旅レポ

JR東海の「いざいざ奈良」キャンペーン第5弾は大和四寺をピックアップ。室生寺の国宝に、古くお洒落な今井町をぶらり

隠れ里と言われる地域には歴史的価値の高い建物が数多くある。写真は室生寺の金堂(国宝)で、平安時代前期に建てられたもの

 JR東海の「いざいざ奈良」キャンペーン第5弾は、奈良県中南和地域の大和四寺を巡る旅。前編では長谷寺と岡寺を中心に紹介したが、後編では室生寺、安倍文殊院、古き町並みが残る橿原市今井町を紹介する。

 なお、普段は撮影NGな場所も特別に許可をいただいているので、あらかじめお断りしておく。

前編

 まずは大和四寺の位置関係を簡単に紹介しておこう。地図で見るとおり大自然に囲まれた寺が多く、電車とバスを使ったのんびりとした旅路となる。もしくは、クルマやレンタカーを使った郊外ドライブだ。

 また奈良交通が4つの寺を1日で巡礼できる定期観光バス「奈良大和四寺巡礼」を運行しているので、そちらを利用してもよいだろう。詳細は、いざいざ奈良の特設サイトを確認いただきたい。

長谷寺、岡寺、室生寺、安倍文殊院の位置

もっとも小さい五重塔がある室生寺

 後編最初に紹介するのは「室生寺」(奈良県宇陀市室生78)。三重県との県境に近く、自然豊かな山間にある真言宗のお寺で、標高400mの空気はとても清々しい。高野山が女人禁制だったのに対し、室生寺は女性の参拝も許可していたことから「女人高野」の名で知られている。境内には桜やシャクナゲが植えられており、4月が見ごろの時期になる。入山料は大人600円、子供400円。

本堂へ向かう石段は「鎧坂」と呼ばれており、自然石を敷き詰めた景観が武士の身に着けていた鎧の紋様に似ていることが由来となっている。もう少しするとシャクナゲが咲いて彩り豊かになる

 重要文化財の弥勒堂や奥之院など、歴史ある建物が多く残されているが、国宝に指定されている仏像や五重塔もしっかり見ておきたい。

 五重塔は美しいだけでなく、国内最小サイズで、法隆寺に次ぐ古塔として大変歴史的価値の高い建物だ。横に立つ杉の大木とのコントラストがよりいっそう存在感を際立たせている。ほかの五重塔と比べると非常に小さいことから「空海が一夜で建てた」という伝承もあるそうだ。

金堂に祀られているのは平安時代前期に製作された中尊 釈迦如来立像(国宝)
鎌倉時代に建てられた本堂(灌頂堂)も国宝に指定されている
五重塔も国宝に指定されており、屋外にあるものとしては最小サイズ。敷地が限られている山寺でいかに大きく見せられるか工夫した結果ではないかと言われている

 こちらの室生寺では、ほとんどが南向きに作られているなか、あえて東に向かって建てられている建物がある。それが弥勒堂だ。その弥勒堂が向いている1kmほど先には室生龍穴神社がある。この地には古くから龍神信仰が根付いており、室生寺よりも古い歴史を持つ龍神信仰の地に向かってご祈祷できるように建てられたのではないかと言われている。

 ちなみに龍神は雨を降らす神様として祀られているが、悪い龍だと台風や水害を引き起こすので、岡寺では封印(のちに改心)されてしまったという話もあるのが面白い。

鎌倉時代前期に建てられた弥勒堂(重要文化財)は、元々は南向きであったが東向きに改装された
室生寺から1kmほど先にある室生龍穴神社

室生寺近くの老舗旅館で健康的なランチを楽しむ

 室生寺の近くには明治4年創業の老舗旅館「橋本屋」がある。食事処も用意しており、山菜料理が名物になっているので山の幸を味わうことができるお店だ。

 いただいた山菜定食「あじさい」は、煮合せ、山芋すりおろし、白和え、なす田楽、しめじ酢のもの、山菜からし和えなどが並び、山の恵みをじっくりと堪能できた。とくに山芋は粘り気とうま味が強い大和芋を使っており、栄養豊富なうえとても美味。日頃のすさんだ食生活で弱った体を改善してくれそうだ。

橋本屋の山菜定食「あじさい」は2300円

獅子にまたがった勇ましい文殊菩薩を拝める安倍文殊院

 大和四寺の最後に紹介するのは「安倍文殊院」(奈良県桜井市阿部645)で、645年に創建された日本最古に属するお寺だ。1563年に松永久秀(松永弾正)が起こした戦火に巻き込まれてほとんどが焼失してしまうが、1665年に本堂(文殊堂)が再建された歴史がある。拝観料は本堂が大人700円/小学生500円、本堂と金閣浮御堂のセットが大人1200円/小学生800円。

 本堂には「三人寄れば文殊の智恵」のことわざでも有名な文殊菩薩が祀られている。国宝に指定されている「渡海文殊群像」は、獅子に乗る文殊菩薩「騎獅文殊菩薩像」が「善財童子像」「優填王像」「維摩居士像」「須菩提像」を従えており、智恵を授けるための説法の旅に出かける様子を表したものだ。鎌倉時代の人気仏師として名が知られている快慶が手掛けたものであり、美しい容姿をじっくりと拝んでもらいたい。

圧倒的な存在感を放つ渡海文殊群像(国宝)
全高7mの騎獅文殊菩薩像は、右手に降魔の利剣を握り、左手は蓮華を持っている

 敷地には大きな池があるが、その水面には金閣浮御堂が設置されている。お堂の中には安倍仲麻呂、安倍晴明の像が祀られており、陰陽道に関する宝物も収納されている。

 このお堂は「七まいり」という魔除け・方位災難除けを祈願する願掛けの修行場にもなっており、回廊を「おさめ札」を納めながら7回まわると七難を取り除き福を得ると言われている。また、池の周囲には桜が植えられており、4月になると美しい景観を求めて多くの人が訪れるそうだ。

金閣浮御堂では人生に降りかかる七難を払いのける願掛けを行なえる

 境内には645年に作られた「西古墳」もある。この古墳は花崗岩でできており、内部は左右対称に石組みがされ、玄室の天井岩は一枚の石で覆うなど、当時の高度な技術をいまに残す貴重な史跡なので、訪れた際はぜひとも見てもらいたい。飛鳥・奈良時代の空気も感じられるはずだ。

1300年以上の時を経てもその姿が残されている貴重な西古墳

江戸の町並みをいまに残す今井町はぶらり旅に最適

 今回宿泊した大和八木駅から南に駅1つ、八木西口駅の南西には江戸風情が残る橿原市今井町がある。重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けたこのエリアは、東西約600m、南北約310m、面積にして17.4ヘクタールのなかに約760戸があり、そのうち約500件が伝統的建造物として残されている。

 そのなかには国の重要文化財が9件、県指定文化財が3件、市指定文化財が5件もある。特徴は町をぐるりと囲む環濠の存在で、古くは織田信長とも対峙した、戦う商業都市だ。現在では江戸の町並みを楽しめる観光スポットになっている。

今井まちなみ交流センター「華甍(はならいか)」で展示されている今井町のジオラマ
「ここは江戸か!」と思わせるような町並みがいまも残る

出世を願って贈りたい日本酒が買える酒店

 今井町の井戸水が良質だったことから、かつては酒蔵が何件もあったそうだが、現在でも造り続けているのは「河合酒造」のみ。江戸時代中期に創業し、現在もレトロな建屋の中で醸造している。代表銘柄の「出世男」は、味と名前で人気の商品だ。

杉玉が目印の河合酒造。主屋は重要文化財に指定されている
「出世男」は贈答用としても人気が高い

飲むチーズケーキは見栄えも抜群!

 今井町の中にはお洒落なお店も次々にオープンしている。その中の一軒が2022年8月にオープンした「cafeたまゆら」だ。橿原市は現在、日本最古のチーズ「蘇」の発祥地としてチーズグルメを推しており、同店でも「たまゆらの万華鏡~飲むチーズケーキ」がイチオシ商品になっている。チーズケーキベースに映えるようカットしたイチゴ(あすかルビー)を入れ、表面にはチーズクリームでアートを施したビジュアルはSNSでも人気。店内は1100円、持ち帰りは1080円。

アート作品のような「たまゆらの万華鏡~飲むチーズケーキ」。ストローを挿し、表面をクルクル回している動画をアップするのが最近のブームだとか
通りから一歩入った先にあるお店は、どちらかというと地中海風なのでビックリする

人気のカフェはSNSでつながれるお店としても有名

 SNSで人気のお店と言えば「うのまち珈琲店 奈良店」だ。映える商品と多数の蔵書を目当てに多くの利用客が訪れる。面白い仕掛けとしては独自の“しおり”があり、裏面に名前とSNSアカウントを記入して本に挿しておけば、同じ興味を持つ人とつながれるというものだ。看板商品の「うのまち クリームソーダ」は5つのバリエーションがあり、各800円。

「うのまち クリームソーダ」は、「あか」が柑橘風味、「みどり」がキウイ風味、「き」がパイン風味、「すみれ」がお花風味、「あお」が柑橘風味
さまざまなジャンルの本が置かれた店内
「一方的に運命を感じてしまわないようにご注意」と書かれたしおり

 俳優の鈴木亮平さんが「隠れ里という名の通り、本当にまだあまり知られすぎていないですけれども、すごく価値があり、ものすごく美しい場所であふれています」と語っているように、訪れた人を圧倒する建造物や歴史的な作品、そして一体となっている自然の美しさが大和四寺にはある。奈良の奥深さを感じさせてくれるオススメのエリアだ。

野村シンヤ

IT系出版社で雑誌や書籍編集に携わった後、現在はフリーのライター・エディターとして活動中。PCやスマートフォン、デジタルカメラを中心に雑誌やWeb媒体での執筆や編集を行なっている。気ままにバイク旅をしたいなと思う今日この頃。