旅レポ

“マラマ”の理解を深めてハワイを楽しむ最新情報。秘境ビーチツアーや海辺の外来種駆除活動にも参加してみた

自然環境を守るために入場制限を取り入れたハナウマ湾

 ハワイの観光業界では、持続可能な産業を続けていくために「マラマハワイ」をスローガンに取り組んでいることは以前の記事(「ハワイは“マラマ”の考えに共感できる日本の旅行者をいつでも歓迎。日本旅行業協会、現地議員らと観光再開に向け会談」)でもお伝えした。

 ハワイ州観光局の本局であるハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)の局長兼CEO ジョン・デ・フリーズ氏が話していたように“マラマ”には“大切にしていく”という意味があり、思いやりの心をもってハワイを大切にしていくことに州全体が注力している。

 今回のプレスツアーでは「マラマハワイ」を実践しているNPO団体や観光施設にも訪れたので、その模様をお伝えしよう。

外来種から美しい海岸を取り戻すべく奮闘する「マラマ・マウナルア」

 ダイアモンドヘッドの東に位置するカハラエリア(ブラックポイント)からカワイホア(ポートロックポイ)までの沿岸水域「マウナルアベイ」(Maunalua Bay,201 Paiko Dr, Honolulu, HI)は、サンゴ礁や砂浜が続く美しいビーチが自慢のエリアだ。しかし、最近では外来種の藻が大量発生したことで固有種が減り、サンゴ礁と沿岸の海洋生態系に悪影響を及ぼす事態が発生している。

 これを懸念し、地元住民や学校関係者が集まって2005年に創設されたのがNPO団体「マラマ・マウナルア」だ。マウナルアベイを美しく健やかでサステナブルな状態に保全していくことが、次世代を担う子供たちへの「クレアナ=責任」であるとし、マウナルアベイリーフの修復活動「グレートフキ」プロジェクトなどを行なっている。

 今回はそのお手伝いとして、外来種の藻で大量発生している「ゴリラオゴ」を実際に採取してみた。

ハワイのビーチで大繁殖している「ゴリラオゴ」と呼ばれているGracilaria salicornia。和名はフシクレノリ。硬いが食べることもできるそうだ
マラマ・マウナルアの活動内容を紹介してくれたアレックス・アゥオ氏
パネルの左が2009年のビーチで、右が除去活動をしたあとの2010年の状態

 案内された目の前のエリアはそれほど繁茂していないように見えるが、遠浅のビーチにゴム足袋を履いて踏み入れると、そこかしこにゴリラオゴがかなりの密度で生育していた。しっかりと根を張り、絨毯のように面で密生するので、根本を残さないように抜き取っていく。30分ほど続けると、網袋にはずっしりとそれなりの量が取れた。

 そこそこキレイになったビーチに満足していると、まだ手を付けていないエリアを見せてくれたが、そこにはパネルで説明された通りの景色、海面まで飛び出したゴリラオゴの姿があった。一同が絶句するなか、地道にこの活動を続けていく大切さをスタッフのアレックス・アゥオ氏は説明してくれた。学生やボランティアの協力で、これまでに350万ポンド(約1589トン)以上の藻類を除去してきたそうだ。

よく見ると、海中にゴリラオゴが群生している
固有種を避けながらゴリラオゴを摘み取っていく
少し歩いた先にはこのような光景が広がり、次世代に残す重要な取り組みであることを感じた

入場制限を設けることで自然環境を守る「ハナウマ湾自然保護区」

 マウナルアベイからさらに東に行った南東端には、火山の火口が波の浸食で美しい入り江になった自然公園「ハナウマ湾自然保護区」(Hanauma Bay,101 Hanauma Bay Rd, Honolulu, HI)がある。険しい山に囲まれた美しいサンゴ礁の海はまさに絶景で、海中には貴重な海洋生物も多く生息していることから観光客のあいだで人気のスポットになっている。

 こちらのハナウマ湾も自然環境の保全活動に注力しており、2021年4月からはオンライン予約システムを導入し、1日に入場できる人数を1400人に制限したうえ、入場料25ドル(12歳以下は無料)を設けている。

 ハナウマ湾を訪れるにはまず、ホノルル公園レクリエーション局のWebサイトで予約する必要がある。入場希望日の48時間前から予約でき、開園する7時から10分ごとに枠が設定されているので、入園希望の時間帯を選んで指定するという仕組みだ。

 この時間枠が設定されているのは混雑緩和のためと、入園に際して必ず環境保護のビデオ(約9分間)を視聴する必要があるため。1人あたり25ドル支払う必要があるとはいえ大人気スポットなので、7時の予約開始から早いときでは5分で完売するそうだ。入園のハードルはそれなりに高いが、「マラマハワイ」を実践しているハナウマ湾にはしっかりと自然が残されているので、一度は訪れてみてほしい。

ハナウマ湾は火口に海水が侵入してできたビーチなので、山あり海ありと景観は非常にダイナミック
来園者はシアターで環境保護のビデオを視聴する
アナウンスは英語だが、多言語対応の翻訳機も貸出している
とにかく美しい浜辺とリーフ。ずっとゴロゴロしていたいが公園は16時まで。さらにビーチは閉園1時間前(15時)には退去しないといけない

海洋生物の保護やホヌの繁殖にも力を入れている「シーライフ・パーク・ハワイ」

 ハナウマ湾の北に位置するマカプウ岬の近くには、体験型マリンパークである「シーライフ・パーク・ハワイ」(Sea Life Park Hawaii,41-202 Kalanianaʻole Hwy, Waimanalo Beach, HI)がある。ここは、イルカーやアシカのショーを見たり、海鳥やカメといった生き物の観察ができるレジャー施設だが、海洋生物の保護活動や教育プログラムなど、海の環境保全にも力を入れている施設だ。

 例えば、ハワイでは「ホヌ」と呼ばれているアオウミガメは、個体数の減少から絶滅危惧種に指定されており、こちらの施設では飼育して産卵・ふ化させた子亀を近くの海岸で放流する活動を行なっている。

 また海鳥の保護も積極的に行なっており、傷ついた鳥を治療したあと自然に返すようにしている。保護件数が1番多かったときには2か月で同種類の鳥を1000羽ほど受け入れたこともあるそうだ。館長のジェフ・ポラスキー氏は「人間になつく前に、なるべく短時間で自然に帰すようにしています。保護した海鳥は80%が自然に帰っていきました」と話してくれた。

乱獲や環境の変化で減少したアオウミガメの繁殖にも力を入れており、現在までに1万7000匹の子亀が海に放たれた。プロジェクトが奏功し、ハワイのアオウミガメの頭数は増加している
動物の生態や活動内容を説明してくれた館長のジェフ・ポラスキー氏(写真右)
エサはレタス、セロリ、ブロッコリーと意外と何でも食べるホヌ。必要栄養素が入ったペレットも与えるそうだ。また、同園では来園者がレタスを与えることもできる
保護したあと、海に放しても帰ってきてしまうカリフォルニアアシカの2頭は同園で飼育することに。学習能力が高く、人間に慣れすぎてしまったがゆえの弊害だが、今では研究用データの取得を手助け
ハワイ諸島に生息しているアザラシ「ハワイアンモンクシール」も絶滅危惧種に指定されている。気が荒くて仲間を傷つけてしまうため、ほかの施設から移されてしまったそうだ
傷ついた海鳥の保護にも注力している
くちばしの下が折れてしまったため成形手術を施されたカツオドリ。ハワイでは「アー」と呼ばれる

観光と保護のバランスを取りながらアクティビティを提供する「クアロア・ランチ」

 オアフ島の中心部・ワイキキからクルマを走らせること45分、北東部のカネオヘ地区に位置する「クアロア・ランチ」(Kualoa Ranch,49-560 Kamehameha Hwy, Kaneohe, HI)は、4000エーカー(東京ドーム333個分)もの広大な敷地に自然を活かしたさまざまなアクティビティが用意されているレジャー牧場だ。

 ハワイの雄大な自然が残された景色は圧倒的で、「ジュラシック パーク」をはじめハリウッド映画やドラマのロケ地になったことでも知られている。アクティビティは乗馬ツアー、映画ロケ地ツアー、ジャングルエクスペディションツアー、オーシャンボヤージツアー、ジップラインツアーなどがあり、豊富なラインアップが大人気。

オアフ島を北から南東にかけて連なるコオラウ山脈の東側はとても急峻な地形になっている。その麓にあるのがクアロア・ランチ
広大な敷地内には数々のアクティビティが用意されている。次はジップラインを体験してみたい
乗馬ツアーも人気のアクティビティ

 今回体験したのは、トロリーに乗車して園内を巡りながらハワイの農作物について学ぶ「アロハアイナツアー」。クアロア・ランチの広大な敷地に農園や養殖池があり、栽培や養殖の様子を見学できるというものだ。

 農園のなかではいろいろな作物が栽培されているが、日本では見かけないものも多く、とても興味を引かれる内容になっている。ハワイアンの主食として受け継がれてきたタロイモやブレッドフルーツ(パンの実)、日本でも人気のコーヒーやマカデミアナッツ、変わりダネとしてはカカオも栽培されていた。途中では、マカデミアナッツやパイナップル、蒸したタロイモをすり潰したハワイアンフード「ポイ」などの試食コーナーが用意され、ハワイの食文化も体験できる。

 また、ファーマーズマーケットが設置されているので、気になるものは購入してホテルで楽しむのもありだろう。ちなみに筆者は「スターアップル」を購入して試してみた。感想としては、食感はイチジクに近く、味は梨と柿とリンゴを足して割ったようなもので、ほどほどの甘味を感じるフルーツだった。悪くはないが人に勧めるかどうかは微妙といったところ(笑)。

 このようにハワイについていろいろと学べる&遊べるのスポットなので、ぜひとも訪れてほしい。

トロリーバスでガイドの話を聞きながら農園を巡る90分のツアー
どこもかしこも絵になる景色
ハワイで「カロ」と呼ばれているタロイモは伝統的な主食
サトイモ科なので日本でも見慣れた葉の形だが、根茎は日本のサトイモとは異なる
ブレッドフルーツ(パンの実)
日本の沖縄県ではよく見かけるパイナップル
マカデミアナッツ。ハワイのお土産として有名だが原産はオーストラリア
近年になってハワイでも栽培されるようになったカカオ
養殖池「モリイ・フィッシュポンド」の湖畔にある試食コーナー
殻が付いた状態のマカデミアナッツ
専用のナッツクラッカーで割って食べる
マカデミアナッツを狙う野生のニワトリ。人に慣れているのでかなり図々しい
敷地内の至るところで映画やドラマの撮影が行なわれており、セットがそのまま残されている場所もある
観光客だけでなく、地元の人たちも買いに来るファーマーズマーケット
多種多様な農作物が並んでいる
筆者が購入したスターアップル
養殖池で育てられたオイスター
ソーセージなどの加工肉もある
クアロア産のカカオで作られたチョコレート

美しい海岸をプラゴミから守る「サスティナブル・コーストラインズ・ハワイ」

 2010年に設立され、主にビーチクリーンなどの海洋環境を守るための活動をしているNPO団体が「サスティナブル・コーストラインズ・ハワイ(SCH)」だ。

 ハワイの海は美しいと思われがちだが、海流の影響もあり、海に浮いたゴミが漂着しやすい場所でもある。ここ最近は特に顕著で、一部の海岸はゴミで埋め尽くされたこともあったそうだ。

 SCHでは地元コミュニティに加え、旅行者のボランティアによって多くのゴミを回収してきた。最近話題になっているマイクロプラスチック問題にも関心を寄せており、回収したペットボトルなどのプラスチックゴミからアート作品や身近な実用品にアップサイクルする活動にも注力している。スタッフの来迎秀紀氏は「環境問題を楽しく学べるように努めており、より多くの人に理解および共感してもらえるよう活動しています」と説明してくれた。

 海洋保護団体「PERLEY」協力のもと、ビショップ・ミュージアム(Bishop Museum,1525 Bernice St, Honolulu, HI)に建てられた施設「AIR Station」では、これまでの活動内容を展示し、海洋問題の深刻さを伝えるプロジェクトを週2回開催している。ホノルル滞在時は博物館見学と併せて訪れてもらいたい。

サスティナブル・コーストラインズ・ハワイの活動内容を紹介する来迎秀紀氏。静岡県出身で、アメリカ本土を経てハワイに移住し、現在は同団体の国際講師として活動している
地元コミュニティや観光客のボランティアによって美しい海岸を取り戻す活動を行なっている
ビショップ・ミュージアムの敷地内にある「AIR Station」では、週2回イベントが行なわれている
工房では拾い集めたプラスチックを破砕・溶解・圧縮して素材とし、アート作品や実用品にアップサイクルしている
工房のお手伝いをしていた地元の大学に通うアンバー・マーフィー氏。若い人も積極的に参加しているのが印象的だ
ハワイの歴史や文化を学べるビショップ・ミュージアム。太陽光発電を取り入れるなど、再生可能エネルギーを積極的に活用している

 今回のプレスツアーでは限られた時間内ではあったが、多くのNPO団体や観光施設の見学を通して話を聞くことができた。共通しているのは“マラマ”の言葉どおり、美しいハワイを残すことに積極的であるということだ。

 年齢を問わず、「今のままではハワイはダメになる」という認識を多くの人が持っていることに感銘を受けるとともに、旅行者側も世界の潮流になりつつある「レスポンシブル・ツーリズム」を実践していかなくてはならないと改めて感じた。

 ハワイ州観光局では「マラマハワイ」を解説したWebサイトをオープンしている。そのなかでも基本に掲げている5つの項目、「海洋動物に出会っても、むやみに近づかない」「有害成分の入った日焼け止めの使用禁止」「森林を訪れるときは靴裏の泥を落とす」「進入禁止エリアに侵入しない」「エコバッグやマイボトル、マイストローなどを持参」について詳細に説明している。ハワイの風を心地よく感じるためにも、次に旅する際は筆者もこれを再読してから訪れようと思った。

野村シンヤ

IT系出版社で雑誌や書籍編集に携わった後、現在はフリーのライター・エディターとして活動中。PCやスマートフォン、デジタルカメラを中心に雑誌やWeb媒体での執筆や編集を行なっている。気ままにバイク旅をしたいなと思う今日この頃。