星野リゾートがこっそり伝える食の裏側

聞けばきっと食べたくなる! 落語に登場する秋の味覚を味わう「東京・ご馳走落語」を体験してみた(星のや東京)

玉屋柳勢さんの落語をプライベートな空間で楽しめる「東京・ご馳走落語」

「星のや」「リゾナーレ」「界」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」と5つのサブブランドを中心に、国内外に施設を展開している星野リゾート。その知られざる食の魅力を深堀りしていく連載の第6回は、「星のや東京」の秋のイベント「東京・ご馳走落語」を紹介する。

 落語はご存じのとおり、オチのある話を身振り手振りでおもしろおかしく表現する話芸。落語には何かを食べるシーンが登場する演目も多い。有名なのは扇子を箸にし、左手でそば猪口をつくってズルズルッとそばをすするシーンだろう。星のや東京では、そんな落語に登場するグルメを実際に楽しめるイベント「東京・ご馳走落語」を11月30日まで開催している。

落語に登場する秋の食材を満喫!

11月の演目はそばが登場する「夜鷹そば屋」

「星のや」共通のコンセプトは、その土地の風土や歴史、文化をおもてなしに織り込むこと。東京・大手町に位置する日本旅館「星のや東京」では、江戸後期に始まった“落語”に東京らしさを見出し、2022年夏から落語にちなんだ季節のイベントを開催している。

 第1弾は夏に開催した「納涼・怪談落語」。真夜中の0時にスタートし、怪談噺で涼をとるという異色の企画だったが、夏休み期間ということもあり、家族連れにも好評だったそう。そして第2弾が食欲の秋にふさわしい「東京・ご馳走落語」だ。

「落語は人々の人情や生活が旬のご馳走とともに描かれています。食欲の秋に、旬の味覚を優雅に堪能してほしいという思いで企画しました。噺家さんの話し方は臨場感があり、聞けばきっと食べたくなるはず。実際、寄席のあとは近隣のそば屋が混むという現象が起きることもあるそうですよ」と星のや東京広報の岡田大志さん。そこで「東京・ご馳走落語」がどんなものなのか、ここでレポートしたい。

プライベートな空間で贅沢に落語を楽しむ

落語講座。この日は扇子を使ったそばとうどんの食べ方の違い、羊羹とおまんじゅうの食べ方の違いまで実演してくれた。芸の細かさに驚く

「東京・ご馳走落語」は3つのプログラムで構成される。まずは、初心者でも分かる落語のいろはを教えてくれる落語講座、その後は実際の落語を楽しみ、最後は落語に登場した料理を日本酒とともに味わう食事タイムで締めくくる。

 宿泊者専用のプライベートスペース「お茶の間ラウンジ」に登場したのは、落語協会所属の真打、玉屋柳勢(たまやりゅうせい)さん。落語講座は柳勢さん自ら、落語の成り立ちや落語業界のウラ話を解説してくれる。場も温まったところで、落語がスタート。演目は月替わりで、登場する食材も違うので最後に出てくる料理も変わる。

9月の食材は「秋刀魚」

「目黒の秋刀魚」のひとこま。秋刀魚をお気に召した様子のお殿様

 9月の演目は「目黒の秋刀魚」。江戸時代、低級な魚として扱われていた秋刀魚を庶民と同じように食べたお殿様が、その味が忘れられないという滑稽噺だ。落語を間近で聞いたのは初めてだが、臨場感に引き込まれた。当たり前だが話すのは一人。しかし表情や声色を変えて、何人もの役を巧みに演じ分け、まるで目の前で劇が繰り広げられているよう。

 落語のあとは、いよいよ食事。落語に出てくるようなベーシックな食べ方の料理が1品、それに星のや東京らしいアレンジを加えたおつまみ3品の構成だ。お酒は東京都内の酒蔵、石川酒造のひやおろしを合わせる。

炭火で焼き、大根と醤油を合わせた秋刀魚。9~10月の秋刀魚は脂がのってしっとりしている

「落語のなかで出てくる料理、たとえば9月なら秋刀魚の炭火焼は、それ自体が完成された料理ですので、まずはそのままお出しします。あとの3品は私たち星のや東京のフィルターをとおすなら、秋刀魚という食材をどう料理するだろうと考えて開発しました」と星のや東京総料理長の浜田統之さん。

秋刀魚のもつ滋味を感じられる「秋刀魚コンフィの炭火焼」

 アレンジ3品は、秋刀魚にフレンチの調理技法を融合。たとえば「秋刀魚コンフィの炭火焼」は塩麹でマリネし、ゆっくり低温の脂で煮て、仕上げに炭火であぶっている。「秋刀魚はとても繊細な魚で、荷崩れしないようにやわらかく調理するのが難しかったですね」と浜田さん。頭から骨まで食べられるほどやわらかいのに、ちゃんと形をキープしているのがすごい。

見た目にも味わいにも秋を感じる「秋刀魚とポルチーニ茸の東寺揚げ」

 ポルチーニ茸を合わせて湯葉で巻いて揚げた「秋刀魚とポルチーニ茸の東寺揚げ」は、香りもよく見た目も華やかだ。

「秋刀魚のルーロー」。ルーローとはフレンチの用語で巻いたものの意味

 酢でしめて秋ナスと合わせた「秋刀魚のルーロー」はゼリー寄せのぷるんとした食感も楽しい。それにしても、おなじみの食材がここまで変幻自在だとは!

10月の食材は「薩摩芋」

10月は薩摩芋をテーマにした料理が並ぶ

 今回は体験していないが、10月の演目は「大工調べ」。落語に登場する大家が、芋屋だった過去を持ち、言葉の行き違いが原因で起こった騒動を描く滑稽噺で、秋の味覚の「薩摩芋」が登場する。

 メインの料理はベーシックな焼き芋だが、収穫から2~3か月経ち、水分が抜けて甘味が増したものを使うのがこだわり。アレンジ3品には「薩摩芋とフォアグラのコロッケ」のようなフレンチ食材と融合させたユニークな料理も。ポテトサラダ風の「薩摩芋のレムラード」や「薩摩芋の焼きリゾット」には味噌やいぶりがっこも使われているというから、日本酒が進むこと間違いなしだ。

11月の食材は「そば(新そば)」

今も昔も変わらないシンプルなかけそば。11月には新そばが登場する

 3か月のイベントのラストを飾るのは、そば。今回は一足早くこちらの演目と料理も取材させてもらった。演目は「夜鷹そば屋」。子供がいない老夫婦と親を知らないはぐれモノが登場するほろりと泣ける人情噺だ。そばをすするシーンが何度も登場し、柳勢さんがなんとも美味しそうに食べるものだから、終演時にはすっかりそばを食べる口になっていた。まずは美しく盛り付けられたかけそばをすすりつつ、落語の余韻に浸る。

そばがきをフリットにした「そばがきの鴨コンソメ」。揚げ出し豆腐のように鴨のコンソメをかけて食べる

 アレンジ料理の「そばがきの鴨コンソメ」は、チーズとじゃがいものピューレにそばがきを合わせてあり、もっちりした食感が新鮮。

「そば粉のブリニ」もみじの形にしたクレープで、トップにはイチョウの形のカボチャも飾られ、秋の風情

「そば粉のブリニ」はロシア風クレープで、一般的にはサワークリームとキャビアを合わせるところを、クリームチーズとふぐの卵巣の粕漬と合わせて和を強調したテイストに。適度な塩気が食欲を誘う。

そばの実をはりつけてコロッケのように揚げた「鴨とそばの実のカイエット」

 コロッケ風の「鴨とそばの実のカイエット」は、「少しだけそばがきを茹でることで、カリカリした食感を実現しました」と浜田さん。口に含むと、そばの香りが一気に広がる。アレンジ3品はどれも初めて出会う味で感動しきりだった。

料理のコンセプトは「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」と共通

「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」の一品<石>。中央で真っ黒な宝石のように光るのはサザエのムース。一口食べると磯の香りが口に広がり、心地よい肝の苦みが追いかけてくる

「東京・ご馳走落語」で提供しているアレンジ料理のベースとなっているのが、2020年から星のや東京のダイニングで提供しているコース料理「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」だ。免疫力を高めるといわれる発酵食品とフレンチの調理技法を融合した独創的なコースで、すべての料理に醤油や味噌、漬物、塩辛などの発酵食品が使われている。

「東京・ご馳走落語」の料理も日本の食材をフレンチの技法でアレンジしており、料理に通底する思いは共通だ。イベントのあとは、ぜひレストランでのコースもおすすめしたい。ご馳走落語の料理が、前座あるいはアペリティフとなって、よりコース料理を楽しませてくれるはず。ちなみに「東京・ご馳走落語」の11月の料理「そば粉のブリニ」に使われているふぐの卵巣の粕漬は、コースのために日本の発酵食材を探す中で出会った食材だそう。

 料理は季節によって変わるが、五味(酸・塩・辛・苦・甘)を表現した<石>は浜田料理長のスペシャリテなので、食材を変えて毎回登場する。一口サイズながら、左から食べるとフレンチのコース風仕立てになっているというのが心憎い。味もプレゼンテーションも唯一無二の妙味が光る。

夏のコースより岩垣と牛フィレ肉のグラタン。合わせた赤ワインは、フランス・ブルゴーニュ地方の銘醸地ジュヴレ・シャベルタンのピノ・ノワール

 こちらのコースはワインとのペアリングもおすすめ。日本ワインからフランスの銘醸地まで、世界各地から選りすぐったワインのセレクトに食都・東京らしいセンスを感じた。

地下1500mから湧き出る天然温泉「大手町温泉」

露天風呂は天井が高く、東京の空を四角く切り取っている。周りのビルが一切目に入らないせいか、地球と一体化しているような不思議な感覚

 ここまでの情報ですでにお腹いっぱいかもしれないが、料理以外の魅力も最後に少しだけお伝えしておきたい。まずは温泉。東京のど真ん中で温泉に入るのは、想像以上に非日常な時間。ヨウ素を含んだ琥珀色の塩化物強塩泉が心地いい。夜と朝で雰囲気がガラリと変わるので、ぜひ両方入ることをおすすめしたい。

地上160mでリフレッシュ!「天空朝稽古」

東京のビル群やスカイツリーなどを一望できる

 そして個人的に気に入ったのが「天空朝稽古」。なんと地上160mのビルの屋上で、剣術を習うアクティビティだ。何も遮るものがない360度の東京ビューは、ちょっとほかにはない迫力。高所恐怖症の人なら足がすくんでしまうかも?

 このアクティビティは江戸時代にこのあたりに剣術道場があったことにちなんで始まったもの。剣術流派「北辰一刀流」撃剣会の師範が監修した剣術と深呼吸を組み合わせた星のや東京オリジナルの稽古だそう。普段よりゆっくりペースの呼吸を意識しつつ、エイヤッと木刀を振り下ろすと、心も体も整っていくようだった。

 落語に美食、温泉、朝稽古‥‥…と非日常を満喫し尽くしてチェックアウトすると、そこは東京のど真ん中。スーツ姿のビジネスパーソンに囲まれると一瞬で非日常から日常へと戻っていく感覚もまたこの宿に泊まるおもしろさ。逆に到着時は一歩足を踏み入れると、一気に非日常に没入できる。まずは秋限定のイベント「東京・ご馳走落語」で星のや東京ならではの食の魅力をぜひ堪能してほしい。

星のや東京「東京・ご馳走落語」

実施日時: 2022年9月1日~11月30日(9月「目黒の秋刀魚」、10月「大工調べ」、11月「夜鷹そば屋」)
対象: 宿泊客
定員: 6名(最小催行人数2名)
Webサイト: 星のや東京「東京・ご馳走落語」

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