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JR東日本のリソースを活用した新しいビジネスアイディアを5月31日まで募集

「JR東日本スタートアッププログラム」始動。最優秀賞には100万円を用意

2017年4月6日~5月31日 応募受付

「JR東日本スタートアッププログラム」のアイディア募集を開始した

 JR東日本(東日本旅客鉄道)は、ベンチャー企業や個人などから広く事業アイディアを募るビジネス創造活動「JR東日本スタートアッププログラム」を展開。おおむね創業10年以内の企業を対象にした「アクセラレーションコース」と、主に個人を対象にした「インキュベーションコース」を設け、5月31日までの期間アイディアを募集する。最優秀賞として100万円が用意されるほか、優れたアイディアは具体的な商品化・事業化が進められていく。

 4月19日にJR神田万世橋ビルにおいて、参加検討者を対象にした説明会が開かれたので、その様子をレポートする。

説明会はJR神田万世橋ビルにおいて開催された

「皆さまにはJRのフィールドをうまく使ってアイディアを実現していただきたい」

東日本旅客鉄道株式会社 執行役員 事業創造本部 副本部長 松崎哲士郎氏

 説明会の冒頭では、JR東日本 執行役員 事業創造本部 副本部長の松崎哲士郎氏から、本プログラムの企画背景について説明があった。

 国鉄がJRになり4月1日に30周年を迎えたことに触れ、湘南新宿ラインという貨物線を使った新しい路線、Suicaやエキナカ施設の誕生と進化などを振り返り、これらのイノベーションは一定の成功を収めているものの、JR東日本の既存の資産に頼った部分が大きかったのではと指摘。

「新しい技術、新しいアイディア、これを一緒に考えて、一緒にビジネスにしていく人、JRだけのビジネスという意味ではなく、共創していけるものをということで、今回のプログラムを企画し進めてきました」と思いを語った。

 初めての取り組みということで、「プログラム自体が未確定なところもありますが、逆に柔軟に、いいアイディアがあれば対応して、一緒に進めていければ」と語り、優秀賞を獲得することがゴールではなく「終わりではなく始まりにしたい」と話した。

「皆さまには、JRのフィールドをうまく使ってアイディアを実現していただきたい。鉄道をどうする、JRのビジネスをどうする、ということに限らず、エリア以外も含めて、よいことと思えるものがあれば、世界に発信していくという気概を我々も持っています」と語り、挨拶を終えた。

「オープンイノベーションで社会課題を解決」

東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 地域活性化部門 事業開発グループ 課長 佐野太氏

 続いてプログラム事務局の中心人物である、事業創造本部 地域活性化部門 事業開発グループ 課長の佐野太氏が登壇。JR東日本では1日1700万人の乗客、年間62億人の乗客が利用しており、多くの人との接点があることが企業としての1番の特徴であるとし、「それを皆さんのビジネスにお役立ていただき、JR東日本のメンバーも協力していきたいと思っています。62億人のお客さまにどういったサービスを提供できるか、どういったビジネスにできるかといったところが1つのポイントだと思います」とまず説明した。

 そしてSuicaがきっぷの代替品から電子マネーへ発展してきたこと、主にキヨスクだけだった駅構内の小売りが、今ではエキナカ施設としてさまざまに進化していること、さらにはタッチパネル式の自販機、宅配の受け取りロッカーといったサービス、地域活性化活動としての観光業、農業、製造業との協業など、JR東日本が取り組んできたイノベーションをおさらいした。

 しかし、「社会が多様化し、人口が減少していくなかで、ビジネスのスピード感はより求められるようになっていると思います。より早く、より多く変化する。これが求められていると感じています。これがJR東日本が今後、オープンイノベーションで社会課題を解決していこうと思ったきっかけでございます」と、プログラムを通じて広くアイディアを募集するに至った意図を語った。

JR東日本が解決したい課題

JR東日本が解決したい課題

1.人手不足
 続いてJR東日本がこのプログラムを通じて今後解決していきたい課題を、5つに大別して説明した。

 1つ目の課題は「人手不足」。宅配会社の人手不足がニュースで話題だが、JR東日本ではコンビニや駅ビル、ホテルなどの事業を展開しており、駅ビルやホテルでは数百人の従業員が必要になり、この人手不足に対し、自動化やロボット化といった解決のソリューションは非常に強いニーズであり、早く対応しなければならない課題としてとらえているという。

2.働き方の変化
 2つ目の課題は「働き方の変化」。「働き方改革」が話題だが、働き方の多様性のなかでモバイルワーク、サテライトワークが一般的になりつつあり、「働くお母さん」も増えている状況では、1カ所のオフィスに社員が全員集まる働き方は必要ではなくなってきていると指摘。むしろ通勤にかかる時間や労力が非効率ととらえる社会になるのではと考えているという。

 そうなると、例えばJR東日本の駅ビルが商業施設としてだけではなく、交通至便のサテライトオフィスとして機能するといった、新たなストックの使い方があるのかもしれないと考えを語った。

3.交通モード転換
 3つ目の課題は鉄道事業にもかかわる「交通モード転換」。2016年にJR東日本では「技術革新中長期ビジョン」を発表し、そのなかには「ドア・ツー・ドアを実現する」という概念が盛り込まれていると紹介。

 この「ドア・ツー・ドア」は、鉄道事業として駅から駅だけでなく、自宅から駅まで、駅から目的地までの領域にも踏み込んだ概念であり、一例として「新幹線で地方の駅に降りると、その先の目的地までの交通手段に困ることがある」を挙げた。

 新幹線が開通する、新幹線の速度がより速くなる、それが必ずしも目的地に早く着くことにつながらないところにきており、「目的地までの間には柔軟な交通モードが求められていると思います」と話した。

 これは例えばライドシェアであるとか、自動運転などが重要なキーワードになり、シームレスに人が移動できるようになることは、鉄道事業者としても大きなテーマだと説明した。

4.スマホ化
 4つ目の課題は「スマホ化」。特に「決済」は課題だという。FeliCaやBluetooth、QRコードなど通信方式も多様化し、店舗側も決済端末を対応したものに更新していかなければならない状況とのこと。JR東日本グループの駅ビルには8500のテナントが入っており、1万数千台の決済端末とシステムをグループ会社が構築して提供しているため、決済の進化への対応は、非常に大きな課題だという。

 また「広告」も課題で、人々が移動中スマホを注視するようになり、例えば電車内の中吊り広告、駅構内のポスターを見なくなっている状況において、乗客に必要な情報をタイムリーに届けることも課題だと話した。

5.インバウンド
 5つ目の課題は「インバウンド」。日本が2020年に訪日外国人4000万人の目標を掲げるなかで、多言語対応や食べ物の対応などを始めているが、外国人への観光案内や、体調不良などへの適切な対応などは駅に求められることが多く、これらも課題だと説明した。

 これらの課題を踏まえての「募集領域」として以下の7つが紹介された。

  1. 人・モノ・情報をタイムリーにマッチングするサービスの創出
  2. 出発地から目的地までスムーズにつなぐ快適な移動の創造
  3. 新たな技術・アイディアを活用した未来に資する新ビジネスの創出
  4. 過ごしやすく、働きやすい社会・生活の実現
  5. 国内外の多様な人々が集い楽しむ場としての駅づくり
  6. 地域の雇用・移住・観光の促進
  7. 環境負荷の少ないエネルギーや安全で安定した食料の供給
「JR東日本スタートアッププログラム」で募集するアイディアの領域

「アクセラレーションコース」と「インキュベーションコース」

 プログラムで用意されている「アクセラレーションコース」「インキュベーションコース」についても説明があった。

 アクセラレーションコースはすでに製品やサービス、プロトタイプなどを持ち、それをベースに、JR東日本のリソースと組み合わせることで新たな付加価値を創造していく事業者を想定しているという。「事業発表会」が行なわれる11月のゴールイメージは、サービスのローンチイメージが見えているぐらいのレベルを見込んでいるとのこと。

「インキュベーションコース」はまだアイディア段階にあって、これから起業して作っていく、あるいはJR東日本グループのなかで製品化、サービス化してほしい、といったアイディアレベルを持った個人を想定しているという。11月の「事業構想発表会」でのゴールイメージはプロジェクトの発表レベルとのこと。

 アクセラレーションコースは「製品を一緒に作る」、インキュベーションコースは関係者を巻き込むための「資料を一緒に作る」と、ニュアンスを説明した。

「アクセラレーションコース」と「インキュベーションコース」の目標地点
「アクセラレーションコース」と「インキュベーションコース」のスケジュール
企画のテーマはJR東日本が掲げる「TICKET TO TOMORROW ~未来のキップを、すべてのひとに。~」

 佐野太氏からは、JR東日本から提供可能なリソースの一例が紹介された。首都圏のJR主要9路線の車内ディスプレイを使い提供している「トレインチャンネル」や、駅のデジタルサイネージは、柔軟に活用できるチャネルとのこと。

 JR東日本が展開するポイントサービスを通じて得られる顧客情報も、個人を特定できる情報は不可だが、購買層や購入単価など統計的なデータは状況に応じて開示できるものあるとした。

 また、山手線などにはビーコンが付いており、ここから得られる情報はオープンなものだという。在線位置と乗車位置が分かるとのことで、この情報を利用したアプリ開発も可能ではとのこと。

 ダウンロードが300万件に迫るという「JR東日本アプリ」も、現在は列車の遅延情報などにとどまっているが、その可能性を拡げるアプリ連携、Web連携といったことも、実験という形での可能性を示した。

 寄せられたアイディアにはJR東日本グループ各社の技術系、IT系の担当者も対応、協力していくとのことだ。アイディアの分野もBtoB、BtoC、BtoBtoC、いずれも受け付けるそうで、「機械的に点数を付けていくというものではなく、実現性、新規性などに注目して事務局で選別、JR東日本の経営陣も含めた体制で確定していきたい」と選考過程も説明した。

 最後に「JR東日本スタートアッププログラム」は「TICKET TO TOMORROW ~未来のキップを、すべてのひとに。~」という同社が掲げるテーマのもとに実施されることに言及し、「JR東日本のお客さまだけでなく、日本全部、世界を見据えて、新しい30年の、次のJR東日本になっていくためのメッセージが込められていますので、ご提案をいただいて、一緒に進めていきたいと思っています」と語り、説明会を終えた。

 取材した「JR東日本スタートアッププログラム」の説明会は4月25日に第2回も予定されており、プログラムのWebサイトで参加を受け付けている。

説明会後の質問に対応してくれた、東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 事業推進部門 課長 エキナカ事業グループ グループリーダー 加古恵介氏(左)と松崎哲士郎氏(右)