旅レポ

いざいざ奈良で修学旅行以来の東大寺再訪。大人になって気づくこと・初めて知ることだらけの旅

東大寺が「いざいざ奈良」キャンペーンのCMに登場するのは、第1弾キャンペーン以来

奈良は修学旅行以来!?

 いきなりだが、読者の皆さんが初めて奈良を訪れたのは、何のときだっただろうか。おそらく、中学校や高等学校の修学旅行で、という方が少なくなかったのではないか。

 筆者は家族旅行で一度、それと中学校や高等学校の修学旅行で奈良を訪れたと記憶しているが、実はそれ以来、ちゃんと奈良の街を歩いた記憶がない。乗り換えの関係で駅前に出たことぐらいはあったが。

 実のところ、「修学旅行で行って、主なところはだいたい見て回ったから、もう奈良はいいかな」となってしまっている方が少なくないのかもしれない。しかし実際には、奈良に限らずどこの街でも、いろいろ変化しているものである。新たな見どころができることもあれば、過去に訪れた場所を“再発見”できることもある。

東大寺の大仏殿前で。取材当日も多くの修学旅行生を見かけたが、修学旅行で見て回るような定番スポットだけが奈良というわけではない
もちろん、鹿はそこここにいる。雄鹿が発情期に入っているとのことで、注意喚起する看板を見かけた

奈良は「大人になって気づく奥深い再発見ができる場所」

 さて、JR東海は2022年5月から、「いざいざ奈良」というキャンペーンを展開している。そのコンセプトは、「1300年以上の時を超えて、今も受け継がれる悠久の歴史。そして、歴史を紡ぎ生まれる新しい魅力。知るほどに面白く、好奇心をかきたてられる、そんな奈良の旅へ誘います」というもの。

 Webサイトでは、見どころの紹介、モデルコース、そしてツアーの案内などといった情報をまとめている。ツアーの予約までワンストップで済めば、旅慣れていない方にとっては不安と手間が一つ減る。

 今回の主な訪問先は2か所。午前中は「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」と「星のや奈良監獄」、午後は「東大寺大仏殿」「東大寺ミュージアム」であった。このうち、旧奈良監獄と東大寺は、新しい「いざいざ奈良」キャンペーンのCMロケ地である。

 アクセスは、東海道新幹線で京都まで、そこで近鉄特急に乗り換えで奈良まで、という経路。おそらく、関東・東海地方から公共交通機関で奈良を訪れる場合の、もっともポピュラーなルートである。

 実は、近鉄奈良駅とJR奈良駅は少々離れており、かつ、近鉄とJRで直接の乗り換えができる駅が近隣にない。行程を組み立てる際に留意したいところだ。

近鉄京都線の京都駅は新幹線京都駅の直下にあり、改札が同一平面上で向き合っている。だから乗り換えは容易だし迷わない
そこから近鉄特急。京都から奈良まで直行できる

奈良監獄ミュージアムと星のや奈良監獄

 奈良監獄は、いわゆる「五大監獄」(奈良、千葉、金沢、長崎、鹿児島)の1つ。そのなかでも、かつて用いられていた建物の全貌が残っているのはここだけだそうだ。2017年まで現役の施設(1946年以降は奈良少年刑務所)だったことが、現役当時のたたずまいを残していることに影響したのだろうか。

 ここは中央看守所から放射線状に収容棟が並ぶ「ハヴィランド・システム」を採用しており、第一寮から第五寮までの収容棟があった。そのうち第三寮は奈良監獄ミュージアムの施設として現役当時の状態で維持、そのほかの4棟を改装してホテルの客室に充てている。

敷地の東側にあるエントランス。2017年まで奈良少年刑務所として現役だったが、そのときの看板がそのまま残されている
中央看守所から。5棟の収容棟が分岐しているが、中央の第三寮は現役当時のまま、その左右にある2棟ずつがホテルの客室に改装された
元の建物を活かしつつ、調度類を設置している。頭上がアーチ状になっているが、小田急ロマンスカーでおなじみの「ヴォールト天井」とは、もともとはこういうものだ
複数の舎房をつないで客室に改装している。バスタブとシャワーブース、その奥にはトイレがあり、おそらくは配管設備の関係で、ここだけ床が高くなっている
監獄として作られたときの舎房の扉は当然ながら、なかからは開けられない(それを生で見られるのも、この施設のポイントだ)。その内側に扉が新設された

 学校の歴史の授業では、縄文・弥生時代から現代にいたるまでの長い期間を扱うせいか、時代を下るほどに駆け足になってしまう傾向があるように思う。特に明治時代以降の近代期については、その傾向が顕著ではないだろうか。するとどうしても、基本的な事柄をさらっとなぞる程度になってしまう。

 それもあってか、いわゆる不平等条約の解消に向けた努力の1つとして近代的な監獄の設置や、関連する法規・制度の制定があったという話は、今回のプレスツアーで初めて知った。日本が近代的な法治国家であることを他国に示す施策の1つであったというのだ。

「奈良監獄ミュージアム」では、施設を見るだけでなく、そうした歴史的経緯や、現代にいたるまでの刑務所の制度の変遷、現代の刑務所などについて知ることができる。なお、宿泊者は専用ルートを通って自由にミュージアムを訪問できる。

 歴史的な建物を活かした施設ならではの非日常感こそが、ここに宿泊するうえでのポイントであろう。ただ、現代の宿泊施設として満たすべき水準、そして耐震補強や火災対策といった安全性の確保を、重要文化財である建物の魅力と両立させるのは、そざかし難しかったであろう。

宿泊者向けのメインラウンジは、かつては教誨の場として用いられていたもの
到着時に提供する「茜のティーサロン」では、奈良県の月ヶ瀬で作られている和紅茶と、菓子を楽しむことができる。明治の頃から日本で紅茶を作っていたという話も、今回、初めて知った
ラウンジに用意している茶菓子のチョイスにもこだわりがあるという
続いて、ミュージアムへ。宿泊者専用の通路は、いったん外に出て建物の全体像を見ながら移動する形で配されている。ミュージアムは日帰りでも立ち寄り利用が可能だ
看守に急を知らせたいなどの場面で使用する「報知器」(壁からオレンジ色の板が出てくる)について説明する、学芸員の神さん。知らないと見過ごしそうな設備かもしれない

「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」と「星のや奈良監獄」の詳細については、別記事も参照していただきたい。

昼食は「日本料理 滴翠」で

 奈良というと古寺名刹が有名過ぎるせいか、それ以外の楽しみにはなかなか気が回らない……という方は、案外と少なくないかもしれない。実は筆者はまったく知らなかったが、奈良では「かき氷」がブームになっていて、なかには予約を入れなければならない人気店まであるのだそうだ。

 今回のプレスツアーでは、スモールラグジュアリーリゾート「ふふ 奈良」のレストラン、「日本料理 滴翠(てきすい)」で昼食をいただいた。ここでは大和牛や大和野菜など、地元産の素材を活用した食事をいただけるという。庭園が隣接しており、その庭園を眺めながらの食事が可能だ。

「滴翠」の入口
広い窓から庭園を眺めつつ、食事をいただける場である
取材当日のお品書き
天ぷらの盛り合わせと御飯以外は、最初に配膳されていた
御飯は「ひのひかり」。調べてみたところ、コシヒカリ(越南17号)と黄金晴(愛知40号)の交配によるそうだ
こちらはできたての天ぷら盛り合わせ

 この施設、もともとは大阪の山口財閥の当主、山口吉郎兵衛氏の別荘があった敷地で、「滴翠」という名前も山口市の雅号が由来だという。あとで出てくる依水園もそうだが、こうした来歴にも、ちょっとした歴史があるのが興味深い。財閥の存在は、近畿圏の経済の繁栄とリンクした話であるはずだ。

東大寺大仏殿と東大寺ミュージアム

 午後は東大寺を訪れた。東大寺は近鉄奈良駅から徒歩圏(所要20分)だが、近鉄奈良駅またはJR奈良駅からバスで移動する場面が多いかもしれない。ただ、近鉄奈良駅から徒歩で行き来する途中で奈良公園を通るので、片道は徒歩、片道はバス、とすると楽しみが増えそうでもある。

 さて、修学旅行でもそれ以外でも、東大寺を訪れて大仏様を見ないという方はいないだろう。ただし筆者の過去の訪問では、大仏殿で大仏様を見て、柱の穴をくぐってみて、それぐらいで終わりだったような記憶がある。ことに修学旅行では、限られた時間のなかであれこれ見て回らなければならず、しかも団体行動だから、1つの場所を時間をかけてじっくり見るのは難しい。

ご存じ、大仏様。この大仏様の蓮華座に線刻画が施されている話は初めて知った
これもおなじみの柱の穴。実は、柱はムクの材木ではなく複数の材料を組み合わせた構造で、なかをくぐると、外側の木材と芯となる木材の厚みが分かるそうだ

 しかし、個人旅行で訪れるとなれば話は別。それに、中高生のときと大人になってからでは、同じもの、同じ場所に接するのでも受け止め方は違って当然だろう。また、過去に知らなかった話を新たに知るような場面もある。

 筆者の場合、その1つが大仏様の蓮華座だった。蓮をかたどった台座の側面に線刻画が施されているとの話は、今回、初めて知ったものだ。

 取材では特別に壇上に上がらせていただいたので間近に見ることができたが、壇上に上がらずとも、少し離れれば下からちゃんと見える(望遠レンズ付きのカメラか双眼鏡があるといいかもしれない)。また、線刻画の図柄は、殿内の正面左側に設置されたレプリカでも確認できる。

 ただし、大仏殿は過去に二回、戦火によって焼失しているため、その際に線刻画が損なわれた部分がある。周囲をぐるっと回りながら台座を見てみてほしい。線刻画が残っている部分と損なわれた部分の対比が分かるだろう。

 その大仏殿の南、CMロケ地になった南大門の近くに、東大寺ミュージアムがある。これは名前だけ見ると、東大寺や大仏様の歴史について知るための施設……と思いそうになるが、そんな単純な話ではない。東大寺にゆかりのさまざまな宝物などを保存・研究するとともに、展示も行なっている。そういう施設である。

CMロケ地の1つ、東大寺南大門。ここに隣接する位置(写真でいうと右手)に東大寺ミュージアムがある。ミュージアムの開設は2011年で、現在は15周年を記念した特別展示を開催中だ
東大寺ミュージアムのエントランス脇に、大仏様の両手の実物大レプリカがある。大仏殿だと遠い位置だが、ここなら間近で大きさを体感できる
展示品の一例。右から順に、多聞天立像、日光菩薩立像、千手観音菩薩立像、月光菩薩立像、持国天立像(許可を得て撮影)

 収蔵されている宝物の出自や経緯など、とうの昔にみんな明らかになっているのだろうと思ったら、さにあらず。いま現在でも分かっていないこと、最近になって新たな事実が判明したことがいろいろあるとの話を伺った。だから、間をおいて再訪すると、展示されている宝物の陣容が変わっていたり、解説の内容がアップデートされていたりする可能性がある。

 その大切な宝物が損なわれないように、建物にも工夫がなされている。最近、近畿圏で大きな地震が何度も発生しているが、実は東大寺ミュージアムの建物は、貴重な収蔵品が地震で損なわれないようにということで、免震構造を取り入れている。

 ところが、奈良は掘れば遺跡が出る土地である。深く基礎を打って、建物全体を免震構造にするのは不可能だった。そこで、貴重な宝物が収められている収蔵庫を独立した構造物にして、そこだけ免震構造にする工夫がなされたという。

「名勝 依水園」を散策

 最後に、東大寺の南西側に隣接する「依水園」を訪れた。

 ここは池のまわりを巡りながら鑑賞する「池泉回遊式庭園」で、「前園」と「後園」に大別できる。近隣を流れる川の流れを取り込み、敷地内に小さな滝や水車小屋などを設置、そこを流れる水音にまで工夫が凝らされているという。水音はさすがに、現地を訪れなければ体感できない。

 実は、「前園」は、奈良晒の御用商人が煎茶を愉しむために設けた古民家を移築して設けられた庭園で、江戸時代の特徴を有している。それに対して「後園」は、明治時代の実業家・関藤次郎が、茶の湯と詩歌の会を愉しむ目的で作った。来歴も時代背景も異なるふたつの庭園が一体化しているのだ。

 この依水園、日本人よりも外国人に人気があるそうだが、それももったいない話ではある。東大寺からほど近いから、あわせて訪れてみてはいかがだろうか。

依水園の入口。この奥に日本庭園が広がっている。(提供:依水園)
単に水が流れる道をつけるだけでなく、流れる水の音にまで配慮があるという
「前園」の「三秀亭」。池を囲むように道をつけた様子も分かる
「後園」では、敷地の東方にある若草山、春日山、東大寺南大門の屋根といった借景も取り込む設計になっているのが、この庭園のポイント

宿泊は「いろはグランホテル近鉄奈良駅前」

 当日は、「いろはグランホテル近鉄奈良駅前」に宿泊した。ここは近鉄奈良駅からほど近い場所で、奈良公園などの観光地も徒歩圏内だ。奈良に観光で訪れる人は多いが、その割に奈良に宿泊する人が多くないのが悩みだと聞く。しかし、奈良では質の高い宿泊施設が増えてきている。

 ちなみに、「ならまち」とは近鉄奈良駅が地下にある登大路(国道369号線)より南側のエリアを指す。対して、登大路の北側、旧奈良監獄があるあたりまでのエリアは「きたまち」と呼ぶそうだ。

取材当日の宿は「いろはグランホテル近鉄奈良駅前」
客室。アサインされたのはツインルームであった
朝食ビュッフェでは「奈良の恵みを味わう」とアピールしていた
井上孝司