旅レポ

豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」で“阿波おどり観覧と瀬戸内海クルーズ・釜山、熊野大花火 8日間”を体験した(前編)

ダイヤモンド・プリンセスで行く洋上の旅

 100回の旅行より、1度のクルーズ。おおげさに聞こえるかもしれないが、クルーズプラネットが催行した「ダイヤモンド・プリンセス横浜発着 阿波おどり観覧と瀬戸内海クルーズ・釜山、熊野大花火8日間」に参加し、飛行機や車、電車の旅では絶対に味わえないクルーズを初めて体験して、旅の概念がすっかり変わった。そんなクルーズ旅のレポートをお届けする。

 トラベル Watchの旅行レポートでクルーズを紹介するのは初めてのことなので、船旅を楽しむためのポイントも交えながらお伝えしていこう。

2004年に就航したダイヤモンド・プリンセス

 そもそもクルーズに興味を持つまでは、目的地まで短時間で移動し、現地でたっぷり過ごす。車や電車、自転車や歩きのときでも、気ままに寄り道も楽しむ。これが有意義な旅の過ごし方だと思っていた。乗り物での移動中の楽しみも尽きないが、自分の動きは制限される、長旅で何カ所も観光地を巡るときにはその度、ホテルを変え荷造りをしなくてはいけない。

 ならば巨大なホテル、しかも豪華なダイニング、バー、プール、劇場、大浴場、フィットネスクラブ、カジノ、ブランドショップなどを備え、国内外トップクラスのエンターテイメントショーやカルチャースクール、パーティーまで楽しめ、新たな出会いもたくさん待っている、「ちょっとした街」のようなホテルがそのまま移動して目的地に連れていってくれたら……。そんな願いを叶えてくれるのがクルーズだ。もちろん、洋上からの絶景付き。

15階ロータススパ、14階ネプチューンズ・リーフ・プールなども屋内(船内)、屋外(船上デッキ)も施設が充実

 クルーズは海を眺めながら、のんびりと過ごすものだと思っていた。当然、その楽しみ方もできるが、記者は小説を3冊持参し、けっきょく1度も開かなかった。このクルーズでは徳島、韓国・釜山、名古屋に寄港するが、下船しない乗客が1割以上いる。「船から降りるのがもったいない」からだそうだ。クルーズを終え、その気持ちが分かるような気がする。では、その旅の中身を紹介していこう。

 今回体験したのは、今年2015年で設立50周年を迎えたプリンセス・クルーズが運航する豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」(約11万6000トン)で行く「横浜港発着、阿波おどり観覧・熊野大花火と瀬戸内海クルーズ8日間(8月12日~19日)の旅」だ。

 ダイヤモンド・プリンセスは三菱重工業 長崎造船所で建造され、2004年3月に就航した日本生まれでは最大級の客船。2013年から日本発着クルーズが始まり、横浜港に初入港してから3シーズン目となる。今回のクルーズツアーは、クルーズプラネットとエイチ・アイ・エスの共同企画となるチャータークルーズで、「日本の夏」をテーマとしたお盆の特別クルーズだ。

 乗客数は約2550人、うち子供が約300人を占める。お盆休みシーズンとあって2世代、3世代での旅行客が多いのもこの時期のクルーズの特徴。旅行会社ならではの発想で、乗客を楽しませる船内イベントなどを実施する。

 この8日間の船内、船上の様子とともに、ダイヤモンド・プリンセスの初寄港となる小松島港(徳島県)や名古屋港、釜山港での寄港地観光も交え、日にちを追って旅の見どころをお伝えしていく。

日本式浴場や海寿司などメイドインジャパンの技術や文化が感じられる

8月12日(初日):横浜港・大さん橋を出航

 12日正午に、横浜港大さん橋国際客船ターミナルに集合。豪華客船を目の前にし、気分が高揚するのを抑えつつ、乗船前に2階の出入国ロビーにて出国審査などの手続きを行なう。

 大さん橋は1894年に「鉄桟橋」として開港し、米軍関係者の乗り入れが多いことから「メリケン波止場」の愛称で親しまれ、開港以来、国際都市・横浜の歴史を支えてきた。2002年に改装され、「ぱしふぃっくびいなす」などの3万トン級の船であれば4隻まで着岸できる構造となった。10万トン級の客船でも2隻が同時に着岸できるようになり、送迎デッキや屋上階の広場からは横浜の景色と豪華客船が溶け込む姿を撮影できる。このクルーズでは、みなとみらい側の新港側岸壁から出航する。

港横浜を象徴する大さん橋
大さん橋の屋上階とダイヤモンド・プリンセス7階デッキがほぼ同じ高さ。圧巻の迫力

 ロビーで、顔写真の撮影と手荷物検査、部屋のキーとなる「クルーズカード」を作る手続きなど行なう。クルーズカードは船内精算用のクレジットカードを兼ねるため、クレジットカード番号などを登録し、準備完了。スーツケースは決められたタグを付けてスタッフに預けると、部屋の前に届けられるようになっている。

 では、いざ、乗船。船内の構造は過去の記事を参照されたい。

財布にも鍵にもなる大事なクルーズカード
大さん橋から5階のギャングウェイへ

 全長290mのダイヤモンド・プリンセスは18層に分かれている。イメージするなら、校庭の100mの直線コースの約3倍あり、最も高いところが18階建ての校舎に匹敵すると思えば、その大きさの見当がつくだろうか。

 乗船時間はグループで分けられているのでさほど混雑はなく、入口で出迎えてくれた外国人スタッフに誘導され、船内を歩く。

 5階から7階まで吹き抜けになっているアトリウムを抜け、中央エレベーターで部屋へ。エレベーターは前方、中央、後方の3カ所に4台ずつある。ちなみに、毎日、豪華な食事がほぼ制限なく味わえるので、クルーズ中に「体重が増えた」という話題をよく耳にした。その影響か否か、旅の後半に連れ、階段を利用する人が多くなっていった。記者もその1人。

アトリウムのエレベーターには50周年記念の垂れ幕が
エレベーターの中にも英語と日本語のフロア案内がある
段差の少ない幅広い階段

 記者の部屋は12階アロハデッキの内側。もちろんバルコニー付きや海側の部屋が人気だが、内側はリーズナブルな価格のため、船内イベントを満喫し部屋では休むだけ、という人にはお勧めだ。近年、クルーズの価格帯が手ごろなものになり、ツアー内容によっては内側から埋まる傾向のツアーもあるという。大海原を眺めたいときは船上のデッキでゆっくりできるので、窓がないことへのストレスは特に感じられなかった。

客室の廊下も200m以上ある
ベッドのほか、カウンターデスクのまわりにTV、ドライヤーもあり。クローゼットは充分なスペース。
シャワー室と洗面台。リンスインシャンプー、石鹸、ボディクリームなどのアメニティは完備されているが、歯ブラシは用意されていないので持参を。

 続いて、14階以上のデッキに上がり、船上を散策確認。

15階部分に大型液晶スクリーン「ムービーズ・アンダー・ザ・スターズ」をプールの脇のシートから眺めることもできる
15階のデッキから、みなとみらいの景色とともに
大人専用プールの奥に有料スペース(1日40米ドル)サンクチュアリ
タオルや簡易バッグももちろん無料(ツアー費込)で使用できる

 13時頃に乗船し、出航は18時。プールやジャグジー、ショップ、ラウンジなどほとんどの施設は乗船と同時に使え、のちほど紹介する14階のビュッフェ「ホライゾンコート」もオープンしているので、出航までの時間も有意義に過ごすことができる。この間に6階、7階にある劇場「プリンセス・シアター」で乗客全員が参加義務のある避難訓練も行なわれた。

700人収容できるプリンセス・シアター。20分程度のビデオを見た後、各自で救命胴衣の着脱をして終了
ビュッフェで好みのものを選び軽食をとる
水着着用のジャグジーからの眺め
室内用プールもすぐに利用可

 アトリウムでは、マサハルによる三味線や、ヤマカワ・リュウによるギターなどの演奏が披露され、乗船してきた旅人たちを極上の音楽がもてなしてくれる。ここには移動時間、待ち時間など存在しない。船に一歩足を踏み入れた瞬間にエンターテーメントな旅が始まっていると実感する。

 16時過ぎからは出航に先立ち、セレモニーなどやコンサートを行なうアトリウムで鏡開きが行なわれた。吹き抜けの円形のアトリウムは、6階、7階から見下ろす客も含め、多くの人で賑わう。

 クルーズプラネット 代表取締役社長の小林敦氏らが挨拶し、乗船の御礼と上質な旅を約束。「ダイヤモンド・プリンセス」を命名したゴッドマザー、三菱重工業 取締役相談役夫人 佃芳子さんも登場し、盛大に樽が開かれた。

 このようなイベントの開催に関しては船内放送でアナウンスされることもあるが、毎日部屋に配れる船内新聞「プリンセスパター」によって情報を得ることができる。

アトリウムは賑やか。樽酒はおちょこに注がれ、乗客に振舞われた
日本発着クルーズでは随所に日本の伝統や文化を織り交ぜており、用意されたのは菊正宗の樽
「プリンセスパター」にはイベントやカルチャースクールのプログラム、ダイニングや各施設の営業時間などが記載されている。サービス、イベントのお知らせも毎日部屋に届く

 18時を迎え、いよいよ出航し、横浜港を後にする。静かに動き出し、船内にいると船が動いたことに気付かないほどだ。海上から横浜の景色は格別。大さん橋が小さくなっていく。

平行に離岸してから、沖へ前進。出航した実感がわいてくる
大さん橋からどんどん離れていく
大さん橋から見送る場合は、この眺め
15階後方部左側からの眺め

 そして出航して10分、早くも大きな見せ場がやってくる。本牧ふ頭と大黒ふ頭を結んでいる横浜ベイブリッジ下の通過だ。ベイブリッジの桁下は海面から約55mの高さで、ダイヤモンド・プリンセスの最も高いところが54mとスレスレの通過になるのだ。

迫ってくる横浜ベイブリッジ。前方からデッキ最上階の16階へ移動

 ほかの客船の例を挙げると、「飛鳥II」高さは45m。クイーン・エリザベスは56.6mで干潮時のみ、ギリギリでベイブリッジを通過できる。クイーン・エリザベスは今年の3月に横浜港大さん橋へ寄港予定だったが、南太平洋で発生したサイクロン「パム」の影響で干潮に合わせた寄港予定時刻に間に合わない状況となり、ベイブリッジの下を通過することができくなったため、急遽、寄港地が神戸に変更されたこともあった。

 通過の様子をひと目見ようと乗客はデッキに上がり、スリルのあるベイブリッジ下の通過を楽しむ。橋の真下からのアングルは貴重な1枚だ。

スカイデッキの屋根の部分とスポーツコートのネットの上部はスレスレ。通過の瞬間は思わず頭をすくめたくなったが無事に通過した

 船内探索や海上の景色を楽しんでいるとすぐにディナーの時間に。船内にはメインダイニングが5つあり、ディナーは決められたダイニングのテーブルで毎晩いただくシステム。クルーズカードに、時間帯とダイニングのテーブル番号まで記載されており、ほぼ同じウェイターが毎日担当するので、好みなどを覚えてもらいやすい。毎日テーマが変わるコースメニューの中から好みのものをいくつでも選べことができる。

メインに選んだのは、ローストしたトウモロコシで育てたプライムリブ、天然ローズマリー、ホースラディッシュのクリーム添え
デザートにはふっくら焼き上がった熱々のスフレが運ばれ、ウェイターがクリームソースを上からかけてくれた
記者のメインダイニングとなる6階後方部のインターナショナルダイニングルーム

 ディナーの時間帯は2回に分かれており、記者は後半の19時45分から。前半は17時30分からで、乗船し慣れている人はクルーズ予約時にディナータイムの希望を伝えている。

 ディナーの後も楽しみは尽きない。プリンセス・シアターでダイヤモンド・プリンセス専属のシンガーやダンサーによる、ウェルカムアボードショータイム「ドゥー・ユー・ウォナ・ダンス」を鑑賞したり、ムービーズ・アンダー・ザ・スターズにて心地よい潮風を感じながら「ワイルドスピード7」を鑑賞したりと、船上の夜は続く。

 なお、プリンセス・シアターで行なわれるメーンのエンターテイメントショーも2部制に分かれているので、どちらの時間帯でも鑑賞することができるのでご安心を。

ダイヤモンド・プリンセス&シンガーズによる華やかなダンスショー
ムービーはデッキ、プール、ジャグジーから好みの場所で鑑賞

 英語が苦手でクルーズライフを心配する人もいるだろうが、日本発着クルーズの場合、プロダクションショーは台詞の多いミュージカルなどを避け、ダンスや歌を中心とした英語が分からなくても楽しめるものを披露しているという。映画もすべて日本語吹き替え版なので安心して堪能できる。

 しかし、ウェイターやルームサービスなどのスタッフはほぼ外国人。今回のクルーズの乗務員は1000人で日本語が話せるスタッフは1割程度。最低限の英語は話せた方が無難だ。基本的なことは日本語でほぼ通じるが、ほとんどのスタッフが片言の日本語を話せるくらいと思っておくとよいだろう。例えば、「コーヒーを持ってきてください」などの簡単なサービスの要望は通じるが、「忘れ物はどこで預かっていますか?」となると日本語だけでは通じにくい。5階のフロント、ツアーデスクでは複数の日本人スタッフが対応するので、相談ごとはフロントでお願いするのが確実だ。

5階のツアーデスクでは日本人スタッフが対応。ショアエクスカーション(オプションの申し込み)も5階で

8月13日(2日目):徳島・小松島寄港

 船は横浜港を出港し、浦賀水道を通って南西へ。深夜に野島崎周辺を通り、徳島・小松島港へ。

 朝食は、14階のビュッフェ「ホライゾンコート」が5時から始まり、いずれかのダイニングも7時からオープンする。ホライゾンコートは朝食5時00分~11時30分、昼食11時30分~15時30分、軽食15時30分~17時30分、夕食17時30分~1時00分(日にちによって23時まで)と開いていて、いつでもビュッフェを味わうことができる。一般的なレストランメニューに並ぶほどに手の込んだ惣菜は100種以上に及ぶ。

14階のホライゾンコートはほとんどの席から海が見え開放的な雰囲気
ビュッフェコーナーも広々
肉、魚介、野菜類と朝食やランチもバランスよく

 総料理長のニロ・パルマ氏に聞くと、寄港地で新鮮な魚介などを仕入れ、船の上でもフレッシュで上質なものを味わえるようにしているとのこと。今回は横浜港でも魚介類などを仕入れている。世界各国の料理を織り交ぜているが、クルーズの地域によりステーキなどの肉料理、魚介メーンなど変えながら、1つのツアーの中でも内容を変えている。今回の日本発着クルーズでは和食もふんだんに取り入れられていた。

和食が充実しているのも特徴。かぼちゃの煮付け、漬物や茶そばなども
ビュッフェであっさりした和食朝ごはんにすることも可能

 驚くのは「最初の3日間のメニューの消費量で乗船客の好みを判断し、メニュー内容を改善している」こと。欧米人は圧倒的に肉料理が人気だというが、日本でのクルーズは意外にも「サラダが人気」。それだけに新鮮さを保つための品質管理に力を入れているという。

 パンは1日3回船内で焼き上げているが、熱々よりもほのかに温かい方が美味しく味わえるので、時間をおいて少し冷ましてから提供しているこだわり。焼き立てをアピールして出す、日本のパン屋を超えるようなおもてなしと言えそうだ。

総料理長のニロ・パルマ氏。日本でも料理の勉強をし、モットーは「料理に情熱を捧ぐ」こと
メインダイニングでもホライゾンコートでもパンはおかわり自由
和洋中バラエティ豊か。目の前で叉焼やローストビーフなどを切り分けてくれる
ブラジルナッツトルテ、キーラムパイ、ババロアなど毎日、少しずつメニューも変わり15種以上のデザートが並ぶ
常時15種以上の生野菜と温サラダなども種類豊富。ドレッシングもバルサミコ酢、ごまみそ、チーズソースなど10種以上

 13時になり、船は徳島・小松島港に到着。阿波踊り会場へ向かう。

ダイヤモンド・プリンセスは徳島・小松島港に初の寄港

 JR徳島駅周辺や徳島市役所周辺の阿波踊り会場までは、シャトルバスが10分置きに出ているので身軽に移動することができる。

 エイチ・アイ・エスの国内ツアーでも、伝統的な祭りの鑑賞とセットのツアーは年配者を中心に人気で、阿波踊りが今回のクルーズに取り入れられたという。前売りでもすぐに完売してしまう桟敷席、前列での鑑賞券が付いており、席が確保されているのも魅力だ。阿波踊りに参加したい人はオプション(220ドル)で、オリジナル法被や演武前に踊り子の指導が着き、地元の有名連と連なって阿波踊りを堪能することもできる。

バスの車窓からはのどかな田園風景が広がったが、会場周辺の町は賑やか

 シャトルバスで約40分、阿波踊り会場周辺へ。古くは「阿波」と呼ばれた徳島を代表する阿波踊りは400年の歴史を誇る、日本三大盆踊りの1つ。8月に開催される阿波踊りの4日間に130万人以上の観衆が集まる。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」の名調子にあるように、踊り子だけで10万人以上が繰り出し、熱狂の渦と化す。

徳島市内は阿波踊り一色の雰囲気

 阿波踊りが始まる前に「阿波踊り会館」へ。徳島市のシンボルである眉山の麓にあり、5階から出ているロープウェーで山頂に向かうことができる。この日は観光客で賑わい長蛇の列。眉山山頂へ行くのは断念し、1階にある徳島の名産物が揃う「あるでよ徳島」でお土産を買い、3階の阿波踊りミュージアムで阿波踊りの歴史を下勉強しながら本番を待った。

ロープウェーで山頂まで上がると徳島市内、鳴門海峡が一望できる
阿波踊りを踊る「オドロット」の展示も。1階はすだちなどの特産品が並ぶ

 18時。一度は激しく雨が降ったものの、開始直前に雨が止み、一瞬の静寂。耳を澄ますと遠くから、神の二拍子が聞こえてくる。太鼓や笛、三味線の鳴物の音とともに一糸乱れぬ連が迫ってきた。演舞場の両脇に詰めかけた観衆も大きな手拍子で迎える。笠をかぶった華やかな女踊り、腰をぐっと低くし力強く勇壮に魅せる男踊り。基本の二拍子の名調子は変わらないが、いくつもの連が列の体形を変えながら、趣向を凝らした踊りで会場を盛り上げる。

南内町演舞場。有名連や企業連などが次々に披露していく
勇ましい男踊りや艶やかな衣装や笛の音も連ごとに変わっていく

 阿波踊りは前半、後半と2部に分かれており、合間に会場を移動して後半は「市役所前演舞場」で鑑賞。ツアーで用意されたチケットが最前列だったので、胸にお囃子のリズムが突き刺さるような距離だ。お踊り子が見物客に配る扇を受け取り、ぱたぱたと仰ぎながら、日本の熱い夜を堪能する。

夜の帳が降りるとより夏祭りらしい雰囲気に。桟敷席の特等席へ
最前列は踊り子の息づかいまで聞こえてきそうな迫力。笛や太鼓も響く

 最後の連は扇子を使った阿波扇を披露。蝶のように動く扇子が阿波踊りをより華やかに魅せ、拍手喝さいで幕を閉じた。この後は見物客も演舞場に降りることができ、お囃子に合わせ、阿波踊りを体感することができた。

子供から大人までこの日に賭けた踊りの成果を出し切る
最後に見物客も参加。演舞場に降り、踊り子に

「いちかけ、にかけ、さんかけて、しかけた踊りはやめられへん、ごかけ、ろくかけ、しちかけて、やっぱり踊りをやめられへん」と踊り子たちと歌いながら、見よう見まねで手の形を作り、ゆっくりと前に進んでいく。束の間「踊る阿呆」になりきり、日本の夏祭りを存分に満喫した。

【お詫びと訂正】初出時、徳島到着時に出国審査を行なうとの記載がありましたが誤りです。お詫びして訂正いたします。

8月14日(3日目):瀬戸内海クルーズ、ウェルカムパーティー

 徳島・小松島港を離れ、この日は明石海峡を通り、瀬戸内海クルーズ。自然が織りなすアートを目に焼き付けてから、夜はウェルカムパーティーと船旅ならではの醍醐味が詰まっている。

 8時頃から明石海峡を通過。操舵室からは、元帆船日本丸の船長で東京商船大学教授を務め、医学博士でもある橋本進先生が、海の様子を実況している。船内アナウンスで聞こえるのでデッキやバルコニーで先生の話に耳を傾けながら、風景美に酔いしれることができる。信号や潮の読み方、船の航路や島々の特徴など、先生の話にメモを取る人も。先生は時々デッキに上がって解説や談笑を交えるので、豆知識を仕入れ、景色を見る面白さが増す。

寄港の前後に度々登場し、名解説でデッキの人気者となる橋本進先生
世界最長3911mの吊り橋、明石海峡大橋
デッキチェアから兵庫県神戸市と淡路市にかかる明石海峡大橋を眺める

 14階前方部のデッキには、焼きたてバーガーなどが味わえる「トライデントグリル」があるので景色を楽しみたいときには船上でランチや軽食を。ここでの食事も(アルコール以外)クルーズ代に含まれているので支払いはなく、思い切り味わえる。

焼きたてバーガーを頬張りながら日本のエーゲ海を堪能
デッキにはアイスクリームバー・スワールズがあり、バニラ、チョコレート、抹茶のソフトクリームもいただける。これも無料
景色を楽しみたいときは海側に向かって並んでいる両サイドのデッキチェアがお勧め
写真の小豆島や男鹿島、家島、豊島、直島だけでなく、名もない小さな島々が美しい瀬戸の風景を織りなし見惚れる
橋本先生がデッキで解説をし、いよいよ瀬戸大橋が近づいてくると船上は混雑

 瀬戸大橋は本州と四国を結ぶ10の橋の総称。瀬戸中央自動車道の下にJR四国本四備讃線の瀬戸大橋線が走る2層構造になっていて、船上から見ると橋が2段になっていることがよく分かる。

13時頃に瀬戸大橋を通過

 クルーズは船上と船内でまったく違う世界が同時進行していて、好きなように行ったり来たりして過ごせるのも特徴。

 船内ではいくつものカルチャースクールが開催されているので、この日はウクレレ教室に参加。ウクレレが貸し出され、ウクレレアーティストのデイビットが手ほどきをしてくれる。簡単な楽譜が配られ、4本の弦の説明から丁寧に説明。クルーが日本語訳をしてくれるので初心者でもすぐにメロディーを奏でることができた。

7階前方部にあるホイールハウス・バーで開催
曲目は4つのコードを押さえるだけで演奏できる「パーティシェル」など

 ポピュラーなハワイアンミュージックを奏で、自分たちの音色にも癒される。約1時間で「タイニーバブル」など3曲を弾けるようになり、参加者から笑みがこぼれる。

 プリンセス・シアターでは東京交響楽団の弦楽四重奏コンサートが開かれた。美しいハーモニーに「ずっとコンサートに行ってみたいと思っていましたが、まさか船上でこんな近くで聴けるなんて」と驚きの声も。翌日にはアトリウムでもコンサートが開かれ、アンコールの拍手が続いた。

1946年に創立された日本を代表する交響楽団の演奏を身近で聴くことができるのもクルーズならでは

「ではアンコールにお応えし、これから韓国・釜山の大陸を目指すということで、この曲を。情熱大陸です」。バイオリンが鳴り響くと、観客の手拍子が沸き、これまでの優雅な演奏とはひと味違った盛り上がりを見せた。

 船上では美しい景色が続く。瀬戸内海クルーズもいよいよ終盤。最後の見どころ、来島海峡大橋を通過する。来島海峡をまたぐ来島海峡大橋は、愛媛県今治市と大島、四国を結ぶ3つの来島海峡第一、第二、第三大橋の総称。中央の部分がしまなみ海道として知られる西瀬戸自動車道で、バイク、自転車道や歩行者道があるので、この場所から船を撮影する人も多い。

島と橋と海が引き立て合うような風景美
来島海峡大橋の下を通過。手を振っている人の姿も見えた

 夕刻になると西日を浴びた海面がやさしく輝き始める。船上からのサンセットに思わずうっとり。贅沢な時間がゆっくりと流れていく。

瀬戸内海がオレンジ色に染まる

 日が暮れてもイベントはまだまだ続く。今夜はキャプテン主催のウェルカムパーティー。今晩だけはフォーマルのドレスコードになり、着飾ってパーティーに出かけるワクワク気分に。アトリウムは盛大なウェディングパーティーのような雰囲気に包まれている。

 子供たちもタキシード姿になり、女子はダイヤモンド・プンセスにあやかってか、ディズニーのプリンセスドレスに着替えて、おめかししている子も多数。

 キャプテンやシニアオフィサーのウェルカムスピーチに続き、メーンイベントへ。プリンセス・クルーズの名物といえば、シャンパンタワーフォールだ。キャプテンと並び、タワーの頂上からシャンパンを注げば2m下までのグラスに向かって煌めきをまとったシャンパンが流れていく。

ワン、トゥ、スリーの合図でシャンパンが注がれた
生バンドの演奏とともに会場は盛り上がる。順番に並んでシャンパンタワーフォールを体験

 パーティーではシャンパンやオレンジジュースのほかオードブルがふるまわれるが、ここでぜひとも提供しているウェイターを見つけて味わいたいのが、「チョコレート・ラブ・ポップス」だ。このクルーズでは、「チョコレート・ジャーニー」と題し、世界最高ランクのショコラティエ、ノーマン・ラブ氏がプリンセス・クルーズのためにプロデュースした上質なチョコレートを味わえるのも魅力。ディナーコースの中で味わえるのはクルーズ中1回のデザートメニューになっている。パーティーでは1口サイズのチョコレートとして振舞われるので見逃さないように。

外はパリっとしているが中にはとろりとしたクリーミーなチョコレートがたっぷり

 パーティーの後はディナーへ。この日のディナーはプリンセス・クルーズ50周年の歴史を振り返り、1960年代のヌーボークラシックからの代表メニューが並んだ。

 デザートはノーマン・ラブ氏の「チョコレートラズベリームース・バニラクリームブリュレとショートブレッド添え」。見た目の彩りだけでなく、中はチョコレートムースがぎっしり詰まり、ほのかなラズベリーの酸味とチョコレートの濃厚な甘味が一体となった見事な味わいだった。

1960年代の鴨のテリーヌや1970年代のポルチーニスープからモダンクラシックメニューまで

 夢のような夜は続くが、今晩は早めに就寝することに。早朝に関門海峡を通り、5時45分頃に関門橋の下を通過する。朝焼けに染まる関門海峡を楽しみにベッドに潜り込んだ。

 非日常的なクルーズの旅は後編へ続く。

山口愛愛

横浜生まれ、横浜育ち。ナイヤガラの滝を遊覧、グランドキャニオンをセスナで飛行、モルディブでダイビング、ロンドンでパンクライブ鑑賞などミーハーかつアクティブな海外旅行を多数経験。全国の野球場で取材観戦しているうちに国内旅行にハマり、月に3度以上は取材を兼ねて旅行。スキーやダイビング、キャンプなどのアウトドア趣向の旅行も好む。