ニュース

NEXCO中日本、正面衝突事故防止に向けた高速道路のワイヤロープ工事を公開

東海環状道など、合計4.4kmの区間で試行が開始

2017年4月18日 実施

暫定2車線区間の正面衝突事故防止を目的として中央帯に設置されたワイヤロープ

 NEXCO中日本(中日本高速道路)名古屋支社は4月18日、東海環状自動車道の富加関IC(インターチェンジ)~美濃関JCT(ジャンクション)間の一部区間で、暫定2車線区間の正面衝突事故防止を目的として中央帯に設置されたラバーポールを、ワイヤロープへ試行的に変更する工事を報道陣向けに公開した。この試行で今後、この区間を通行する車両の挙動などを検証していく。

 この工事は、東海環状道の関広見IC~富加関IC(内外回り)で4月10日~4月21日に行なわれた夜間通行止め期間中に実施された。試行設置区間は1.8km。NEXCO中日本では、紀勢自動車道(勢和多気IC~大宮大台IC)の1.1km、舞鶴若狭自動車道(若狭三方IC~若狭美浜IC)の1.5kmと、合計4.4kmの試行設置区間延長でワイヤロープ試行設置を行なう。

 ワイヤロープ式防護柵は、ワイヤロープ5本と強度が弱い支柱で構成され、張力で車両の衝突に抵抗して反対車線への突破を防ぐ。現在、暫定2車線区間に設置されているラバーポールとほぼ同じ径の支柱を使用するため、入れ替えやすく、200mごとにワイヤーが部材で接合されているため開口部を作りやすくなっている。

現場公開に先駆けて、高速道路の暫定2車線区間での正面衝突事故防止対策に至った経緯や今回の工事内容についての説明会が行なわれた
経緯を説明する中日本高速道路株式会社 名古屋支社 保全・サービス事業部 交通技術チーム チームリーダーの田中真一郎氏

 現場公開では、事前に説明会が開催され、NEXCO中日本 名古屋支社 保全・サービス事業部 交通技術チーム チームリーダーの田中真一郎氏が登壇し、高速道路の暫定2車線区間での正面衝突事故防止対策に至った経緯などを説明した。

 高規格幹線道路(高速道路などの自動車専用道路)の供用延長1万1315kmのうち、有料道路は9322km。その27%にあたる2538kmが暫定2車線区間となる。その2538kmのなかで、4車線化の事業中が約250km、付加車線設置箇所が約590kmあり、残り約1700kmが純粋な2車線区間となっている。

 2車線区間の約6割(約1070km)を占めるのが、土工部(土を盛ったり切ったりしてできている区間)で、そのほとんどはラバーポールが設置されている。幅員を拡幅することにより設置幅を確保することで、ガードレールなどを設置する試行箇所が約15kmある。土工区以外の約4割(630km)は、橋やトンネルなどの構造物のため道路構造上幅員の拡幅ができず、この区間はすべてが設置幅の狭いラバーポールで仕切られている。

 暫定2車線区間で課題とされているのは、大きく分けて4点。規制速度が低く追い越しができないため、1台でも遅い車がいると全体として速度が遅くなるという特徴を持つ。対面通行のため、事故が起きると重大事故になる傾向がある。大規模災害時は、通行止めや片側交互通行の作業が必要になる。大雪の際は非常に対応に苦労するといった点だ。

 事故に焦点を絞ると、高速道路では4車線区間(分離区間)での交通事故での死傷が減少傾向にあるなかで、暫定2車線区間(非分離区間)では増加傾向にある。死亡事故率では、暫定2車線区間は4車線以上の区間に比べて約2倍となり、いったん事故が起きると死亡する確率が高い。

 道央自動車道や磐越自動車道では、拡幅により中央帯を広げてワイヤーロープを試行設置した区間があり、これまで車両接触事故3件中、反対車線への飛び出し、死傷者なしという結果を出している。その結果を受けて、今回、既存の幅員のなかでワイヤーロープを設置するということを検証する方針となった。全国の土工区間を中心に約100kmに試行設置し、その検証結果を踏まえ、無料高速道路を含めての本格設置に移行していくという流れになった。

 まずは、2車線の土工区間でワイヤーロープを試行設置し、検証を開始していく。その他の区間については、今後の検証結果や、新たな技術的知見を得たうえで進めていく形になっている。

 今回、見学する区間は、元々ラバーポールを設置していた部分をワイヤロープ式防護柵に置き換えたもの。試行設置にあたって、設置幅が0.8mのラバーポールを同じ設置幅のワイヤロープ式防護柵に入れ替えるだけのため、ほかの構造的なものは何も替わっていない。

高規格幹線道路の供用延長1万1315kmのうち、暫定2車線区間は4112kmで36%を占める。有料道路の暫定2車線区間は2538km
暫定2車線(有料) 約2540kmのうち、約1700kmが純粋な2車線区間。その約6割が土工部で、大部分にラバーポールが設置されている
暫定2車線区間の標準的な幅員構成で、土工部は10.5mの幅のなかで、車線が3.5m、路肩が1.75mとなっている
暫定2車線区間では、走行性、安全性、信頼性、大規模災害時の対応、大雪への対応が課題となっている
高速道路では4車線区間の死傷事故が減少傾向だが、暫定2車線区間では増加傾向にあり、死亡事故率は約2倍となる
道央道や磐越道で、ワイヤーロープを試行設置した区間の車両接触事故3件中、反対車線への飛び出し、死傷者はなかった
2車線の土工区間でワイヤーロープを試行設置して検証を開始していく。その他の区間は夏以降に試行設置が開始される
試行設置は、設置幅が0.8mのラバーポールを、同じ設置幅のワイヤロープ式防護柵に入れ替える
東海環状道の工事内容を説明する中日本高速道路 名古屋支社 保全・サービス事業部 保全チーム リーダーの亀井理明氏

 続いて、保全・サービス事業部 保全チーム リーダーの亀井理明氏が登壇し、見学現場となる東海環状道の詳細な工事内容についての説明をした。

 東海環状道は、愛知県から岐阜県、三重県を通る高規格幹線道路で、名神高速道路、中央自動車道、東海北陸自動車道などと接続している。今回の試行設置にあたり、富加関ICから関広見ICまでの内外回り約10kmを、4月10日から4月21日までの各日20時から翌6時まで、土日を除く2週間にわたり夜間通行止めをして工事をした。

 実際に工事をするのは、富加関ICから美濃関JCTまでの土工区間の一部(1.8km)。中央帯に設置されたラバーポールからワイヤロープに変更する。現場では4工区に分け、69.17~69.61KP(キロポスト)を1工区、69.97~70.81KPを2工区、70.94~71.13KPを3工区、71.37~71.62KPを4工区としている。現場公開が行なわれた4月18日時点で、1工区はほぼ完成しており、2工区は工事中、3工区と4工区は完成していた。現場公開されるのは、工事中の2工区と、完成した4工区の一部で、約50mの範囲となる。

 ワイヤロープ式防護柵はガイドライン案に従って設置しており、2.5mピッチで設置しているラバーポールを外して、高さ1mの支柱を4mピッチで立て込む。支柱には5本のワイヤーロープを通し、ワイヤーは200mごとにターンバックルで接続している。支柱が地面に入っている長さは約700mm。端部は2600mmの杭に固定する。

 施工手順は、設置箇所のラバーポールを撤去し、路面に削岩機で穴を開けていく。工事では、1日あたり100カ所程度の穴を開けることができるという。次に、ガードレールの支柱を打ち込むエアスポライターという機械を使い、スリーブを地中に埋め込む。これも、1夜間で100カ所程度打ち込める。

 次に、両端部に2600mmの鋼管杭を打ち込み、中間の支柱を人力で差し込んで、ワイヤーロープを設置していく。支柱とワイヤーロープの設置は、1夜間で300m程度。最後に、ターンバックル設置箇所のワイヤーを切断し、ターンバックルを設置し、ワイヤーを張っていく。ターンバックルの取り付けは、1本あたり5分程度。

施工位置は、東海環状道の富加関ICから美濃関JCTまでの土工区間の一部。ワイヤロープ式防護柵はガイドライン案に従って設置する
施工手順は、舗装に穴を開けスリーブを地中に埋め込み、両端部に鋼管杭の打ち込みと金具等の設置、中間支柱とワイヤーロープの設置、ワイヤーロープの緊張、安全設備設置という流れ
今回見学する工事区間の2工区(69.97~70.81KP)
完成している区間の4工区(71.37~71.62KP)

工事区間(2工区)

スリーブの埋め込みまで終わっている2工区。見学したのは夜間通行止めが行なわれている深夜

 今回見学した工事区間の2工区は、10日間の工期中6日目にあたり、支柱建込、ワイヤーロープ設置、安全設備設置などが行なわれる。公開されたのは、作業中の800m中の約50m。すでに舗装コア抜き(穴開け)、スリーブの埋め込みは終わっている。これから人力で支柱を建て込んでいき、準備されている3条のワイヤーロープを通していく。数人の作業員がスピーディーに作業を進め、程無くして公開箇所の50mすべてに支柱が建てられた。

 作業の進行を追うように作業用のトラックが近づき、残りの2条のワイヤーを現場に置いていく。これをさらに支柱に通していく。実際はこの後、ターンバックルを付けてワイヤーを張っていくのだが、時間の関係でその作業は見ることができなかった。

工事の説明をするNEXCO中日本 名古屋支社の亀井理明氏
スピーディーに中間支柱を建て込み、ワイヤーが通されていく
支柱の建て込みとワイヤーを通すのは、1人で支柱1本を1分程度
支柱に3条のワイヤーを通した状態
ターンバックルの設置位置に並べられたターンバックル
現場にゆっくりと近づいてくる工事用車両(トラック)
荷台には、残り2条のワイヤーロープ積まれて、現場に卸していた
トラックの進行に合わせ、ゆっくりと現場に置かれていくワイヤーロープ
残り2本を支柱に通していく
支柱のスリットにワイヤーと樹脂の部材を交互にはめていく
この後ワイヤーは端部と接続され、ターンバックルで張られていく

完成区間(4工区)

すでに完成している4工区

 続いて訪れたのは4工区。公開されるのは、完成している250m中約50m。建てられた支柱に5本のワイヤーが通してあり、すでにピンと張った状態。ワイヤーが夜間に見えにくいという指摘があり、一番上のワイヤーには反射材が取り付けられている。また、支柱にも反射テープを付けて視認性を上げている。今後は、カメラなどで交通の動向も確認しながら。様子を見ていくという。

 今回の試行設置は土工区間を対象にしたということで、特に事故が多いというからではなく、道路構造上の理由から土工区間がある程度連続するこの区間を選定したという。今回の設置における評価期間は、少なくとも1年を予定している。

 先述のとおり、東海三県では東海環状道のほか、紀勢道(勢和多気IC~大宮大台IC)の1.1km、舞鶴若狭道(若狭三方IC~若狭美浜IC)の1.5kmの合計4.4kmに正面衝突事故防止対策を実施。東海環状道は4月10日~4月21日、紀勢道は伊勢道の一部区間を含めて4月10日~4月26日、舞鶴若狭道は4月3日~4月8日の夜間通行止めでの工事となる。

一番上のワイヤーと支柱には反射材が付けられ、夜間での視認性が上がっている
ワイヤーの端部
端部には、2600mmの鋼管杭が打ち込まれている
ラバーポールとワイヤーロープの境となる部分
端部の傾斜に乗り上げないように、クッション材が設置されている
3月8日に実施されたワイヤロープ式防護柵に大型車を衝突させる実験