旅レポ

食事・文化・寄港地を満喫、“動くリゾートホテル”ダイヤモンド・プリンセスの旅(その3)

熊本・八代港に初入港、熊本復興支援イベントのチャリティ・ウォークも実施

 ダイヤモンド・プリンセスで行く「日本の美 瀬戸内海・名城の地めぐりと韓国 9日間」。寄港した八代港は、同船が初入港する港だ。クルーズの発表後に起こった平成28年(2016年)熊本地震。一時は寄港先を変更することも検討されたが、地震も落ち着き、復興に取り組む熊本県を支援するという意味でも八代港への入港は変更しないという決定がされたそうだ。この回では、船内や八代港で行なわれた、多数の復興支援イベントについて、まとめてご紹介したい。

八代港への初入港は熊本地震で復興支援の側面を持つものに

 このクルーズで最後に寄港する八代市は熊本県南部の田園工業都市。入港する八代港は明治時代に整備された歴史ある港だ。コンテナの定期船が行き交う物流の港だが、2010年以降、大型クルーズ船の入港がはじまり、現在は年10回ほどの入港がある。

 クルーズの旅は、飛行機で行く旅行会社のツアーに比べて予約受付が早い。リピーターが多いこともあって1年後のクルーズがすでに売り切れているということもあるほどだ。当然、今回のクルーズも寄港地が発表されたのは2015年だが、その後、2016年4月14日に熊本地震が発生。今回予定どおり寄港すると決定したことで、このクルーズは八代への初入港というだけでなく熊本地震の復興支援の側面も持つものになった。

 まずこのクルーズ中、船内では寄付金を募り、長さ20mの応援フラッグに乗客や乗組員が寄せ書き。各国語の応援メッセージやくまモンのイラストであっという間に埋まったそうだ。9月15日早朝、この「熊本の復興を応援しています」と書かれた応援フラッグを船体に掲げ、ダイヤモンド・プリンセスは八代港に入港した。

八代海の美しい島々の間を縫うように進む
港が近づくにつれて工業地帯が見えてきた
1890年(明治23年)からセメント工場があるという工業・物流の港
あいにくの雨天、朝まだ6時だというのに港には出迎えの人々が
「い草色のガントリークレーン」がこのコンテナターミナルのシンボル
旋回して接岸
大型観光バスが次々に港に集まってくる
入港から2時間後には見事な晴天に
船体に取り付けられた「熊本の復興を応援しています」と書かれた応援フラッグ

無料のシャトルバスで八代市内を観光、新幹線で熊本城観光も

 ここでは入国審査はないため、着岸してすぐに船外に出られるようになった。早い人では7時台に観光に出掛けた人もいたようだ。9時台には乗客の多くが下船し、タクシーや市内へのシャトルバス、ツアーなどを利用して街中や温泉街を散策。近場の穴場温泉「日奈久温泉」や「八代城跡」を観光したり、新幹線で熊本城を見に行ったりした乗客もいた。

 船内でいろいろな人に話を聞いたところ、日本人の乗客のなかには、あらかじめ八代港近くでレンタカーを借りられるよう手配しておいて観光した、という人もいた。交通手段が少ない地方では、確かにレンタカーがあるととても便利そうだ。

 八代港の一角では、広いスペースをとって地元の名産品や名物料理を振る舞う屋台が並んだ。地元の八代市長いわく「おもてなしの気持ちを伝えたくて用意した」というだけあって、ゆっくり座って食べられるスペースも十分に作られていて、入港時、出航前に多くの乗客が広場に寄って、地元の名産品を楽しんでいた。

観光案内のブースも。バスは混雑していた
日奈久温泉や八代城跡行きの無料バスが運行されていた
港の一角には地元の名産品の屋台も

初寄港の歓迎セレモニーで記念盾や応援フラッグを贈呈

 入港後は、乗客が下船するなか、10時からダイヤモンド・プリンセス初寄港の歓迎セレモニーを実施。八代市長や熊本県副知事、ダイヤモンド・プリンセス船長らの挨拶が行なわれた。

 八代市長の中村博生氏は、「熊本地震から5カ月、チーム熊本が一丸となって復興に向けて取り組んでいる。観光面も厳しいが初入港による熊本県全体の観光振興につながると期待している。乗客の皆さんにはよい思い出を作って帰っていただきたい」と挨拶した。

ダイヤモンド・プリンセスの船尾近く、八代港の一角で式典を実施
八代市長 中村博生氏

 続いて熊本県副知事の小野泰輔氏からは、義援金などへの感謝が語られたほか、「熊本の皆さんは今日の日をとても楽しみにしていた。今日、この船に掲げられた応援フラッグを見て涙が出そうになっている。皆さんの心遣いに感謝したい」と挨拶。地震後、入港が可能かどうか問い合わせがあった際には、「熊本にぜひ寄港してほしい、来ていただくことがなにより復興につながる」と伝えたという。「その思いどおり、今日入港いただいたことに心から感謝している」と語った。

 続いて記念盾、記念品、花束など贈呈などが行なわれ、華やかな雰囲気になった。

熊本県副知事 小野泰輔氏
八代市長 中村氏から船長へ入港盾、記念品が贈られた
ダイヤモンド・プリンセス船長から八代市へ記念盾が贈られた
熊本県副知事 小野氏から船長へ記念品が贈られた
関係者から船長、スタッフらへ花束贈呈

 ダイヤモンド・プリンセス船長のグラハム・グッドウェイ氏から歓迎式典開催の感謝が述べられ、「プリンセス・クルーズが日本発着クルーズを始めて4年になる。日本発着クルーズをはじめたころは、日本人の乗客がほとんどになると思っていたが実際は違った」という。

 このクルーズでは日本人乗客は700名ほどで、2000名がオーストラリアやアメリカ、ヨーロッパ、アジア諸国などの方々だそうだ。そのため、「寄港地に立ち寄ることは、外国の乗客の方々に日本の文化を紹介することにつながると思う。今日はすばらしい青空を用意してくれてありがとう、またすぐ八代港に入港できることを期待している」と挨拶した。

 続いてカーニバル・ジャパン 代表取締役社長の堀川悟氏から被災した方々へのお見舞いと初入港、送迎セレモニーへの感謝を述べたあと、応援フラッグや船内でのチャリティ・ウォークについて紹介。「八代では、各国から集まった乗客の皆さんに熊本のすばらしいおもてなしや食事を楽しんでもらいたい。熊本県の一日でも早い復興をお祈りし、今後も世界・日本から八代港に入港するクルーズを提供していきたい」と語り、応援フラッグを贈呈した。

ダイヤモンド・プリンセス グラハム・グッドウェイ船長
カーニバル・ジャパン 代表取締役社長 堀川悟氏
船内で寄せ書きされた応援フラッグを贈呈
ダイヤモンド・プリンセスへ八代市から贈られた記念盾
八代市に贈られたダイヤモンド・プリンセス入港記念の盾

 最後に、この日船内見学ツアーに招かれた幼稚園児たちや、送迎セレモニーを行なう秀岳館高校の生徒たちも交えた記念撮影が行なわれて無事に終了した。

送迎セレモニーを行なった秀岳館高校雅太鼓部のメンバー
船内見学ツアーに招かれた松高幼稚園の園児たち

被災地の幼稚園児ら市民約100名による盛りだくさんの船内見学会

 歓迎セレモニー後には、被災地の幼稚園児ら市民約100名を招待した充実した船内見学会も実施された。初めて見る大型客船の様子に園児も保護者も盛り上がり、船内に残っていた乗客からも歓迎された。園児にとってはとても楽しい経験になったようだ。

プリンセス・クルーズのお揃いのTシャツを着て船内見学にスタート
船内のアートギャラリーに興味津々
特別に操舵室も見学
操舵室で幼稚園児・保護者と共に記念撮影
船内の13~17歳向けティーンラウンジ「REMIX」を見学
船内をエレベーターや階段で元気よく移動
大浴場「泉の湯」を見学
室内、屋外の大浴場をめぐる
室内プールのデッキでリラックス
デッキからの眺めを堪能
ゲームセンターに見えたようでカジノに大盛り上がり

くまモンも登場! 迫力の雅太鼓による出港セレモニー

 16時半の出港時は、八代市にある秀岳館高等学校雅太鼓部による演奏で送迎セレモニーが行なわれた。数々の全国大会で上位入賞を果たし、日本代表として国際大会に出る機会も多いという雅太鼓部だけあって、演奏も構成もすばらしく、プロのステージを見ているのではないかと錯覚するほど見応えがあった。迫力満点のパフォーマンスに乗客も釘付けだ。

 途中、くまモンが遅れて到着。最初はエアー太鼓で参加していたが、最終的には雅太鼓部と張り合う、すばらしく息の合った演奏を見せ、芸達者ぶりを見せつけた。離岸の際は、デッキに集まった乗客から雅太鼓部のメンバーとくまモンに大きな拍手が起こっていた。

秀岳館高校 雅太鼓部の堂々としたすばらしい演奏
やや遅れてくまモン登場
踊りながら徐々に近づいてエアー太鼓
エアーでやりきった感を出して倒れ込む
メンバーに起こされ本格的に演奏に巻き込まれる
実はしっかりたたける!
くまモンは見事にコラボして演奏しきった
メンバーや子供らとはやしながら船を見送る
デッキで見送る乗客からは拍手と大歓声
再び美しい島々の間を抜け、美しい景色を見せる八代海から外洋へ向かった

終日航海日に「熊本地震チャリティ・ウォーク」を実施

 翌日の9月16日は終日航海日。11時半から、船内のデッキを利用した「熊本地震チャリティ・ウォーク」が実施された。参加費1人15ドル以上が寄付金に充てられ、集まった金額とプリンセス・クルーズ・コミュニティ財団の寄付金とを合わせて、日本赤十字社を通じて熊本県に寄付された。

 このチャリティ・ウォークに100人以上が集合。11時39分からウォーキングをスタートし、ダイヤモンド・プリンセスのオープンデッキを5周。約3kmを歩いて震災復興を願った。トップは1周5分ほどのハイペース。12時7分にほぼ同タイムの2人がゴールした。ゴール後は用意された冷たいドリンクやフルーツが室内で振る舞われた。

 ちなみにこの寄付にはイベントに参加した人だけでなく、乗客から広く募金が集まり、熊本県からはお礼としてくまモンのバッヂやクリアファイルが贈られた。すでにプリンセス・クルーズ・コミュニティ財団からは、震災直後に救援活動のための義援金が200万円寄付されており、これが2回目の寄付となる。

 ただ寄付するだけではなく、イベントとしても楽しんで参加できるチャリティ・ウォークの明るい雰囲気がとても新鮮だった。震災から半年、当初の衝撃からやや記憶が薄れつつあるが、いまだ震災の傷は深い。直後だけでなく、寄り添いながら直接行って観光で支援する、という姿勢が伝わるイベントの数々だった。

熊本県からチャリティ・ウォークのお礼に提供されたグッズ
船内のスタッフでチャリティ・ウォークを盛り上げる
スタート直前には部屋いっぱいに参加者が
デッキ上のスタート地点に全員整列
カウントダウンでチャリティ・ウォークがスタート
参加者それぞれが自分のペースで周回を始める
トップは1周目を5分ほどで通過
女性のトップも1分差で通過
ゴール直前で追いつき、三浦さん、福澤さんの2人が同時にゴール
女性のトップはメキシコのCindy Lee Siegenさん

赤池淳子

1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼フリーライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行なっている。Watchシリーズでは以前、西村敦子のペンネームで執筆。デジタルカメラ、旅行関連、家電、コミュニティや地域作り、子どものプログラミング教育などを追いかけている。