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NEXCO中日本、ドローンを活用した構造物点検の実証実験を公開

すべて有線接続にした安定動作。2017年からの試行運用を目指す

2016年10月19日 実施

ドローンを活用した構造物点検の実証実験での飛行中のドローンと俯瞰カメラ。無線ではなく、接続されたケーブルを確認できる。赤いケーブルは流れ止め

 NEXCO中日本(中日本高速道路)は、ドローン(マルチコプター)を活用した構造物点検の実証実験の様子を報道陣向けに公開した。「SCIMUS(Structure Check & Investigation Multi Copter System/スキームス)」とネーミングされたシステムで、有線接続されたドローンに搭載されたデジタルカメラを使い高速道路の構造物を高解像度で連続撮影し、コンクリートのひび割れなどの異常を効率的に発見する。

 一般的なドローンのコントロールには、主にWi-Fiなども使う2.4GHz帯(ISMバンド)の無線とGPSを利用するが、今回のシステムではどちらも不要で有線接続されているのが特徴。橋梁の下などGPS電波が届かない場所で動作するほか、無線電波を使うために起きやすいパケット遅延やバッテリ容量の低下による落下といったリスクを完全になくすことができる。

 今回は、橋梁上から遮音壁を越えてケーブルを垂らし、橋梁下で床板下面を点検するという想定での実験が公開された。場所は新東名高速道路宮ヶ島(みやがしま)高架橋(下り)。ここは、将来の車線増を想定し路側帯側が1車線分広くなっていて、その部分を活用して実験をしているため、車線規制はしていない。また、あくまでも実証実験であり、この橋梁の検査を行なっているわけではない。

 2400万画素の高解像度カメラで分割撮影された映像は、ソフトウェア処理でオルソ(正射投影)化して床板単位などで結合管理し、0.2mmまでの損傷確認や、橋スパン全体を3D化するといった利用が考えられている。オルソ化は航空写真でよく使われる手法で、通常カメラで撮影すると中心投影で中心以外の周辺画像が歪む。これをすべて正射投影に変換する技法。

ドローンを活用した構造物点検の実証実験が行なわれた新東名高速道路宮ヶ島高架橋
SCIMUS(スキームス)で使う2本のケーブルが遮音壁を越えて下に垂れている
設置状況を下から見たところ。右の赤いケーブルにドローンが下がっている
赤いケーブルの先にはドローンが下がっている。この赤いケーブルは流れ止めでコントロール用の黒いケーブルが別にある
もう一つは、俯瞰監視用のカメラ。ドローンをコントロールするために監視する目的で付けられている
周囲には風速計が設置されている。安全に実施できるのは風速6mまで
橋梁の下側の様子。中央分離帯で分かれている。ここまでの約24mを撮影
飛行撮影中のドローン
黒のコントロールケーブルと赤の流れ止めケーブルの2本が付いているのが分かる

 ドローンを使っての構造物点検の開発を始めたのは2年前の2014年度からで、ドローンは国産のエンルート(enRoute)製の4プロペラ機「Zion PG Quad Copter」をベースに改造したもの。機体重量は5kg。約6kgを積載可能。補修の観点から、国産メーカーを選択しているとのこと。

 見学時に搭載されていたカメラは、ソニー「α6000」。同社製の16mm(35mm判換算24mm)/F2.8の単焦点レンズ「SEL16F28」を取り付け、カメラを水平制御するジンバルを介して搭載されていた。撮影対象に対しては3~6mまで近づいて撮影。測距レーザーを搭載していて、近付き過ぎを防止する。現時点で測距レーザーは上方向のみだが、横方向にも搭載する予定とのことだった。

使用しているドローン本体。エンルート(enRoute)製の「Zion PG Quad Copter」
中央部にカメラ、フライトコントローラ(3Dロボティックス Pixhawk)、モーター制御装置、加速度計、ジャイロ、磁気センサを搭載
カメラはソニー「α6000」と単焦点レンズ「SEL16F28」。シンバルを介して付いていた
青い筒型の装置が上方向の測距レーザー。将来は横方向にも設置予定。GPSも付いているが使用していない
飛行用のプロペラ。サイズは15インチでブラシレスモーター採用
今回システムを解説した中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社 経営企画部 事業開発担当部長 兼 技術営業担当部長 堀隆一氏
NEXCO中日本が実証実験中のドローンを使用した構造物点検の様子

 ドローンのコントロールと撮影の作業は、すべて橋梁上から行なわれる。つまりドローンは目視せずに遠隔操作されることとなる。

 ドローンと俯瞰カメラの2カ所で防音壁を超えており、橋梁上の機材は1カ所にまとめられている。俯瞰カメラがつながっている側には、コントロール卓が集中している。俯瞰カメラ映像とドローンのカメラ映像が並んでいて、これらを見ながらプロポで操作する。

 撮影開始点で撮影を始めると、あとは自動的に撮影されていた。操作はドローン提供メーカーのエンルートのスタッフが行なっていたが、実際の運用時にはNEXCO中日本側の訓練したスタッフで操作ができるようにしていくとのこと。

 もう一方の箇所には、発電機などの電源装置が置かれていた。電源を確保することにより、システム全体で安定した動作が保たれる。

 高速道路のトンネルや橋は、省令に基づいて5年に1度の近接目視点検を行なうことが義務付けられるようになっている。この省令とは、道路法施行規則の一部を改正する省令(平成26年国土交通省令第39号)およびトンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示(平成26年国土交通省令告示第426号)が2014年3月31日に公布され、同年7月1日より施行された。これにより、トンネル、橋等の点検は近接目視による5年に1回の頻度を基本とし、その健全性については4段階に区分することになっている。

 ドローンが近接目視点検に代わるかどうかは、今後の法整備などに関わってくるが、いずれにしても定期的かつ網羅的に高精細な画像として記録しておくことは、現場の状況把握としてとても意義がある。今後の予定としては、2017年からの試行運用を目指したいとしていた。また、打音点検用のドローンも開発中で、将来的にはこれと併せより精度の高い問題箇所の抽出を行なっていきたいとしていた。

新東名高速道路宮ヶ島高架橋の下り車線は、路側帯側がさらに1車線増やすことを想定して広くなっている
実験箇所の東京方面側端
実験箇所の名古屋方面側端
橋梁上の機材の設置状況。2カ所で防音壁を越えている
俯瞰カメラがつながっている側にコントロール卓が集中している
コントロール卓周辺
操作中の画面。左がドローンの撮影映像、右が俯瞰カメラ
ドローンを操作中。操作はエンルートのスタッフが行なっていた
ドローンと俯瞰カメラをコントロールするプロポ
ドローンがつながっているケーブル側
安定した電力の供給用に発電機が用意されている。ドローンもこれで動作している
NEXCO中日本が実証実験中のドローンを使用した構造物点検の受信映像