colterenzio Altkirch Chardonnay Alto Adlge DOC
提供時期:2017年6月~2018年5月
提供路線:時期により異なる
生産地:イタリア・アルト・アディジェ地方
ヴィンテージ:2015年
タイプ:白ワイン
使用品種:シャルドネ100%
味わいチャート(5段階評価):酸味4点、果実味3点、ミネラル3点、甘み0点、ボリューム3点
マリアージュ例:小鯵のベニエ、サーモンエスカベーシュ、カキフライ・タルタルソース、メロの西京焼き、アジアーゴ(ハードチーズ)